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ゲンボとタシの夢見るブータン
監督:アルム・バッタライ、ドロッチャ・ズルボー
出演:ゲンボ、タシ、トブデン、テンジン、ププ・ラモ
日本公開:2018年
幸せの国・ブータン
次世代の幸せを担う子どもたちの葛藤
ブータン中部・ブムタン県の小さな村に暮らす16歳の少年・ゲンボは、先祖代々受け継がれてきた寺院の跡取りとして、父から期待されている。当のゲンボは、今通っている学校を辞めて僧院学校に行くという選択が正しいかどうか、迷いを捨てきれない。
ゲンボが遠く離れた僧院学校に行くことに、15歳の妹・タシは反対している。ブータン初のサッカー代表チームに入ることを夢見ているタシは自分のこと男の子だと思っているが、父からは女の子らしく生きるよう諭されている。理解を示してくれるゲンボに離れてほしくないと、タシは思っている。
急速な近代化の波が押し寄せるヒマラヤの小国・ブータン。おだやかな風土の中で、世代間の価値観は静かに絶え間なく衝突している・・・
ついに「旅と映画」でブータン映画を紹介する日が来ました!(西遊旅行に勤めている時、私はブータン等の南アジア担当でした)
ブータン映画(ブータン監督作品、ブータンロケ作品)は国際映画祭でも年々見る機会が増えており、中でも“Honeygiver among the Dogs”(主演は『セブン・イヤーズ・イン・チベット』でダライ・ラマ役を演じた ジャムヤン・ジャムツォ・ワンチュク)という作品のDechen Roderという女性監督は注目されています。
本作の監督はブータン出身のアルム・バッタライと、ハンガリー出身のドロッチャ・ズルボー。国籍の違う2人(アルム監督は男性、ドロッチャ監督は女性)の観点が融合し、今はまだ小さく視野が限られた子どもたちに寄り添い、共に見えない未来に手を伸ばしているような、優しさのある眼差しが本作の特徴です。
少年のような妹・タシのことを、「この子は前世の影響で男の子のように育って・・・」と親が語るシーンは、私にとってとても懐かしい響きがしました。
チベット仏教文化圏の人と会話していると、輪廻転生があたりまえだという前提で会話が進んでいく時があります。それがブータンなどを旅する醍醐味だと思いますが、本作はそうした古来からの価値観・信念が、意外とあっけなく崩れ去ってしまう可能性があることを教えてくれます。
おそらくハンガリーのドロッチャ・ズルボー監督の感性が捉えたのではないかと思いますが、髪を切るシーンが繰り返し入っているのが作品に心地よい小さなリズムを生み出しています。
日々の小さな行いややりとりの積み重ねが、価値観・信念を形作っていく。監督たちが、ブータン、ひいては世界のよりよい未来を願う気持ちが、シーンごとに積み重ねられています。
ブータンに行ったことがある人は懐かしくなり、ブータンに行きたい方にとっては入門編としても最適な『ゲンボとタシの夢見るブータン』。8月18日(土)よりポレポレ東中野にてロードショーほか全国順次公開。詳細は公式ホームページをご覧ください。公開初日のskypeでの監督舞台挨拶ほか、各地でイベントが多数予定されています。
ブムタン地方
ブムタン地方は平均して標高約2,000mほどの高地。パロやティンプーでは稲作をしていますが、この地域はは寒冷な気候から稲作が定着せず、ソバや麦作り、ヤクや牛の放牧が中心となっています。ブータンに最初に仏教が伝わったのはこのブムタン地方。もともとこの「ブムタン」がブータンの宗教の中心地だったのです。