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第三夫人と髪飾り
監督:アッシュ・メイフェア
出演:グエン・フオン・チャー・ミー、トラン・ヌー・イエン・ケー、マイ・トゥー・フオンほか
日本公開:2019年
「男児を生んでこそ夫人になれる」―19世紀ベトナムの価値観と、現代女性の自由
舞台は19世紀の北ベトナム。14歳の少女メイは、絹の里を治める大地主の3番目の妻として嫁いでくる。穏やかでエレガントな第一夫人には息子がひとり、美しく魅惑的な第二夫人には娘が三人いたが、一族にはさらなる男児の誕生が待ち望まれていた。
やがてメイは妊娠する。メイは身の回りに渦巻く愛憎や社会の矛盾に戸惑い悩みながらも、出産に向けての心を整えていく・・・
19世紀・ベトナムの女性たちの物語は、現代社会に暮らす私たちに「女性の自由とは何か?」という大きな疑問を投げかけます。当時は男児を生むことが女性にとって最も重要な役割でした。劇中、メイのように現代の基準からすれば結婚にはまだ早い少女が結婚を拒否され、父親に「唯一の役目も果たせないのか」と見捨てられる、悲しい場面があります。
現代社会ではそうした悲劇は起きていないかというと、「いまだに起きている」と答えざるをえません。日本でもベトナムでもその他の国々でも、形は変われどいまだに「唯一の役目も果たせないのか」に近い言葉が発されることが往々にしてまかり通っています。
監督のアッシュ・メイフェアは映画製作を欧米で学び、本作で母国の慣習を「外の目線」で見つめています。「旅と映画」では、『娘よ』(パキスタン)、『シアター・プノンペン』(カンボジア)、『少女は自転車に乗って』(サウジアラビア)といった同傾向の作品を今まで紹介してきましたが、本作もまたそうした新潮流の一作として、他の国の作品と見比べて鑑賞していただくと深みがさらに増すはずです。
ロケ地についても言及しておかなければいけません。本作の重要なロケ地のひとつは、ハノイから南に約90kmのところにあるチャンアンです。物語は、カルスト地形の奇岩に囲まれつつ流れる川を、舟に乗ったメイが進んでいく場面から始まります。また、川に隣接した洞窟でも撮影が行われており、「生と死」の不思議に直面するメイの心理を表現する上で重要な役割を果たしています。
チャンアンは2014年に「景観複合体」として世界遺産に登録され、隣接しているホアルーはベトナム初の独立王朝の都が置かれた場所です。おそらくこの地の景観は太古の昔からさほど変わっておらず、様々な人の生き死にを目にしてきたのでしょう。「世代」「継承」というテーマを醸し出す本作は、ロケ地によってさらにそのメッセージ性が増しているように感じました。
こだわり抜いたセットや衣装も必見の『第三夫人と髪飾り』は10月11日(金)よりBunkamuraル・シネマほか、全国順次ロードショー。詳細は公式ホームページをご覧ください。
チャンアンの景観複合体
「陸のハロン湾」と賞されるカルスト地形の景勝地・ニンビン郊外のチャンアン川にて、手漕ぎ船での川下り「チャンアンクルーズ」が楽しめます。