(C)2015 Jafar Panahi Productions
人生タクシー
監督:ジャファル・パナヒ
出演:ジャファル・パナヒほか
日本公開:2017年
巨匠が運転するタクシーの車載カメラが、イランの首都の輪郭を描き出す
2010年、「反体制的」な映画を制作したとして、政府から以降20年間の映画制作・脚本執筆・海外渡航・インタビュー対応を禁止されたジャファル・パナヒ監督。テヘランの町でタクシーを走らせていると、教師、泥棒、金魚を持った老人、映画マニア、映画監督志望の学生、監督の親戚・友人・旧友など個性豊かな人々が次々に乗ってきます。ダッシュボードに置かれたカメラに映し出されたものとは・・・・・・
タクシーというのは実は多くの国で通じる、万国共通と言ってもよい言葉です。ためしに作中で話されるペルシャ語をはじめ、スワヒリ語・ウルドゥー語・ロシア語を調べてみましたが、やはりほぼ「タクシー」という発音でした(中国は少し違った「的士」という単語で、方言によって違いますが、近い広東語でも「ディクスィ」)。
普遍性があり、ランダムに行き先がきまり、その行き先は基本的に拒否することができない・・・運命にいくらか似通っているともいえるタクシーの特性をいかして、堂々と撮影できない状況を軽々とアドバンテージにしてしまうのは、世界中で愛される巨匠だからこそ成せる技でしょう。
このコラムでもとりあげた監督の過去作『白い風船』はドキュメンタリーと見違えるようなフィクション作品でしたが、本作でもどこまでが実際の話でどこからが作り話なのかわからなくなるようなストーリーが展開されていきます。
鑑賞後、「同じタクシーのシートに座っていた」という共通点だけで、もはやその場にはいない乗客たちがつながっているような感覚がして、町に点在しているパズルのピースがタクシー内で合わさるような爽快感を味わえました。自分が今まさに読んでいる本に書いてあることを、通りかかりの人が偶然話していたり、喫茶店で物思いにふけっていることについて店内の赤の他人が話していたり・・・そうした経験を私が鑑賞後思い出したのは偶然ではないはずです。
また、異国でタクシーに乗ったことがある方は、その記憶を思い出させてくれるでしょう。料金が安かったり、高かったり、交渉ベースだったり、ちょろまかされたり。私も、北アフリカのある国で手品のように高額紙幣を小額紙幣にすりかえられ、あまりにその技が見事だったので諦めた苦い思い出を、一瞬映画の途中に思い出しました。
テヘランの町の雰囲気を体感してみたい方、ユニークなテヘラン市民に会ってみたい方にオススメの映画です。
4月15日(土)より新宿武蔵野館他、ロードショー。その他詳細は公式HPをご確認ください。
テヘラン
イランの北西部に位置する同国の首都。エルブルース山脈の麓に広がるこの街は、全人口の10%に当たる人々が生活する大都市です。近代的な建物やモスク、道路に溢れかえる車の数、バザールなどの人々の活気など満ち溢れたエネルギーを肌で感じることが出来る街です。