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チリ

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監督: パブロ・ラライン
出演:ガエル・ガルシア・ベルナルほか
日本公開:2012年

2016.8.24

No Future!
革命を生み出した、肯定的な「ノー」

チリで15年間に渡りアメリカの傀儡であったピノチェト。「捨てられた」という形容詞がつくこともしばしばあるピノチェト独裁政権下の1988年の設定で物語が展開していきます。この年、ピノチェトの任期延長の是非を問う国民投票が行われました。希望を失いかけていた反対派の国民を一致団結させ、政権を奪うべく立ち上がらせたのはテレビで放送された選挙キャンペーンでした。この実際の出来事が、反対派(NO派)の中心人物である才能あふれる若き広告マン・レネを主人公に描かれていきますが、『モーターサイクル・ダイアリーズ』でチェ・ゲバラに扮したイケメン俳優ガエル・ガルシア・ベルナルがレネを演じます。

YES派が一日中キャンペーンを放送できるのに対し、NO派は一日に15分のみしか放送が許されていないという絶望的な状況の中でも、レネは冷静に考えを深めていきます。そして、窮状を訴えるシリアスさより、笑いや歌によってチリの未来を感じさせるイメージを生み出すほうが人々の眠っている闘志を沸き立たせるに違いないと提案し、画期的な広告を展開していきます。

この映画で特に印象的なのは、実際の記録映像と映画のために撮影された映像の区別が段々とつかなくなってくることです。本作の撮影で使用されたカメラは1983年型イケガミ・チューブ・カメラ(池上通信機 撮像管カメラ)というカメラだそうで、最初は何かの物語というよりも、当時のドキュメンタリー番組のような雰囲気で映画がスタートしていきます。

実際、当時のアーカイブ映像も混じっているのですが、映画の撮影も80 年代当時の映像の質感や色で徹底的に撮影されていて、画面の縦横比も一昔のテレビのサイズである4:3(現在のワイドテレビは16:9)に合わせてあります。少し物語としては単調に感じる映画序盤の流れは、段々と80年代にタイムスリップしていくことを実感するための気遣いあるスピードなのでしょう。

現在のチリの土台になった歴史的出来事を、レネが提案した広告のように気軽な形でこの映画は追体験させてくれますが、劇中で非常に重要な人物を本人が演じていたり、レネのモデルになった人物がある役を演じたりしています。どの役なのかぜひ想像しながら見てみてください。

ビッグ・シティ

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インド

ビッグ・シティ

 

Mahanagar

監督:サタジット・レイ
出演:マドビ・ムカージー、アニル・チャタージーほか
日本公開:1976年

2016.8.17

美しいモノクロームに彩られた、
品性漂うインド映画

舞台は1953年、東がバングラデシュと接するインド・西ベンガル州の州都・コルカタです。

主人公のアラチは、銀行員である夫のシュプラトが稼ぎに苦しんでいるのを見かねて働きに出ることを決意します。主婦が働くということに不賛成なシュブラトの父の制止を振り切って、編み機を売って回る仕事にアラチは励みます。そして、会社の社長にも認められるほどの才能をアラチは発揮していきます。夫としてのプライドから段々とシュブラトはアラチに不満を抱くようになり、二人の関係に変化が生じてきますが、不運なことにシュブラトの銀行が倒産してしまいます…

監督のサタジット・レイはアジアの偉大な監督の一人として世界中に認知されていますが、日本の巨匠でたとえると黒澤明と小津安二郎の魅力を兼ね備えたような監督です。

この映画がつくられた1960年代前半のインドにおいては、女性は家を守り外では働かないという考え方がまだまだ揺るぎないものだったといいます。そうした時代に女性が積極的に仕事をして家の大黒柱になるという、ある種タブーに触れるようなストーリーを描きダイナミックな問題提起をするあたりは、原水爆問題に真っ向から立ち向かう黒澤明のスタイルのようです。

また、長らく英国統治下にあった大都会・コルカタは、1947年のインド・パキスタンの分離独立やインド・パキスタン戦争による大量の難民の流入により大規模スラムが発生しましたが、サタジット・レイはそうした貧困(主人公たちのレベルのではなく、もっと低層のレベルの意味での)については一切言及せずに、主人公のアラチの努力や女性としての品性に焦点をあてることに徹しています。この辺りは、キャリアのある時点から戦後の荒廃をあえて描かずに浮世離れした優雅なドラマを撮り、フレームの中の細かな美術ひとつひとつ、セリフの喋り方、細かな動作まで全てに品を求めた小津安二郎のようなスタンスを感じます。

サタジット・レイの鋭い洞察が反映されたこの映画は、時代を越えて「生きるとは何か」という普遍的なメッセージを私たちに訴えかけてきます。英領インド時代を感じさせるコルカタの街の雰囲気や、強い女性が活躍する映画を見たいという方に特にオススメの映画です。

ナマステ・インディア大周遊

文化と自然をたっぷり楽しむインド。15の世界遺産を巡り、ランタンボール国立公園でのサファリとケオラデオ国立公園の野鳥の観察も楽しむ。

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コルカタ

西ベンガル州の州都。イギリス統治時代は「カルカッタ」の名称で知られていました。この町を訪れると混沌とした熱気、町の雑踏を肌で感じることができるでしょう。

悲しみのミルク

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ペルー

悲しみのミルク

 

La teta asustada

監督:クラウディア・リョサ
出演:マガリ・ソリエルほか
日本公開:2011年

2016.8.10

悲哀から咲く希望の花
ペルー人女性監督が魅せる文学的世界観

ペルーの貧しい村に暮らすファウスタは、自分が母乳を通して母親の苦悩が子供に伝染する「恐乳病」であると信じています。物語はファウスタの母が亡くなるところから始まります。

ファウスタは母を故郷に埋葬したいと考えますが、貧しさのため遺体を運搬する費用が捻出できません。極度の対人恐怖症で町を一人で歩くこともままならないファウスタですが、勇気をふり絞り、町の裕福な女性ピアニストの屋敷でメイドの仕事に就くことに決めます。

『悲しみのミルク』の物語をより深く理解するには、1980年にペルーで武装闘争を展開し「南米のポル・ポト派」とも呼ばれた革命集団「センデロ・ルミノソ(輝く道)」の存在を知っておくべきかもしれません。1993年にフジモリが鎮圧するまで、センデロ・ルミノソはペルーの農村を拠点に無差別テロを続け、女性に対する乱暴も多く働きました。ファウスタはそうした出来事の直接の被害者ではないですが、ある時代の悲惨な出来事が次の世代にどのような形で受け継がれてしまうのかという目に見えない事柄をこの映画は掴もうとしています。

この難しいテーマを描き切ったのは、ノーベル賞作家マリオ・バルガス・リョサが伯父という恵まれた環境で培った、監督の文学的な表現力によるところが大きいでしょう。自分の言葉がなかなか出てこないファウスタが口に赤い花をくわえる、ファウスタが屋敷の門を開けて庭師を迎え入れる、女性ピアニストの真珠のネックレスがほどけて真珠を一粒一粒拾い集めるなど、数々の象徴的な動作が劇中で展開されます。ひとつひとつのシーンを単なる出来事としてではなく、何か違うことを言おうとしているのかもしれないと探りながら見ると、静かな映画の水面下でうごめく脈流をより深く感じとることができるかもしれません。

悲しくも美しい、現実なようで現実ではない世界に、ぜひ皆さんも浸ってみてください。

ペルー・アンデス紀行

マチュピチュ遺跡、ナスカの地上絵そして聖なる湖チチカカ湖。ペルーを訪れるなら押さえておくべき人気の観光地を10日間で巡ります。コンパクトですが忙しすぎない日程で、各地をじっくり見学していただけます。

ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ

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キューバ

ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ

 

Buena Vista Social Club

監督:ヴィム・ヴェンダース
出演:ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ、ライ・クーダー
日本公開:2000年

2016.8.3

郷愁ただよう歌声から薫る、
ロード・ムービーのような人生

ドイツの巨匠ヴィム・ヴェンダースはロード・ムービーの名作中の名作『パリ、テキサス』など、名高いフィクション作品もさることながら、数多くの名作ドキュメンタリーを監督してきました。キューバ音楽ドキュメンタリー『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』は、その代表作と言われている作品です。

ヴィム・ヴェンダースと親交のある世界的ギタリストのライ・クーダーは1997年にキューバを旅行しに訪れ、現地の老演奏家たちとセッションを行いました。この映画の題名でもある「ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ」は、彼らがまだ若かった頃に首都・ハバナにあった人気音楽クラブの名前で、ライ・クーダーとともに全盛期のキューバ音楽を再現すべくリリースしたCDのバンド名でもあります。ライ・クーダーとともにキューバ音楽に魅せられたヴィム・ヴェンダースは、彼らの歌と人生を巡る旅に観客を連れ出します。

映画は、まずフィデル・カストロやチェ・ゲバラという典型的なキューバのイメージから幕をあけ、ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブの跡地を探しにいくところから始まります。クラシックカーが行き交いコロニアル建築が建ち並ぶハバナの街並み、ニューヨークにある音楽の殿堂・カーネギーホールやアムステルダムでの公演映像も映画の魅力ですが、なんといっても見どころはブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブのミュージシャンたちの生き様です。音楽をなぜ続けるのかという自問自答、メンバーたちの心の拠り所がカメラに向って語られ、ひとりひとりの感情からキューバの激動の歴史までもが時に垣間見えます。

楽しい歌も哀しい歌も独特の深みをもって演奏するブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブですが、私たち日本人が歌詞を理解しない状態で聞いてもなぜか懐かしさを覚えるような響きをもっています。この映画を見ることで、彼らの音楽が心に残す響きはさらに増すことでしょう。

ドキュメンタリーというよりもロード・ムービーを見るような気分で、キューバ音楽の世界へ足を踏み入れてみてください。

オールドハバナ滞在とキューバ大横断

悠久の歴史を感じるオールドハバナ滞在と見どころを余すところなく網羅したキューバ横断の旅

カリブの真珠・キューバ

コンパクトな日程ながら西遊旅行のこだわりのつまった8日間

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ハバナ

キューバの首都で、新市街と旧市街(オールド・ハバナ)に分かれます。新市街はヘミングウェイゆかりのポイントも数多く残り、旧市街はコロニアルな建築が立ち並び世界遺産にも登録されています。

少女は自転車にのって

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サウジアラビア

少女は自転車にのって

 

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監督: ハイファ・アル=マンスール
出演:ワアド・ムハンマド、リーム・アブドゥラほか
日本公開:2013年

2016.7.27

コーランを覚えるのは、自転車のため!10歳の少女が背負うサウジアラビアの未来

舞台はサウジアラビアの首都・リヤド。コンバースのスニーカーをはき、英語のポップミュージックを聞く10歳の少女ワジダは、男の子と競走するための自転車を手に入れたくて仕方ありません。しかし、「女の子が自転車に乗るなんて・・・」と母親に反対されます。途方に暮れるワジダは、学校でコーラン暗唱コンテストに賞金があると知り、自転車を買うために必死に暗唱に取り組みます。

私もイスラム圏の国に仕事や旅行で多く訪れたことがありますが、サウジアラビアの規律の厳しさは皮下のイスラム諸国とは全く別だということを常々聞いてきました。劇中では特に女性の境遇(一夫多妻制など)や立ちふるまいについての慣習知ることができます。「女性の声は肌と同じ」と笑い声を制されるシーンなど、ここまで厳しいのかと驚いてしまうシーンも少なくありません。女性が一人で外出すること、夫以外の男性と外で会うこと、車を運転することも許されていません。近年ではインターネットで連帯して女性の権利を訴えるデモが増えてきているといいます。

サウジアラビアでは公共の場での音楽・舞踏・映画が禁止されており、映画館も国内にありません。(家庭でのソフトの視聴は可能。)エジプトで映画製作を学んだ監督は、全編サウジアラビアロケにあたり、車の中から遠隔で指示を出していたといいます。

ポスターにも「因習」と書かれているしきたりをテーマにしながらもこの作品が皮肉な内容に偏ることがないのは、10歳の少女が主人公であることが大きく機能しているからでしょう。サウジアラビアの慣習もテーマのひとつですが、どちらかというと少女が何か目標に向けて頑張るというパワーが映画を動かしていきます。

まっすぐで無邪気な視点が多くの観客の心を動かし、2014年度アカデミー賞・外国語映画賞候補にノミネートされたこの作品は、サウジアラビアやイスラーム文化の入門としてもおすすめの作品です。

 

ソング・オブ・ラホール

1d66d5e3adddd1bc(C) 2015 Ravi Films, LLC

パキスタン

ソング・オブ・ラホール

 

Song of Lahore

監督:シャルミーン・ウベード=チナーイ、アンディ・ショーケン
出演:サッチャル・ジャズ・アンサンブル、ウィントン・マルサリスほか
日本公開:2016年

2016.7.20

パキスタン伝統音楽×ジャズ!
NYとラホールの間に音楽が架ける橋

「文化と文化の接触」という言葉を聞いた時、皆さんはどういった場所や事柄を連想されるでしょうか。私が真っ先に思い浮かべるのは、パキスタンのラホール美術館で見たガンダーラ仏の展示です。特に弥勒菩薩立像の筋骨隆々とした姿はギリシャ彫刻の影響をはっきりと確認することができ、かつて本当にアレクサンダー大王がパキスタンの地まで来たのだと実感させるものでした。

物語はそのラホールから始まり、かつては芸術の都と呼ばれていたラホールの音楽文化が1970年代後半にパキスタンのイスラーム化政策がはじまったことにより衰退したことが説明されます。ラホールのサッチャル・スタジオのメンバーたちは廃れてしまった伝統音楽を復活させるべく、youtubeで自分たちの音楽を世界に向けて発信します。

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シタール・タブラなどインド音楽でもおなじみの楽器を用いてユニークな解釈で演奏されたジャズのスタンダードナンバーは多くの人の心を打ち、アメリカの超一流トランペッターであるウィントン・マルサリスの耳にもその響きは届きました。

サッチャル・ジャズ・アンサンブルの面々がウィントン・マルサリスの招待によりニューヨークに旅立っていく過程や、素晴らしい演奏技術が見ごたえ抜群なのはもちろんですが、本作にはもうひとつ重要な意味合いがあります。それは、彼らが世の中が持つパキスタンのネガティブなイメージを刷新させたいと切に願っていることです。

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私もパスポートにパキスタンビザが押されているだけでヨーロッパやアメリカでの怪しまれて入国審査で理由を事細かに質問されるということがありました。「パキスタン人はテロリストじゃないとわかってもらいたい」とメンバーたちは劇中でつぶやきますが、きっと彼らが生み出す音楽は人々の心に直接歩み寄って一番よい形でそのことを伝えてくれるでしょう。

世界の遠く離れた場所どうしの民話が時に全く同じような話であることがあるように、国境や文化を隔てていても人間は同じ人間なのだということ、そして同時に「違い」が世界を成り立たせているのだということをサッチャル・ジャズの音色は見つめなおさせてくれます。

8月13日(土)よりユーロスペース、8月27日(土)より角川シネマ有楽町にて公開。

その他詳細は公式サイト公式フェイスブック、公式ツイッター(@songoflahore_jp) からご確認ください。

秋の大パキスタン紀行

北部パキスタンが「黄金」に輝く季節限定企画 南部に点在する世界遺産を巡り、桃源郷・フンザへ。

春の大パキスタン紀行

パキスタンを大縦断!5つの世界遺産を巡りながら桃源郷フンザへ。

シンド・パンジャーブ紀行

カラチからイスラマバードまで陸路で走破し、パキスタンの遺跡をじっくり巡る

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ラホール

パンジャーブ州の州都にしてパキスタン第2の都市。パキスタンの文化・芸術の中心地で、 インドとの国境へも車で約1時間。両国の「雪解け」を感じる町でもあります。

極北の怪異(極北のナヌーク)

極北のナヌーク

カナダ

極北の怪異(極北のナヌーク)

 

Nanook of the North

監督:ロバート・フラハティ
出演:ナヌーク、ナイラ、 アレイ
日本公開:1922年

2016.7.13

約100年前に極北の地で撮影された、
世界初のドキュメンタリー映画

サイレント映画をお気に入り映画として挙げる映画監督は多くいますが、その中でも『極北のナヌーク』はフィンランドの名匠アキ・カウリスマキ監督など、ユニークな監督が好む作品です。監督はドキュメンタリーの父と言われるロバート・フラハティです。

映画の発明者・リュミエール兄弟がパリで初めて映画上映をした1895年から20年ほど経過した1910年代後半に、アメリカ人・フラハティはカナダのバフィン地方・北ウンガヴァ地方へカメラを持ち出す決意をしました。

エスキモーのナヌーク一家の日々の暮らしをカメラは追っていきます。移動の様子(小さいカヌーに一体何人が乗っているか、ぜひ注目してください)、セイウチやアザラシをしとめる様子、交易所で毛皮を売る様子、雪や氷でかまくらのような住居・イグルーを一時間足らずで作る様子など、博物館の展示が現実となったようなリアルな映像が展開されます。

実はこの映画は、フラハティがプリント・上映機器まで持参して自分のやりたいことをナヌーク一家に説明して信頼関係を築き、演出をし、映画のために原始的な暮らしを再現する演技をしてもらったという作品です。この映画が撮られた時にはエスキモーたちは既に原始的な狩猟生活ではなく銃を使ったり、西欧文化に大きく影響を受けた生活をしていたということです。(ナヌークたちがレコードプレイヤーをいじる場面も劇中に描かれています。)

こうした演出は、今ならやらせと言われてしまうかもしれません。しかし、彼らの身体に刻み込まれた生活習慣は決して嘘ではなく、とらえようによっては監督の演出が彼らの風習を復活させたともいえます。何より、映像記録に残されていなかった彼らの生活ぶりを、現代の私たちは他にどのような方法で目撃できたでしょうか。

ナヌーク一家が厳しい環境下でも幸せそうに暮らす姿から、監督とナヌーク一家が築いた信頼関係、監督が映像にこめた問いかけが時代を越えて伝わってきます。

人間性の源を見つめなおすことができ、かつエンターテイメント性の高い、約100年前の映画とは思えない映画です。極北へのロマンを是非この作品で膨らませてみてください。

母たちの村

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セネガル・ブルキナファソ

母たちの村

 

Moolaade

監督:ウスマン・センベーヌ
出演:ファトゥマタ・クリバリほか
日本公開:2006年

2016.7.6

人間の尊厳とは何か?セネガルの日常から世界に投げかける問題提起

「アフリカ映画の父」と評されるセネガル人映画監督センベーヌ・ウスマン(1923年生まれ、2007年に死去)の引退作『母たちの村』はアフリカにおけるFGM(女性器切除)の慣習をテーマにした作品です。主演のファトゥマタ・クリバリは実際に女性器切除を受けているそうで、劇中でも女性器切除をしたために2回流産をし、娘の出産の時に帝王切開をしなければならなかったという設定で主人公・コレを演じています。原題のMoolaadeとは「保護を求める人々を守らないとバチが当たる」という風習で、自分の娘に女性器切除をさせなかった主人公・コレに4人の少女たちが保護を求めに来たことから物語が始まります。

物語は非常にシンプルで、伝統・慣習を守ろうとする父権的な権威に固執する男性たちと、自由を求める女性たちの対立を描いています。監督はFGMを批判する立場に明確にたっていますが、争いに焦点をあてるというよりもセネガルの日常をあくまで朗らかに描くことに徹し、その流れの中で価値観の対立を描いていきます。終始アフリカののどかな雰囲気を感じ取ることができ、そのリズムからはみ出すことなくFGMを廃するべきだという姿勢を示すことで、シリアスなテーマをとっつきやすく表現しています。宗教上の理由と言いがかりをつけてFGMを続けようとしている男性たちの人間性をも尊重していて、撮影当時80歳を超えていた監督の人生の分厚さが感じとれます。名匠ウスマン・センベーヌがこの映画で目指したところは、アフリカの一つの慣習から「人間の尊厳」という普遍的な事柄へと物語を昇華させることだったのでしょう。

2004年のカンヌ映画祭・ある視点部門でグランプリを獲得した本作はFGMについて予備知識がなくても全く問題なく鑑賞でき、またセネガルのカラフルな世界を堪能できるオススメの一本です。

夢のアフリカ大西洋岸ルート
カサブランカ~ダカールを走る

カサブランカから大西洋岸を走り抜けダカールまで、移り変わる景色、民族、文化、アフリカが凝縮された縦断ルートの旅へ。かつてのダカールラリーのコースをも含む、ロマンあふれる縦断ルート。

ラサへの歩き方~祈りの2400km

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チベット

ラサへの歩き方~祈りの2400km

 

岡仁波斉   Paths of the Soul

監督:チャン・ヤン
出演:チベット巡礼の旅をする11人の村人たち
配給:ムヴィオラ
日本公開:2016年

2016.6.29

聖なる大地・チベットを包む、
巡礼者たちの小さな祈り

舞台はチベット自治区。東チベット・マルカム県プラ村の人々が1200km離れた聖地・ラサ、そしてさらに1200km先のカイラース山への巡礼の旅に出ます。 それぞれの思いを胸に巡礼に臨む11人は、両手・両膝・額を地面に投げ出して祈る五体投地を何百万回と繰り返しながら、まさに体をすり減らして進んでいきます。

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五体投地は実際にしばらくやってみるといかに体力を使うかがわかりますが、小学校低学年ぐらいの少女も含む一行は基本的に標高3000m越えの環境で五体投地をひたすら繰り返して、途中4500mを越える峠をも越えて聖地を目指します。

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この作品の驚くべき点は、実際の村人たち本人が自分たち自身を演じているフィクションであるという点です。出演者たちの敬虔さや、荘厳なチベットの風景といった実質的要素が手伝って、物語はフィクションとドキュメンタリーの境目を足音なく行き来し、観客に手を差し伸べてくれます。

カメラは幾度となく誰が誰だか判別できないくらい遠くからのアングルで、風景に同化させるようなとらえ方で登場人物たちを映します。命の生き死にが人間から近いところで行われている描写も随時はさまりますが、物語は「チベット」という場所を越え、鏡が光を反射するように私たち自身の生活を省みさせてくれます。

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一般的な感覚からすると、時は過去から未来へと一方向に進み、人生は何かを積み重ねていくもののように感じます。社会生活の中で私たちは何かを身につけたり、経験したり、増やしたりすることに価値を感じがちです。旅の途中で巡礼者たちが祈りながら道端に小石を積み上げる様子が度々映しだされますが、私はその度に彼らの中の何かが削ぎ落とされていくような印象を受け、「減らす」ということの美徳を感じました。積む動きをとらえたシーンで減らす美徳を感じるというのも不思議な話ですが、登場人物たちのちょっとした行為の節々から、彼らが持つ美しい感覚を感じ取ることができます。

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私自身ラサには数回訪れ、道路脇で五体投地している人やポタラ宮やジョカン(大昭寺)で熱心に祈りを捧げる人を目にして、彼らがそこに至るまでの果てしない旅路を想像していました。この映画は、私がその時知りたかったことに対する一つの答えを見せてくれました。

チベットに興味がある方から、日々の複雑な悩みを単純にみつめなおしてみたい方にオススメです。

7/23(土)よりシアター・イメージフォーラムにて公開。その他全国順次上映。

詳細は公式サイトからご確認ください。

青蔵鉄道で行く チベットの旅

世界最高所を走る青蔵鉄道に乗車し、聖なる都・ラサを目指します。西寧からゴルムドを経由し徐々に標高を上げて青海省・チベット自治区の境にある唐古拉峠(5,072m)を越えると、車窓には7,000m峰のニェンチンタングラ山脈や草原が広がります。列車の旅は、景観をお楽しみいただくだけではなく、ラサへ向かう前の高度順応としても最適です。

聖地カイラス山巡礼とグゲ王国

カイラス山までは世界最高峰チョモランマなどのヒマラヤ山麓を展望しながら向かいます。カイラス山では52kmの巡礼路を徒歩にて一周します。

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ラサ

チベット自治区の区都。チベットの政治的・宗教的中心地。 7世紀にチベットを統一した吐蕃王国のソンツェンガンポ王により、チベット(当時は吐蕃王国)の都として定められました。

シアター・プノンペン

7b09bc5633d53445©2014 HANUMAN CO., LTD

HanumanFilms-Logo (2) パンドラ配給

カンボジア

シアター・プノンペン

 

The Last Reel

監督:ソト・クォーリーカー
出演:マー・リネット、ディ・サーベット、ソク・ソトゥン、トゥン・ソーピー、ルオ・モニーほか
日本公開:2016年

2016.6.29

映写機から放たれる未来への光
カンボジア人女性監督による決意の一作

映画の舞台は現代カンボジア。首都・プノンペンは、1970年代のクメール・ルージュ(ポル・ポト派)による恐怖政治の時代を経て、今ではグローバルなダンス音楽が街中に響くようになっています。一方、テレビでは大量虐殺を繰り広げたポル・ポト派の裁判がいまだに続く・・・そうした描写から映画は始まります。

主人公の女子大生・ソポンはふと入った映画館「シアター・プノンペン」で流れている作品に自分の母が出演していることを発見します。その作品『長い家路』はポル・ポト派による作品処分を切り抜けた貴重な作品で、母の美しい姿にソポンは魅了されますが、フィルムの最後の一巻が欠けていることを映写技師から聞きます。そして、ソポンは病床の母のために物語の結末を自分で完成させたいと思うようになります。

ソボンの熱意は徐々にまわりの人々の感情や人生を動かしていきますが、その原動力となっているのはカンボジアの過去をみつめる監督自身の眼差しの強さに他なりません。自国の目を背けたくなるような歴史をしっかりとみつめ、一体何が起きたのか、これからの世代に何を伝えられるのかということを必死で模索しているエネルギーが映画から伝わってきます。

私自身、クメール・ルージュによる惨劇を世界史の授業で学ぶ知識以外で実感した出来事があります。Dengue Feverという2000年代アメリカのカンボジアン・サイケデリック音楽バンドがきっかけで知った人気女性歌手パン・ロン(劇中でもうっすらと似たような曲が流れています)がポル・ポト時代に粛清されたと知ったことです。パン・ロンの曲を聞くと50・60年代当時のにぎやかな雰囲気がそのまま私の耳に響いてきましたが、何の罪もない彼女の身にあった悲劇を知った時、まるで曲が何か重要なものを置き去りにした状態で鳴っているように聞こえました。ソボンもきっと未完の映画から何か抜け落ちたイメージを受け取って、それを必死で埋めようとしているのだと終始共感しながら鑑賞しました。

プノンペン  メイン写真

監督のソト・クォーリーカーはこれから東京国際映画祭製作のオムニバス映画への参加も決まっている注目の新人女性監督です。映画の冒頭から「おそらくこの作品は女性が撮ったのだな」とわかる独特の瑞々しいタッチで物語が描かれます。期待の女性監督の情熱を体感したい方、カンボジアの今と過去を見つめてみたい方にオススメの作品です。

7月2日(土)より岩波ホールにて公開
以後、全国順次公開予定。

その他詳細は公式サイトからご確認ください。

ハノイからプノンペンへ陸路で繋ぐ
アジアハイウェイ1号線を行く

2015年1月に開通した橋を利用しベトナムからカンボジアへ。7つの世界遺産も訪問。

大クメール周遊

クメール王朝の歴史を紐解くゆとりある遺跡探訪の旅。シェムリアップに5連泊・こだわりのホテルに滞在。

プノンペン

カンボジアの首都。フランス植民地時代の美しい建物が残り、「東洋のパリ」とも称される。カンボジア国王の居住地・カンボジア王宮には、今も国王一家が暮らす。