子供の情景
監督:ハナ・マフマルバフ
出演:ニクバクト・ノルーズほか
日本公開:2009年
若きイランの女性監督がどうしても伝えたかったアフガニスタンの姿
舞台はアフガニスタンのバーミヤン。アフガニスタンでロケが行われた映画はそもそもあまりないのではないかと思いますが、その中でも2001年にターリバーンによって仏像が爆破されたバーミヤンで撮影されたのはおそらくこの映画ぐらいでしょう。
6歳の少女・バクタイは学校に行きたいと言って家を飛び出し、小さな旅が始まります。なんとかノートを手に入れて学校に向かうものの、途中でターリバーンを真似て戦争ごっこをする少年たちに巻き込まれてしまいます。映画公開当時まだ10代だったハナ・マフマルバフ監督は、少女の視点で見た世界の端々の美しさを描くと同時に、アフガニスタンが抱えている社会問題の深刻さ・複雑さを表現しています。監督はどのように演出したのか定かではありませんが、邦題の示す通り製作陣は「子供の情景」に入り込むことに徹して、キャストの子ども・大人たちに自由に演技をさせたのでしょう。重いテーマを背負いながらも、登場人物たちのとても自然で作為がない立ち振舞が映画を見やすくしています。
劇中に多くの比喩が登場しますが、ターリバーンによって破壊された仏像があった空洞もひとつの大きな比喩でしょう。何が無くなったのか、そして空洞をこれからどのように埋めていくのか。そうした比喩が込められているように思えます。この作品の原題は『Buddha Collapsed out of Shame(ブッダは恥辱のあまり崩れ落ちた)』ですが、アフガン内戦も9.11も仏像の爆破も、子どもたちには何の責任もありません。バクタイの年齢が2001年に生まれたか生まれていないかぐらいの6歳であるというのも、偶然かもしれませんが題名に大きな関わりがあるように思えます。
子どもの純粋さに触れてみたいという方から、じっくりと国際情勢について考えてみたいという方、教育の機会が与えられていない国の子どもたちについて考えてみたいという方まで広くおすすめできる訴求力に溢れた映画です。