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イエロー・レディース・スリッパー(Cypripedium parviflorum)

気付けばパリ・オリンピックが開幕しました。東京オリンピックか3年(延期になったため)が経過していたのかと思うと、時が過ぎるのが早い、早すぎる気もします。

 

本日は、カナディアンロッキーで観察した黄色いアツモリソウ『イエロー・レディース・スリッパー』(Cypripedium parviflorum)をご紹介します。

 

イエロー・レディース・スリッパー(Cypripedium parviflorum)

 

被子植物 単子葉類
学名:Cypripedium parviflorum
英名:イエロー・レディース・スリッパー(Yellow Lady’s Slipper)
現地名:婦人のスリッパ―、モカシン
科名:ラン科(Orchidaceae)
属名:アツモリソウ属(Cypripedium)

 

みなさん、「アツモリソウ」と言えば何色をイメージされるでしょうか。
ブログにてこれまで紹介したアツモリソウは白色の『レブンアツモリソウ(礼文敦盛草)』と紅色の『ホテイアツモリソウ(布袋敦盛草)』の2種、今回は3種目の黄色いアツモリソウをご紹介します。

 

今回ご紹介する『イエロー・レディース・スリッパー』(Cypripedium parviflorum)は、カナダのユーコン州~ブリティッシュコロンビアを経て東部海岸地帯~ニューファンドランドまで、アメリカはアラスカ南東部~ワシントン州、オレゴン州を経て東部海岸まで、南はルイジアナ州~テキサス州、ニューメキシコ州まで、アリゾナ州にも分布しているようで、かなり広範囲に分布します。また、分布が広いため個体差が幅広く、草丈や花色、形に様々な変化がでるようです。
今回はカナダ・アルバータ州のバンフ国立公園、ブリティッシュ・コロンビア州のヨーホー国立公園で観察することができました。

 

一般的に花期は5~7月。林床内の湿った場所などを好み自生し、草丈は10~30cmほど。ある資料には茎や葉に微毛が確認できるとありましたが、花の撮影に夢中になり過ぎて確認することができませんでした。来シーズンの宿題です。

 

その微毛が確認できるという葉の長さ5~10cmほどの披針形、4枚前後の葉を互生して付けていましたが、日本で観察したレブンアツモリソウ、サハリン南部で観察したホテイアツモリソウの若干丸みのある楕円形の葉に比べて、シュッとした印象を持ちました。また、花のすぐ後ろに苞葉が1枚付いています。

 

茎の頂部にアツモリソウの特徴である袋状(唇弁)の花を1つ付けます。
この種の資料にも「稀に2つ付ける」とありましたが、今回観察したバンフ国立公園やヨーホー国立公園では、2つ付けた個体は確認できませんでした。

 

アツモリソウ最大の特徴である花の袋状の部分(唇弁)は3cm弱とレブンアツモリソウに比べて一回りも二回りも小さい印象。ここまで「黄色いアツモリソウ」と紹介していましたが、色合いは先日紹介した『グレーシャー・リリー』と同様、レモンイエローという表現がぴったりの色合いです。

 

袋状の唇弁の両脇に垂れ下がるように伸びる部分は側花弁、2枚の側花弁の真ん中から帽子のひさしのように垂れ下がるのが背萼片。レブンアツモリソウやホテイアツモリソウの側花弁や背萼片は袋状の唇弁とほぼ同色ですが、このイエロー・レディース・スリッパーの側花弁は唇弁と全く色合いが異なり、薄黄緑色~赤茶~茶色の色合いとなり、色合い以上にユニークだったのが、側花弁がらせん状に捻りが入っていたことです。

 

もう一度イエロー・レディース・スリッパーの写真をご覧ください。
袋状の唇弁に『赤い斑点』があるのが確認できませんか?この赤い斑点、現地では面白い言い伝えが残っていましたので、最後にご紹介します。

 

昔、ある先住民の酋長の娘が森で遊んでいたら、1匹のウサギが足に怪我を負い、涙を流して泣いていたそうです。
可愛そうに思った娘は、ウサギがこれ以上足を痛めないように彼女の穿いていた『モカシン』(バッファローの皮で作った靴)をあげたそうです。
その後、ウサギと別れた娘は集落へ戻ったのですが、ウサギにモカシンをあげて裸足になった娘の足の裏には擦り傷ができ、それでも集落を目指して森を歩き続ける中、あまりの痛さと疲労で森の中で倒れ、そのまま気を失ってしまいました。
しばらくして、小鳥がこの娘を見つけ、この心優しい娘を助けてくれるよう、偉大な森の精霊にお願いしました。
娘が目を覚ますと、木の幹に美しい黄色いモカシンが吊るされており、娘は血が出ている足にこのモカシンを履き、無事に集落へ戻ることができたそうです。
もうお気づきかと思いますが、イエロー・レディース・スリッパーの赤い斑点は、森の精霊からプレゼントされたモカシンを履いた心優しい娘の血の跡と言われています。

 

今回、ツアー前半のバンフ国立公園で観察でき、後半のヨーホー国立公園でも観察できました。後半のヨーホー国立公園でイエロー・レディース・スリッパーの観察に夢中になっていると、その傍らに! 何と・・・!?
そろそろお時間のようなので、この続きはまた次回。

 

イエロー・レディース・スリッパー(ラン科アツモリソウ属)
イエロー・レディース・スリッパー(ラン科アツモリソウ属)
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グレーシャー・リリー(Erythonium grandiflorum)

先日『花咲くカナディアンロッキー・ハイキング 黄色いグレーシャー・リリーをもとめて』へ同行させていただき、残雪の影響で予定のハイキングトレイルを歩けない日もありましたが、私個人の念願だった黄色いカタクリ「グレーシャー・リリー」をはじめ、カナディアンロッキーに咲く花々を存分に楽しむことができました。

 

本日はツアータイトルにも謳い、私自身の念願だった『グレーシャー・リリー』(Erythonium grandiflorum)をご紹介します。

 

グレーシャー・リリー(Erythonium grandiflorum)

 

被子植物 単子葉類
学名:Erythonium grandiflorum
英名:グレーシャー・リリー(Yellow Glacier Lily)
科名:ユリ科(Liliaceae)
属名:カタクリ属(Erythronium)

 

カタクリと聞くと、日本に咲く淡い紫色の花をイメージされる方が多いと思います。観察されたことのない方は、同ブログ内の『カタクリ』をご覧ください。

 

日本で観察できる淡い紫色のカタクリ(Erythronium japonicum)は、日本(北海道~九州)、北東アジア(朝鮮半島、サハリン、千島列島)に自生する品種で、今回ご紹介する『グレーシャー・リリー』(学名:Erythonium grandiflorum)も同じユリ科カタクリ属の多年草です。

 

『グレーシャー・リリー』(学名:Erythonium grandiflorum)は、北米大陸のカナダ南西部(ブリティッシュ・コロンビア州、アルバータ州)、アメリカ合衆国西部(ニューメキシコ州、カリフォルニア州)に分布し、今回はカナダ・アルバータ州のカナディアンロッキーのバンフ国立公園にて観察することができました。

 

標高などによって異なりますが、一般的に花期は5~7月。日本のカタクリと同様に雪解けを迎えた林床で花が咲き始めます。

 

草丈は10~30cmで日本のカタクリよりは若干草丈は高い印象。長い茎の先端(頂部)に花をつけて前屈みのような姿は同じでした。
花弁は6枚でツアータイトルでは「黄色」と表記しましたが、実際は非常に鮮やかで「レモン色」(レモンイエロー)と表現する方がイメージに合う色合いで、6枚の花弁が外向きに大きく反り返る特徴は同じでした。

 

葉は2枚の根生葉を付け、長さは10~15cmの披針形。若干の光沢が確認できましたが、日本のカタクリのような斑模様(古い株につく模様)は確認できませんでした。実際、グレーシャー・リリー(Erythonium grandiflorum)の葉には斑模様は付かないそうです。
ただ、現場でハイキングを楽しんでいる際に『斑模様の付く黄色いカタクリ』を確認しました。
帰国後に調べてみると、同じ北米大陸に自生する黄色くカタクリには葉に斑模様をつける『アメリカ・カタクリ』(Erythronium americanum )という種類もあるそうです。

 

実際にカナディアンロッキーのバンフ国立公園で観察した斑模様を付けたものが『アメリカ・カタクリ』(Erythronium americanum)のものだったのか・・・来年以降の宿題とします。

 

その他、黄色いアツモリソウ『イエロー・レディース・スリッパー』や白いアツモリソウ『マウンテン・レディー―ス・スリッパ―』、黄色いチョウノスケソウ等々、様々な花を観察しましたが、それはまた次回のお話・・・。

 

葉に斑模様のないグレーシャー・リリー(Erythonium grandiflorum)
葉に斑模様のつくのは『アメリカ・カタクリ』(Erythronium americanum)??