本日は「たっぷり小笠原6日間」で観察した小笠原諸島の固有種の1つ「ムニンノボタン(無人野牡丹:Melastoma tetramerum)」をご紹介します。
被子植物 双子葉類
学名:Melastoma tetramerum
和名:無人野牡丹
科名:ノボタン科 (Melastomataceae)
属名:ノボタン属(Melastoma)
小笠原諸島は東京から南南東約1000kmの太平洋上に浮かぶ30余の島々の総称です。小笠原の島々は大陸から遠く離れた洋上に出現し、その後一度も大陸と陸続きになったことのない、ハワイ諸島やガラパゴス諸島と並ぶ典型的な海洋島です。
小笠原諸島が成立した際にはまったく生物・植物のない裸の島でした。小笠原には海流によって流れ着いたり、細かな種子や胞子が風で流れ着いたり、鳥によって運ばれたり、様々な要因で小笠原に辿り着き、海洋島として隔離された環境条件が小笠原に生育しない固有種が多くなった理由と言われています。
ムニンノボタンはノボタン科ノボタン属の低木で、小笠原諸島・父島の固有種です。
草丈は1~1.5mとなり、枝を多数分枝します。温暖な小笠原らしく、葉は一年を通じて常緑です。
葉は比較的先が尖った長楕円形をしており、約5~8㎝の葉が対生します。葉には若干短めの産毛が確認でき、若葉の方がより明確に確認ができました。
花期は7~8月、茎先に4弁の花弁をつける白い花を咲かせ、1つの枝先に花は1つのようです。今回は観察することはできませんでしたが、時折花便が5弁の個体もあるそうです。
球体の蒴果(さくか:乾いた果実の一種で一つの果実が複数の癒着した袋状果皮から成るもの)をつけ、裂開すると黒い小さな種子が姿をみせます。
今回は裂開する前の蒴果を観察することができました(上写真の右が蒴果です)。
ニンノボタンの「ムニン」は、小笠原諸島の古い呼称である「無人島(むにんじま)」が由来で、これは英語による呼称「Bonin Islands」(ボニン・アイランズ)の由来でもあります。小笠原諸島には「ムニン」を和名に冠する植物が50種近くあります。
ムニンノボタンは小笠原諸島の父島の固有種ですが、同じ小笠原諸島の母島には淡い赤紫色の花を咲かせる「ハハジマノボタン(Melastoma tetramerum var.pentapetalum)」や北硫黄島の標高4~700mに自生する紫色の「イオウノボタン(Melastoma candidum var.alessandrense)」が生育します。
ムニンノボタンは環境省のレッドリストに登録され、絶滅が危惧されています(絶滅危惧ⅠA類)。1980年代には父島・東平に1株だけとなり絶滅が危惧されたそうですが、最後の1株から東大理学部付属植物園で増殖に成功し、父島で植えなおしが行われ、現在では順調に生育しているそうです。
私が観察したのも父島・東平の「アカガシラカラズバト・サンクチュアリー内の林間で、現地ガイドさんの説明ではこの株も植えなおしの株であるとのことでした。種を落としているそうですが、外来種として増えてしまったネズミが種を食べてしまい、新たな株が根付かないそうです(10年ほど前に父島・字東海岸にて40株ほどの自生地が見つかったという資料もありました)。
小笠原諸島には興味深い植生が多く、維管束植物(いかんそくしょくぶつ:体内に維管束をもつ植物群の総称でシダ植物,裸子植物および被子植物を含む)は300種で、その約40%が固有種、木本植物(もくほんしょくぶつ:茎が木質化し開花結実を繰り返し長い寿命を持つ植物)だけに限ると約70%が固有種だそうです。
小笠原と言えば「ボニンブルー」と称される海の美しさが有名ですが、独特な植生を楽しむために小笠原諸島に訪れるのもオススメです。
<小笠原諸島の植生を楽しむことのできるツアー>
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