(C)CENTRAL MOTION PICTURE CORPORATION 1987
恋恋風塵
監督:ホウ・シャオシェン
出演:ワン・ジンウェン、シン・シューフェンほか
日本公開:1987年
日本人だからこそピンとくる、古き良き時代の台湾の情景
舞台は1960年代の台湾。鉱山の村・九份で幼いころから兄妹のように育ったワンとホン。中学を卒業したワンは台北に出て働くことになり、ホンも1年後台北に出て働き始める。台北に出てからも互いに励ましあい、2人の間にはいつしか恋心が芽生える。そんなある日、ワンのもとに兵役の知らせが届く。ホンとの結婚を考えていたワンは、毎日手紙を書くと約束し、自分の宛名を書いた千通の封筒を託す・・・
ワンとホンの出身地に設定されている九份という場所は、『千と千尋の神隠し』(2001年)で主人公の千尋が滞在することになる旅館・油屋のモデルとして有名ですが、それより前にホウ・シャオシェン監督の本作と『悲情城市』(日本公開:1990年)で一躍有名になりました。
東京・神保町をメインロケ地とした『珈琲時光』(2004年)を監督するなど、日本との関わりも深いホウ・シャオシェン監督が描き出すゆったりとした情緒あふれる映像は、「旅」の雰囲気に満ちています。
本作で特に印象的なのは、電車・駅・線路など、鉄道に関わるシーンです。電車がトンネルを抜けていく、線路の上を男女が歩く、電車を待つ、駅で待ち合わせをする、信号が切り替わる、出発した駅に戻ってくる・・・そうしたフレーム内のささやかな運動の積み重ねが、深く大きい(「潮流」とも例えれるような)情感を映画にもたらしています。
台湾では日本の植民地時代に鉄道が整備されたこともあり、撮影当時の駅舎の雰囲気や電車の車両などに共通点を多く見つけることができます。そのため、駅に電車が入ってくるシーンなどは、まるで昭和の日本の映画を見ているような感覚になります。ホウ・シャオシェン監督は、『珈琲時光』など他の映画でも鉄道に関わる要素を多くストーリーの中に組み込んできましたが(『珈琲時光』では浅野忠信演じる肇が電車マニアの設定)、本作の劇中には特に日本人の観客に懐かしさを感じさせてくれる光景が広がっています。
ノスタルジックな気分に浸ってみたい方、栄える前の九份が見てみたい方、鉄道好きな方にオススメの一本です。
九份
狭い路地の階段に沿って建つ建物に、提灯が灯る夕暮れ風景をお楽しみください。