ひつじ村の兄弟

poster2(C)2015 Netop Films, Hark Kvikmyndagerd, Profile Pictures

アイスランド

ひつじ村の兄弟

 

Hrutar

監督:グリームル・ハゥコーナルソン
出演:シグルヅル・シグルヨンソン、テオドル・ユーリウソンほか
日本公開:2015年

2017.3.15

火と氷の国・アイスランドで、羊たちが紡ぎ出す兄弟の絆

舞台はアイスランドの人里離れた村。隣同士に住んでいるものの、仲がとことん悪い老兄弟グミーとキディーは、先祖代々受け継がれてきた羊の世話に人生をかけてきました。質素ながらも慎ましい生活を送っていたある日、キディーの羊が疫病に侵され、保健所から殺処分を命じられてしまいます。この危機に、兄弟がとった行動とは・・・・・・

アイスランドの財産は火山・温泉・氷河・オーロラなどの大自然です。映像や写真でも意識すれば一目見てアイスランドではないかと察しがつくような、独特のスケール感が景観から感じられます。昨年末話題となった『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』の冒頭も、アイスランドではないかと思わせる不思議な場所で、調べたところ正解でした。

主人公の老兄弟は、私たちからするととても孤独と思える場所・環境に住んでいますが、退屈した様子はなく、むしろ土地に対する静かな誇りが言動に表れています。それもこれも受け継いできた羊たちがいるおかげなのでしょう。その羊たちが連れ去られるだけでなく殺されてしまうということは、彼らにとって生きながら地獄に突き落とされるようなものです。

このように、土地の重要な記憶や受け継がれきたものに突然アクセスできなくなってしまうという描写は、映画に普遍性を与えています。私たち日本人にとっては震災や原発問題に置き換えて考えてみることが可能でしょう。

ストーリーで工夫が凝らされていて面白いのは、羊の血統を絶やさないために、絶縁状態ながらも血の繋がりがある兄弟が歩み寄りを迫られるという、「血」や「関わり」という要素が巧みに利用されている点です。兄弟という「関係がある」ことを彼ら自身に呼び覚ますのは、羊の血統が「なくなる」恐れです。「関係ない状態」を「関係ある状態」にすることは可能ですが、存在自体が無くなっては関係を形成する土俵に立つこともできません。

「関係ないこと」と「関係あること」の境界はとても曖昧ですが、『ひつじ村の兄弟』には家族であるだけで関わりを持たなければいけないことの滑稽さが、アイスランドという国の記憶とともに描かれています。

自分のまわりで受け継がれてきたものに思いを馳せたい方、アイスランドの大自然を楽しみたい方におすすめの作品です。