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ヤチトリカブト(谷地鳥兜:Aconitum senanense ssp. paludicola)

2020年最後の投稿となります。
今年はコロナウイルスの影響に伴い、とんでもない一年になってしまいました。
4月に緊急事態宣言が出され、弊社でもテレワークの日々が続いたこともありました。その頃から日本国内の花の紹介を続けてきましたが、2020年最後は「ヤチトリカブト(谷地鳥兜:Aconitum senanense ssp. paludicola)」をご紹介します。

 

ヤチトリカブト(谷地鳥兜:Aconitum senanense ssp. paludicola)

 

被子植物 双子葉類
学名:Aconitum senanense ssp. paludicola
科名:キンポウゲ科(Ranunculaceae)
属名:トリカブト属(Aconitum)

 

トリカブト属は、ドクウツギやドクゼリと並んで日本三大有毒植物の一つとされており、日本国内には約20種が自生しています。
本州の北アルプスに分布し、亜高山帯~高山帯の湿った草地などに自生する日本固有の花です。
「ヤチ」とは湿地を意味することから、和名に用いられています。
私も上高地で観察したことがありますが、その際に「上高地で最初に発見された種類」とガイドさんより伺ったことを覚えています。
※今回掲載の写真は、弊社大阪支社・楠と東京本社・島田が「北アルプス 槍ヶ岳銀座ルート登山」のツアーに同行させていただいた際、上高地をスタートした直後に観察・撮影した写真です。

 

草丈は70~150㎝で直立し、葉は3~5裂、中裂~深裂しています。
花期は8~9月。茎頂は分枝し、葉の付け根部分から花柄を伸ばし、先端に5~10個の青紫の色鮮やかな花を咲かせます。
花の付き方も、標高の高低によって異なり、高山帯では散房花序(さんぼうかじょ:主軸が短く、長い柄をもった花が間を詰めて花がつく)、標高が比較的低い場所では円錐状花序(複総状花序とも言い、主軸が長く伸び、柄のついた間隔を開けて伸び、その先端にさらに同様に総状花序がつくもの)となります。
雄しべは無毛で、萼と花柄には開出した単純毛と腺毛が多く確認できます。

 

ある資料にトリカブトの見分け方が紹介されており、トリカブトで見られる花柄の毛は3種類あるそうです。
ヤチトリカブトは花柄の毛が開出毛(茎に対して直角に生える毛)であるのが特徴と記されていました。
その他、ガッサントリカブトやミヤマトリカブト、キタダケトリカブトなどは花柄全体が屈毛(先が曲がった毛)、タカネトリカブトは無毛とのことでした。
この点を観察の際に見分けるには虫メガネがルーペが必要かもしれませんが、非常に興味深い見分け方の紹介でした。来夏、上高地へ自然観察を楽しむツアーの造成を予定しておりますが、その際にはトリカブトの観察のため、ルーペを持って出掛けたいと思います。

 

トリカブトの名前の由来は、古来の衣装である鳥兜・烏帽子に似ているからとも、鶏の鶏冠(とさか)に似ているからとも言われ、海外では「僧侶のフード(monkshood)」と呼ばれています。
以前、ピレネー山脈で観察した「060.リコクトヌム・トリカブト(Aconitum lycoctonum)」も是非ご覧ください。

 

2021年もしばらくの間は感染症対策に気を付けながらの生活が続くと思います。
この「世界の花だより」のブログが少しでも皆様の気晴らしページとなるよう、2021年も頑張って更新していきたいと思います。
また、2021年07月に乗鞍や上高地でフラワーハイキングを、さらには尾瀬でのフラワートレッキングのツアー造成を進める予定です。
興味がある方は、是非大阪支社へご連絡ください。

 

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ヤチトリカブト

 

 

060

リコクトヌム・トリカブト(Aconitum lycoctonum)

先日、南極半島ではじめて緑色の雪が発見された地域を地図化したという興味深いネットニュースを見つけました。研究を率いたケンブリッジ大学植物科学科のMatt Davey教授は「雪面で1,679個の緑藻類の花を見つけました」と語っています。
緑藻類の花は、南極大陸で最も温暖化が進んでいる南極半島の西海岸に沿った島々で発生し、暖かくなるにつれて南極の雪面で胞子が発芽し、雪解け水の流れに乗って成長していくそうです。
また、野生動物の糞によって藻類が繁殖し、雪が緑色になることも判り、研究チームが地図化した緑藻類の花の60%以上は、ペンギンのコロニーやアザラシの生息地域の海岸から3マイル(約4.8km)以内で発見されたそうです。
未だ緑の雪がどのような影響をもたらすか不明な部分も多いようですが、グリーンランドで行われた雪原藻類の研究では、雪が吸収する日光と熱の量を増加させ、氷を早く溶かしてしまうことがわかっています(南極では過去10年間で3倍の氷が失われています)。今後の研究結果にも注目していきたいと思います。

 

本日はドクウツギやドクゼリと並んで日本三大有毒植物の一つとされるトリカブトの一種、ヨーロッパなどに自生する珍しい色合いのトリカブトである「リコクトヌム・トリカブト(Aconitum lycoctonum)」をご紹介します。

 

リコクトヌム・トリカブト(Aconitum lycoctonum)

 

被子植物 双子葉類
学名:Aconitum lycoctonum(アコニツム・リコクトヌム)
別名:Aconitum vulparia(アコニツム・ブルパリア)
英名:Yellow Wolfsbane
科名:キンポウゲ科(Ranunculaceae)
属名:トリカブト属(Aconitum)

 

リコクトヌム・トリカブト(Aconitum lycoctonum)は、毒草で有名なトリカブトの一種です。トリカブトはキンポウゲ科と案内すると驚かれる方も多いです。

 

ピレネー山脈、ヨーロッパ・アルプス、アペニン山脈(イタリア半島を縦貫する山脈)にかけての山岳地帯、西アジアにも自生する多年草です。私が観察したのは、スイスやピレネー山脈でのフラワーハイキング時でした。

 

草丈は50~120㎝と高く、開けた林内や標高2,000m前後の草原・牧草地などに自生します。
葉は掌状に3~6中裂し、全草が有毒で、とくに根には強い毒性があります。

 

花期は6月~9月、無毛の茎先に穂状の総状花序(総 (ふさ) の形になっている花のつき方)、長い花柄(かへい:花軸から分かれ先端に花をつける小さな枝)の先にクリーム色の花を咲かせます。
世界に約300種、日本には約30種が自生するそうですが、トリカブトと言えば紫色というイメージが強いため、クリーム色の花を「トリカブトですよ」と説明しても驚かれたり、信じてもらえないことがあります。

 

トリカブトの名前の由来は、花の形状が鳥兜・烏帽子に似ていることから名付けられたと言われており、海外では「僧侶のフード(monkshood)」と呼ばれています。

 

花弁がめしべやおしべを包んでいるような形状をしているように見えますが、実はクリーム色の部分は花弁ではなく、全て萼片(がくへん:花の最も下(外)側に生ずる器官で,葉の変形したもの)です。
合計5枚の萼片をもち、一番上の1枚(上萼片)は兜状で蜜を貯め込んだ部分を守る形状であり、雨対策の意味合いを持ちます。
ある資料には2枚の側萼片は受粉活動を担うマルハナバチの姿勢を制御する役割をもち、下萼片2枚はマルハナバチが花にとまるときの足場の役割をもち、この4枚の萼片がないと、効率的に花粉をつけられないとありました。

 

トリカブトの花弁は一番上の1枚(上萼片)に隠れており、上部が山菜のゼンマイのように渦を巻いており、そこに蜜を貯め込みます。トリカブトの形状は盗蜜できない構造となっており、虫媒花として最も進化した花とも言われています。

 

ピレネー山脈で上萼片に隠れているリコクトヌム・トリカブトの花弁を観察しようと思い、手を伸ばした際に現地ガイドから止められたことを覚えています。花に手をかけることに対して注意されたのか、毒性で危険だから止められたのか・・・そこまで覚えていませんが、一度じっくりと観察してみたいです。

 

リコクトヌム・トリカブト(Aconitum lycoctonum)②