ヴィシュヌの化身を紹介する第7回。最終回の今回は9番目・10番目の化身である仏陀とカルキ、そしてそれと関連してヒンドゥー教の終末思想について紹介していきます。
■ヒンドゥー教における仏教の捉え方
仏陀は言わずと知れた仏教の祖ですが、ヴィシュヌの化身としてヒンドゥー教に受容されています。ヒンドゥー教としてはそもそも仏教もヒンドゥー教の一派であるという立場をとっているため、仏陀がヒンドゥー教の神として捉えられることにも特に不思議はありません。
仏教徒の多い日本からすると捉え辛いものですが、確かに仏陀自身もヒンドゥー教の前身であるバラモン教が支配的な環境で育ったため、その思想の土台にはバラモン教な要素が多く見受けられます。これは仏教と同時期に成立したジャイナ教にも共通しており、ヒンドゥー教の考えではジャイナ教も仏教と共にヒンドゥー教の一派とされています。
ジャイナ教も同様ですが、仏教は祭祀とバラモンを極端に重視する教義主義的な当時のバラモン教への批判として成長し、信者を獲得してきた側面があります。逆にバラモン教側では、仏教やジャイナ教などの当時の言わば新興宗教の隆盛に対抗するために、バラモン教の宗教としての見直しや改革が盛んにおこなわれ、これがヒンドゥー教の成立・発展へと繋がっていきます。
■ヴィシュヌの化身としての仏陀
ヴィシュヌの化身として表される仏陀は、仏教という異教を魔族に教えることでヴェーダから遠ざけ、魔族を惑わせるという否定的な役割で登場します。仏陀をヴィシュヌの化身とすることで仏教を吸収しようとするというものですが、仏教自体はヴェーダに反する正しくない教えとして捉えられているところが面白い点です。
ヴィシュヌの化身としての仏陀の登場は、ヒンドゥー教における世界の終末期であるカリ・ユガの到来を意味します。このカリ・ユガの時代で登場する救世主がヴィシュヌの10番目の化身:カルキですが、カルキの紹介へ進む前にヒンドゥー教の世界観と終末思想をご紹介します。
■ヒンドゥー教の世界観と終末思想
インドでは紀元前8世紀頃に奥義書:ウパニシャッドが編まれ、このころに輪廻思想が成立したと考えられています。ヒンドゥー教の世界観は輪廻思想に基づいており、世界の創造と破壊が繰り返される形で現れます。
ヴィシュヌ派の神話では、世界が始まる前の原初の海では竜王アナンタに寝そべったヴィシュヌの臍から一本の蓮の花が咲き、そこからブラフマーが生まれ世界を創造するとされています。これはもともとはブラフマーの臍からヴィシュヌが生まれたという神話ですが、ヴィシュヌを至上の神とするヴィシュヌ派によってその役割が逆転したものです。
そして、世界はそのブラフマーの一日の始まりの際に作られ、一日の終わりに破壊される存在です。この「1日」はブラフマーの昼間の時間を差し、人間の時間に換算すると43億2千万年という長大な時間です。ヒンドゥー教の神々は人間とは異なる時間を生きており、ヒンドゥー教の世界観の時間的スケールの大きさを感じさせられます。
■ヒンドゥー教の時間感覚とユガ
ヒンドゥー教の時間を示す概念としては以下のようなものが存在します。
・神年:360年。神々にとっての1日は人間の1年にあたり、人間の360年が神にとっての1年となる。
・マハーユガ:12000神年(人間の時間で432万年)
・カルパ:1000マハーユガ。ブラフマーの1日は昼間が1カルパ、夜1カルパの2カルパからなる。
ユガは12,000神年=432万年にあたるマハーユガを前から4:3:2:1の割合で分割した期間であり、それぞれのユガで時代の特徴が決まっており、始めから末期へかけて段々と悪い世界になっていきます。ヴェーダの法と正義もそれぞれの期間で4:3:2:1の比率で減っていき、その分悪がはびこるようになります。
クリタ・ユガ(4800神年):すべての法と正義が保たれ、人は病気にならず、400年の寿命を持つ。
トレター・ユガ(3600神年):法と正義が4分の3まで減った世界。人間の寿命は300年。
ドヴァーパラ・ユガ(2400神年):法と正義が半分になり、その分悪がはびこる世界。人間の寿命は200年。
カリ・ユガ(1200神年):法と正義が4分の1まで減った世界。人々は神から遠ざかり、悪が世界を支配する。人間の寿命は100年になる。
カリ・ユガは人間の時間では43万2千年続きます。カリ・ユガの時代では人々はヴェーダの教えから離れて宗教的に堕落し、神々は信仰されず、支配者は理性を失い、世界ではあらゆる悪が行わる…とされています。現在の私たちが生きる時代はこのカリ・ユガに当たります。
「カリ」は対立・不和・争いを意味し、またこの時代を支配し世界を悪で満たす悪魔:カリを指します。カリは悪の顕現であり、このカリを倒すために登場する救世主がヴィシュヌの化身:カルキです。
■救世主としてのカルキ
カリ・ユガの終末期、カルキは白馬に乗った騎士、又は馬頭の巨人として登場し、世界の悪を滅ぼすとされています。世界を救い指名を果たしたカルキが天界に帰るとカリ・ユガの時代は終わり、また法と正義で満たされたクリタ・ユガの時代が始まります。
こうしてひとつのマハーユガが終わりますが、ブラフマーの一日が終わるのは1000マハーユガが経った時です。ブラフマーの一日の終わりには地下・地上・天上の三界で生物が死に絶え、世界はヴィシュヌの炎によって焼き尽くされ、続いてやはりヴィシュヌが吐き出した雲から降る雨で水に沈められます。その後ヴィシュヌは雲を吹き払ってブラフマーを飲み込み、原初の海で竜王アナンタに寝そべります。こうして世界が始まる前の状態へと戻り、1カルパの眠りの後にまた新たな世界が始まります。
また、ブラフマーの一生はブラフマーの時間での100年(人間の時間で8640億年)とされており、ブラフマーの一生が終わる際には世界はより大きな規模で破壊され、最終的には宇宙の根本原質であるヴィシュヌ自身に飲み込まれることになります。そしてブラフマーは改めてヴィシュヌの臍から生まれなおし、世界の創造を始めていきます。
Text by Okada
カテゴリ:■その他 , インドの宗教 , インド神話
タグ:SAIYU INDIA , SAIYU TRAVEL , インド , インドガイド , インドの手配会社 , インドの旅のブログ , インドブログ , インド個人旅行 , インド旅 , インド旅行 , インド現地手配 , ヴィシュヌ , 仏陀 , 現地手配 , 西遊インディア , 西遊旅行