言わずと知れた銘茶・ダージリンティーは、インド北東部西ベンガル州のダージリン地方で生産される紅茶です。世界最大の紅茶生産国のインドが誇る、ダージリンティーについて紹介します。
■ダージリンティーの始まり
ダージリンでの紅茶の栽培は19世紀のイギリス植民地時代に始まりました。夏の間の保養地確保のため、ダージリンを含むシッキム王国を保護国としたイギリスは、避暑地としてダージリンを開発していきます。1841年、ダージリン地区長官を務めていたキャンベル博士が自宅に茶樹の苗を植えたところ、栽培に成功。そこから茶園が開かれていき、今では87もの茶園でダージリンティーが生産されています。年間の生産量は約12,000トンで、その約80%が国外に輸出されています。
■ダージリンティーの茶樹
キャンベル博士は数多くの苗・茶樹栽培を試みましたが、多くはダージリンの環境に合わずに枯れてしまいました。日中はヒマラヤ山麓の強い直射日光にあたり、夜間は低温となるこの寒暖差こそがダージリンティーのみが持つ上品で芳醇な香りを生み出すのですが、多くにとっては厳しい環境だったのです。幸いなことに生き残った茶樹の子孫は、耐寒性のある中国種のチャイナと呼ばれる茶樹でした。
その後、標高500~2500mにわたる山腹の各所にて茶園の開拓が進められ、現在は先にも紹介した通り87か所の茶園のもと、美しいお茶畑が広がっています。
余談ですが、インドの三大紅茶の1つアッサムティーもイギリスの植物研究家によって発見され栽培が始められました。こちらはアッサム地方に自生していたもので、ダージリンの中国種とは別の系統です。高低差のある山腹で作られるダージリンティーとは異なり、標高が低く降水量の多い大平原で栽培されています。こくが強いためミルクティーに向いており、インドではチャイとして国内で多くが消費されています。
(インドの紅茶とマサラチャイの記事もご参考ください)。
■ダージリンティーの特徴
ダージリンティーは「紅茶のシャンパン」とも呼ばれ、セイロンのウバ、中国のキーマンと並び世界三大紅茶と称されています。価格は抜きんでており高級茶として知られ、独特の香りが特徴的です。朝夕の霧、そして日中の強い日差しといった、ダージリンの天候こそがこの独特の香りを生み出しています。
中でもその香りがマスカット、あるいはマスカットから造ったワインの香りに似ているものは、マスカテル・フレーバーとして珍重されています。このフレーバーは、「ウンカ」という体長5mmほどの小さな虫が茶園の葉を噛み、茶葉の水分を吸うことで生まれます。水分を吸われた茶葉は黄色く変色し、攻撃に対抗すべく抗体物質(ファイトアレキシン)を作り出します。これがマスカテルフレーバーの香りの正体です。これは、セカンドフラッシュ・夏摘みだけの特別な紅茶です。
■茶葉の種類と飲み方
ダージリンティーは、特有の香りを楽しむためストレートで楽しむのに向いています。
3月末~4月頃から、11月頃までが茶摘みの時期に当たり、そのなかでも4月の一番茶(ファーストフラッシュ)、6月の2番茶(セカンドフラッシュ)が最も良質とされています。また、10,11月頃に収穫される茶葉は、オータムナルと呼ばれます。
摘み取るのは、一芯二葉、つまり、まだ開いていない中央の新芽とその下の若葉二枚を摘み取ります。
ファーストフラッシュ
3月~4月頃に収穫される春摘みの茶葉です。柔らかな新芽を使い、水色は黄金色の明るい色です。緑茶のような若々しい爽やかな香りが特徴ですが、青臭い、薄いと好みがわかれるものでもあります。ストレートで香りを楽しむ飲み方がお勧めです。
セカンドフラッシュ
6月~7月頃に収穫される、夏摘みの茶葉です。ダージリンのクオリティシーズンで、マスカテルフレーバーを有するとされる茶葉はすべてこのセカンドフラッシュです。爽やかな香りと天然の甘みが特徴で、味・コク・香りのバランスがよく日本人に最も好まれる味と言われています。他の収穫期と比べ、高品質とされ高値で取引されています。水色はうすいオレンジ色です。
オータムフラッシュ
10月~11月頃に収穫される秋摘みの茶葉です。厚みのある葉を利用し、渋みがある濃いめの味が特徴。水色も深いオレンジ色になります。中級品とされ比較的安価で手に入ります。香りは少々劣るものの、比較的濃厚で丸みを帯びた味が特徴でミルクティーにも合うものとされます。
お茶の製法は、基本的には「オーソドックス(伝統的)製法」と「アン・オーソドックス(非伝統的)製法」のふたつですが、ダージリンティーは、オーソドックス製法が用いられています。オーソドックス製法は、人手による伝統的な製法を機械で忠実に再現した製法で、主にリーフティーの製造に使われています。
アン・オーソドックス製法で主なのが、現在世界中に広がっているCTC製法(お茶の記事ご参照)です。
摘んだ茶葉は工場に集められ、下記のステップを踏みます。
①萎凋(温風を送ってしおれさせ、水分を40-60%減少させる)
②蹂躙(茶葉を揉む)
③発酵
④乾燥
途中、ふるいに大きさと見た目による等級分けも行われます。この仕分けによって、同じ茶葉でも味わいの異なる紅茶としてパッケージ分けされることになります。
紅茶工場では、このような紅茶の加工の見学も可能です。はっきりとした四季があるダージリンでは、冬は茶樹の手入れの季節となり、工場はお休みですでのご注意ください。
■ダージリンでの試飲体験
ダージリンの街のバザールには紅茶屋が並んでおり、各店試飲をさせてくれます。
摘んだ時期や、茶園によってこんなにも色に違いが出ています。香りも味もそれぞれの特徴がありました。
こちらは最高級と言われるダージリンのホワイトティー。芽吹く直前の若い新芽を使った、希少性の高い紅茶です。紅茶の渋みが全く感じられず、さっぱりとした緑茶に近い風味でした。他では味わえない香り高い紅茶です。
デリー等の都市部でもダージリンティーの茶葉は手に入りますが、ダージリンで購入された方が種類も豊富ですしお値段も安いです(パッケージはシンプルなものが多いですが…)。
また、ダージリンティーは、生産量と市場に出回っている量が大きく異なっていると言われており、粗悪品も一部混ざっているとも言われていますので、購入場所はある程度考慮する必要があります。
ヒマラヤの麓に広がる紅茶の王様・ダージリンの茶畑の景観を楽しみ、好みの茶葉探しはいかがでしょうか!
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