クスクス粒の秘密
監督:アブデラティフ・ケシシュ
出演:アビブ・ブファール、アフシア・エルジほか
日本公開:2013年
異国の地で手を取り合うチュニジア移民の魂
舞台は南フランスの港町・セート。60代のチュニジア移民・スリマーヌは長年港湾労働者として働いてきました。前妻・ソアドとの間に4人の子と2人の孫を持ち、港で獲れたボラを届けるなどして関係を保ち続けていますが、家族はスリマーヌの関与を心からは歓迎していません。スリマーヌ自身そのことを感じながら暮らし続けていて、恋人の娘・リムはそんなスリマーヌになにかと協力的です。ある日、スリマーヌはリストラの標的とされ、勤務日数を半分にするか退職するかの選択を迫られます。スリマーヌは意を決して退職し、リムの助けを借りながら船上レストランを開く準備をはじめる・・・
チュニジア・モロッコなどの北アフリカ諸国は、日本から距離はかなりあるものの、旅行しやすい国としてワールドワイドにポピュラーな旅行先です。日本でもタジン(煮込み鍋料理)が近年大ブームとなり、南アフリカ発祥で「世界最小のパスタ」といわれるクスクスなどの食材も輸入食材を扱うスーパーで簡単に手に入るようになりました。しかし、アフリカの映画を見る機会はまだまだ日本では限られているので、本作は北アフリカの人々の文化を知ることができる映画として貴重な作品です。
クスクスはチュニジア人にとってソウルフードで、本作では食事のシーンを執拗にクローズアップで捉えるショットの繰り返しが、ストーリーに大きな効果を与えています。監督が後年カンヌ国際映画祭で最高賞を獲得して、日本でも話題になった2013年の作品『アデル、ブルーは熱い色』でも、食事を獣のように貪って口にするシーンを多用して、主人公の生命力を感じさせました。
貧しくても裕福でも、嬉しくても悲しくても、生きていくためには食事をしなければなりません。スリマーヌ自身とその親族たちが移民であるという社会的地位を跳ね返すかのように食事がなされ、笑顔の裏にある日々の苦しみが際立ちます(アブデラティフ・ケシシュ監督本人もチュニジア系移民二世です)。
欧米にやって来る移民を描いた映画は数多ありますが、本作は祖国から遠く離れた地で自国の文化を受け継ぎ続ける人々への敬意に満ちています。重要なシーンで披露される迫力あるベリーダンスにもご注目ください。