173

ネコノメソウ(猫の目草:Chrysosplenium grayanum)

長らく更新が途絶えておりました。月末あたりに皆様のお手元に届く予定の西遊通信に掲載する日本国内・海外ツアーの新企画の造成などに励んでいました。カナダでカヌートリップ白亜の砂丘レンソイスで縦断ハイキングなど、是非注目してみてください。

 

その間、我が家の近所にコブシ(モクレン科)の花が満開となり、さらに通勤路の途中の銀行の脇に設置された花壇にフッキソウ(ツゲ科)が満開に咲き誇っていました。本格的な春の到来を感じられた1週間でした。

 

本日は、ネコノメソウ(猫の目草:Chrysosplenium grayanum)をご紹介します。

 

ネコノメソウ(猫の目草:Chrysosplenium grayanum)

被子植物 双子葉類
学名:Chrysosplenium grayanum
科名:ユキノシタ科(Saxifragaceae)
属名:ネコノメソウ属(Chrysosplenium)

 

ネコノメソウ(猫の目草)は日本固有の花で北海道、本州、九州北部に分布(本州以北という資料もあり)し、主に沢沿いや湖畔などの湿った場所に自生します。私も昨年5月に長野県・中綱湖の湖畔で群生するネコノメソウ(猫の目草)を観察しました。

 

草丈は5~20cm。匍匐茎(ほふくけい:植物において、地上近くを這って伸びる茎:走出枝とも)をマット状に伸ばし、匍匐茎の節から根を下ろします。
少し太い印象の花茎から、5mm程度の葉柄を伸ばして卵円形で可愛らしい茎葉を出し、直径が5~15mmほどの小さく可愛らしい葉が対生しています。形状としては基部が丸みを帯びており、丸い鋸歯があるのが特徴です。

 

花期は4~5月。花序を包むように苞葉(蕾を包むように葉が変形した部分)がつき、茎葉と同じ形状・大きさですが黄緑色を帯びているのが印象的です。花後には苞葉は緑色に変化していきます。

 

中央部分に小さな花の部分がありますが、ネコノメソウ(猫の目草)には花弁はありません。
ネコノメソウ(猫の目草)の形状としては、長さ0.5mmほどの4本の雄しべを包み込むようにして周りの苞葉に比べて黄色味の強い色合いをした4つの萼裂片(長さ1mmほど)が直立しています。雄しべの葯の部分はその萼裂片よりさらに黄色味が強く、どちらかと言えば山吹色のような色合いをしています。
雌しべはさらに短く、2本の花柱が直立し、花柱の下位に子房(受粉して果実になる部分)も確認できるそうですが、ほとんど目立ちません。

 

『猫の目草』という面白い和名ですが、果実が深く、細く裂開した様子が同行が縦に狭くなった昼間のネコの目に似ていることが名の由来とのことです。
ここまで観察するにはピンセットとルーペが必要なレベルの小ささです。興味がある方は花を傷つけないよう、ご注意ください。

 

花後に近いネコノメソウ(猫の目草:Chrysosplenium grayanum)

 

■注目! 4月29日出発 催行決定! 5月16日出発も間もなく催行!
花咲く北飛騨の森から上高地へ 2つのフラワーハイキング

※北飛騨の森にミズバショウが咲く季節です!

 

■注目! 5月23日出発 催行決定まであと一歩!!
花咲く屋久島へ 白谷雲水峡と黒味岳フラワートレッキング
※シャクナゲの花咲く季節!興味深い植生の屋久島へご一緒しませんか?

 

■注目! 7月10日出発 催行決定まであと一歩! 6月26日出発コースは満席!
花の尾瀬フラワートレッキングとチャツボミゴケの群生地を歩く
※尾瀬に咲く花が最盛期を迎える季節です!

151

ヤクシマダイモンジソウ(屋久島大文字草:Saxifraga fortunei var. obtusocuneata f. minima)

前回に引き続き、本日も屋久島の花の1つ「ヤクシマダイモンジソウ(屋久島大文字草:Saxifraga fortunei var. obtusocuneata f. minima)」をご紹介します。

 

ヤクシマダイモンジソウ(屋久島大文字草:Saxifraga fortunei var. obtusocuneata f. minima)

 

被子植物 双子葉類
学名:Saxifraga fortunei var. obtusocuneata f. minima
科名:ユキノシタ科(Saxifragaceae)
属名:ユキノシタ属(Saxifraga)

 

ヤクシマダイモンジソウ(屋久島大文字草)は、ユキノシタ科の多年草で標高1,000m以上の標高帯で、湿った岩上に自生する屋久島の固有変種です。
同じユキノシタ科のダイモンジソウの仲間の1つであるウチワダイモンジソウ(団扇大文字草)が矮小化した品種とされています。

 

草丈は3~10cmで、ダイモンジソウに比べて草丈は低く、直立します。
葉は小さく0.5~1.5cmで縁が浅く4~5裂しており、葉全体に軟毛が確認でき、少し光沢も確認できます。

 

屋久島には「ヤクシマダイモンジソウ(屋久島大文字草)」ともう1種、屋久島の固有種「ヒメウチワダイモンジソウ(姫団扇大文字草)」があり、花の見た目はほとんど一緒で見分けが難しいようです。
私はヒメウチワダイモンジソウを観察したことがなく、見比べたことはありませんが、葉の違いが見分けるポイントとのことです。

 

※葉の軟毛の有無
→軟毛が確認できる種は「ヤクシマダイモンジソウ」
※葉の基部
→ハート型が「ヤクシマダイモンジソウ」、くさび型なら「ヒメウチワダイモンジソウ」

 

花期は8~10月。私は8月末に黒味岳山頂直下で観察することができました。
茎頂に細長く白い花弁(淡いピンク色にも感じる個体もありました)を5枚付けた花を1つ咲かせます。ユキノシタの仲間の特徴ですが、1つの花の中で花弁の長さに違いがあるのが面白いです。
上の2枚は短く2~3mmほど、横に広がる2枚の花弁は少し長く5mmほど、真下に伸びる1枚が最も長いですが、それでも1cm未満の短さです。
この5枚の長さの違いがまるで「大」の字ような広がりを見せることが「大文字草」の名の由来です。

 

花の中央からは、一番短い2枚の花弁とほぼ同じ長さの雄しべが数本伸び、中央に黄色い子房も確認できます。この黄色い子房と白色(または淡いピンク)の花弁との色合いのコントラストがヤクシマダイモンジソウをより印象深いものにすると感じます。

 

先日もお伝えしましたが、屋久島の花は矮小化したものが多いため、このヤクシマダイモンジソウも危うく見落としてしまいそうになります。
黒味岳など山頂を目指す中、いち早く山頂へ向かいたい気持ちも判りますが、逸る気持ちを抑えてヤクシマダイモンジソウをはじめとする高山植物をゆっくりと探してみてください。黒味岳には登頂と高山植物の観察という2つの楽しみがある点が魅力です。
※現在、春の屋久島で植生観察ツアーを造成中です。お楽しみに!!

 

<冬から春 オススメのツアー>
12月コースは催行間近!
桜島の溶岩ウォークと鹿児島の2つの半島を巡る旅
※薩摩半島の指宿では、12月~1月は名の花の咲くシーズン
※活火山・桜島の徹底探求と大隅半島・薩摩半島から名峰・開聞岳を望む

 

2月21日出発が催行決定!!
冬の奇跡 美瑛の雪原とオホーツクの流氷世界
※流氷の上を歩く流氷ウォーク®と美瑛の丘で絶景スノーシュー体験

 

干潮時には対岸に浮かぶ象島まで砂州が出現する「堂ヶ島トンボロ現象」
静岡の美景めぐり 河津七滝・堂ヶ島・寸又峡へ
※伊豆半島ジオパークの4つのジオサイトから奥大井の秘境「寸又峡」を巡る

 

現在、屋久島で春の花の観察ツアーを含め、いくつか春の花ツアーを造成中です。発表次第、ホームページやこちらのブログでお知らせします。

093

ユキノシタ(雪の下:Saxifraga stolonifera)

長らくブログの更新が途絶えてしまい、申し訳ありません。
久々のブログ更新となりましたが、本日は大分県の国東半島にある国の重要文化財である熊野摩崖仏の見学の際に観察したユキノシタ(雪の下:Saxifraga stolonifera)」をご紹介します。

 

ユキノシタ(雪の下:Saxifraga stolonifera)

 

被子植物 双子葉類
学名:Saxifraga stolonifera
英名:マザー・オブ・サウザンス(子宝草)
ドイツ名:ユーデンバールト(ユダヤ人のひげの意)
中国名:虎耳草(こじそう)
科名:ユキノシタ科(Saxifragaceae)
属名:ユキノシタ属(Saxifraga)

 

ユキノシタ(雪の下:Saxifraga stolonifera)は、ユキノシタ科ユキノシタ属に属し、日本の本州、四国、九州に分布し、海外では中国にも分布する多年草です。
陰湿な岩場や沢沿いの石垣などに自生し、鑑賞用の花として植えられることもあります。

 

草丈は20~50㎝で直立し、根元から5~10㎝弱の葉柄を持つ根出葉を出し、ロゼット状に密集します。少し丸みを帯びた団扇を広げたような形状をしており、暗緑色で白色の粗い斑が入り、葉柄と葉には毛が確認できます。

 

種子による繁殖だけでなく、親株から地上茎である赤紫色の匍匐枝(ほふくし:走出枝とも呼ぶ)を出し、先端に新しい苗が生えて栄養繁殖も行います。

 

花期は5~7月(今回は大分県で11月に観察しました)、草丈20~50㎝の花茎の上部に多数の花を咲かせます。

 

ユキノシタは小さな花ですが、形状が非常に印象的な花であります。
花弁は5枚ですが、上部3枚の花弁は心形で上向きの先端が少し尖っており、基部が丸みのある可愛らしい花弁です。心形の葉は白色から薄ピンク色をしており(基部だけが白いものも)、中央には濃紅色の斑が印象的な色合いをしています。
さらに印象的なのは、下部2枚の花弁です。上部3枚の花弁に比べて長く、長さが1㎝ほどあります。真っ白な披針形の花弁が下向きに真っすぐ伸びていることで、全体の印象が”ハサミを広げたような形状”に見えます。
掲載した写真は、下部2枚の花弁が重なっているため”ハサミが閉じたような形状”に見えます。

 

色合いの印象をより強くするのが、中央にある子房です。鮮やかな黄色が印象的ですが、この色合いがより真っ白な花弁を引き立てているように感じます。
5枚の花弁の合間から5㎜ほどの雄しべが伸び、放射状に広がっています。雌しべは中央に短く延びています。

 

ユキノシタの名の由来は、諸説様々です。
雪が積もっても、雪の下では枯れずに緑の葉が残ることに由来する説、白い花を雪(雪虫)に見立てて、その下に緑の葉があることに由来する説、葉の白い斑を雪に見立てた説などあります。以前、下部の真っ白な2枚の花弁が舌のように見えるから「雪の舌」という名になったと聞いたこともあります。

上記に外国名も記載させていただきました。
ドイツではユダヤ人の髭を意味する「ユーデンバールト」、英名ではマザー・オブ・サウザンス(子宝草)、中国名では葉がトラの耳のように見えることから「虎耳草(こじそう)」とも呼ばれているそうです。
花の形状から、ドイツ名が一番しっくりくるように思うのは、私だけでしょうか。

 

今回は季節外れのような時期に咲くユキノシタを大分県の国東半島で観察することができました。
出発間際に見つけたため、ゆっくりと撮影はできませんでしたが、見事な群生でした。根生葉の撮影を忘れたのが心残りです。
群生するユキノシタもキレイでしたが、この花は是非1つ1つをじっくりと観察し、形状も楽しんでいただきたい花の1つです。

 

上の写真を少しアップにしてみました