(C)Les Films des Tournelles – Les Films de Beyrouth – Roissy Films – Arte France Cinema
キャラメル
監督:ナディーン・ラバキー
出演:ナディーン・ラバキー、ヤスミン・アル・マスリーほか
日本公開:2009年
「中東のパリ」レバノン・ベイルート
色とりどりの憂鬱を持った女性たちの物語
レバノンの首都・ベイルートにあるエステサロンで、おいしそうなキャラメルがぐつぐつと煮られているシーンからストーリーが始まります。
エステサロンの経営者で妻子持ちの恋人がいるラヤール(監督のナディーン・ラバキーが演じています)、恋人との結婚を控えたニスリン、男性が苦手なリマ、女優志望の中年主婦ジャマル、老いた姉と住むローズ・・・20代の若者から年輩まで、恋愛から老いの悩みまで、幅広い年齢の女性たちそれぞれの憂鬱に焦点をあてながらも常にいくらかの希望を携えて物語は進んでいきます。
この映画を見て初めて知りましたが(むしろ特に男性にとっては、見るまで知らなくてあたり前かもしれませんが)、中東の国々ではキャラメルがムダ毛処理のために使われることがあるそうです。甘い砂糖をぐつぐつと煮てキャラメルをつくり、苦すぎるコーヒーを飲むように顔を歪めてそのキャラメルを使う・・・この小さくも意味深い文化のように、レバノン人女性たちのほろ苦くも美しい生き方が映し出されていきます。
この映画の特筆すべき点は、1975年から1990年まで続いたレバノン内戦のことや内戦中にベイルートが東西に分裂したことに一切言及していないことです。
「中東」という言葉や中東諸国の国名は、いまだなお多くの日本人に戦争やテロなどネガティブな事柄を連想させる言葉にとどまっています。世界には道を歩いていると撃たれたり拉致されてしまう場所も確かにあります。距離や関心の問題でそうでない地域にもそのイメージが波及して、偏見が生まれてしまうことは避けがたいかもしれません。
たしかにベイルートでもテロは過去にありました。この物語はそうした事実がさもないかのように進んでいきます。無視しているということではなく、カメラのレンズで焦点を絞るように、レバノンに暮らす女性たちの悩みや希望に焦点を合わせているのです。多くの映画がベイルートを危険な街として描いてきた中で、この作品はそれにつられず真摯に人間そのものを描ききり、キリスト教とイスラム教が共存してきた歴史や、コーヒー占い(コーヒーの沈殿物の模様で運勢を占います)など庶民の文化をさりげなくストーリーに散りばめています。
この映画を見れば明らかですが、ベイルートの街でも日本と同じように普通の人々が普通の日常を送っています。その事実を映画を以って世界中の人々に知らせることができるというのはとても素晴らしいことだと、映画という媒体そのものの良さ・大切さを感じることができる作品でもあります。
レバノンの首都の日常を見てみたい方、アラブ人女性の悩みに共感できるかどうか試してみたい方にオススメの一本です。
ベイルート
レバノンの首都で、経済・政治の中心地。住民はキリスト教徒、イスラム教徒が共存しており、文化的に多様な都市の一つともなっています。