(C)Yorgos Mavropsaridis
シーヴァス 王子さまになりたかった少年と負け犬だった闘犬の物語
監督:カアン・ミュジデジ
出演:ドアン・イスジ、ハサン・オズデミルほか
日本公開:2015年
闘犬・シーヴァスと負け犬少年・アスランの言葉なき友情
舞台はトルコ・東アナトリア地方のある村。11歳の少年・アスランは、学芸会で演じられる白雪姫の配役で王子役を希望するものの、村長の息子・オスマンがコネであっけなく役をとってしまい苛立ちを隠せません。その上、気になっている女の子が白雪姫を演じることになってしまいます。そんなある日、闘いに負けて瀕死の状態で放置されている闘犬・シーヴァスをアスランは連れて帰ります。小柄なためまわりから軽んじられているアスランは、猛々しいシーヴァスとともに過ごす時間にのめりこんでいき・・・
トルコでは闘犬の文化があるのかと思い映画を見進めていくと、非合法であることが明らかになってきます。女性がほとんど登場しなく、男性社会であることも映像から伝わってきます。また、直接は描かれていませんが、マスメディア・インターネット・SNSを統制していることで知られるトルコの権力構造が、闘犬に対する取り締まりや主人公家族と警察のやりとりの中で見えてきます。
海外を旅する時、いいことばかりを目にする訳ではなく、貧困や目をつぶりたくなる場面に遭遇することはしばしばあります。ツアーバスの乗降口に物乞いが集まってきたり、移動中にスラム街が見えたり、ガイドさんからその国の負の面について説明を受けたことがあるという方も多くいらっしゃるのではないかと思います。楽しい思い出に埋もれてしまいがちですが、そうした辛い・悲しい光景も、記憶の中に残っていると人によっては何かアクションを起こすときの原動力に変化することがあります。
映画も、楽しむものであると同時に(特にドキュメンタリーは)観客に悲しみを伝える役割があります。この映画は、どちらかというと暗く、弱い主人公・アスランや社会的弱者の家族たちが、権力構造をなんとかはねのけようとする姿が描かれています。鑑賞のタイミングを選ぶ作品かもしれませんが、アスラン少年の苦悩の様子や飄々とアスランに従う闘犬・シーヴァスの生き様は、見た人に困難を乗り越える強さを示してくれます。
迫力満点の闘犬シーン(犬同士の衝突音や勢いは驚きます)、眼力のあるトルコ人少年の名演技もぜひお楽しみください。