(C)2014 PIE FILMS/2-TEAM PRODUCTIONS/PALLAS FILM/TWENTY TWENTY VISION.
ハッピーエンドの選び方
監督: シャロン・マイモン、タル・グラニット
出演: ゼーブ・リバシュ、レバーナ・フィンケルシュタインほか
日本公開:2015年
三宗教の聖地・エルサレムで、人のあるべき最期に思いを巡らす老人たちの物語
舞台はイスラエル・エルサレムのある老人ホーム。発明好きな老人ヨヘスケルは、共に老人ホームで暮らしている妻・レバーナの親友からの頼みを聞き、自らスイッチを押して苦しまずに最期を迎える装置を発明します。図らずもヨヘスケルのもとには装置を求める依頼が殺到してしまいますが、時を同じくしてレバーナに認知症の兆候が出てきます…
ユダヤ教・キリスト教・イスラム教の聖地が隣接するエルサレムは、それぞれの宗教を信じる人々に限らず、歴史的ロマンゆえに一度は訪れてみたいと憧れる人が多い場所のひとつです。聖地・エルサレムの老人ホームという多くの人にとって未知の世界を見せてくれるだけでも興味深い内容ですが、そこに暮らすイスラエル人たちの人生観・死生観が、重々しくなく時に笑いすらこみ上げるユーモラスなタッチで描かれています。
思えば、観光というのは何かしら「死」について思いを巡らすことが普段より多くなるひと時ではないでしょうか。当然ですが、歴史上の人物は皆全て死んでいて、どんな顔・声・性格だったのだろうと思いを巡らすこともあるでしょう。タージ・マハルやピラミッドのように、墓に訪れる機会も多くあります。遺跡・建築・彫刻・絵画などを目の前にした際、作った人が亡くっていることのほうが多いですし、壮大な遺跡では数々の無名の労働者たちを想像してしまう時もあるでしょう。また、葬列や葬儀に遭遇することもあります。
この映画を見て私は昨秋にベトナム・ホイアンで遭遇した葬列のことを思い出しました。朝9時ぐらいににぎやかなブラスバンドの音が遠くから聞こえたので、友人に何かイベントか結婚式でもあるのかと聞きました。結婚式かと私が聞いたのは、ブラスバンドの響きがインドでしばしば遭遇した結婚披露の行列に似て聞こえたからです。その友人は”No, somebody died.”(いや、誰か死んだんだよ)と明るく答えて、私は友人の陽気さにつられて笑いが出てしまいました。そして、「ベトナムの葬儀はにぎやかだと聞いたことはあったけど、これがそうなのか・・・」と、矛盾しているように聞こえる別れの音色に不思議な気持ちでしばらく聞き入りました。
この作品にも「次は我が身」と死が目前に迫っていることを自覚しながらも、それを笑い飛ばすようなエナジーを持った登場人物たちが出てきます。エルサレムに興味がある方だけでなく、老いの中に輝く瑞々しさに触れたい方にもオススメの作品です。