オリッサの山岳民族② ドングリア・コンド族

白い民族衣装に3つの鼻飾り、たくさんの装飾品で着飾ったドングリア・コンド族

インド東部に位置するオリッサ州。山岳部族の人々は、時代の流れを無視するかのように今も独自の生活様式を守りながら暮らしています。
前回ご紹介したボンダ族と彼らが訪れる定期市につづき、今回のテーマはドングリア・コンド族とチャティコナの水曜市についての紹介、そして部族をとりまく現状についてです。
 
オリッサの部族の中で最大の指定部族であるコンド族。コンド族の言葉はドラヴィダ語に分類され、肌は黒く、オーストラロイド(オーストラリアやニューギニア、メラネシアの人々と同じ分類)と考えられています。
一口にコンド族といっても複数の部族に分かれており、谷に暮らすデジア・コンド族や、丘に暮らすドングリア・コンド族などがいて、それぞれの村で暮らしています。
 
ドングリア・コンド族は、オリッサ州南東部の密林に覆われたニャンギリ(ニオモギリ)の丘に暮らし、山神“Niyam Raja”を信仰しています。
山でジャックフルーツやマンゴー、蜂蜜、竹などを採り、畑ではバナナやパパイヤ、生姜、オレンジなどをつくります。そして、収穫した作物をチャティコナの水曜市などの定期市で売り、生活必需品を購入します。
ボンダ族と同様、ドングリア・コンド族に出会うには週に一度行われる定期市に行く必要があります。
 
ドングリア・コンド族の集まることで有名なチャティコナという町の水曜市は、彼らが暮らすニャンギリの丘から約20㎞離れた場所にあります。

ニャンギリの丘から市場を目指して歩くドングリア・コンド族の人々
何人かのグループで山から下りてきます

週に一度の市場は大賑わい

週に一度の定期市の日は、朝3時頃に家を出て森で採れるフルーツ、草などを売りにきます。
男性はサゴ椰子からジュースを取り強壮剤に。薬草の知識にも長け、山から採れる薬草でケガや病気を治療します(マラリアや蛇のかみ傷を治すという調査結果も!)。
あまり商売上手ではないドングリア・コンド族は、まず市場の手前で商売上手のデジア・コンド族に売ります。同じ民族なので彼らの言う値段を信じています。デジア・コンド族は、それを市場でもう少し高めに販売するのだそうです。

作物を売ったお金で生活必需品を買います

コンド族では女性が重要とされ、子供や男性の面倒を見るのも女性、市場でも女性が主役。

ドングリア・コンド族の外見的な特徴は、女性が白い布を巻き、髪の毛にたくさんのヘアピン、そして小さなナイフをさし、鼻に3つの輪をつけていることです。


 
コンド族の各村には、独身の男女が集う集会所があり、男性は違う村からやってきます。そこで村人が伝統やルールなどを教えていきます。女性は生涯のパートナーになると思う男性に、お手製の刺繍を渡し、受け入れられると結婚となるのだそうです。
 
豊かな山の恵みによって、何百年とシンプルな暮らしを続けてきたドングリア・コンド族。しかし、約30年にわたって彼らの生活が脅かされているのも実情です。
1997年頃、ニャンギリの丘に、アルミニウムの原料となるボーキサイトが眠っていることがわかったのです。その価値はおよそ20億ドル。イギリスに本社をもつインド最大のアルミニウム製造会社ヴェダンタ・リソーシーズは、ドングリア・コンド族の聖なる山“Niyam Dongar”に露天掘りの鉱山を開発する計画を立てましたが、2010年にインド政府は同社が法律・民族の権利を無視したとの声明を出し、開発は保留とされました。
 
しかし現在も計画は継続中で、アルミニウム産業は大規模な雇用と経済成長を生み出すことなどを理由に、オリッサには開発資源が多く、可能性を求める他企業からも注目が集まっています。
国から現地住民との協議を命じられた州政府は2023年10月にも公聴会を実施。採掘による水源の破壊や生態系に悪影響が及ぶとして、住民のほとんどがプロジェクトに反対しています。現在も解決にはいたっていません。
先住民族の生活や文化を脅かす環境開発の話には、人々の暮らしを思うと心が苦しくなります。今後も注視していきたいところです。
 

■ひとくちコラム:ダウリーとコンド族の話
ヒンドゥー教の習慣で今でも残っているダウリー(結婚持参金)。花嫁の家族から花婿とその家族に対してされる支払いのことで、経済的な負担の大きさから社会問題となっています。コンド族にダウリーはありませんが、逆に花婿の両親が、村のシャーマンが決めた贈り物(水牛数頭など)を花嫁側に贈ります。もし準備できない場合は、花婿が花嫁の父親の下で労働力として働き、その後に結婚が認められるのだそうです。

  • クッティア・コンド族の女性。トラを模した刺青が特徴的
  • チャティコナの水曜市で出会ったドングリア・コンド族
クッティア・コンド族の女性。トラを模した刺青が特徴的

チャティコナの水曜市で出会ったドングリア・コンド族

 

 

※この記事は2016年8月のものに、きんとうん43号p.11「オリッサの山岳民族」の内容を加え、修正・加筆して再アップしたものです。

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オリッサの山岳民族① ボンダ族

列になって歩くボンダ族の人々

インド東部に位置するオリッサ州。オリッサ州の西部に広がるバスタール地方には、ドラヴィダ系の少数民族の方々が昔ながらの暮らしを続けています。このようなドラヴィダ系の人々は、古代からインド全体に住んでいたと考えられていて、紀元前1500年ごろ、イラン方面からアーリア系の人々がやってきた際に、ドラヴィダ系の人々の多くはインドの南西部に移動したという経緯があります。

 

さて、オリッサの少数民族には62の部族コミュニティがあるとされていますが、インドに暮らす少数民族の中でも、色濃くその伝統を残し、外界の影響を受けずに暮らしているのがボンダ族の人々。
人口は12000人ほど(2011年の調査。乳児死亡率が高いことなど様々な要因により、現在は減少傾向にあるとみられています。)。
ボンダ族はインド政府の保護のもと、ボンダ・ヒルと呼ばれる丘に外部との接触をもたずに暮らしています。

 

特にボンダ族の男性は外部の人間に対して警戒心が強く、彼らの居住地へ入ることは簡単ではありません。彼らの暮らす土地が山にあること、そして外部の文化を受け付けず、伝統に執着するからこそ、急激に「インド化」するインド大陸において、もっとも古く、原始的な暮らしを守り続けている民族といわれています。

 

定期市に向かうボンダ族の人々

そんなボンダ族と出会うことができるのが市場。村の定期市を訪ねると、ボンダヒルの村からやってくるボンダ族と出会うことができます。
初めてこの市場へ向かって歩くボンダ族の人々を見たとき、「ここは本当にインド?」とさえ感じます。アフリカの未知の部族と出会ったような印象です。
その衣装、そしてほっそりしたスタイルも「インド」というイメージとは異なるのです。

 

市場へ向かうボンダの女性たち。壷やバスケットの中に農作物が入っていました。自分達の土地でとれる小さなじゃがいもなど、市場で他の民族とモノの交換をしたりしています。インドでも少なくなった「物々交換」の経済が残っています。

ボンダ族の伝説と暮らし

ボンダ族の服装は、インドの古代叙事詩「ラーマーヤナ」に由来していると言う伝説があります。昔、ラーマーヤナのヒロインであるシータが裸になって水浴びをしていると、ボンダ族の女性たちがくすくす笑いました。怒ったシータはボンダ族の女性たちも裸にし、さらに頭をスポーツ刈りにしてしまいました。許しを請うたボンダ族に対して、シータは彼女たちが着ていたサリーの一部を腰に巻くことを許しました。
この話は、ヒンドゥー教の人々が後から作ったものなのでは…とも思いますが、太いシルバーの首飾りや、ビーズの装飾は、森での暮らしや狩りの際、身を守るためだという説が有力です。

 

 

女性の服装は、短い布を腰に巻き、上半身は裸で、胸の前にたくさんのビーズのネックレスをたらしています。頭はスポーツ刈りで、そのまわりにもビーズを巻きつけ、真鍮のピンで留めています。

 

首には何十もの銀の輪、胸には子安貝やビーズ製のネックレスを幾重にもたらし、その下には何も身につけず、下半身は20cmほどの布を巻くのみです。裸の胸は見事な装飾品で覆いつくされています。そして腰には短い丈の織りの布を巻くだけ。
この絶妙な美のバランスに驚かされます。

 

アンカデリの木曜市では、女性は農作物を、男性は自分たちで作ったお酒を売りにやってきます。この市場ではボンダ族の男性の写真撮影は厳禁です。

 

 

ちなみに、ボンダ族の男女関係も独特です。ボンダ族の女性は、自分より年下の男性と結婚します。男性が一人前になるまでは女性が世話をし、年老いたあとは男性が女性の面倒をみます。

 

そしてボンダ族の男性はお酒が大好き。
オリッサの少数民族の市場には手作りのお酒の販売コーナーがあり、素焼きの壷に入ったお酒を葉っぱで作ったコップでたしなむ姿が見られます。椰子や米からお酒を作り、市場で売るのですが、道中自分で全部飲んでしまい、市場に着くころにはべろべろに酔っぱらってしまう人も。午後にもなると男女ともにご機嫌な人たちでいっぱいになります。「酔っ払い」はやはり万国共通ですね。

 

 

※この記事は2011年11月、2016年08月のものを修正・加筆して再アップしたものです。

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