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パプーシャの黒い瞳

poster2(C)ARGOMEDIA Sp. z o.o. TVP S.A. CANAL+ Studio Filmowe KADR 2013

ポーランド

パプーシャの黒い瞳

 

Papusza

監督:ヨアンナ・コス=クラウゼ、クシシュトフ・クラウゼ
出演:ヨビタ・ブドニクほか
日本公開:2015年

2019.1.9

想像力と共に放浪して生きる、ジプシー女性詩人の人生

1910年。ポーランドの小さな町で、ひとりのロマ(ジプシー)女性が出産する。人形が好きな、まだ若い母親は赤ん坊に「人形(パプーシャ)」と名付ける。

少女となったパプーシャは、ある日、泥棒が隠した盗品を偶然見つける。そこには、文字が印刷されている。文字はガジョ(よそ者)の呪文で穢れているとロマたちは忌み嫌ったが、パプーシャは文字に惹かれ、町の白人に読み書きを教えて欲しいと頼み、文字を覚える。

1949年。詩人のイェジ・フィツォフスキが、パプーシャたちの楽器の修理人によって連れて来られる。秘密警察に追われていて、パプーシャたちのもとに匿ってほしいというのだ。やがて、フィツォフスキとの出会いによって、パプーシャは一躍「ジプシー詩人」として大きな注目を集めることになる・・・

文字が不浄だという文化を初めて知った時、私は非常に驚きました。私がそれを知ったのは、古代インドの思想を学んだ時です。古代インドの聖典・ヴェーダは、現在では文書となっていますが、教えが説かれ始めた紀元前当初は文字が不浄とされていたため、口承伝統のみが許されていました。

情報・文字に溢れる世界を生きる現代人にとって「書かない」「言わない」ということは、憧れを感じさせる面もあるのではないでしょうか。私が住んでいる福岡県に宗像大社という神社があり、境内の域内とされている女人禁制の孤島・沖ノ島での出来事は、人に言ってはいけないというルールがあります。そして、その経験自体が「お言わず様」という形で呼ばれ、神聖であるとみなされています。

映画や旅の感想も、インターネット上に写真や文章という形ですぐにアップロードできるようになりました。便利な面ももちろんありますが、例えば映画に関しては、アメリカのRotten Tomatoesという映画レビューサイトの良し悪しが観客の動員に強く影響してしまう(観客が映画を鑑賞する前に、映画の評価がされてしまっている)ことが問題となっています。

本作はブロニスワヴァ・ヴァイスという実在の人物に基づいたストーリーですが、文字を禁忌するロマの文化、部族とよそ者という構図は、文字や情報に溢れる現代人に対する「わからないこと」の大切さを示す比喩表現だと私は感じました。言葉にしてしまうと何か失われてしまうものがある。2, 3年後、10年後、さらにもっと時間が経ってからふと分かることもある。そういった感覚の大切さを、本作は観客に教えてくれます。モノクロームの映像美、放浪して生きるロマの雰囲気や音楽も味わえる美しい一作です。

ミツバチのささやき

ec254d2892524d08(C)2005 Video Mercury Films S.A.

スペイン(カスティーリャ)

ミツバチのささやき

 

El espiritu de la colmena

監督:ビクトル・エリセ
出演:アナ・トレント、イサベル・テリェリア
日本公開:1985年

2018.12.26

スペイン・カスティーリャに住む、妖精のような少女の心象風景

1940年頃、スペイン中部のカスティーリャ高原の小さな村に1台のトラックが入っていく。トラックは映画の移動巡回で、作品は『フランケンシュタイン』だ。喜ぶ子どもたちの中にアナと姉のイザベルがいる。

身の回りで起きるひとつひとつの出来事に興味津々のアナは、フランケンシュタインが怪物ではなく実は精霊で村のはずれの一軒家に隠れているとイザベルに聞き、その話を信じ込む。ある日アナがその家を訪れると、スペイン内戦で負傷した兵士と出会う・・・

「三つ子の魂百まで」という言葉がありますが、幼少期の経験はその後の考え方に強く影響すると言われています。それは、旅の最中にどのような光景に心打たれるかにも関わってくるはずです。

本作の背景となっているのはスペイン内戦、そして舞台はサンティアゴ・デ・コンポステーラの巡礼路も通っているカスティーリャ地方です。過酷な時代背景の中で、幻想的なカスティーリャの雰囲気が子どもならではの神秘的な体験を助長し、周囲で起きている戦争の「わからなさ」が無垢な心に容赦なく入り込んでいく様子が本作では描かれています。

度々この作品を見返していますが、見た時はいつもある感覚を思い出します。私はキリスト教の幼稚園に通っていましたが、天上界から神に見張られている気が度々していました。そして、ある時を境にその「見られている感じ」は消えたのですが、いつどのようにして消え去ったのかは全く覚えてないのです。

いまだに旅行に行くと神聖な場所や聖地巡礼が好きなこと、そして自分が作る映画ではほぼ全作死生観をテーマにしているのは、おそらくこの幼少期の体験が根底にあるのではないかと思います。

子どもの頃の忘れられない記憶、あるいは忘れかけていた感覚を蘇らせてくれて、旅に出る動機の源泉に気付かせてくれる1本です。

ペルシャ猫を誰も知らない

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イラン

ペルシャ猫を誰も知らない

 

Kasi Az Gorbehayeh Irani Khabar Nadareh

監督:バフマン・ゴバディ
出演:ネガル・シャガギ、アシュカン・クーシャンネジャードほか
日本公開:2010年

2018.12.19

表現への渇望 知られざるテヘランのインディー・ロック事情

テヘランで音楽活動をするネガルとアシュカンはロックを愛するカップルだが、テヘランでは演奏許可が下りない。2人はロンドンでライブすることを目指し、違法にパスポートとビザを取得しようとする。そして、資金集めのライブをするためにテヘランの町中を巡り、バンドメンバーを探しはじめる・・・

行かなければ分からない世界がある。これは秘境旅行全般に言えることですが、私が一番それを実感したのはパキスタンに初めて訪れた時です。イスラマバード・カラチ・ラホールなど、都市部では治安が原因で町にピリッとした雰囲気があるのではないかと想像する時が少なからずありました。しかし、実際に行ってみると人々は親切で、若者の人口が日本と比べて圧倒的に多く、むしろポジティブなエネルギーに溢れていました。

イランに行った時もそうでした。私は2017年7月に映画祭に招待を受けて初めてイランを訪れましたが、ちょうど6月にテヘランにあるホメイニ師の廟でISISによるものとされるテロがあった後でした。いくらイラン映画ファンで、知り合いからイランの人々のフレンドリーさについて多く聞いたことがあっても、いくらか不安になりました。しかし、空港に着いて映画祭の手配してくれたタクシーに乗り、イスファハーンへの道中で運転手さんと身振り手振りで会話したり、ドライブインに寄ってご飯を食べて地元の人たちと交流するにつれてその不安はあっという間にとけていきました。

本作のストーリーは、ともすると「文化規制が厳しいイラン」という背景設定で語られてしまいます。しかし、イランでは音楽を聞くチャンスが無いわけでは全くありません。イヤホン、カーステレオ、店内BGMなどあちこちで音楽が鳴っていますし、テヘランで私が行ったカフェではイギリスのPortisheadというバンドの曲が当然のように流れていました。衛星放送も入るので、音楽はもちろんのこと、海外のニュース・映画なども幅広く見ることができます。

ただ、表現をするとなると許可が必要になります。本作には牛小屋で練習するヘビーメタルバンドなども出てきますが、「文化規制が厳しいイラン」という簡潔な情報の後ろに、何千・何万人という人々が様々な思いで暮らしていることをしっかり示してくれます。

また、テヘランの光景に様々なジャンルの音楽が合わさるという、ふつうのイラン映画ではあまり見られないマッチングを楽しむことができます。ドキュメンタリーと見せかけて実はフィクションという、監督の表現手法にもぜひ注目してみてください。

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テヘラン

イランの北西部に位置する同国の首都。エルブルース山脈の麓に広がるこの街は、全人口の10%に当たる人々が生活する大都市です。近代的な建物やモスク、道路に溢れかえる車の数、バザールなどの人々の活気など満ち溢れたエネルギーを肌で感じることが出来る街です。

バジュランギおじさんと、小さな迷子

bb_poster軽(C)Eros international all rights reserved. (C)SKF all rights reserved.

インド・パキスタン

バジュランギおじさんと、小さな迷子

 

Bajrangi Bhaijaan

監督:カビール・カーン
出演:サルマーン・カーン、ハルシャーリー・マルホートラ、カリーナ・カプールほか
日本公開:2019年

2018.12.12

永らく背中合わせの印パを駆け抜ける、でこぼこコンビの珍道中

パキスタンの小さな村に住む6歳の少女・シャヒーダー。成長しても声を出すことができないシャヒーダーを心配した母は、彼女をつれてインドのイスラム寺院に願掛けに行くものの、帰り道で離ればなれになってしまう。インドに取り残されたシャヒーダーは、ヒンドゥー教のハヌマーン神を熱烈に信奉する青年・パワンに救われ、パワンは彼女を親元に返すまで面倒を見る決意をする。

ひょんなきっかけで、パワンはシャヒーダーがパキスタンからやってきたことに気づく。一度決心を固めたパワンは、周囲の制止に耳を貸さない。パスポートもビザも持たず、国境を障壁とも思わず、パワンはシャヒーダーをパキスタンの親元に送り届ける旅に出る。

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インド映画興行第3位を記録した本作。表向きは、インド・パキスタン両国同士の長年にわたる対立を背景に、「インドに“迷い込んだ”パキスタンの少女を、インドの青年が“見知らぬ国”・パキスタン送り届ける旅」というストーリーです。インド映画お決まりのダンスシーンも満載です。

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しかし物語の奥底にはインドの制作クルーたちによって、パキスタンへの歩み寄りの心があちこちに散りばめられています。インド人もパキスタン人も、本当は言いたいのだけれどなかなか言えないこと。それは、「インドとパキスタン、お互い本当は仲良くしたい」ということです。

例えばパワンとシャヒーダーがパキスタンに入ってすぐ、警察に追いかけられながらバスに身を隠している時に、パワンの苦心を知った集金係がこんなセリフをいいます。

「あなたみたいな人が、インド・パキスタン両方にたくさん増えればいいのに」

近くて遠い国。それが現在のインドとパキスタンの関係なのだと思います。面白いことに、本作ではパキスタン設定のシーンがインドで撮影されています。許可や製作上の理由でそうなったのかもしれませんが、それができてしまうということを以っても、インドとパキスタンが実は近いのだということが示されています。

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『バジュランギおじさんと、小さな迷子』は、1/18(金)より新宿ピカデリーほか全国順次ロードショー。その他詳細は公式ホームページをご覧ください。

桃源郷フンザへの旅

カラコルム・ハイウェイを走り桃源郷フンザへ
パキスタンが誇る高峰群、ガンダーラを代表するタキシラも見学

ナマステ・インディア大周遊

文化と自然をたっぷり楽しむインド 15の世界遺産をめぐる少人数限定の旅

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デリー

「旅の玄関口」デリー。この都市は、はるか昔から存在した歴史的な都でもあります。 古代インドの大叙事詩「マハーバーラタ」では伝説の王都として登場。中世のイスラム諸王朝やムガール帝国などさまざな変遷の後、1947年にはイスラム教国家パキスタンとの分離独立を果たします。現在ではインド共和国の首都として、その政治と経済を担い、州と同格に扱われる連邦直轄領に位置づけられています。

葡萄畑に帰ろう

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ジョージア

葡萄畑に帰ろう

 

The Chair

監督:エルダル・シェンゲラヤ
出演:ニカ・タヴァゼ、ニネリ・チャンクヴェタゼほか
日本公開:2018年

2018.11.28

ソ連崩壊後の暗い歴史を笑い飛ばす、ユーモラスで“新しい”ジョージア映画

ジョージア「国内避難民追い出し省」(という架空の機関)大臣ギオルギのもとに、空中浮遊もできる不思議なイスが届く。「確かな道を 掲げた目標へ」という当たり障りのないスローガンを掲げていた与党は、野党「新しい道」に選挙で負けて、ギオルギはイスと共に省から追放される。さらに不法取引で入手した家の差し押さえを言い渡され、八方塞がりとなってしまったギオルギは故郷に思いを馳せる・・・

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旅をして異なる背景を持った人々と交流していく中で、最も文化差を感じやすいことの一つは、ジョークや笑いのツボではないでしょうか。実際私も海外で「おもしろい話だ」と聞いて全く笑えなかったり、添乗中に英語ガイドさんから「こういうジョークがある」と聞かせてもらったけれども意味がわからず翻訳するのに困ったことが何度かあります。

本作は「国内避難民追い出し省」という明らかにおかしい省庁の登場や、省内を職員がローラースケートで移動しているという謎めかしい光景で幕をあけます。時代設定は「ありそうで、ない」もしくは「なさそうで、ある」現在です。「避難民」と表現されるような「何か」がジョージアの実社会にあるのだということを、背景知識がない観客にも想像させてくれます。

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「旅と映画」では既に5本のジョージア映画を紹介してきましたが、『みかんの丘』や『とうもろこしの島』の背景にあったソ連崩壊後のアブハジア紛争や南オセチア紛争について、本作の鑑賞前か後に知っておくと理解が深まります。また、架空の権力機関が存在するという点で、『独裁者と小さな孫』とストーリーの切り口を比較できます。

本作の大きな特徴は、映画全体に漲るとにかく陽気な雰囲気にあります。今まで紹介してきた5本のジョージア映画は、作品の背後に漂う闇の存在を感じさせる作品でした。本作は先行き不透明さを軽く笑い飛ばして、昔話の締めくくりのように「めでたしめでたし」で完結させてしまう寓話性を持っています。これは1933年生まれのベテラン監督だからこそなしうる業でしょう。

英題”The Chair”からは権力に対する揶揄が感じ取れますが、邦題『葡萄畑に帰ろう』はやや複雑なユーモアにしっかりと方向づけをしていて、ジョージアにとって誇るべき葡萄酒(ワイン)と同じような何かを私たち日本人も見出だせると、作品の普遍性を補足してくれています。

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ジョージアの婚礼の光景やワイン文化を見ることもできる『葡萄畑に帰ろう』は、12/15(土)より岩波ホールにてロードショーほか、全国順次公開。詳細は公式ホームページをご覧ください。

 

コーカサス3ヶ国周遊

広大な自然に流れる民族往来の歴史を、コンパクトな日程で訪ねます。
複雑な歴史を歩んできた3ヶ国の見どころを凝縮。美しい高原の湖セヴァン湖やコーカサス山麓に広がる大自然もお楽しみいただきます。

民族の十字路 大コーカサス紀行

シルクロードの交差点コーカサス地方へ。見どころの多いジョージアには計8泊滞在。独特の建築や文化が残る上スヴァネティ地方や、トルコ国境に近いヴァルジアの洞窟都市も訪問。

ガンジスに還る

8da435b0afee8374(C)Red Carpet Moving Pictures

インド

ガンジスに還る

 

Hotel Salvation

監督:シュバシシュ・ブティアニ
出演:アディル・フセイン、ラリット・ベヘルほか
日本公開:2018年

2018.10.17

ハレとケが混在する聖地・バラナシが紡ぎだす、あるインド人親子の未来

インドのある食卓で、77歳の父・ダヤが「死期の訪れを感じている。バラナシに行こうと思う」と告げる。不思議な夢を見たダヤの決意は固い。息子・ラジーヴは仕方なく忙しさに区切りをつけ、バラナシにある「解脱の家」に付きそう。「解脱しようとしまいと、滞在は最大15日まで」、それが「解脱の家」のルールだ。雄大に流れるガンジス川のほとりで、父子は互いの関係や人生を見つめ直す・・・

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バラナシには何度か添乗で訪れたことがありますが、「聖地」という呼び名が似合う場所です。特に日の出の一時には、独特な静けさがあります。ガンジス川の東側は開けた平地になっていて、日の出が見渡せるようになっています。静けさの中で、洗濯物をガート(沐浴場)に叩く音が響いていたのをよく覚えていますが、インド社会によほどの変化が起きない限り、そうした眺望や光景はずっとあり続けるでしょう。日没後に毎日盛大に行われる儀式(プジャ)の様子も劇中に描かれています。

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インド人の若い監督(撮影時は24歳)がこの作品を撮ったということに大きな意義を感じます。日本で例えるならば、日本文化に深く根付いた仏教・神道を見つめ直す感じでしょうか。私はインド・チベット文化圏で輪廻転生を当たり前のものとして考える価値観に比較的多く触れてきたので、本作のような映画は海外からの目線によってつくられるものと思っていました。しかし、コルカタ生まれのインド人監督にとっても、バラナシはその価値を再認識すべき場所なのだと知りました。現代化の波は、それほどインドの人々の感覚を変容させているのでしょう。

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仕事人間・ラジーヴの立ち位置が、日本人の観客にも感情移入を容易にさせてくれます。ともすると、私たちはたった1、2時間ですら大事な家族・友人に割くことをためらってしまうことがあります。そして、それが後に大きな後悔につながることもあります。親子のやり取り、そして「解脱の家」に集う人々の様子から、私たちの人生において何が大切なのかを考えさせてくれます。

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異文化を見せてくれるだけでなく、観客の心に入り込む普遍性をもった『ガンジスに還る』は、10/27(土)より岩波ホールほかにてロードショー。その他詳細は公式ホームページをご覧ください。

タージ・マハルと聖地バラナシ

インドの美を代表するタージ・マハルと、悠久の歴史を映す聖なるガンジス インドの核心にふれる旅

ナマステ・インディア大周遊

文化と自然をたっぷり楽しむインド 15の世界遺産をめぐる少人数限定の旅

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バラナシ

聖なるガンガーを中心に広がるバラナシの市内には、大小1500近いヒンドゥー教寺院と270以上のモスクがあると言われています。 年間100万人を超える参拝客が訪れ、ガンジス川の西岸約500kmに渡って伸びる階段状のガートで身を清め、市内の寺院に参拝します。

判決、ふたつの希望

46afd7e15996fdc6(C)2017 TESSALIT PRODUCTIONS – ROUGE INTERNATIONAL – EZEKIEL FILMS – SCOPE PICTURES – DOURI FILMS
PHOTO (C) TESSALIT PRODUCTIONS – ROUGE INTERNATIONAL

レバノン

判決、ふたつの希望

 

L’insulte

監督:ジアド・ドゥエイリ
出演:アデル・カラム、カメル・エル=バシャほか
日本公開:2018年

2018.10.10

レバノン社会に山積した負の感情が、希望に生まれ変わる時

レバノンの首都・ベイルートで自動車修理工場を営むキリスト教徒のレバノン人・トニーと、住宅補修に従事するパレスチナ難民・ヤーセル。水漏れを直しにきたヤーセルの対するトニーの粗野な対応は、ヤーセルの「クズ野郎」という一言を招き、トニーはそれに対して謝罪を要求する。

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そして、二人のこの些細な口論は裁判に発展してしまう。両者の弁護士が論戦を繰り広げメディアの報道も加わり、事態はレバノン全土を巻き込む騒乱へと発展していく・・・

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旅をすることで素晴らしい歴史・文化を知ったり、景観を眺めたり、人々と交流したりすることは私たちの感性に大きな影響を与えてくれます。しかし、旅をするだけでは感じ取るのが難しいこともあります。その一つは、人々の本音です。

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最近私は編集作業のため経済制裁中のイランに行き、様々な困難や国を出ようとしている人々の話を聞きましたが、心の中にある不安や記憶というのは基本的に「潜んでいる」ものです。町を歩いたり、ひとときの交流の中で何かそうしたことがキャッチできるかと言うと、なかなか難しいといえるでしょう。

本作は、日本人にはなかなか踏み入れがたいパレスチナ問題の実像を、感情面からわかりやすく私たちに示してくれます。「この映画を見ればパレスチナ問題がわかる」というわけでは決してありません。しかし、MeTooムーブメントのようなSNSによる急速な情報の拡散、そして同調の気運が日常的になった私たちに、本作はパレスチナ問題が決して理解不能ではないということを気づかせてくれます。

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わからなく掴み難い状態はそのままで、なんとなく「こういうことか」と思わせてくれる。それだけでも理解促進において大きな一歩ではないかと私は思います。

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そして何より本作の価値は、暗くなりがちな題材を、邦題にある通り「希望」を以って描いている点にあります(原題は「侮辱」の意)。パレスチナ問題に対して様々な立場が渦巻く中で、勇気と信念がある制作者だけがこうした作品を作ることができます。それは決して映画の制作者にとってだけ重要なものではなく、生きるパワーとして観客に伝わるものなのではないかと思います。

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全国で絶賛上映中の『判決、ふたつの希望』、上映詳細等は公式ホームページからご確認ください。

レバノン一周

レバノンが誇る5つの世界遺産 レバノン杉の森や数々の歴史遺産が残るレバノンを巡る8日間

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ベイルート

レバノンの首都で、経済・政治の中心地。住民はキリスト教徒、イスラム教徒が共存しており、文化的に多様な都市の一つともなっています。

あまねき旋律(しらべ)

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インド

あまねき旋律(しらべ)

 

Up Down & Sideways

監督:アヌシュカ・ミーナークシ、イーシュワル・シュリクマール
出演:ナガランドの人々
日本公開:2017年

2018.9.19

秘境・ナガランドに響くやまびこ
郷愁を誘う、大地と人々の共鳴

インド本土から取り残されたような場所に位置する北東諸州。ミャンマー国境に接するナガランド州には大自然の中に棚田が広がり、村の人々が協力して農作業をすべて人力で行っている。

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作業の間、人々はひっきりなしに歌を歌う。掛け合いもまじえながら、女性も男性も一緒になって歌い、その響きは山々の四方八方に広がっていく。

人類社会の急速な変化の中で、ナガランドの人々は何を思い、そしてどのような未来に向かっていくのか・・・

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秘境を旅する魅力とは何か。それは、自分や他者の内なる鼓動に耳をすますことができる点にあると、私は思います。

本作の舞台であるナガランドの歌は、ポリフォニー(多声合唱)を基本としています。私はアルバニアなどバルカン半島の国々のポリフォニーが好きなのですが、ナガランドにそうした文化があるとは本作を鑑賞するまで知りませんでした。

農作業中に歌われる歌は、土・水・稲穂の音も人の声に加勢し、複雑で重厚感あるハーモニーを生み出します。

ナガランドはインドからの独立運動が長く続いている地域です。ナガランドやその近辺は、中国・インド・ミャンマー・バングラデシュ・ブータンの国境が複雑にからみあっています。第二次世界大戦中に日本軍が英領インドと激闘を繰り広げたインパールも近いですが、ナガランドの地は歴史的に不安定さを抱えてきました。

そうした緊張状態に太刀打ちするには、村で暮らす一人ひとりの鼓動を共鳴させる必要があるのでしょう。つらい歴史も語られますが、本作でとらえられる人々の表情の多くは、笑顔です。

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テクノロジーやスマホ・PC画面の中にばかり気を取られ、現代人は自らの内なる鼓動を失いがちです。それゆえに、大地と肩を組んでいるかのような歌声を人々が響き渡らせる様子は、多くの人の心を強く打つことでしょう。

棚田の模様や人々の農作業のリズムもあいまって、歌の響きは波を打っているかのように、視覚的に感じることができます。

田植えの準備をしている様子を俯瞰でひたすら映したショットを見て、それが当たり前の日常である村人たちを、私は羨ましく思いました。

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心の中にさわやかな波風をおこしてくれる『あまねき旋律(しらべ)』は、10月6日(土)ポレポレ東中野にてロードショー上映ほか、全国順次上映予定。詳細は公式ホームページをご覧ください。

ナガランド ホーンビル・フェスティバル見学

インド北東部・コニャック族とアンガミ族の里を訪ねて

インド北東4州を巡る

ナガランド、アッサム、アルナチャール・プラデーシュ、メガラヤ 知られざるフォー・シスターズへ

僕の帰る場所

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ミャンマー

僕の帰る場所

 

Passage of Life

監督:藤元明緒
出演:カウン・ミャットゥ、ケインミャットゥ、アイセほか
日本公開:2017年

2018.9.12

懸命に生きるミャンマー人家族の「今」が描く、見えない「未来」

東京にある小さなアパートに、難民申請中のミャンマー人家族が暮らしている。母・ケインは、幼いカウンとテッを必死に育てているが、夫のアイセが入国管理局に捕まり、一人で家庭を支えることになる。

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日本で育った子どもたちよりもたどたどしい日本語を話しながら、ケインは一日一日を乗り越えていく。将来に不安を抱くようになったケインは、故郷のミャンマーで暮らしたいという思いを募らせていく・・・

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日本における移民・難民問題は、あたかも存在していないように扱われるという意味で、「透明」という言葉を以って語られることがあります。その実像を描くために本作で採られた手法は、当事者の心の奥深くにまで潜り、問題の全容は観客の想像に任せる方法です。

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人は成長すると、「ただいま」や「行ってきます」と言うべきかどうか迷う時があります。縁のある地だけれども、暮らした記憶がない時。独り立ち、あるいは結婚した後に、里帰りする時。

幼い兄弟にとって、両親の故郷であるものの暮らしたことはないミャンマーは、「行く」場所なのか、それとも「帰る」場所なのか。それはもっと時間が経って、彼らが振り返った時にはじめてわかるのでしょう。

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特に、希望と不安が入り混じった状態でヤンゴンの地を主人公家族が一歩一歩踏みしめていく映画の後半は、「旅」の真髄を感じ取ることができます。二つの土地・国籍を揺れ動く感情は、いかにシステムが整おうと行き来をやめないでしょう。母国を持つ両親、確固とした土台を模索する少年たちの姿は、生きる力の源を観客に問い直させてくれます。

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2017年東京国際映画祭「アジアの未来」部門で、日本人監督初のグランプリ・監督賞の2冠を成し遂げた『僕の帰る場所』。10月6日(土)よりポレポレ東中野にてロードショーほか全国順次公開。その他詳細は公式ホームページをご覧ください。

 

微笑みと安らぎの国・ミャンマー

旅の最後はミャンマー屈指の聖地・チャイティヨ山に宿泊、敬虔な人々の祈りにふれる旅

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ヤンゴン

黄金の仏塔が輝くミャンマー最大の都市。1755年に「戦いの終わり」という意味のヤンゴンと名付けられました。現在の街並みはイギリス植民地時代に建設された整然とされたものです。2006年にヤンゴンよりネピドーに遷都しました。

モアナ 南海の歓喜

c57b856f691f0ae0(C)2014 Bruce Posner-Sami van Ingen. Moana (C) 1980 Monica Flaherty-Sami van Ingen. Moana (C) (P)1926 Famous Players-Laski Corp. Renewed 1953 Paramount Pictures Corp.

サモア

モアナ 南海の歓喜

 

Moana

監督:ロバート・フラハティ
出演:サモアの人々
日本公開:2018年

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山彦のように響きを残す、
南海の孤島・サモアの安らかな一時

南太平洋の島国・サモア。畑で耕作をし、背の高いヤシの木に登って実をとり、森で狩りをし、海で漁をする・・・約100年前、人々は豊かな自然の中で、伝統を守って互いに助け合いながらのどかに暮らしていた。

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島に暮らす一家の長男・モアナには、ファアンガセという婚約者がいる。老若男女が集まり、盛大な挙式が行われる。

Date: 1926Location: Samoa In picture: Moana (Ta´avale) and Fa´angase (Fa´angase Su´a-Filo)

本作は1926年に製作された作品で、2014年に映像のデジタル化が行われました。「ドキュメンタリーの父」と呼ばれているロバート・フラハティが監督した作品で、本コラム「旅と映画」ではエスキモーの暮らしをとらえた1922年の作品『極北のナヌーク』を以前ご紹介しました。

ストリーミングの普及やモバイル機器の発達により、様々な映画を外出先などで手軽に見られるようになりました。そんな今だからこそ、一度映画の原点に立ち戻ることに価値が生まれています。

人間社会は約100年前と変わらず人間社会として存在し続けています。その中で、「変わったこと」もあれば「変わらないこと」もある。そのバランスをどう感じとるかによって、それぞれ違った物語を本作は観客の心の中に生み出します。

Date: 1926Location: SamoaIn picture: Fa´angase (Fa´angase Su´a-Filo)

また、本作の製作プロセス、そして被写体との関わり方は「旅」そのものです。監督の娘が1980年にサモアへ訪れて、現地の音・会話・民謡を録音して、もともと無声だった作品に音を加えました。

サモアの人々の人生という旅、フラハティ親子の2世代に渡るサモアへの旅、そして映画自体が今の私たちを目がけて旅をしてきている。時間と距離が複雑に絡み合い、3D・4D映画では再現できない立体感を感じることができます。

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『モアナ 南海の歓喜』は、9月15日(土)より岩波ホールにてロードショーほか全国順次公開(連日、1日1回『極北のナヌーク』も上映)。その他詳細は公式ホームページをご覧ください。