異色の世界遺産:カジュラホ寺院群①

ナマステ!!!西遊インディアです。

今回は、インドの世界遺産の中でも異彩を放つ、カジュラホの寺院遺跡群をご紹介します。

 

カジュラホ最大の寺院:カンダーリヤ・マハーデーヴァ寺院
カジュラホ最大の寺院:カンダーリヤ・マハーデーヴァ寺院

 

■カジュラホの位置と概要

カジュラホはインド中央部のマディヤ・プラデーシュ州の北西部、デリーからは南東に約650kmに位置する町です。規模としては非常に小さな田舎の村、という具合ですが、そのユニークな遺跡群の存在のために世界的に有名です。

 

デリーからカジュラホへ行くには、乾期のシーズン中であれば、国内線が運航されますが、1日1,2便のみの運航です。もし国内線の運航がない・もしくはスケジュールが合わなければデリーから特急列車でジャンシーという街まで行き、そこから車両で約4時間程移動すると、カジュラホに到着します(長い道のりですが…)。

または、バラナシ、アグラ、ジャイプル等からカジュラホ行の列車も運行されていますので、カジュラホのみ単体で行くのではなく、周辺の観光地と一緒に組み合わせて行かれると良いかと思います。

 

 

 

カジュラホの遺跡群は東・西・南の3群に分かれており、そのうち西・南の2群がヒンドゥー教、東群はジャイナ教の寺院が残っています。最も人気があるのはメインとなる大規模な寺院が集中する西群のエリアです。それぞれのエリアは車で5分ほどの距離に位置しています。

 

巨大な寺院の壁面を覆うように施された精緻な彫刻群はまさに圧巻の迫力があり、特に男女の性行為の様子を表現したミトゥナ像と呼ばれるユニークな彫刻を見るため、多くの旅行者が訪れます。

 

 

カジュラホ
一瞬ぎょっとするカジュラホのミトゥナ像

 

これらの寺院は10世紀初頭から12世紀末までの間にこの地で栄えたチャンデーラ朝が建設したものです。チャンデーラ朝は5世紀ごろから北方の遊牧系の民族が定住化・ヒンドゥー教化して古代クシャトリヤの末裔を自称し、各地に王国を建設したラージプート族の一派です。当時は全部で85もの寺院を建設したと言われていますが、現在はそのうちの25の寺院が残されております。

 

現存する寺院の多くは970~1030年の間に建設されたもので、主要なものではヤショヴァルマン王の治世のラクシュマナ寺院ダンガ王の治世のヴィシュワナータ寺院、そしてヴィリダダーラ王の治世の建設であり現存する最大の寺院・カンダーリヤ・マハーデーヴァ寺院などです。また、東群のジャイナ教寺院も同時期に建設・利用されたことが分かっており、当時のカジュラホでヒンドゥー教徒とジャイナ教徒が平和的に併存していたことがわかります。

 

 

寺院群は12世紀後半までは実際の信仰の場として利用されていましたが、13世紀からはデリー・スルタン朝の支配下に入り、その後のイスラム系王朝の支配の下でもヒンドゥー教寺院の破壊が進められ、多くの寺院がそのまま放棄されました。

 

その後、19世紀に英国の測量士がカジュラホを発見するまでは寺院群はジャングルに覆われていました。カジュラホは1986年に世界遺産に登録され、柵の設置や公園内の整備、また街に空港を建設するなど観光地としての整備も進められています。

 

カジュラホ
美しく整備された公園。時期によってはブーゲンビリアが綺麗に咲きます

 

■ミトゥナ像とシャクティ信仰

カジュラホの際立った特徴はミトゥナ像と呼ばれる、男女の性行為の場面を描いた彫刻です。ミトゥナは「性的合一」を指すサンスクリット語で、カジュラホでは2人あるいはそれ以上の男女、また時には動物が交わった像が寺院の壁面に数多く彫刻されています。カジュラホのこの様なユニークな彫刻群はただ単に性行為の場面を描いたものではなく、実はヒンドゥー教のシャクティと呼ばれる独特の信仰の表現によるものです。

 

カンダーリヤ・マハーデーヴァ寺院南壁のミトゥナ像
カンダーリヤ・マハーデーヴァ寺院南壁のミトゥナ像

 

ヒンドゥー教ではシヴァ・ヴィシュヌ・ブラフマーの男性神3柱が主神とされていますが、現在ではブラフマーの人気が低くなり、それに代わって女神信仰がもう一つの主な一派となっています。現在のヒンドゥー教における女神には、もともとはヒンドゥー教由来ではない土着の地母神が多く存在します。ヒンドゥー教はそれらの地母神を男性神の伴侶の女神、またその女神の化身として設定することで、土着の信仰集団をヒンドゥー教に取り込み、勢力を拡大していきました。ヒンドゥー教の主な神々が多くの化身を持っているのも、このような宗教としての発展の歴史に由来しているものです。

 

シャクティとは「」あるいは「性力」と訳されますが、単に性的な力を指すものではなく、もともとは神の内部に宿る神聖なエネルギーを指す概念です。そして、そのシャクティは男性神としては現れず、女性の姿で顕現すると考えられました。つまり、例えばシヴァのシャクティ(神の力)は妻のパールヴァティ、あるいはその化身のドゥルガーやカーリーの姿で現れる、という考えです。

 

そこからヒンドゥー教では、男女が一つとなって初めて完全なものとなるという思想が生じます。顕著な例がシヴァ神とその妻パールヴァティが一体となったというアルダーナリシュヴァラと呼ばれる姿。右半身がシヴァ、左半身がパールヴァティのこの神の姿は、まさに男女の性的合一、完全な状態を表しています。

 

アルダーナリシュヴァラ
アルダーナリシュヴァラ

 

女神信仰はシャクティ派と呼ばれ、各地で様々な女神がシャクティの顕現として信仰されています。現在ではシヴァ派、ヴィシュヌ派に並ぶ勢力となっており、ブラフマー神に代わって新たなトリムルティを形成しているとも言えます。またシャクティ信仰の思想はシヴァ派・ヴィシュヌ派にも影響を与えており、シヴァ、ヴィシュヌのシャクティはそれぞれの妻となる神の姿で顕現すると考えられています。

 

そのようなシャクティ信仰が彫像として具体化する際には、時として特に性的な部分が強調され、非常にエロティックな像として現れます。カジュラホの寺院を装飾するミトゥナ像や天女の像はこのようなシャクティ信仰に基づくものと考えられ、カジュラホの寺院を特徴づけています。

 

 

カジュラホその②へと続きます!

 

 

 

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ジャイプル③ ジャイプルの観光スポット!

ナマステ! 西遊インディアです。

今回は、人気の観光スポット・ジャイプルのみどころを詳しく紹介します。

 

▮アンベール城

 

山上の砦:アンベール城
山上の砦:アンベール城。左奥にはさらに古い都であるジャイガルが見えている。

アンベール城は、1727年にジャイプルの建設が始まるまでアンベール王国の都として利用されていた城。ジャイプル市街から約11㎞北東に位置し、平野部から40mほど標高の高い丘の上に建設され、周囲は堅牢な城壁で囲われています。

 

ここでは、入り口から城内部へ象のタクシーに乗ることができます。当時は象での入場は一部の上流階級にのみに限られていましたが、現在では一般の観光客もマハラジャ気分で象に乗ることができます!人の視点よりはるかに高い像の背からの景色は格別です。

 

象のタクシーに乗ってアンベール城へ
象のタクシーに乗ってアンベール城へ
象の背からの眺め
象の背からの眺め

入り口の広場で像を降り階段を上ると、広場を見下ろす場所にあるのが一般謁見所ディワニ・アームです。貴族向けではなく一般民衆に開かれた謁見所ですが、柱や欄干の細かな装飾の美しさが光ります。

 

一般謁見所(ディワニ・アーム)

 

ここからガネーシャ門をくぐると、王族のエリアとなります。細やかな装飾で彩られた門はアンベールでも最も有名なスポットのひとつ。麓から見上げると堅牢な城壁のイメージが強い城ですが、ガネーシャ門の内側へ足を踏み入れると繊細で豪奢な装飾に彩られた建築が並んでおり、当時の様子を偲ばせます。

 

ガネーシャ門
ガネーシャ門

 

鏡による装飾が美しい「鏡の間」
鏡による装飾が美しい来賓謁見所ディワニ・カースは、「鏡の間」としても知られます。

 

最奥部に位置するハーレム。壁面にはいたるところにフレスコ画の装飾が施されています。
最奥部に位置するハーレム。壁面にはいたるところにフレスコ画の装飾が施されています。

▮シティ・パレス

 

シティ・パレス 中央の建物に旗が掲げられている
中央の建物(チャンドラ・マハル)に、王族が滞在していることを示す旗が掲げられている

シティ・パレスは、1733年に完成したジャイプルの宮殿。現在でも一部で王族が暮らしており、王族が滞在しているときには、王宮にそれを示す旗が掲げられています。

 

まず中央に位置するのが貴賓謁見所のディワニ・カース。謁見の間には銀製の巨大な甕が置かれており、これは1902年に当時の王がイギリス国王へ謁見に向かう際、ガンジス川の水をこの甕に入れて運び、船の上で沐浴をしたものです、高さ1.6mのこの甕は世界最大の銀製品としても知られています。

 

シティ・パレスの一般謁見所と銀の壺
シティ・パレスの貴賓謁見所と銀の甕

このディワニ・カースの広場の周りに各施設が隣接しており、西側にはピタム・ニワス・チョークと呼ばれる中庭が広がっています。この回廊部分にクジャクの扉をはじめとする4つの装飾扉が設置されています。

 

ピタム・ニワス・ チョウクのクジャクの扉 上部の装飾
ピタム・ニワス・ チョウクのクジャクの扉 上部の装飾

また、迎賓館ムバラク・マハル、一般謁見所ディワニ・アームは現在はどちらも展示室として公開されています。残念ながら施設内の写真撮影は禁止されていますが、当時の王族が身に着けた豪奢な衣服やテキスタイル、またジャイプルの諸王の肖像画等を見学することができます。

 

 

ジャンタル・マンタル天文台

ジャイプルの街を建設したジャイ・シン2世は天文学に造詣が深く、インド各地に天文台を建設しました。ジャイプルのほかにもデリー、ウジャイン、バラナシ、マトゥラーと計5箇所に天文台が建造されましたが、ジャイプルのものが最大規模を誇ります。

 

敷地内には様々な天体観測機器が並んでいますが、最大の機器がサムラート・ヤントラと呼ばれる日時計です。基本的に日時計は高さが高くなるほど計測精度が上がるものですが、高さ27.4mのこの日時計は2秒単位の時間を計測できます。

 

ジャンタル・マンタルの巨大な日時計:サムラート・ヤントラ
ジャンタル・マンタルの巨大な日時計:サムラート・ヤントラ

インドでは占星術が非常に重視されていたため、正確な時刻や天体の位置を観測するために各地にこのような天文台が作られました。ジャイプルではラーシ・ヴァラヤ・ヤントラと呼ばれる観測器が12星座のそれぞれの方向に向かって設置されており、併設された機器と併用することで非常に正確な星座の観測を可能にしていました。

 

ラーシ・ヴァラヤ・ヤントラ
12星座を観測するラーシ・ヴァラヤ・ヤントラ。同様の小型の機器が12基並んでいます。

ジャイプルのジャンタル・マンタルには全部で16の観測儀があり、それぞれ時刻や天体の位置、日の出と日没の方向、赤道座標…など様々な観測を担っており、またそれぞれの観測結果を補正データとすることでより正確な観測が可能でした。マハラジャはこれらの機器をもとに暦の製作や天候予測を行い、政治や祭儀に活用していたといわれています。

 

天体の赤道座標と地平座標をはかるジャイ・プラカーシュ・ヤントラ
天体の赤道座標と地平座標をはかるジャイ・プラカーシュ・ヤントラ

ジャンタル・マンタルは1901年に修復が行われ、現在も正確に観測がつづけられています。イギリスの統治が始まってから欧米由来の高性能な観測機器が持ち込まれたためにその後の拡大がされることはありませんでしたが、ジャイプルの天文台は現在でも十分に機能しており、実際にその様子を見学することができる数少ない場所です。

 

ラグ・サムナート・ヤントラ
小型の日時計であるラグ・サムナート・ヤントラでは、影から実際の時刻を確認することができます。

 

 

▮風の宮殿 ハワー・マハル

1799年にジャイ・シン2世の孫:プラテープ・シンによって建設。シティ・パレスのそばの大通りに面して作られており、宮廷の女性たちが外から姿を見られずに街の様子を見られるように窓がつけられています。どの窓からも風が入るような設計から、風の宮殿と称されます。

 

風の宮殿:ハワー・マハル
風の宮殿:ハワー・マハル

前面からの姿が非常に印象的な建築ですが、背後へ回ってみると意外と奥行きの無い建物であることがわかります。出窓部分には鮮やかなステンドグラスが施されており、町の様子を一望することができます。また反対側には上述のシティ・パレスやジャンタル・マンタル、さらにアンベール城へと続く岩山まで見通すことができ、市内の絶好の展望スポットにもなっています。

 

背面から見た風の宮殿
背面から見た風の宮殿

 

出窓部分のステンドグラス
出窓部分のステンドグラス

また、ジャイプルは宝石や彫金、象牙細工、絨毯、陶器、手織物などの手工業が盛んなことでも知られています。特にブロックプリントと呼ばれる独特な手法で装飾される更紗は世界的に評価が高く、これを買うためにジャイプルを訪れる人も少なくありません。

 

ジャイプルの手芸店。美しい糸が一面に並びます。
ジャイプルの手芸店。美しい糸が一面に並びます。

 

ブロックプリントについてはこちらの記事で特集しています!ぜひ併せてご覧ください。

■ジャイプル ブロックプリント編

 

 

 

Text by Okada

 

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ヴィシュヌの化身③ダイティヤ族の神話 ヴァラーハ、ナラシンハ、ヴァーマナ

ヴィシュヌ神の化身を紹介する3回目、今回は3・4・5番目の化身にまつわる神話をご紹介します。

 

前回>>> ヴィシュヌの化身② クールマ(亀)と乳海攪拌 日食と月食のはじまり

 

ヴィシュヌ神話の中にはそれぞれの物語が繋がっている部分が多くありますが、化身に関わる神話では、特にその3~5番目(ヴァラーハ、ナラシンハ、ヴァーマナ)の物語が近い位置にあります。ここではヴィシュヌに敵対する相手がダイティヤ族という同じ一つの一族であり、それによって3つの神話がひとつなぎになっています。

 

3つの神話は全て聖仙カシュヤパとその妻ディティの子孫・ダイティヤ族にまつわる神話です。聖仙カシュヤパは7聖仙の一人であり、ブラフマーが生んだ世界の創造神の一人・プラジャーパティより23人の妻を与えられ多くの子孫を残しています。カシュヤパと23人の妻、そしてその子孫たちは神や魔人として様々な神話に登場し重要な役割を果たしていくことになっていきます。今回紹介する他にも、以前の記事で紹介したヴィシュヌの乗るガルーダ、乳海攪拌や洪水神話で登場した竜王ヴァースキなども聖仙カシュヤパの子孫にあたります。

 

3.ヴァラーハ(猪)

 

カシュヤパとディティの子である魔人ヒラニヤークシャは大地を海の底へ沈めてしまいます。瞑想する場がないことを嘆いたブラフマーの息子・スヴァヤムヴァがそれをブラフマーに訴え、ブラフマーはヴィシュヌにそれを訴えました。するとヴィシュヌの鼻孔から1匹の猪が現れ、どんどん大きくなって海に飛び込み、その牙で大地を持ち上げます。ヒラニヤークシャはそれを妨害しようとしますが、逆にヴァラーハに殺されてしまいました。

 

牙で大地を持ち上げるヴァラーハ
牙で大地を持ち上げるヴァラーハ (出典:長谷川 明  著「インド神話入門 (とんぼの本)」新潮社)

ヴァラーハは単純に猪の姿、又は猪の頭をした人間の姿で描かれ、牙で大地を持ち上げるシーンは人気があり、各地にレリーフが残されています。伝承自体は古いもので、アーリア人以前の伝承であると考えられています。

 

ヴァラーハのレリーフ(マハーバリプラム、ヴァラーハ・マンダパ)
ヴァラーハのレリーフ(マハーバリプラム、ヴァラーハ・マンダパ)
猪の姿のヴァラーハ(カジュラホ)
猪の姿のヴァラーハ(カジュラホ)

 

4.ナラシンハ(人獅子)

ヒラニヤークシャの兄弟であるヒラニヤカシプは、ヴィシュヌの化身であるヴァラーハに殺された兄弟の無念を晴らすべく苦行に励み、ブラフマーに力を授かります。その力は「神にもアスラ(魔人)にも人間にも獣にも殺されない」というものであり、力を手にしたヒラニヤカシプは天上・地上・地下の三界を支配します。

 

しかしその子・プラフラーダは熱心なヴィシュヌ信者でした。兄弟の仇であるヴィシュヌを信仰することを止めさせるべく、プラフラーダを厳しく叱ったヒラニヤカシプが「ヴィシュヌは遍く存在するというが、それならばこの柱の中にもいるというのか」と近くの柱を殴ると、音を立てて崩れた柱から人獅子の姿でヴィシュヌが現れ、その爪でヒラニヤカシプを引き裂いて殺します。ヴィシュヌはヒラニヤカシプの与えられた力に妨げられないよう、神でも魔人でも人でも獣でもない、半身がライオンで半身が人間の姿を化身として現れたのでした。

 

柱から現れ、膝の上でヒラニヤカシプを引き裂くナラシンハ
柱から現れ、膝の上でヒラニヤカシプを引き裂くナラシンハ (出典:長谷川 明  著「インド神話入門 (とんぼの本)」新潮社)

ナラシンハ神話は独立の一派を築くほどに発展し、その中でヒラニヤカシプに与えられた力も上記に加え「昼にも夜にも、地上でも空中でも、どんな武器でも殺されない」などの文言が加わり、それに対応するようにヴィシュヌは夕方に・ヒラニヤカシプの膝の上で・素手でヒラニヤカシプを殺した、というような表現が加わっています。

 

近隣国でも人気の高いナラシンハ
近隣国でも人気の高いナラシンハ (出典:長谷川 明  著「インド神話入門 (とんぼの本)」新潮社)

スリランカやタイで信仰されるノラシンガはナラシンハの派生形と考えられます。ナラシンハ自体はインドに生息するインドライオンへの土着信仰に由来すると考えられており、北方の中国、東方の東南アジアを経由して日本の獅子舞のルーツの一端を担うという説も提唱されています。

 

5.ヴァーマナ(矮人)

バリはプラフラーダの孫、つまりヒラニヤカシプの曾孫にあたります。バリの父ヴィローチャナは天界でのインドラとの闘いで命を落としたため、バリはプラフラーダに育てられました。ヴィシュヌの加護を受けるアスラの王プラフラーダの孫としてバリはもともと地下世界を治めていましたが、父の仇をとるために天界へ攻め込み、インドラ率いる神々の群を退けて追い出し、ついに三界を支配するに至ります。

 

バリの治世は優れており、三界は光に満ち溢れ誰も飢えることがないと呼ばれるほどでした。しかし天界を追放された神々を哀れんだ女神アディティはヴィシュヌに祈願し、それを聞き入れたヴィシュヌはアディティの胎内へ入り、その夫である聖仙カシュヤパとの間の息子:ヴァーマナとして顕現します。

 

矮人ヴァーマナの化身
矮人ヴァーマナの化身 (出典:長谷川 明  著「インド神話入門 (とんぼの本)」新潮社)

そしてバリを讃える祭りでバリが民衆に施しを与えている場で、ヴァーマナは「自分の3歩分の土地を与えてほしい」とバリに懇願します。バリは師である聖仙ウシャナーの忠告でヴァーマナがヴィシュヌの化身であることに気づきますが、「一度了承した約束を反故にすることはダルマに則っていない」としてヴァーマナの願いを了承します。するとヴァーマナはどんどん大きくなり、一歩目で地上を、二歩目で天界を跨いでしまいました。

 

バリは神々を天界から追い出した自らの傲慢を省みて、自らヴィシュヌに頭を差し出し自分を踏むように伝えます。ヴィシュヌはバリの徳の高さに感服し、またバリがヴァーマナとして顕現した自分の親族でもあることに免じてバリを許し、三歩目でバリを地下世界へ踏み沈め、その支配を任せました。

 

バリはアスラの中でも最高位の評価をされており、マハー(偉大なる)バリとも呼ばれます。南インドのタミル・ナードゥ州ではその名を冠したマハーバリプラムという町がある他、ケララ州では地下に閉じ込められたバリが年に1度地上の民に会いに来る日としてオーナムという祭りを開催しており、これはケララ州最大の祭りとして盛大に祝われています。

 

マハーバリプラムのファイブ・ラタ寺院
マハーバリプラムのファイブ・ラタ寺院

以上、今回はヴィシュヌの化身とダイティヤ族に関わる神話を紹介してきました。ヒンドゥー教神話では神々とアスラが世界の支配を巡って戦いを繰り広げるものが非常に多く、今回紹介した神話もそのうちの一つです。しかしアスラが常に絶対悪として描かれるわけではなく、登場人物がみな個性的なキャラクターを持っていることもヒンドゥー教神話の大きな魅力の一つです。

 

Text by Okada

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ヴィシュヌの化身② クールマ(亀)と乳海攪拌 日食と月食のはじまり

みなさまこんにちは。
今回もヴィシュヌ神の10の化身とそれにまつわる神話等について、引き続きご紹介いたします。今回は、②クールマ(亀)です。

前回の記事>> ヴィシュヌ神の化身①マツヤ

 

ヴィシュヌの化身に関する神話の中でも重要な神話に「乳海攪拌」の神話があります。いわゆるヒンドゥー教における天地創造神話ですが、神々と魔人アスラがその所有を巡って争った不死の霊薬「アムリタ」が登場する神話であり、また女神・ラクシュミーが生まれヴィシュヌの妻となったりと、ヒンドゥー教神話のなかでも様々なポイントが盛りだくさんのストーリーです。もちろんヴィシュヌも登場し、今回はクールマ(亀)として活躍します。

 

2)クールマ(亀)

亀(クールマ)の化身像
亀(クールマ)の化身像 (出典:長谷川 明 著「インド神話入門 (とんぼの本)」新潮社)

乳海攪拌のお話

 

不死の薬・アムリタを得るために神々がヴィシュヌに相談すると、大海をマンダラ山を棒にしてかき混ぜればよいと教えられます。神々はアスラ(魔人)たちと仲良く協力して、引き抜いたマンダラ山に蛇王・ヴァースキを巻き付け、片側を神々、反対側からアスラ達がそれぞれ引っ張ることで海を攪拌します。あまりに強く攪拌したために海の底に穴が開き山が沈みそうになってしまいます。そこでヴィシュヌは亀(クールマ)に姿を変え、マンダラ山の軸受けとなって海の底を守りました。

 

乳海攪拌のシーン
(出典:長谷川 明 著「インド神話入門 (とんぼの本)」新潮社)

 ▲乳海攪拌のシーン。軸となるマンダラ山を支える土台として亀(クールマ)が描かれています。右側に神々、左側がアスラが位置し、蛇王ヴァースキを引っ張りながら大海を攪拌しています。

 

その後攪拌が進み、あらゆる海中生物が死に、マンダラ山の樹木は燃えてしまいます。生き物たちの残骸、山火事の後の灰が大海に流れ出て混ざり合い、海は乳色に変わっていきました。そして、その中から太陽と月、後にヴイシュヌの妻となるラクシュミー等、次々と生まれました。
(ラクシュミーは、その美しさから多くの神々が求めましたが、ラクシュミーが自らヴィシュヌを選び、夫婦となりました)。

 

富と幸運と豊穣の女神・ラクシュミー  (出典:長谷川 明 著「インド神話入門 (とんぼの本)」新潮社)

ようやく最後に、医学の神タスヴアンタリがアムリタの入った壷を持って現れます。
しかしながらアムリタの所有権をめぐり、神々とアスラ(魔人)たちの間で戦いが起きます。大体の分は戦いの最中に神々が獲得し飲み込みましたが、アスラの一人・ラーフが神々に化けて、アムリタを飲みはじめてしまいます。

 

その様子を見ていた太陽と月は、急いでヴイシュヌの所へ行って、知らせます。ラーフが飲み込んだアムリタは喉まで達していましたが、ヴィシュヌは武器の円盤で攻撃し、その首を切り落としました。切り落とされた首は、空彼方宇宙へと飛んでいきました。

 

頭だけ不死となってしまったラーフは、それ以来、告げ口をした太陽と月を恨むようになり、今でも太陽と月を追いかけて飲み込みます。ですがラーフは首までしかないので太陽と月はすぐに首から出てきます。これがヒンドゥー神話的日食と月食のはじまりです。

 


 

ちなみにアムリタの入った壺は神々が所有・安置していましたが、ヴィシュヌの乗る神鳥ガルーダが母親の呪いを解くために奪うエピソードがあったりと、このアムリタを巡る神話はいくつか存在します。

 

この「乳海攪拌」のお話は、東南アジアのクメール王朝の遺跡(アンコールワット等)でも、よくレリーフにて表現されています。その他、タイのバンコク・スワンナプーム国際空港内で蛇を引っ張り合う大きなモニュメントをご覧になったことがある方は多いのではないでしょうか? まさに攪拌の最中を表現しているものです。

 

乳海撹拌(アンコールワット)
乳海撹拌のシーン(アンコールワット)

「乳海撹拌」のお話でいろいろ捕捉します。

まず、混ぜる道具にされてしまったマンダラ山ですが、もともとヴィシュヌ神の住む山であり、インドラ神の住むメール(またはスメール)山の付近にある(方角や位置には諸説あり)とされています。メール山はインドラ神のみならず神々の住む地として考えられ、後に仏教に伝わり世界の中心を表す須弥山となりました。

 

「アムリタ」ですが、中国へ伝わった仏教ではアムリタは「甘露」と漢訳され、須弥山ではアムリタの雨が降るためにそこに住む天(ヒンドゥー教由来の仏教の神的存在)は不死であるとされています。

 

また、蛇王ヴァースキが綱として使われることの苦しさに耐えかねて体内の毒を吐き出してしまい、あまりに強い毒で世界が滅びてしまいそうになったためにシヴァがその毒を飲み干し、そのためにシヴァの肌は毒で青色になった、というエピソードもこの神話に含まれています。

 

シヴァ
毒を飲んだシヴァは、ニーラカンタ(青黒い頸)と呼ばれるように(出典:長谷川 明 著「インド神話入門 (とんぼの本)」新潮社)

 

なお、実はこのお話も元々は他の独立した亀の神の神話でしたが、ヒンドゥー教の発展の中でヴィシュヌの化身によるものとしてヒンドゥー教の中に取り込まれていったものです。マンダラ山を支えた神は、インド叙事詩『マハーバーラタ』ではアクーパーラという別の独立した存在で、ヴィシュヌの化身ではありませんでした。

 

ヴィシュヌが化身として神と神話、そしてその功績と人気を吸収していったことがわかります。

 

 

参考:インド神話入門(長谷川明著・新潮社)

Text by Okada, Hashimoto

 

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ヴィシュヌの化身① マツヤ(魚)と大洪水神話

ナマステ!
前回、ヒンドゥー教3大神のひとり・ヴィシュヌ神についてご紹介しました。
世界維持神・ヴィシュヌ

ヴィシュヌ神は、古代インドの聖典リグ・ヴェーダではインドラの協力者として登場する程度の存在でしたが、ヒンドゥー教の成立・発展の過程で各地の神々を化身として取り込み、主神の一つとなりました。ヴィシュヌ神の化身の数はヴィシュヌ派内でもいくつか考え方がありますが、もっとも一般的な主流の考えでは全部で10の化身が存在するとされています。

 

■ヴィシュヌの10の化身

1.マツヤ(魚)
2.クールマ(亀)
3.ヴァラーハ(猪)
4.ナラシンハ(人獅子)
5.ヴァーマナ(矮人)
6.パラシュラーマ
7.クリシュナ
8.ラーマ
9.ブッダ
10.カルキ

 

今回より、10の化身とそれにまつわる物語を何回かに分けてご紹介していきます。また、ヒンドゥー教の神話に登場する様々な用語や登場人物についても解説していきます。

 

1)マツヤ(魚)

大洪水を予言した魚の姿。次のような神話が伝えられています。

 


聖仙サティヤヴラタが河で祭祀を行っていると、一匹の魚が手のひらに飛び乗った。サティヤヴラタが魚を河へ戻そうとすると、魚は他の大きな魚に食べられないように保護してほしいと言う。サティヤヴラタは魚を連れて帰り壺に入れて飼い始めたものの、日ごとにどんどん大きくなる魚をとうとう飼いきれなくなり、海へと戻そうとする。

 

魚は「7日後に大洪水が来る。私が船を用意するから、すべての生物と植物の種、7人の聖仙を集めて待て」と告げてサティヤヴラタと別れるが、7日後にサティヤヴラタが指示通りに生物を集めて待つと予言通りに大洪水がやってきた。金色の巨大な体で現れた魚はサティヤヴラタ達を乗せた船に大蛇・ヴァースキを結び付け、ヒマラヤまで船を引っ張り助けた。

 


魚(マツヤ)の化身像
魚(マツヤ)の化身像(出典:長谷川 明 著「インド神話入門 (とんぼの本)」新潮社)
魚(マツヤ)の化身
魚(マツヤ)の化身 (出典:長谷川 明 著「インド神話入門 (とんぼの本)」新潮社)

巨大な魚として登場するヴィシュヌは、ノアの箱舟に通ずるようなこの大洪水神話において、聖仙を救う存在として描かれます。ここで登場するヴァースキは蛇王(ナーガ・ラージャ)のひとつ。神話上ではヴィシュヌの乗るガルーダの母親の姉妹・カドゥルーが1000のナーガ(竜/蛇)を生み、ヴァースキはそのうちの一つ、ガルーダとは従兄弟に当たる存在です。蛇王ヴァースキは次に紹介するクールマの神話にも登場します。

 

また、聖仙はサンスクリット語では「リシ」と呼ばれ、厳しい修行によって時に神々をも凌駕するほどの力を持つ仙人を指します。神々の世界と人間の世界の中間の存在として、ヒンドゥー教の神話では重要な役割を与えられています。

ヴィシュヌによって全人類を滅ぼした大洪水から助けられた聖仙サティヤヴラタは、洪水後に人類の始祖となり、「マヌ」という称号を与えられたとされます。

 

ノアの箱舟で知られるように、大洪水神話はメソポタミア・ギリシア世界を始め、アジア沿海部や太平洋沿岸の南北アメリカ大陸にも類例のある神話です。メソポタミアをその起源とする説もありますが、これはメソポタミアでの神話は文字史料として残されている物語が多いために研究が進んでいるだけだという指摘もあります。実際の起源がどこにあるのかに関しては史料に乏しく、憶測の域を出ません。

 

アララト山
トルコ東端に位置するアララト山。ノアの箱舟が漂着した地とされています。

 

紀元前1500年頃に中央アジアからインドへ移住したアーリア人ですが、その際に集団の一部はメソポタミアへ向かっています。世界各地に点在する洪水神話の中でもメソポタミアとインドのストーリーは共通性が高いことが指摘されており、中央アジアを故地とする両者はある時期まで共通した神話のストーリーを持っていたと考えられます。

 

Text by Okada

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ヒンドゥー教の神々 世界維持神・ヴィシュヌ

ナマステ、西遊インディアです。

インドでは全人口の約80%がヒンドゥー教を信仰しています。ヒンドゥー教はインド国民の暮らし、社会に強烈に根付いており、ヒンドゥー教への知識と理解はインド渡航前にある程度頭に入れておいた方がよい項目の一つです。
今回はそのヒンドゥー教において、シヴァ、ブラフマーと並びヒンドゥー教の三位一体(トリムルティ)の一端を担うヴィシュヌ神についてお話いたします。シヴァ派に次ぐ巨大な信仰勢力となっており、インドを代表する神の一つです。世界の維持神として知られます。

 

ヴィシュヌ・ファミリー
ヴィシュヌ・ファミリー(左下からガルーダ、ヴィシュヌ、臍から生えた蓮に座るブラフマー、ラクシュミー)とナーラダ聖仙(右) (出典:長谷川 明  著「インド神話入門 (とんぼの本)」新潮社)

ヴィシュヌの原型はリグ・ヴェーダの段階で見られ、既にこの時に独立したヴィシュヌを讃える独立した賛歌が5つ編まれています。しかし立ち位置としては雷神インドラの協力者に過ぎない存在でした。

 

しかし、ヒンドゥー教の成立と発展の過程でヴィシュヌはシヴァと同様に各地の土着信仰を取り込んで勢力を拡大していきます。ヴィシュヌ信仰の最大の特徴は化身思想で、各地の神々の神話に対し、それは実はヴィシュヌの化身であった、とすることで各地の神々の物語を取り込んでいきました。この化身を指すサンスクリット語が「アヴァターラ」です。現代インターネット上での自分の分身となるキャラクターを意味する「アバター」の由来となっています。

 

 

■ヴィシュヌの姿・持ち物と家族

ヴィシュヌは4つの手にそれぞれ円盤状の武器チャクラ、力と権力の象徴としての棍棒、笛として使われるほら貝・シャンカ、ヒンドゥー教のシンボルでもある蓮華を持ちます。シャンカはほら貝製の笛で、角笛のように戦争の合図などで使われたものですが、同時に水や女性を象徴するとされ、ヴィシュヌのシンボルの一つとなっています。彫刻や彫金で装飾された美しいシャンカは、シヴァが持つ両面太鼓・ダマルとともに土産物屋でもよく見ることのできる楽器の一つです。

 

(動画:ガンジス川のアールティでシャンカを吹く僧)

 

絵画や彫刻では、9つの頭を持つ蛇・竜王アナンダに寝そべるシーンがよく描かれます。ヴィシュヌの臍からは蓮が伸びており、その花の先からブラフマーが生まれている場面です。ヒンドゥー教のトリムルティの考え方では世界の創造者はブラフマーですが、ヴィシュヌ派の神話ではブラフマーはヴィシュヌから生まれたものであり、ヴィシュヌがより偉大な存在であるとされています。逆にブラフマー派の神話では同様の場面でブラフマーの臍からヴィシュヌが生まれたとするものもあります。

 

アナンダに横たわり原初の海を漂うヴィシュヌ
アナンダに横たわり原初の海を漂うヴィシュヌ。臍から伸びた蓮からはブラフマーが生まれている。(エローラ石窟寺院)

 

妻のラクシュミーは富と幸運の女神であり、日本では吉祥天として日本仏教に取り入れられています。10月末から11月初めに行われるヒンドゥー教の祭典・ディワリはもともとはランカ島から凱旋するラーマ王子を祝う祭りに由来しますが、現代ではラクシュミーを祀る新年の祭りとして、北インドを中心に盛大に祝われています。モチーフとしてはサラスヴァティー、ガネーシャと共に描かれる「ディワリ・ラクシュミー」、2頭の像に水をかけられている「ガジャ・ラクシュミー」という吉祥図が良く見られます。

 

ガジャ・ラクシュミー像(エローラ)
ガジャ・ラクシュミー像(エローラ石窟寺院)。中心のラクシュミーを挟んで両側から象が水をかけている。

 

ヴィシュヌが乗る神鳥ガルーダは、インド国内のみならずインドネシアやミャンマー、タイなどでも信仰され、日本仏教でも迦楼羅天として八部衆の一つとして登場します。ガルーダは母にかけられた呪いを解くために神々の天界へ攻め入って不死の薬・アムリタを手に入れ、風神ヴァーユや神々の王インドラを退け、ヴィシュヌと共に帰還して母の呪いを解く物語で知られています。猛禽、又は人間の体に猛禽の頭と羽をもつ姿をとり、ヴィシュヌの下方、またはヴィシュヌを乗せて飛ぶ姿で描かれます。インドネシアやタイでは国章に用いられており、非常に人気のある神の一つです。

 

ヴィシュヌ(上)を載せて飛ぶガルーダ(下)。(エローラ)
ヴィシュヌ(上)を載せて飛ぶガルーダ(下)。右側に翼の意匠が見える(エローラ)

 

先にも述べました通り、ヴィシュヌ信仰の最大の特徴は化身思想です。ヴィシュヌは世の中の正義が衰え、不正義がはびこる時、様々な化身の形で世の中に現れて正義を回復します。ヴィシュヌ神の10の化身については、また別の記事にて紹介します。

 

Text by Okada

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ケーララ州の魅力② タッテカッド鳥類保護区 

ナマステ!
西遊インディアです。

ケーララ州の魅力を続々ご紹介! 第2弾は「タッテカッド(Thattekkad)」です。
タッテカッドはコーチン空港から約50km、車で約2時間ほど。
このエリアは生息地の多様性と特有の地形のおかげで、さまざまな動植物が生息しており、特に鳥類に関しては西ガートの固有種が多く見られる場所です!

 

実際に2020年2月にタッテカッドへバードウォッチングに行きましたので、その様子をご案内いたします。

 

タッテカッド鳥類保護区
西ガーツ山脈の麓、ペリヤール川の北に位置している。面積は25㎢。1983年、ケララで最初の鳥類保護区とされた。最も有名な鳥類学者の一人であるサリム・アリは同年、このエリアを調査し、インド半島で最も豊かな鳥の生息地と説明した。保護区では34種の哺乳類、270種の鳥が確認されている。このエリアのベストシーズンは10月から3月です。

 

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サリームアリバードトレイル 入り口
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ガイドとともに出発!

平坦な道のりで道も整備されており、問題はないのですが、枝が出ているところもあるので、よく気を付け進んでいきます。

 

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インドオオリス

入って少しすると、インドオオリス (Indian giant squirrel) に出会いました!
とても大きく、頭から尻尾の先までで1メートルほど。尻尾が重そうに見えましたが、流石リスですね。機敏に木を登っていました。

 

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パラダイスフライキャッチャー

こちらは、パラダイスフライキャッチャー (Paradise flycatcher) のオス。
尾羽が長いのがオスの特徴です。

 

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セイロンガマグチヨタカ

セイロンガマグチヨタカ(Sri Lanka frogmouth)は固有種ではないですが、生息地は西ガーツとスリランカだけ。なお夜行性のため、日中見つけるのは難しいのですが、ガイドのShyamさんは素早く見つけてくれました!
英語でFrogmouthというように、カエルみたいな顔をしています。もっと近くで見たかったのですが、叶わず…またリベンジしたいです!

写真は取れませんでしたが、約1時間の散策中、西ガーツで一番大きいキツツキ(White-bellied woodpecker)、パラダイスフライキャッチャー (Paradise flycatcher) メス、カワセミ(Kingfisher)も観察できました。

 

翌日の早朝、車にてウルランタニ(Urulanthanni )へ。
こちらは保護区ではないのですが、固有種が多くみられる特別なエリアでとのことです。7時に到着し、散策を開始しました。

 

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この開けたエリアに、40分ほどの滞在しましたが、たくさんの鳥を観察しました。固有種としてはミドリワカケインコ (Malabar parakeet)、マラバルバーベット (Malabar Barbet)、ヒノドヒヨドリ (Flame-throated bulbul) に出会えました。

 

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ミドリワカケインコ (Malabar parakeet)
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マラバルバーベット (Malabar Barbet)
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ヒノドヒヨドリ (Flame-throated bulbul)
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ヒイロサンショウクイ (Orange minivet) メス
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ヒイロサンショウクイ (Orange minivet) オス

この他、キゴシタイヨウチョウ (Crimson sunbird)、クロオウチュウ(Drongo)なども観察しました。

タッテカッド鳥類保護区のサリームアリバードトレイルもウルランタニも、滞在時間は短かったのですが、それでもいろいろな種類の鳥を観察することができました。固有種も多く確認でき、バードウォッチャーなら心も躍るエリア間違いなしです。

なお、両エリアともに、木が高いため、鳥を観測できる位置も高く、カメラは超望遠レンズが必須です。

 

コーチンからタッテカッドは約2時間で移動できるので、デリーから1泊2日でのバードウォッチングツアーも可能です。
是非お気軽にご相談ください。

先日紹介した、アレッピーのハウスボートツアーとの組み合わせも可能です!

 

 

 

Text : Saiyu India

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インドの口琴:モールシン!

ナマステ!
前回の音楽ネタに関連して、今回は一つの楽器を紹介します。

インドの口琴・モールシンです!

 

 

 

モールシンと呼ばれるこの楽器、日本語では口琴と呼ばれますが、珍しい楽器のためあまり一般的ではありません。楽器を歯に押し当てて中央の弁を指ではじき、その振動を口の中で共鳴させて音を出すという、なんとも不思議な楽器です。

 

日本では江戸時代に江戸で大流行したという記録が残されていますが、現在ではほとんど知られていません。北海道ではアイヌ民族の竹製口琴・ムックリが知られています。通常日本で口琴の音を耳にする機会はあまりありませんが、テレビ番組の効果音などで稀に用いられることもあり、テレビアニメ「ド根性ガエル」の主題歌の中でもビヨーンというその独特の音が使われています。

 

さてこの口琴、ルーツは非常に古く、つい昨年中国で4000年前の骨製の口琴が出土し最古のものと考えられています。日本でも埼玉県で平安時代の金属製口琴が出土しており、金属製の口琴としては世界最古級のものと考えられます。

 

 

埼玉県さいたま市 氷川神社東遺跡出土の平安時代の口琴
埼玉県さいたま市 氷川神社東遺跡出土の平安時代の口琴(画像出典:さいたま市教育委員会)

口琴は東は日本から西はイタリアのシチリア島まで、ユーラシア大陸の多くの地域に存在しており、中央アジアからシベリア、またインド・パキスタン地域で現在でも広く演奏されています。その中でも音楽的に最も発展しているのがインドの口琴・モールシンです。

 

世界の様々な口琴左からロシア、トルクメニスタン、タジキスタン、日本(アイヌのムックリ)
世界の様々な口琴:左からロシア、トルクメニスタン、タジキスタン、日本(アイヌのムックリ)

 

多くの地域に分布する口琴ですが、インド、また中央アジアやシベリアの一部を除いては伝統的な楽器として演奏がされている場所は少なくなってしまいました。中央アジアやシベリアにおいては、ほとんどの場合単純に音楽的というよりは宗教的な用具として用いられており、多くの場合は口琴単体で演奏されています。対して、インドの場合モールシンはリズム楽器として他の楽器とともに演奏され、非常に独特な使われ方をしています。

 

インドではラジャスタン地方と南インドの楽器として知られ、ラジャスタンのものはモルチャン、南インドのものはモールシンと呼ばれます。南インド古典音楽の中で用いられるものが特に有名です。インドは南北で音楽の伝統も異なり、南インド音楽は複雑なリズム体系がその大きな特徴の一つです。両面太鼓のムリタンガムや、打楽器として調音された素焼きの壺太鼓・ガタムなどとあわせ、複雑なパズルのようなリズム体系の中でソロの演奏を回して行きます。最後に全員でリズムをあわせての演奏は、まさにパズルのピースがはまったような気持ちよさ!

 

現代的な音楽の中でこのように口琴が他の楽器とあわせて演奏されることはありますが、伝統音楽の中でこれだけリズムや奏法が確立している口琴はインドのモールシンだけかもしれません。

 

なかなか現物を見る機会はありませんが、お土産屋などではごく稀に売っていることもありますので、珍しいお土産として買ってみるのも面白いかもしれません。

 

Text by Okada

 

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北インド古典音楽

近年、インド映画などを通して耳にする機会も多くなったインド音楽。中でも古典音楽はインド国外でも愛好家が多く、日本でも多くのインド音楽イベントがあり、またプロの日本人奏者が活躍しています。

 

インド古典音楽は主に北インドのヒンドゥスターニー音楽と南インドのカルナーティック音楽に分かれますが、今回の記事では主に北インド古典音楽について紹介していきます。

 

 

ハルモニウム(左)とドーラク(両面太鼓、右)の演奏(ラジャスタン)
ハルモニウム(手漕ぎオルガン、左)とドーラク(両面太鼓、右)の演奏 (ラジャスタンのホテルにて)

 

■北インド古典音楽の成立

いわゆる「インド古典音楽」の成立は、インド各地で継承されてきた様々な芸能を取り入れて発展させた16世紀のムガル帝国の時代でした。インド各地、またペルシア世界や中央アジア世界との関係も深かったムガル帝国では、各地からの客人と音楽を共有するため、宗教的・言語的に異なる相手にも理解されやすいように宮廷音楽として文化が開いていきました。そのためインド古典音楽では明確な歌詞がうたわれる部分は少なく、「あぁ~」と声を伸ばしたり、音階やリズムを口ずさんで歌い上げたりするものがほとんどとなっており、インド音楽の大きな特徴となっています。

 

土地や宗教、民族によっても大きくバリエーションのあるインド音楽ですが、16世紀のムガル帝国の宮廷音楽を引き継いだ北インドの古典音楽はもともと演劇に付随するもので、音楽として単体で楽しまれるものというよりは演劇とセットで考えられました。現在では音楽単体でも楽しまれるようになり、インド国内外へ大きく広がりを見せています。

 

■北インド古典音楽の特徴

インド音楽のもっとも特徴的なものは「ラーガ」と呼ばれる概念の存在です。西洋音楽に対応して音階(スケール)、あるいは旋法(モード)として捉えられることがありますが、実際のラーガはもっと多くの要素を含んでおり、インド音楽の懐の深さを生んでいると言えます。

 

実際のラーガはその一つ一つが、音階・旋法に定められるような音の上下行や、一つ一つの音の扱い方や特徴的な旋律(テーマ)・音の運びなどに加え、そのラーガで表現すべき感情、そのラーガを演奏する時間帯・季節などを要素として持っています。インド音楽には数千のラーガが存在すると言われますが、正確な数は誰にも分りません。

 

インド音楽の演奏の際には、このラーガという概念に加え、「ターラ」と呼ばれるリズムに関する決まりに則って、即興での演奏が行われます。そのため同じ奏者・同じラーガであっても一回一回異なる音楽が生まれ、それがインド音楽の魅力にもなっています。

 

他にも様々な特徴のあるインド古典音楽ですが、大きな特徴の一つはドローン音と呼ばれるものです。これは演奏中にそのBGMの様に背後で一貫して流れる基準音のことで、タンプーラという専用の弦楽器を用いて、蜂の羽音のような独特な音を奏でています。メインとなる弦とその共鳴弦の響き、また弦を微妙に触れさせて独特の音を出す「ジャワリ」の機構など、楽器自体に独自の工夫がされています。ジャワリは日本の三味線でいうところの「サワリ」にあたり、三味線の成立自体もインドの楽器からの影響が強いと考えられています。

 

インド音楽でメインとなるのは声楽、つまり歌ですが、弦楽器や管楽器がこのポジションを担うことも多くあります。冒頭でも紹介した弦楽器のシタールは日本でも有名なもので、7本のメインの弦に加え沢山の共鳴弦が張られ、メインの弦の振動に共鳴して深みのある音を奏でています。また管楽器としてはクリシュナ神のシンボルでもある竹製の横笛:バーンスリーなどが用いられます。

 

バーンスリーを携えるクリシュナ神
バーンスリーを携えるクリシュナ神(出典:長谷川 明  著「インド神話入門 (とんぼの本)」新潮社)

 

また、メインの歌を支えるリズム楽器。2つの太鼓をセットで使うタブラという太鼓が日本でも多く知られています。木製・金属製の胴に皮を張った楽器ですが、皮の中央に鉄粉や穀物の粉から作られたスヤヒと呼ばれるものが塗られており、独特の倍音を生んでいます。その他、両面太鼓のパッカワージもよく用いられるリズム楽器です。

 

インドの様々な打楽器(インド国立博物館)
インドの様々な打楽器(インド国立博物館)

 

楽団は基本的にはこのような旋律・伴奏・リズムの3つから構成されますが、他にも有名なのは弦楽器のシタールです。北インドの代表的な楽器であり、ビートルズが楽曲に用いるなど広く知られています。

 

タブラ(左)とシタール(右)による演奏
タブラ(左)とシタール(右)による演奏

 

他にも手でふいごを操って音を出すオルガンのハルモニウム、また日本から伝わった大正琴(インドではバンショーと呼ばれる)…など様々な楽器が加わっていきます。インドの音楽で用いられる伝統的な楽器は非常に種類が多く、地域ごとに様々な楽器が用いられます。ラーガに則っていれば、新しい楽器を積極的に取り入れるのもインド音楽の特徴です。バイオリンやエレキベースなどが用いられる場合もあります。

 

今回は北インドの古典音楽を紹介しましたが、北インドと南インドでは大きくスタイルが異なっています。イスラム勢力の影響が少なかった南インドでは土着的な音楽伝統が色濃く残り、北インドのヒンドゥスターニー音楽に対してカルナティック音楽と呼ばれ、複雑なリズム体系に則ったスタイルで、素焼きの壺でできた太鼓:ガタム、金属の弁の振動を口で共鳴させる口琴:モールシン、トカゲ皮製のフレームドラム:ガンジーラ等、楽器も独特のものが使われます。

 

南インドの金属製口琴:モールシン
南インドの金属製口琴:モールシン

 

 

基本的なテーマに則りながら、即興で演奏が行われるインド音楽ではやはり生演奏を見たいものです。複雑なリズムを奏でる中、最後にピタリと一致する瞬間には鳥肌が立ちそうになるほど。なかなか生演奏に立ち会える機会は少ないですが、ホテルやレストラン、時には街頭で楽団に出会うこともあります。一度体験すると癖になるような魅力を持つのがインド音楽です。

 

■インド音楽と西洋音楽

インド音楽は、根本的にいわゆる西洋音楽とは全く異なりながら、西洋の楽器や音楽を取り入れて今もなお発展し続けています。また、西洋音楽側もインド音楽に出会い、大きな影響を受けています。1950年代以降、インド音楽を西洋世界に広めた第一人者とも呼べる音楽家がラヴィ・シャンカールです。

 

ラヴィ・シャンカール(1920-2012)はバラナシ出身のシタール奏者です。1940年代からインド国内で高く評価され、また1950年代以降は積極的に海外での演奏、西洋の音楽家との交流を行いました。クラシック楽団に参加し、ビートルズのジョージ・ハリスンにシタールを教え、ジャズではジョン・コルトレーンに教えを請われるなど、多岐にわたるジャンルの音楽家と交流しています。西洋音楽とインド音楽の出会いを生んだ音楽家であり、当時の西洋の音楽シーンに大きな刺激を与えた存在です。

 

ビートルズの1965年のアルバムRubber Soulの中のNorwegian Wood (This Bird Has Flown)ではインド古典楽器のシタールがロックミュージックとしては初めて使われ、大きな反響を呼びました。この翌年にジョージ・ハリスンはラヴィと出会い、ラヴィを師としてシタールを学んでいます。ビートルズではこれ以降もシタールを利用した楽曲が作られています。

 

 

 

Text by Okada

 

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アジャンタとエローラ インド2大石窟寺院群を行く! ⑤

ナマステ! 西遊インディアです。

エローラ石窟寺院群について、前回は第1~12窟の仏教窟を紹介しました。

今回はエローラの目玉!カイラーサナータ寺院をはじめとするヒンドゥー教窟、ジャイナ教窟についてご紹介します。

 

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エローラ 第16窟 カイラーサナータ寺院 正面出口

やはりエローラといえば第16窟のカイラーサナータ寺院。こちらの見学にじっくり時間を割きたい方が多いと思います。

 

エローラ石窟寺院群は第13~29窟がヒンドゥー教窟です。開窟年代は、6~9世紀で、インドで仏教の勢いが減退していくなか、代わってヒンドゥー教が勢力を増してきた頃です。

ヒンドゥー教窟は全部で17窟ありますが、仏教窟と違って特徴的なのが全てがチャイティヤ窟(僧院)であることです。仏教窟のように、僧房は併設されておりません。

 

それではエローラの最大の見どころ・第16窟のご紹介です。カイラサナータはヒンドゥー教の破壊の神であるシヴァの寺院であり、シヴァの住まいとして考えられているカイラス山の姿を現しています。間口46m・奥行80m・高さ34mの巨大な寺院は全て岩体を掘り下げて作られており、世界最大の石彫建築です。その完成には1世紀以上の歳月が費やされたと考えられています。当時のインド人の寿命が30~35歳であったことを踏まえると、何世代にも渡る一大事業であったことが分かります。巨大な寺院そのものの迫力に加え、随所に施された神々の彫刻はまさに圧巻です。

 

 

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エローラ 第16窟 カイラーサナータ寺院 横から眺める
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エローラ 第16窟 ラクシュミー像
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エローラ 第16窟 ドゥルガー神

門を入るとまず正面にヴィシュヌの妻ラクシュミー。2頭の像が左右から水をかける「ガジャーラクシュミー」という吉祥をあらわす姿です。右手にはシヴァの妻パールヴァティの化身で力の象徴であるドゥルガー、左手にはシヴァの息子ガネーシャの彫像が私たちを迎え入れます。ちなみにガネーシャは物事の始まりを司る神でもあり、多くの寺院で門番として入り口に描かれています。現代でもお店やホテルの入り口にガネーシャ像を置いている場面を見たことのある方もいるのではないでしょうか。

 

ガネーシャ像
16窟 ガネーシャ像

寺院の外壁、またそれを取り囲む回廊にも様々な神話や、「マハーバーラタ」「ラーマーヤナ」のインド二大叙事詩のシーンが丁寧に彫刻されています。寺院本体に施された彫像は本来は彩色されていたものもあり、一部にその基層となる漆喰が残されてるのも見ることができます。

 

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エローラ 16窟 細かく施された浮彫はマハーバーラタのシーンを表す
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16窟 ラーマーヤナの浮彫り
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16窟 本殿外部
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16窟 本殿を支える象たち

 

寺院内部、手前にはシヴァの乗り物である牡牛・ナンディーのための寺院(ナンディー堂)があります。そしてその奥に位置するのが本殿です。
本尊には、本尊であるシヴァリンガが安置されています。リンガは男性の象徴であり、同様に女性の象徴であるヨーニの上に置かれ、お香や乳、香油などが捧げられています。現在では観光地として世界的に人気のある寺院ですが、ここでは多くの敬虔な巡礼者たちが祈りを捧げています。

 

本殿のシヴァリンガ
16窟 本尊のシヴァリンガ

カイラーサナータ寺院の内部見学が終わりましたら、寺院横の小道より坂を上がり、カイラーサナータ寺院が見下ろせるポイントまで移動することをおすすめします(※雨期は、通行不可となっていますのでご注意ください。また、2019年冬現在、後ろまで回り込むルートは閉鎖されています)。
上から見下ろすと、カイラーサナータ寺院のその大きさを改めて実感するとともに、掘り出した石の途方もない量に言葉を失います。

 

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16窟を上から見下ろす
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16窟 僧院の天井にも美しい浮彫が施されています

 

第16窟・カイラーサナータ寺院は、その大きさ、内部の造りの精巧さ、浮彫彫刻の美しさ等、全てのポイントにおいて現代では再現不可能な、まさに偉業と呼べるにふさわしいものではないでしょうか。

 

最後に、ジャイナ教石窟群の紹介です。
エコバスに乗って5分程移動すると、ジャイナ教の寺院が見えてきます。ジャイナ教寺院群は一番北側にあり、ヒンドゥー教窟とは約1キロ程離れています。開屈は9世紀頃で、当時この地を治めていた王がジャイナ教を保護していたため、ジャイナ教の寺院も造られることになりました。

 

Ajanta-Ellora
ジャイナ教石窟群 遠景

 

インド全国的にジャイナ教寺院は僅かしかなく、エローラの寺院は貴重な資料となっています。ジャイナ教と聞くと不殺・不所持をはじめ簡素な生活を思い浮かべますが、そのイメージを一変させるような精緻できらびやかな内部装飾には驚かされます。それまでの仏教、ヒンドゥー教窟と比べて最も装飾が細かく美しい石窟です。

 

ジャイナ教ではその24代にわたる修行者の像が信仰の対象となっています。ヒンドゥー教の神々と比べ動きが少なく、直立したままの聖者像が多いです。また、ジャイナ教の教えである「無所有」を象徴する裸体で表現されています。

 

 

Ajanta-Ellora
エローラ 第32窟 正面入り口
第32窟のジャイナ教寺院
エローラ 第32窟 ジャイナ教寺院
Ajanta-Ellora
第32窟 柱の透かし彫りがなんとも豪華な印象

 

Ajanta-Ellora
第32窟 獅子に乗る女神像

 

 

アジャンタとエローラの石窟寺院を数回に渡って紹介してきました。アジャンタとエローラは、インドの宝です! ぜひ訪問して、実物をご覧になっていただきたいと思います。

 

このシリーズの冒頭で書きました通り、アジャンタ、エローラ有するデカン高原にはこのような素晴らしい石窟がまだまだありますので、またの機会に紹介したいと思います。

 

 

 

 

Text  by    Hashimoto,  Okada
Photo  by Saiyu Travel

 

 

 

 

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