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巡礼の約束
監督:ソンタルジャ
出演:ヨンジョンジャ、ニマソンソン、スィチョクジャ
配給:ムヴィオラ
日本公開:2020年
「縁起」の流れの上に漂う、チベット人家族の運命
山あいの村で暮らす女性・ウォマは、ある夢を見た朝に必死に火をおこして供養をする。ウォマの姿を見た夫のロルジェは、なぜそんなに必死なのか解せず、呆然とその様子を見守る。
病院で医師からあることを告げられたウォマは、ロルジェに「五体投地でラサへ巡礼に行きたい」と、決心を伝える。はじめロルジェは反対していたものの、やがてウォマの固い決意知り、受け入れる。
野を越え、山を越え、果敢にも巡礼の道を歩みだしたウォマだったが、途中で倒れてしまう。彼女の巡礼にかける想いは、一人だけのものにとどまらず、まわりの人々や過去・未来という時間の流れをも巻き込んでいく・・・
チベットの人々にとって、ポタラ宮・ジョカン(大昭寺)や、ガンデン寺・セラ寺・デプン寺などチベット仏教ゲルク派の聖地が集まるラサへの巡礼は、一生に一度は成し遂げたい夢だといいます。
ラサには西遊旅行勤務時に2回添乗でご一緒させてもらいました。特にジョカンでは、小さな堂内に響く祈りの声や、外のカラッと乾燥した気候と熱気あふれる堂内との温度・湿度差から、巡礼者の敬虔さに触れられたような気がして、ご本尊の黄金の釈迦牟尼像がより輝いて見えました。
映画の中で、敬虔なウォマや家族たちが「運命」という言葉をよく口にします。チベット語はわかりませんが、チベットでいう「運命」というのは、たとえば恋愛ドラマで使われたりする場合とは全く異なり、「縁(縁起)」という強い意味合いが含まれていることは知っています。
登場人物たちが苦難に直面し「こういう運命なんだ」と口にする場面は、一見悲観的で、諦めているかのように感じるかもしれません。ぜひ鑑賞される際は字幕とあわせて、言葉そのものの響きによく耳を傾けてみてください。おそらく、どんな時でも共にいてくれる仏さまへの感謝の気持ちが含まれていることを感じ取れるはずです。
これは仏教圏である日本人だからわかるのではなく、宗教を問わずわかる、いわば映画の普遍性があらわれているポイントです。ただ、そういう含みをもったふうに「運命」という言葉にこめる感情を演出することは、チベット出身の監督だからこそできるのだと思います。繊細微妙にして感動的な必見ポイントです。
『巡礼の約束』は、2/8(土)より岩波ホールほか全国順次ロードショー。詳細は公式サイトからご確認ください(ソンタルジャ監督の過去作『草原の河』、同じくラサへの巡礼を描いた『ラサへの歩き方~祈りの2400km 』もあわせてぜひチェックしてみてください)。
ラサ
チベット自治区の区都。チベットの政治的・宗教的中心地。 7世紀にチベットを統一した吐蕃王国のソンツェンガンポ王により、チベット(当時は吐蕃王国)の都として定められました。