プラハ!
監督:フィリプ・レンチ
出演:ズザナ・ノリソヴァー、ヤン・レーヴァイほか
日本公開:2006年
「プラハの春」から生まれた足並みが踊り出す、青春ミュージカル映画
1968 年、チェコスロバキアのある田舎町。人気者の女子高生三人組・テレザ、ブギナ、ユルチャは素敵な恋愛に憧れていますが、クラスメートの男子たちは全く相手になりません。ある日彼女たちは、アメリカ亡命を夢見て軍から脱走してきた若い兵士三人組・シモン、ボブ、エイモンと出会い、恋に落ちていきます。
『プラハ!』はチェコスロバキアにとって大きな過渡期となった「プラハの春」のひと時を、歌と踊りをまじえて描いた作品です。1968年初頭、チェコスロバキア共産党が独自の民主化路線「人間の顔をした社会主義」を推進し、ミニスカートなど西欧の文化が流行し、自由化の波が起きました(映画ではそうした当時の様子が存分に再現されています)。しかし、同年8月にソ連・ブレジネフ政権が軍事弾圧に踏み切り、「プラハの春」の流れは断ち切られてしまいました。
ミュージカル映画の名作『シェルブールの雨傘』の根底にアルジェリア戦争への思いがこめられていたように、ハッピーな雰囲気で始まるこの映画も物語が進むにつれて当時の時代背景が見え隠れしてきます。
喜びと悲しみの関わりについて、夏目漱石も著作の中で引用した『ひばりに寄せて』という有名な詩では、このように詠われています。
「前をみては、後えを見ては、物欲しと、あこがるるかなわれ。腹からの、笑といえど、苦しみの、そこにあるべし。うつくしき、極みの歌に、悲しさの、極みの想、籠るとぞ知れ」
女子高生たちは「心からの笑いにも、苦しみが含まれている」とは夢にも思っていませんが、思えば、映画というのはただ楽しいだけでは物語が成立しません。ハッピーエンドになるにしても、通常そこに辿りつくまでには登場人物たちの葛藤が描かれます。
逆に、このコラムでも紹介させて頂いたギリシャのテオ・アンゲロプロス監督の作品のように、ひたすら悲しい映画というのは存在します。発展途上国の映画や苦境にある国の映画にパワーがあるように、映画というのは悲しさ・苦しさ・怒り・孤独などを大きな原動力にしているのでしょう。『プラハ!』はチェコを旅するだけではなかなか見えない、人々の心の奥底や国の記憶の中の暗い部分を、明るいストーリーの中で見せてくれます。
中欧の美しい街並みが見たい方、ミュージカル映画がお好きな方におすすめの作品です。