ククーシュカ ラップランドの妖精
監督: アレクサンドル・ロゴシュキン
出演: アンニ=クリスティーナ・ユーソ、ヴィッレ・ハーパサロ、ヴィクトル・ブィチコフほか
日本公開:2006年
戦争の狂気を癒やす、フィンランド最北の地の民・サーミ人の精神
サンタクロース村があることで知られているフィンランド最北の地・ラップランド。第二次世界対戦中、この地でもロシア軍・ドイツ軍・フィンランド軍による衝突が起きていました。
フィンランド軍の狙撃兵ヴェイッコは、戦争への非協力的態度が原因でSS(ナチスの親衛隊)のバッジが付いた軍服を着せられた状態で、岩に鎖でつながれて置き去りにされてしまいます。時を同じくしてロシア軍大尉イワンは、部下の密告によって秘密警察の取り調べに向かう道すがら、味方による誤爆を受けます。ヴェイッコとイワンはなんとか生き延び、付近に暮らすサーミ人の女性・アンニの家に留まることになります。こうして、互いに言葉が通じない三人の共同生活が始まります。
題名の「ククーシュカ」という言葉はロシア語でカッコーを意味しますが、同時に狙撃兵という意味もあります。カッコーは他の鳥の巣に卵を産み育てさせる「托卵」という習性で知られていますが、ロシア人のアレクサンドル・ロゴシュキン監督はこの自然界の不思議な事柄を、異なる言語を話す三人の奇妙な共同生活の描写に応用しています。たとえば、物語序盤でヴェイッコが岩山に自分をつなぐ固い鎖をはずそうと解決策をひたすら模索するシーンがありますが、この苦しいはずのシーンはさながら鳥の巣立ちを描いているようで、どこか前向きな雰囲気が漂っています。
このシーンは映画全体に対してなかなかの長さを占めますが、見ていて全く飽きがきません。「探す」という極めて単純な行為は、しばしば映画に力強い効力を与えます。いくつか思い浮かぶ映画がありますが、イラン映画の名作『鍵』は4歳の男の子がひたすら鍵を探します。スタンリー・キューブリック監督の代表作『シャイニング』では迷路が重要な役割を果たします。できれば旅先で迷子になりたくないですが、探したり迷ったりするということは旅という特別な時間の流れにおいてとても重要なことなのだと、この映画を見ながら私は感じました。
もうひとつこの映画で重要なポイントは「言葉が通じない」という点です。あらすじから予想できる程度に説明はとどめておきますが、フィンランド人がナチスのバッジをつけていることは当然誤解を生みます。誤解が解けていく流れの中では、トナカイの血におまじないをかけるなど、原初的な生活を保つサーミ人の行動が重要な役割を果たします。
『ククーシュカ』はこうした巧みなシナリオに加えて、フィンランド北部の初秋の空気やサーミ人のトナカイ飼育方法・魚捕りの仕掛けなど、ラップランドの風土を体感できるオススメ作品です。