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ペトルーニャに祝福を
監督: テオナ・ストゥルガル・ミテフスカ
出演: ゾリツァ・ヌシェヴァ、ラビナ・ミテフスカほか
日本公開:2021年
ぽっちゃり女性の心の中にこそ、神あり ― 北マケドニアの伝統と現代化
北マケドニアの東部にある小さな町・シュティプに暮らす32歳のペトルーニャは、美人でもなく、太めの体型で恋人もおらず、大学で良い成績で歴史学を修めて卒業したのに、仕事はウェイトレスのアルバイトしかない。
ある日、親に促されて仕方なく受けた面接でセクハラを受けたうえに不採用になったペトルーニャは、惨めな気持ちで家路につく。
そこで偶然、ペトルーニャは地元の伝統儀式に遭遇する。「司祭が川に投げ入れる十字架を手にした者には幸せが訪れる」という由緒を持つ、女人禁制の儀式を目の前にして、ペトルーニャは本能的に十字架を追い求める。
いつの間にか十字架を手にしていたペトルーニャは、儀式に参加していた男たちから猛反発を受け、あろうことか十字架を持ったまま逃走してしまい、警察に追われる身となってしまう・・・
北マケドニアの作品を観る機会はそうそうありません。私はマケドニアやバルカン半島の民族音楽に興味があったので大学のときにいくらかマケドニアについては調べたことがありましたが、初めてマケドニアの映画を観たのは2018年で、韓国・釜山で自分の作品が上映されたときに併映されていたマケドニア監督の作品でした。
マケドニアは2018年に北マケドニアと国名を変えましたが、ユーゴスラビアが解体し1991年にマケドニアとして独立した際には、旧ユーゴスラビア諸国の中で最貧国だったといいます。映画の冒頭では、依然として貧困が大きな社会問題であることが示されます。
加えて、マケドニアでも「30代女性の考え方が、両親世代の保守的な価値観と対立する」というような女性の生きづらさは、議論が足りていない(それがゆえに映画になる)トピックであることが明らかになっていきます。
ペトルーニャの振る舞いだけでなく、「ペトルーニャ騒動」の一件を熱意をもって取材し続ける女性記者からも、いわゆるウィメンズ・ライツ(Women’s Rights)が切迫した社会課題であることを感じ取れます。
北マケドニアは国民の約7割がキリスト教徒(のこり約3割は主にイスラム教徒)だそうですが、旧来から地域社会を束ねてきたマケドニア正教会の伝統的価値観は変容を迫られているはずです。本作の英題 “God Exists, Her Name is Petrunya”(神は存在する、彼女の名前はペトルーニャ)が示す通り「ペトルーニャという一個人にも(ひいてはどんな個人にも)神は宿っている」という、北マケドニアにおける「神」の現代的な解釈が、作品まるごとを以って表現されています。
知られざる北マケドニアの現在を見聞できる『ペトルーニャに祝福を』は、5月22日(土)より岩波ホールほか全国順次公開。そのほか詳細は公式ホームページをご確認ください。