(C)ANDOLFI – GRANIT FILMS – CINEKAP – NEED PRODUCTIONS – KATUH STUDIO – SCHORTCUT FILMS / 2017
わたしは、幸福(フェリシテ)
監督:アラン・ゴミス
出演:ヴァロ・ツァンダ・ベヤ、カサイ・オールスターズほか
日本公開:2017年
「上を向いて歩こう」と口ずさみたくなる、コンゴの歌姫の勇姿
コンゴ民主共和国の首都キンシャサ。都会・スラム・自然が密集し、混沌と静謐が同居するこの町で、シングルマザーのフェリシテはバーで歌いながらひとり息子のサモを育ている。バーの常連・タブーは彼女が気になっている。ある日、サモが交通事故に遭い、フェリシテは多額の金を工面しなければいけなくなる。「幸福」という意味の名前を持つフェリシテは、自らの運命を切り開くべく、逆境に立ち向かっていく・・・
海外旅行で空港ターミナルに入った瞬間、その国独特の匂いがしたという経験があるという方、あるいはそのような話を聞いたことがあるという方は多いと思います。キンシャサにはヌジリ国際空港という空港があるそうですが、この映画はキンシャサという町の人々・川・土・森・昼と夜など、様々な匂いを観客に想像させてくれる蒸気が漂っているかのような作品です。
この映画を見終わった後、頭の中で坂本九の『上を向いて歩こう』が繰り返し流れました。コンゴは独裁・紛争・虐殺など悲しい過去があり、アフリカが舞台の映画にはどうしてもそうした話題の作品が多いですが、そうした歴史に本作はあえて触れずに女性の強さという普遍的なテーマに焦点が絞られているからでしょう。
その「強さ」は、物語そのものだけでなく、音楽によってより豊かなものとして表現されています。フェリシテは歌手で、劇中でも心に響く歌声を聞かせてくれますが、コンゴの音楽はこの約10年で世界中に知れ渡りました。その立役者は、本作にも出演しているカサイ・オールスターズと密接に関係しているコノノNo.1というグループで、2004年にリリースされた『コンゴトロニクス』というアルバムは大ヒット作品となりました。アフリカの大地が鳴らしているかのような彼らの音楽は、遠く離れたアフリカの地を、日本人のリスナーの方へ大きく近づけてくれました。
セネガル系フランス人のアラン・ゴミス監督も、ひとりのコンゴ人女性の物語によって、自身の中に根付くアフリカのイメージ像を、世界中の観客の心に描こうと試みたのでしょう。
まだまだ日本で見る機会が限られているアフリカ映画。「旅と映画」では、これまでにフランスに住むチュニジア移民の苦心を描いた『クスクス粒の秘密』(スタッフが本作の脚本協力で関わっています)、セネガルの巨匠ウスマン・センベーヌ監督が女性の強さを描いた『母たちの村』を紹介しました。
本作は、幻想的なシーンで重要な役割を果たす、「森の貴婦人」というキャッチフレーズで関東の動物園で人気のオカピや、アフリカでは珍しいオーケストラ(キンシャサ市民によるキンバンギスト交響楽団)など、アフリカに詳しい方もそうでない方も楽しめる見どころが満載です。
『わたしは、幸福(フェリシテ)』は、12月16日(土)よりヒューマントラストシネマ渋谷、ヒューマントラストシネマ有楽町にてロードショーほか全国順次公開。その他詳細は公式ホームページをご覧ください。