昨日まで「たっぷり小笠原6日間」のツアーへ同行させていただいており、小笠原諸島の海でイルカにも出会え、お客様とともに童心に戻ったように楽しませていただきました。また、小笠原諸島特有の植生も楽しむことができ、小笠原の植生については、追ってご紹介させていただきます。
本日は形状がユニークな「クルマバツクバネソウ(Paris verticillata)」をご紹介します。
被子植物 単子葉類
学名:Paris verticillata
和名:車葉衝羽根草
科名:シュロソウ科(Melanthiaceae)
属名:ツクバネソウ属(Paris)
日本では、北海道、本州、四国、九州と全国に分布し、山地帯から亜高山帯の林内に生息します。
私が初めてクルマバツクバネソウを観察したのは尾瀬ヶ原から尾瀬沼へ抜けるフラワートレッキングを楽しんでいた時で、この花を紹介された際にはその形状に驚いたことを覚えています。
日本以外では、朝鮮半島、中国、千島列島、樺太(サハリン)に分布します。
草丈は20~40㎝で直立、茎頂に6~8枚の楕円形状の葉を輪生し、長さは5~15㎝ほどです。
茎頂から花柄(花序などを支えるための茎)を伸ばし、直径5~7㎝で黄緑色の花を咲かせます。
この花の形状、見た目に「どこが花?」というのが難しい部分です。
黄緑色の花弁のように見える部分は「外花被片」と呼ばれ、いわゆる萼片です。長さは3~4㎝ほどで枚数は4枚です。
その外花被片の間から細く垂れ下がる部分が「内花被片」で花弁となる部分。こちらも4枚あり、黄色を帯びています(写真では外花被片と同じく緑色でした)。
クルマバツクバネソウを特徴づける中央に細長く上向きに伸びた部分は「雄しべ」で長さは5~8㎜で本数は8~10本です。
雄しべの黄色い部分が「葯(花粉を入れる袋状の部分)」であり、葯の先端には「葯隔(やくかく:花粉塊を隔てる壁、二分する葯の接合部)」が長く伸びています。
雄しべの中央には黒色の「雌しべ」があり、花柱が4つに分かれている(4裂)のが特徴です。
クルマバツクバネソウの名は、葉が車輪のように輪生する姿から「車葉」、花の形状が羽子板遊びの羽根「衝羽根(つくばね)」に似ていることが由来とのことです。
クルマバツクバネソウに似た「ツクバネソウ(Paris tetraphylla)」との違いについて、下記のとおり非常に判りやすくまとめてくれていた資料がありましたので、参考にさせていただきました。
●ツクバネソウの葉は4枚(たまに5枚~6枚)、クルマバツクバネソウは6~8枚
●クルマバツクバネソウは葯隔(やくかく)が突き抜ける
●ツクバネソウは花弁が無い、クルマバツクバネソウは糸状の花弁が4個
●ツクバネソウの子房(雌しべの基部)は緑色、クルマバツクバネソウの子房は黒色
●ツクバネソウの葉は長楕円形、クルマバツクバネソウは倒披針形
見た目に目立たず、パッと見ただけでは花弁の落ちて雄しべだけが残っているような形状のため、フラワーハイキングなどをしていると見落としがちのクルマバツクバネソウですが、私も尾瀬で初めて観察した際には、その形状をゆっくり説明してもらいましたが、そのユニークな形状を細かく説明してもらううちに、いつの間にか心を奪われてしまった花でした。