エレニの帰郷

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ギリシャ

エレニの帰郷

Trilogia II: I skoni tou hronou

監督:テオ・アンゲロプロス
出演:ウィレム・デフォー、ブルーノ・ガンツ、ミシェル・ピッコリ、イレーヌ・ジャコブほか
日本公開:2008年

2019.6.19

ヨーロッパ・アメリカ・旧ソ連―離散するギリシャの「民の記憶」

1999年、ギリシャにルーツを持つアメリカの映画監督Aは、母エレニ、彼女を思い続けた男ヤコブ、そしてエレニが愛したスピロス、男女3人の映画撮影をローマで再開する。

1953年、スピロスは恋人のエレニを追い求め、タシケント(現ウズベキスタン)へやって来る。そしてギリシャ難民の町・テミルタウ(現カザフスタン)に訪れたとき、友人ヤコブと共に集会に参加していたエレニと再会する。しかしその日、折しもスターリンが亡くなる。ソ連当局に捕えられた二人は、再び引き裂かれる。エレニはスピロスとの子供を腹に宿していた。その後、エレニはシベリアの牢獄に送られるが、そこにヤコブがやってくる・・・

悠久の神々の歴史を持つギリシャ。
「文明の十字路」と呼ばれるのはトルコのイスタンブールですが、バルカン半島最南端の本土と3000を超える島々から成るギリシャはいつの時代も、波を切る船首のようであり、時に荒波に揉まれる「歴史の十字路」であると言えるかもしれません。

本作では旧ソ連諸都市・ローマ・ニューヨーク・ベルリンなど、ギリシャから離散していった人々を想起させるかのごとく、世界各地が舞台になっています。

背景となっているのは、第二次世界大戦スターリンの死、ウォーターゲート事件、ベトナム戦争、ベルリンの壁崩壊など、激動の20世紀の歴史的事件です。

湾岸戦争、阪神淡路大震災、地下鉄サリン事件、アメリカ同時多発テロ事件、イラン・イラク戦争、東日本大震災、福島原発事故、シリア内戦など、1986年生まれの私もまた時代を揺るがす事件を背景にこれまで生きてきました。観客によって「記憶の焼き付き方」は違いますが、歴史的事件というのは過ぎ去ってしまったことであると同時に、後で振り返った時に、その記憶を共有し深め合うことで思いもよらない大きな繋がりを見出せる可能性があります。

決して明るく鑑賞できる映画ではありませんが、つらく悲しい旅路から、歴史の優大さ、人間の強さを感じさせてくれる一作です。(本作は3部作のうち2作目で、2012年に監督のテオ・アンゲロプロスは3作目を撮影中に事故で他界し、3部作は未完となっています。一作目は『エレニの旅』という作品です)