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存在のない子供たち
監督:ナディーン・ラバキ―
出演:ゼイン・アル=ラフィーア、ヨルダノス・シフェラウほか
日本公開:2019年
「存在しないはずの少年」を苦しめる、レバノン社会の歪み
レバノンの法廷で、12歳の少年・ゼインが「僕を生んだ罪で両親を訴えたい」と口にする。なぜゼインはそうするに至ったのか? そう観客に疑問を抱かせながら、物語は幕を開ける。
ゼインは両親が出生届を提出していないため、IDを持っていない。ある日、ゼインの妹が年上の男性と強制的に結婚させられたことで、日々溜まっていたゼインの怒りは爆発し、家を飛び出す。
仕事を探しにさまようゼインは、沿岸部のある町でエチオピア移民の女性・ラヒルと出会う。ラヒルは寝食に困っているゼインを自宅に泊まらせ、ゼインはラヒルの赤ん坊を世話をして危機をしのぐ。こうして、ゼインの新しい日常が始まるが、それもそう長くは続かず・・・
旅ををすることで得られる喜びのひとつは、「世の中にはこんな場所があるのか!」「世の中にはこんな生き方の人がいるのか!」といった、未知のものと出会う驚きにあると思います。「驚き」というのは、ワクワクするようなポジティブさをもって語られる場面が多いですが、人は圧倒的な惨状・困窮状態などを目にした時にも、言葉に詰まるような、悲しみを伴った驚きを感じます。
本作で観客が感じる驚きは、その両方が複雑に混ざって容易には消化できないものとなるでしょう。一方で、隣国・シリアやアフリカからの押し寄せる難民を抱えるレバノン社会問題の深刻さに、言葉を失うような驚きを感じます。しかし他方で、12歳の少年が大人を凌駕する力強さで状況を打開していく圧倒的なエネルギーに驚き、勇気をもらうことができます。
とはいえ、まだ12歳のゼイン少年は「大人の壁」にぶつかり涙を見せることがあります。その涙は彼が自分の心の中を隅から隅まで旅した証で、観客は彼から見た世界の広大さをそこに見出すことができるでしょう。
『存在のない子供たち』は、7/20(土)よりシネスイッチ銀座、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次ロードショー。その他詳細は公式ホームページをご覧ください。
ベイルート
レバノンの首都で、経済・政治の中心地。人口は約180万人。住民はキリスト教徒、イスラム教徒が共存しており、文化的に多様な都市の一つともなっています。1975年から15年に渡る内戦によりイスラム教徒地区の西部と、キリスト教徒地区の東部に分割されています。