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ラオス 竜の奇跡

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ラオス

ラオス 竜の奇跡

 

Say Namlai

監督:熊澤誓人
出演:井上雄太、ティダー・シティサイほか
日本公開:2017年

2017.6.14

日本人が失いつつある感覚がラオスから薫る・・・日本・ラオス初合作映画

急激な都市開発が進む2015年・ラオス。田舎が嫌だと農家の実家を飛び出した若き女性・ノイは、憧れだった首都・ビエンチャンで都会的な日々を過ごしていますが、理想と現実のギャップに鬱々とした日々を送っています。そんな中、週末のダブルデートの最中に一人だけ55年前の内戦中のラオスにタイムスリップしてしまいます。ダム建設調査のためラオスに来ている日本人青年・川井と出会ったノイは、1960年の農村の住民たちや川井と共同生活を送ることになります・・・

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ラオスは海がなく、川とともに生きている。ある登場人物が劇中で語る通り、未来や過去のことよりも今その瞬間を楽しんで生きようとするラオスの人々の様子は、私たち日本人が原風景(ラオスの主食はもち米で、稲田の光景も見られます)を目の前にしているかのように、心が洗われる気持ちにさせてくれます。

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「日本はどんな国か?」というラオスの子どもたちの質問に川井が回答するシーンで、川井は四季について語ります。雨季・乾季しかないラオスの子どもたちは、四季を知識としては知っていますが感覚としては分かっていません。この描写は、それぞれの国には独自の感性があり、オノマトペ(擬声語)ひとつをとっても、その国の風土に深く根付いているということを思い出させてくれました。イヌイットが雪を表す言葉を、アマゾンのジャングルに暮らす人々が緑を表す言葉を多く持つように、ラオスにも川の流れを表す言葉がきっと数多くあるのでしょう。

本作の見所のひとつは何と言ってもキャストの言語面での努力でしょう。私が昔アラビア語を習った時、先生が「アラビア語以上に、タイ・クメール・ラオス語は日本人にとって習得が非常に難しい」と言っていたのを覚えていますが、井上雄太演じる川井のラオス語はとても良い響きで映画に優しさを生んでいます。

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1960年と2015年の比較という時代設定も多くを語ってくれます。前者は東京オリンピックの4年前、日本の高度経済成長期、ラオスの内戦時代。後者は日本の戦後70周年・東京オリンピック5年前、ラオスの高度経済成長期。この映画を2017年というタイミングで鑑賞するということは、大きな変化に決して飲み込まれない心の支えを私たちに与えてくれるでしょう。

史上初、日本・ラオス初合作映画『ラオス 竜の奇跡』。6月24日(土)より有楽町スバル座にてロードショーほか全国順次公開。その他詳細は公式ホームページをご覧ください。

悠久のメコンを行く
ルアンサイ・クルーズと古都ルアンパバーン8日間

タイとの国境の町ファイサイからルアンパバーンへ。大河メコンを下るパクウ号は、フランスとラオスの合弁会社によって運航される豪華ボート。乗客定員は20~40名、全長34m、ソファシートを配置したラウンジにはバーも備え付けられており、ゆったりとお過ごしいただけます。途中、停泊する河沿いの村では、生き生きと暮らす人々の生活や素朴な田舎の風景を垣間見ることができます。

残像

4c397ed1663c1f7b(C)2016 Akson Studio Sp. z o.o, Telewizja Polska S.A, EC 1 – Lodz Miasto Kultury, Narodowy Instytut Audiowizualny, Festiwal Filmowy Camerimage- Fundacja Tumult All Rights Reserved.

配給:アルバトロス・フィルム

ポーランド

残像

 

Powidoki

監督: アンジェイ・ワイダ
出演: ボグスワフ・リンダ、ゾフィア・ヴィフワチほか
日本公開:2017年

2017.6.7

辿り着けなくても歩き続ける・・・ポーランドの名匠が最後に遺した不屈の道標

第二次大戦後、ポーランド中部・ウッチ。大戦前に名を馳せた前衛画家のヴワディスワフ・ストゥシェミンスキは、大学教授でもあり生徒たちに慕われています。しかし、芸術を政治に利用しようとするポーランド政府と対立し・・・

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2016年、惜しくも90歳でこの世を去ったアンジェイ・ワイダ監督の遺作となった本作は、映画そのものが残像を生み、心の中に光を残してくれます。タブーを描くことを恐れず、自由・抵抗を一貫して訴え続けたワイダ監督は、最後までその意志を貫いたメッセージを世界中の観客に残してくれました。

"Powidoki" 2015 rez. Andrzej Wajda Fot. Anna Wloch www.annawloch.com anna@annawloch.com Na zdj od lewej : Zosia Wichlacz, Adrian Zareba, Irena Melcer, Filip Gurlacz, Mateusz Rzezniczak, Tomasz Chodorowski, Paulina Galazka; tylem Boguslaw Linda

映画の舞台となったウッチという場所はポーランドの名匠たちを輩出した映画大学があり、第二次世界大戦で焦土と化したワルシャワの代わりに首都機能をしばらく担っていました。戦後に芸術の街として発展していったウッチで展開される本作は、自由・抵抗というワイダ監督ならではのテーマはもちろんのこと、「歩く」ということをストゥシェミンスキが描いた絵画のように、芸術的に表現しているように思えました。

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Zdjecia: Pawel Edelman
fotosy: Anna Wloch
www.annawloch.com
anna@annawloch.com

旅をすると色々な場所を歩きます。草むら、砂漠、岩場、雪原、道なき道。ストゥシェミンスキは、第一次世界大戦で右足・左手を失っていて、常に身体部位の不在を抱えています。もちろん片足を失っても足を踏み出すことはでき(また片手を失っても絵を描くことはでき)、劇中でもストゥシェミンスキは松葉杖を使って力強く移動しますが、両足がある場合とは全く違った足の踏み出し方になります。また、右足を踏み出すという行為は永遠に不可能です。

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私が「歩く」という行為をこの映画のキーポイントとして見出したのは、劇中に「足を踏み出すことができる」という自由が表された、非常に小さくも力強い演出があったからです。水たまりに、ストゥシェミンスキではない、ある人物が足を踏み出して靴が濡れてしまったことを実感するというだけのシーンなのですが、ストーリー展開ともあいまってとても美しい場面になっているので、見逃さないように登場人物の足元に時々気を払ってご鑑賞ください。

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芸術・自由とは何か・・・共謀罪法案が採決されたという最近のニュースとも関連性があり、ワイダ監督の力強いメッセージを受け取れる『残像』。6月10日(土)より岩波ホールにてロードショーほか全国順次公開。その他詳細は公式ホームページをご覧ください。

恋恋風塵

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台湾

恋恋風塵

 

戀戀風塵

監督:ホウ・シャオシェン
出演:ワン・ジンウェン、シン・シューフェンほか
日本公開:1987年

2017.5.24

日本人だからこそピンとくる、古き良き時代の台湾の情景

舞台は1960年代の台湾。鉱山の村・九份で幼いころから兄妹のように育ったワンとホン。中学を卒業したワンは台北に出て働くことになり、ホンも1年後台北に出て働き始める。台北に出てからも互いに励ましあい、2人の間にはいつしか恋心が芽生える。そんなある日、ワンのもとに兵役の知らせが届く。ホンとの結婚を考えていたワンは、毎日手紙を書くと約束し、自分の宛名を書いた千通の封筒を託す・・・

ワンとホンの出身地に設定されている九份という場所は、『千と千尋の神隠し』(2001年)で主人公の千尋が滞在することになる旅館・油屋のモデルとして有名ですが、それより前にホウ・シャオシェン監督の本作と『悲情城市』(日本公開:1990年)で一躍有名になりました。

東京・神保町をメインロケ地とした『珈琲時光』(2004年)を監督するなど、日本との関わりも深いホウ・シャオシェン監督が描き出すゆったりとした情緒あふれる映像は、「旅」の雰囲気に満ちています。

本作で特に印象的なのは、電車・駅・線路など、鉄道に関わるシーンです。電車がトンネルを抜けていく、線路の上を男女が歩く、電車を待つ、駅で待ち合わせをする、信号が切り替わる、出発した駅に戻ってくる・・・そうしたフレーム内のささやかな運動の積み重ねが、深く大きい(「潮流」とも例えれるような)情感を映画にもたらしています。

台湾では日本の植民地時代に鉄道が整備されたこともあり、撮影当時の駅舎の雰囲気や電車の車両などに共通点を多く見つけることができます。そのため、駅に電車が入ってくるシーンなどは、まるで昭和の日本の映画を見ているような感覚になります。ホウ・シャオシェン監督は、『珈琲時光』など他の映画でも鉄道に関わる要素を多くストーリーの中に組み込んできましたが(『珈琲時光』では浅野忠信演じる肇が電車マニアの設定)、本作の劇中には特に日本人の観客に懐かしさを感じさせてくれる光景が広がっています。

ノスタルジックな気分に浸ってみたい方、栄える前の九份が見てみたい方、鉄道好きな方にオススメの一本です。

台湾最高峰・玉山(3,952m)登頂

コンパクトな日程で最高峰登頂と下山後の温泉も楽しむ旅 5日間コースでは九份も訪問。

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狭い路地の階段に沿って建つ建物に、提灯が灯る夕暮れ風景をお楽しみください。

ブエノスアイレス

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アルゼンチン

ブエノスアイレス

 

春光乍洩

監督:ウォン・カーウァイ
出演:レスリー・チャン、トニー・レオンほか
日本公開:1997年

2017.5.17

旅先で見る夢のような・・・香港映画界の鬼才が捉えた幻想的なアルゼンチン

舞台は南米・アルゼンチン。旅の途中で知り合ったゲイのカップル・ウィンとファイは、関係をやり直すためにイグアス滝へ向かいます。しかし、道に迷って言い争いになり、再び仲違いしてしまいます。その喧嘩からしばらく経ったある日、ブエノスアイレスでタンゴ・バーでドアマンをしていたファイの部屋に、怪我をしたウィンが現れて・・・・・・

金城武が出演して日本でも大ヒットを記録した『恋する惑星』の監督であるウォン・カーワイは、台本を用意しない、その場でスタッフとキャストに撮影内容を告げて即座に撮影する、即興劇を好む撮影スタイルで知られています。物語は断片的で、時に脈絡がないと言われることもあります。しかし、独特の色使いやボイスオーバーが醸し出す詩的なイメージや、思いもよらないイメージとイメージの化学反応によって、世界中の観客を虜にしてきました。

旅先では時々不可解な夢を見ることがあります(おそらく私だけではないはずです)。無意識下にあった記憶が掘り起こされて、忘れかけていた人や物が現れてドキリとすることがあります。そのように、登場人物たちの無意識下の動きが意外なカット同士をつなぎあわせているような、不思議な雰囲気が映画全体に漂っています。

しっかりとしたストーリー、計算されつくされたカメラワークや照明、場面にピッタリな音楽・・・・・・そういった要素ももちろん映画の醍醐味ですが、ウォン・カーワイ監督は整合性よりも感情を、調和よりも不調和を観察し、心で掴んだものを美しいイメージに変身させる監督です。劇中に複数回登場する大迫力の観光名所・イグアスの滝は、監督のそうしたスタイルにもってこいのロケ地です。

スタッフやサウンドトラックもその変身を支えています。特に有名なのはダイナミックかつ繊細なカメラアングルで知られるクリストファー・ドイル。サウンドトラックはアルゼンチン・タンゴ界のレジェンド、バンドネオン奏者のアストル・ピアソラ、ブラジルの超大物ミュージシャンであるカエターノ・ヴェローゾなど非常に贅沢です。

今までとは違った心持ちで旅をしてみたい方、耽美的なアルゼンチンのイメージを目にしてみたい方にオススメの一作です。

ゆったり巡るイグアスの滝とペルー周遊

大瀑布イグアスの遊覧飛行 ペルーではワイナピチュ登頂と豪華列車乗車も。

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イグアスの滝

アフリカのビクトリアの滝、北アメリカのナイアガラの滝と並んで世界三大瀑布のひとつに数えられる。落ち口から流れ出た水が途中で岩などにぶつかって段を作りながら落下する「段瀑」と呼ばれる種類の滝です。全体の幅は約4キロメートルにも及び、雨量により現れる滝の数が約150から300の間を増減し、刻々と姿を変えます。

スタンリーのお弁当箱

jon_chirashi(C)2012 FOX STAR STUDIOS INDIA PRIVATE LIMITED. ALL RIGHTS RESERVED

インド

スタンリーのお弁当箱

 

Stanley Ka Dabba

監督: アモール・グプテ
出演: パルソー・A・グプテ、アモール・グプテほか
日本公開:2013年

2017.5.10

お弁当箱を開けるワクワク感のような、心優しきインド人少年の作り話

舞台はインド最大の都市・ムンバイ。Holy Family Schoolというキリスト教系の小学校に通っている少年・スタンリーは、作り話をしてクラスの皆を笑わせるのが大好きです。人気者のスタンリーですが、ある事情で学校にお弁当を持ってくることができない日々を送っていました。強がって水道水を飲んで空腹を満たしているスタンリーに、同級生たちは優しくお弁当を分けてあげます。しかし、他人のお弁当に執着を持つ一風変わった先生が、スタンリーにいちゃもんをつけてきて・・・

同じくムンバイを舞台にして、インドのお弁当の文化をストーリーに活用した映画に『めぐり逢わせのお弁当』がありますが、この作品は全く違ったアプローチでお弁当を物語に取り込んでいます。

日本でよく使われる「お母さんの愛情がたっぷりこめられたお弁当」というキャッチフレーズは(字幕で多少脚色されているかもしれませんが)インドでも変わらないようだということが、映画を見進める内にわかってきます。しかし、このフレーズはしばしば反発や苦悩を生むと聞いたことがあります。

まず、お弁当を作るのはお母さんでなくてはいけないのかということ。そして、お弁当を作れるには、それ相応の環境や時間が必要だということです。手作りではなく冷凍食品を使うこともあるでしょうし、大人がそうするように、お弁当屋さんやお惣菜屋さんでおかずを買うこともあるでしょう。つまり、「お弁当は愛情がこもっている」とされていることが、時にお弁当を用意する側の苦しみや悩みを生むということです。この映画ではそうした問題と近い切り口で、「全ての家庭がお弁当を作れる環境にあるわけではない」という視点からインドの社会を眺めています。

その張本人がスタンリーですが、映画に全く暗さはなく、むしろ彼の陽気な雰囲気が物語を引っ張っていきます。この映画の最も特徴的な点は、映画全体の流れよりも、今この瞬間を生きる子どもたちの感性のように、シーンごと、その場その場の臨場感や雰囲気が際立っている点です。

実は映画の撮影手法にその秘密があります。まず、監督は主人公・スタンリーを演じるパルシーくんの父親で、監督自身もスタンリーとお弁当を奪い合う変わり者の先生を演じています。もういくつか秘密がありますが、あとは本編をご覧になってから知るのが、充実した鑑賞体験のためによいかと思います。

少年たちの心洗われる優しさに触れたい方、ムンバイ市民の美味しそうなお弁当を覗き見たい方にオススメの作品です。(鑑賞前に、お近くのインド料理屋を調べておくことをオススメします)

よく知りもしないくせに

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韓国(済州島)

よく知りもしないくせに

 

Like You Know It All

監督:ホン・サンス
出演:キム・テウ、コ・ヒョンジョンほか
日本公開:2012年

2017.5.3

食べて、飲んで、恋をして。韓国のにぎやかな食卓が生み出す会話の応酬

韓国の堤川(チェチョン)に映画祭の審査員として呼ばれた映画監督・ギョンナムは、かつての親友・サンヨンと遭遇します。サンヨンの家で彼の妻と共に飲み明かした翌日、ギョンナムはサンヨンから「二度と自分の前に現れないでくれ」と絶交を言い渡されてしまいます。数日後、済州島を訪れたギョンナムは、先輩・チョンスの妻となった元恋人スンと再会し・・・

韓国映画というとドロドロした人間ドラマや、壮大な歴史ドラマ、あるいは年輩の方好みなイメージがある方がいるかもしれませんが、本作はゆったりとしながらもコミカルな展開と親近感のわく登場人物たちが、年代を問わずとっつきやすい内容にしてくれています(スターもしっかり出演しています)。

ホン・サンス監督の作品で最も特徴的なのは、登場人物たちが食事をおいしそうに食べ、豪快に酒を飲み、フランス映画さながらの人生談義を繰り広げるシーンです。緑色のビンが特徴的な焼酎、ビール(hiteという国産銘柄)がずらっと机にならび、ギョンナムは元恋人宅でモヤシスープを飲みたいとリクエストしてコチュジャンをあわせて食べたりするなど、韓国の日常的な食生活を垣間見ることができます。

食事シーンというのは映画によく出てきますが、会話の糸口程度で、ドラマ展開を置いてけぼりにして食事内容が話題の中心になることはあまりないかと思います。しかし、旅にとってもそうであるように、特に異国の映画を見る際に食事シーンを楽しみにしている方は多いはずです。

どのような食器を使っているのか(あるいは「手で食べるのか!」「葉っぱが食器なのか!」などと驚くこともあるでしょう)、どのように乾杯するのか、グラスが空いたら誰が注ぐのか、会計は誰が払うのかなど、ささいなことから文化も見えてきます。

そうした楽しみもさることながら、この映画における食事シーンは、恋愛という「人間の欲」を語るストーリーの流れの中で大切な役割を果たしています。人間は1ヶ月ほどは水だけでも生存できるそうですが、やはり普通に暮らしていればお腹が空いてきて、食事をしなければなりません。時に食べ過ぎ、時に飲み過ぎ・・・登場人物たちの恋愛模様に沿うように、食事シーンが絶妙に添えられています。

済州島の自然や堤川ののどかな風景も見どころです。主人公たちと一緒に異国の食卓に加わるような心持ちで、気軽に鑑賞しみてください。

韓国二大名峰登頂
漢拏山(1,950m)・智異山(1,915m)と
済州島満喫オルレハイキング

韓国の最高峰と第二峰を登頂 気軽な登山で春は玄海ツツジ、秋は紅葉を満喫

幸せの経済学

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配給:ユナイテッドピープル

ラダック

幸せの経済学

 

The Economics of Happiness

監督:ヘレナ・ノーバーグ=ホッジ、スティーブン・ゴーリック、ジョン・ページ
出演:ヘレナ・ノーバーグ=ホッジほか
日本公開:2011年

2017.4.26

インド最北の小チベット・ラダックに打ち寄せるグローバル化の波

インドの北の果て、標高約3500メートルの地に広がる秘境・ラダック。「チベットよりチベットらしい」と言われるに値する、貴重な史跡の数々や文化・慣習が残るラダックは、1974年に外国人立ち入り禁止令が解かれて以降、世界中の人々を魅了してきました。私はよくこの場所に、添乗業務で訪れさせて頂いていましたが、古刹・アルチ僧院の1000年以上前に描かれたマンダラや、ロツァワ(翻訳官)と呼ばれる高僧リンチェン・サンポの足跡は、容易に世界観を変えてくれます。

本作は、そのラダックに急速な近代化の波がおしよせ、伝統・コミュニティ・価値観が変容していくのを目の当たりにしたヘレナ・ノーバーグ=ホッジ(ラダック入門に最適な『ラダック 懐かしい未来』の著者)を中心に、本当の豊かさとは何かを問いかけるドキュメンタリーです。

作中で、グローバル化(globalization)とローカル化(localization)という言葉は、よく意味が混同されるということが説明されます。グローバル化は、国際交流・相互依存・国際社会という意味合いで、ローカル化は孤立主義・保護主義・貿易の排除・・・・・・どちらの言葉も本義とは異なるイメージで都合よく使われ、その引き換えに大切な物事を失ってしまうという指摘です。

その解説を聞きがら、ラダックのどんなガイドさんでも口にする、ある言葉を思い出しました。ラダックの中心都市で空港もあるレーからアルチに向かう途中、必ずニンムーという場所で写真ストップをします。そこは、2つの川(インダス川・ザンスカール川)の合流点で、タイミングによって色が違い、何度来ても新鮮な場所です。そこで、いつもガイドさんたちは、ラダックよりもさらに奥地にあるザンスカールの方を見てこうつぶやいていました。

「この先(ザンスカール川沿い)の道が完成したら、ザンスカールも急激に変わってしまうだろうね」

私が頻繁に訪れていた2010年前後当時、もうすぐ完成すると言われていた道はまだ完成されていないようですが、この言葉は当時ラダックが既に急激な変化にさらされていたことを物語っています。一度手にした便利さを手放すことは容易ではありません。しかし、進歩・発展が全てではないとまだしっかりと知っているラダックの人々は、これからも世界中の人々の心を豊かにしてくれるでしょう。

ラダックという地名を初めて聞いた方も、ラダックに限らず秘境に訪れることの意義について考えたい方も、ぜひご覧ください。(オンライン視聴・DVD購入・上映会の問い合わせはこちらから)

インド最北の祈りの大地ラダック

荒涼とした大地と嶮しい山岳地帯に息づく信仰の地・ラダックへ。保存状態の良い壁画やマンダラを有する厳選の僧院巡り。レーとアルチに連泊し、高所に備えたゆとりある日程。

草原の河

c7d39c7596646263©GARUDA FILM  配給:ムヴィオラ

チベット

草原の河

 

監督・脚本:ソンタルジャ
出演:ヤンチェン・ラモ、ルンゼン・ドルマ、グル・ツェテンほか
日本公開:2017年

2017.4.19

日本初、チベット人監督による劇場公開作!少女に死生観が芽生える瞬間

舞台はチベット高原東北部の青海省。広大な自然の中で牧畜を営む一家のもとに新しい命が誕生しようとしています。しかし、6歳の少女・ヤンチェンは母親をとられてしまうかもしれないと、赤ちゃんが生まれることを喜んで受け入れられません。

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ヤンチェンの父・グルは、4年前に起きたある出来事から、自分の父との間に確執を抱えています。季節の変化とともに、家族の気持ちも変化していき・・・・・・

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主人公のヤンチェンは、ピアスやアクセサリーをつけていて、カラフルな民族衣装も立派に着こなしているのですが、まだ乳離できていなく精神的に幼い女の子です。目の前のことひとつひとつに興味を持つ多感な彼女は、子どもができる仕組みや、種を蒔くと芽が出ることなど、素朴なことに疑問を抱きます。

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答えを知ることからだけでなく、分からないことを突き詰めていく過程でも人は成長していきますが、ヤンチェンは物語の中で「誕生」や「死」という深遠な事柄に興味を抱いていきます。カメラはそんな少女を、空と大地が接しているようなチベットの空間の中にポツンと配置し、きっと自然から多くを教わって育っていくのだろうと見守りたくなるような切り取り方で映しだします。

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自然のシーンもさることながら、ヤンチェンとグルがある理由で都市部に行くシーンも印象的です。以前、このコラムで取り上げたグアテマラ映画『火の山のマリア』も、先住民が都会と距離を置いて生活している姿が描かれた映画でしたが、ヤンチェンたちは都市部にバイクで(おそらく1〜2時間ぐらい)行ける距離で放牧をしています。ヤンチェンは町を特に珍しがっている様子はなく、時折都市まで出てくることがあるという環境で育っているのでしょう。

近い将来、ヤンチェンが町の学校に行くことになったら、遊牧生活を送る一家はどうなっていくのか・・・いつか来る「終わりの時」をかすかに感じさせながら、彼女の純粋な振る舞いは観客に、生きること、死ぬことを今一度見直させてくれます。

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記念すべき日本初のチベット人監督による劇場公開作『草原の河』は、4月29日(土・祝)より岩波ホールにてロードショーほか全国順次公開。その他詳細は公式ホームページをご覧ください。

人生タクシー

19007a592b88c3b9(C)2015 Jafar Panahi Productions

イラン

人生タクシー

 

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監督:ジャファル・パナヒ
出演:ジャファル・パナヒほか
日本公開:2017年

2017.4.12

巨匠が運転するタクシーの車載カメラが、イランの首都の輪郭を描き出す

2010年、「反体制的」な映画を制作したとして、政府から以降20年間の映画制作・脚本執筆・海外渡航・インタビュー対応を禁止されたジャファル・パナヒ監督。テヘランの町でタクシーを走らせていると、教師、泥棒、金魚を持った老人、映画マニア、映画監督志望の学生、監督の親戚・友人・旧友など個性豊かな人々が次々に乗ってきます。ダッシュボードに置かれたカメラに映し出されたものとは・・・・・・

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タクシーというのは実は多くの国で通じる、万国共通と言ってもよい言葉です。ためしに作中で話されるペルシャ語をはじめ、スワヒリ語・ウルドゥー語・ロシア語を調べてみましたが、やはりほぼ「タクシー」という発音でした(中国は少し違った「的士」という単語で、方言によって違いますが、近い広東語でも「ディクスィ」)。

普遍性があり、ランダムに行き先がきまり、その行き先は基本的に拒否することができない・・・運命にいくらか似通っているともいえるタクシーの特性をいかして、堂々と撮影できない状況を軽々とアドバンテージにしてしまうのは、世界中で愛される巨匠だからこそ成せる技でしょう。

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このコラムでもとりあげた監督の過去作『白い風船』はドキュメンタリーと見違えるようなフィクション作品でしたが、本作でもどこまでが実際の話でどこからが作り話なのかわからなくなるようなストーリーが展開されていきます。

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鑑賞後、「同じタクシーのシートに座っていた」という共通点だけで、もはやその場にはいない乗客たちがつながっているような感覚がして、町に点在しているパズルのピースがタクシー内で合わさるような爽快感を味わえました。自分が今まさに読んでいる本に書いてあることを、通りかかりの人が偶然話していたり、喫茶店で物思いにふけっていることについて店内の赤の他人が話していたり・・・そうした経験を私が鑑賞後思い出したのは偶然ではないはずです。

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また、異国でタクシーに乗ったことがある方は、その記憶を思い出させてくれるでしょう。料金が安かったり、高かったり、交渉ベースだったり、ちょろまかされたり。私も、北アフリカのある国で手品のように高額紙幣を小額紙幣にすりかえられ、あまりにその技が見事だったので諦めた苦い思い出を、一瞬映画の途中に思い出しました。

テヘランの町の雰囲気を体感してみたい方、ユニークなテヘラン市民に会ってみたい方にオススメの映画です。

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4月15日(土)より新宿武蔵野館他、ロードショー。その他詳細は公式HPをご確認ください。

ペルシャ歴史紀行

メソポタミア文明最高のジグラット“チョガザンビル”、ゾロアスター教の聖地ヤズドも訪問。

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テヘラン

イランの北西部に位置する同国の首都。エルブルース山脈の麓に広がるこの街は、全人口の10%に当たる人々が生活する大都市です。近代的な建物やモスク、道路に溢れかえる車の数、バザールなどの人々の活気など満ち溢れたエネルギーを肌で感じることが出来る街です。

タレンタイム〜優しい歌

c56d9a408526c989(C)Primeworks Studios Sdn Bhd

マレーシア

タレンタイム〜優しい歌

 

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監督:ヤスミン・アフマド
出演:出演:パメラ・チョン、マヘシュ・ジュガル・キショールほか
日本公開:2009年

2017.4.5

どこにでもありそうで、マレーシアにしかない・・・若者たちの青春の音色

舞台は多民族国家・マレーシア。「タレンタイム」(タレント+タイム)という音楽コンクールが毎年開催されている高校で、今年も生徒から精鋭が選りすぐられる。イギリス系・マレー系の混血でムスリムの家庭に育った女子学生・ムルーはピアノを、中国系の優等生・カーホウは二胡を、マレー系でムスリムの転入生・ハフィズはギターを演奏する。そして、耳の聞こえないインド系ヒンドゥー教徒・マヘシュはムルーに恋をする。幸せなひと時と苦悩の瞬間が交差しつつ、生徒たちとその家族はそれぞれの道を歩んでいきます。

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2009年、マレーシアで将来を嘱望されていた女性監督ヤスミン・アフマドは、51歳という若さでこの世を去りました。国境や宗教の壁を映画の力で越えようと作品を生み出し続けた彼女の遺作となったのが、本作『タレンタイム〜優しい歌』です。

サブ3 ○Talentime

なりたいけどなれない、変えたいけど変えられない、言いたいけど言えない・・・世の中の多くの物語は、何かしらの葛藤の存在と、その解消が展開を進めていきます。本作の主要な登場人物も、多感な高校生であるがゆえになおさら、家族のこと、恋のこと、勉強のことで葛藤を抱えています。

サブ4 ○Talentime

ヤスミン・アフマド監督の作品の一番の特徴は、こうした葛藤ではなく、やさしい慈愛の風調を主な原動力として物語が進んでいく点です。たとえば、主人公・ムルーの家族はイギリス・マレーの混血でムスリムの家庭ですが、ヒンドゥー教徒で耳が聞こえないマヘシュをムルーが連れてきて家族の輪に入ってきた時、静かに、多くを聞かずに受け入れてあげます。

劇中で風になびくカーテンのカットが何度か挿入されますが、まるで監督が息を吹き込んでいるかのように、映画全体に穏やかな趣きが漂い、登場人物たちはそれを肌で感じているように考え、行動していきます。

サブ1○ Talentime

撮影地となっているイポーという場所は、英国植民地時代から茶葉栽培が盛んでリゾート地として有名なキャメロンハイランドのほど近く、コロニアル調の美しい建築が残っている町です。登場人物たち以外にも、多種多様な考え方の人々が町に暮らしていることが、説明せずして映像に表れています。

サブ7 ○Talentime

マレーシアという国がどのような国なのか知らなくても気軽に鑑賞できますが、見た後にこの映画が作られた2009年前後のマレーシアで起きた出来事や21世紀に入ってからのマレーシアが抱える政治・経済・宗教の問題について調べると、監督が静かに巨大な問題にアプローチしていることに気づける、深く掘り下げられた作品です。映画館を出てもやさしく耳の奥で鳴り続ける、劇中の音楽も必聴です。

サブ2 ○Talentime

『タレンタイム〜優しい歌』は、3月25日(土)よりシアター・イメージフォーラムで公開中。4月8日(土)名古屋センチュリーシネマ、4月15日(土)シネマート心斎橋ほか全国順次公開。

その他詳細は、公式HPをご確認ください。