153

ヤクシマシオガマ(屋久島塩竃:Pedicularis ochiaiana)

本日は「ヤクシマシオガマ(屋久島塩竃:Pedicularis ochiaiana)」をご紹介します。

 

ヤクシマシオガマ(屋久島塩竃:Pedicularis ochiaiana)

 

被子植物 双子葉類
学名:Pedicularis ochiaiana
科名:ハマウツボ科 (Orobanchaceae)
属名:シオガマギク属(Pedicularis)

 

以前はゴマノハグサ科に分類され、多くの資料でもゴマノハグサ科で紹介されていますが、新しいAPG植物分類体系ではシオガマギク属やコゴメグサ属、ママナコ属などがハマウツボ科に移行されています(多くは半寄生、一部全寄生、ただし二属Lindenbergia・Rehmanniaは独立栄養)。

 

ヤクシマシオガマ(屋久島塩竃)は、屋久島の固有種の1つで環境省絶滅危惧Ⅱ類(VU)に指定される高山植物です。
屋久島の高所(標高1,200m以上)に分布し、日当たりが良く少し湿り気のある草地、ヤクザサやシャクナゲの茂みなどに自生します。私も黒味岳の山頂直下で観察することができました。

 

草丈は20~30cmで濃紅色の茎が直立、もしくは茎頂に花をたくさんつけた個体は少し斜上しているものもあります。
葉は長さ5~10cmほどで羽状に全裂したものが対生し、表面には毛が散生しているのも確認ができます。茎の上部になるにつれて葉が小さくなります。ある資料に「シダのような葉をつける」とありますが、葉を確認するとそういう印象を受ける形状です。上写真で、少しぼやけていますが、シダのような葉が確認していただけます。

 

花期は8~9月。茎の先端部に3~5cmの花穂をたて、2~3cmほどで淡いピンク色の花を5~10個ほど咲かせます。
花冠はシオガマギク属の花らしく、上唇部と下唇部に分かれます。
上唇部は、兜型で真ん中あたりで急にこちらを向いて曲がっているという印象です。また下側にクリーム色に近い色合いの軟毛が密集しているのが印象的です。
下唇部は、写真を確認すると扇子を広げたような形状の花弁1枚のように見えますが、実際は1枚の花弁が中ほどで3裂しています。裂片部分が外側に反り返って(巻き込んで)いるため、そのように感じたのかもしれません。

 

下の写真は、一輪だけ落ちてしまっていたものを岩場にのせて観察したものですが、上唇部の軟毛や下唇部が3裂している様子が判りやすいかと思います。

 

屋久島の高山植物の花々は矮小化(小型化)したものが多いと紹介しましたが、このヤクシマシオガマ(屋久島塩竃)は本州などで観察できるシオガマギク属の仲間と大きさに大差はなく、そのため屋久島・黒味岳直下でも非常によく目立ち、非常に楽しく観察することができました。

現在、屋久島の植生観察ツアーを絶賛造成中!まもなく発表できますので、お楽しみに!!

 

一輪だけ落ちてしまっていたものを岩場にのせて観察

 

<冬から春 オススメのツアー>
12月コースは催行間近!
桜島の溶岩ウォークと鹿児島の2つの半島を巡る旅
※薩摩半島の指宿では、12月~1月は名の花の咲くシーズン

 

2月21日出発が催行決定!!
冬の奇跡 美瑛の雪原とオホーツクの流氷世界
※流氷の上を歩く流氷ウォーク®と美瑛の丘で絶景スノーシュー体験

干潮時に対岸の象島まで砂州が出現する「堂ヶ島トンボロ現象」
静岡の美景めぐり 河津七滝・堂ヶ島・寸又峡へ
※伊豆半島ジオパークの4つのジオサイトから奥大井の秘境「寸又峡」を巡る

145

ヨツバシオガマ(四葉塩釜:Pedicularis japonica)

本日は「ヨツバシオガマ(四葉塩釜:Pedicularis japonica)」をご紹介します。
7月に「花咲く千畳敷カール・乗鞍・上高地を歩く」に同行させていただいた際、千畳敷カールと乗鞍畳平にて観察することができました。

 

ヨツバシオガマ(四葉塩釜:Pedicularis japonica)

 

被子植物 双子葉類
学名:Anemone narcissiflora
科名:ハマウツボ科(Orobanchaceae)
属名:シオガマギク属(Pedicularis)

 

ヨツバシオガマ(四葉塩釜)は、日本固有の花であり、シオガマギク属の花の中で最もよく見かける花の1つです。北海道から本州の中部地方以北の高山帯に分布すると紹介されています。
ただ、近年行われた遺伝子解析により、ヨツバシオガマと呼ばれている種が大きく2つに分かれることが分かったそうです。

 

1.福島、新潟、山形に跨る飯豊山地から北に自生するもの(北方系)
→「キタヨツバシオガマ(別名:ハッコウダシオガマ)」と呼びます

2.上記より南(月山以南~中部地方以北)に分布するもの(南方系)
→従来の「ヨツバシオガマ」と呼ばれていたもの

 

ここからは従来のヨツバシオガマ(上記2)について、ご紹介します。

 

ヨツバシオガマ(四葉塩釜)は、亜高山帯~高山帯の湿地(湿り気のある草地)に自生する多年草。イネ科やカヤツリグサ科の植物の根に寄生して養分を分けてもらうため、近くに宿主のある草原に自生することから、シオガマギク属は『半寄生植物』と紹介されます。
草丈は10~30㎝で直立し、葉は1~3段に分かれ、各段4枚の葉が輪生します。「4枚の葉がつく」ことが花の名の由来です。
輪生する葉は、長さ2~5cmで長楕円状披針形で羽状全裂し、裂片はさらに羽状に中~深裂します。

 

花期は6~8月。茎の上部で2~6段に分かれ、ピンク色(薄紫色)の花を4つほど輪生して花を咲かせます。
花の形状の最大の特徴は「嘴のように伸びた」部分ですが、3枚の花弁と1つの唇弁に分かれているように見えますが、ヨツバシオガマの花冠は2唇形。
細長く下向きに伸びる上唇弁は、先端が嘴のように尖る形状をしていますが、根元から下向きに伸びているのではなく、上唇弁の中ほどから下向きに曲がっているのが、写真をご覧いただくと判ります。
下唇弁は、3枚ではなく、3つに深裂している状態です。

 

高山植物のルーツは、北極圏付近に自生していた寒さに強い植物が氷河期に日本にやってきて、暖かくなると高山に取り残されて生き残った植物だと考えられているものが多くあり、ヨツバシオガマもその1つとされています。
ある資料には、古い氷河期に北極圏からやってきて暖かくなった時に高山に残されたのがヨツバシオガマ、新しい氷河期に北極圏からやってきたのがキタヨツバシオガマであるという、興味深い考えもありました。
これまで北海道~中部地方異国の亜高山帯~高山帯に咲く「ヨツバシオガマ」という認識だったこともあるので、いつかしっかりと見比べてみたいものです。

 

ヨツバシオガマ(四葉塩釜:Pedicularis japonica)
081

キバナシオガマ(黄花塩竃:Pedicularis oederi)

現在、「大雪山山麓一周と能取湖のサンゴ草」のツアーに同行させていただいており、秋の紅葉と共にわずかに残る秋の花も楽しんでいます。

また後日、このブログで紹介させていただきます。

 

本日は「キバナシオガマ(黄花塩竃:Pedicularis oederi)」をご紹介します。

 

キバナシオガマ(黄花塩竃:Pedicularis oederi)

 

被子植物 双子葉類
学名:Pedicularis oederi
科名:ハマウツボ科(Orobanchaceae)
属名:シオガマギク属(Pedicularis)

 

キバナシオガマ(黄花塩竃)を含むシオガマギク属は、ハマウツボ科に分類されます。資料によってはゴマノハグサ科(Scrophulariaceae)と記載のあるものもあり、私自身もゴマノハグサ科という認識を持っていました。これはいくつかある分類体系によるもののようです。

 

キバナシオガマは北半球の高山帯や寒冷地の礫地や草地に分布し、日本国内では北海道の大雪山の一部にのみ生育します。私も以前、大雪山縦走登山ツアーの添乗の際、昼食タイムの際に観察したのを覚えています。今回使用した写真も弊社森田が大雪山・銀泉台で観察・撮影したものです。

 

先日ご紹介したレブンシオガマなど、シオガマの花の種類は多く、日本国内にも15種ほど分布し、その多くが日本固有の種です。そんな中でも黄色の花を咲かせる種はキバナシオガマのみです。数も少ないことから、絶滅危惧ⅠB類(EN)に指定されています。
海外では黄色のシオガマギク属の花は比較的観察され、以前に紹介したペディクラリス・ロンギフロラ・トゥビフォルミス(Pedicularis longiflora tubiformis)もその1つです。

 

草丈は10~20㎝で直立し、茎は根の部分で分枝します。
葉は長さ1~1.5㎝で全体的に根元に集中し、羽状に切れ込みが入っています。ただ、茎の上部に向かって付く葉もあり互生しています。
また、根元にある葉は皺の寄ったように見える形状をしているのも特徴的です。いつの日か観察した際にお客様が「かわいい毛虫みたい」って表現されたことを今でも覚えています。

 

花期7~8月、花は長さ2㎝ほどで淡いレモン色の花で小鳥の嘴を思わせる上唇の先端が赤褐色(茶色に感じることも)という色合いで、シオガマの花特有の形状が見られます。茎の上部から茎頂に総状花序を作り、10個ほどの花を密集して付けます。

 

ある資料にシオガマ(塩竃)という和名の由来は、シオガマは花だけでなく葉まで(浜で)美しいことから、海辺で趣のある塩竃(海水を汲み入れて塩を精製するかまど)の名がついたと言われているそうです。私も初めて知った由来でした。

 

キバナシオガマ(黄花塩竃:Pedicularis oederi)②

 

066

レブンシオガマ(Pedicularis chamissonis var rebunensis)

先月、我が家の嫁さんが塊根植物の一種である「アデニウム・オベスム(Adenium obesum)」を購入し、その後も大事に育ててくれています。
少しずつですが成長しており、蕾も大きくなり、花が咲く日も近いようです。砂漠のバラと称される美しい花が咲くと聞いているので、非常に楽しみです。

 

本日は北海道・礼文島に咲く「レブンシオガマ(Pedicularis chamissonis var rebunensis)」をご紹介します。今回の写真は、弊社が知床半島・羅臼にて営業している「知床サライ」に在籍する森田が撮影したものを拝借させてもらいました。

 

レブンシオガマ(Pedicularis chamissonis var rebunensis)

 

被子植物 双子葉類
学名:Pedicularis chamissonis var rebunensis
和名:礼文塩竈
科名:ハマウツボ科(Orobanchaceae)
属名:シオガマギク属(Pedicularis)

 

レブンシオガマは北海道北部の礼文島に自生し、ハマウツボ科シオガマギク属の多年草、礼文島の固有種です。今回の写真も森田が6月末に礼文島で観察したもので、私も国内添乗員時代(まだ若かれし頃)に礼文島の桃岩展望台で群生を観察したことを覚えています。

 

資料によってはゴマノハグサ科(Scrophulariaceae)に分類されていますが、分類の体系によって異なるそうですが、現在ではハマウツボ科に属します(私もゴマノハグサ科という認識でした)。

 

シオガマギク属は北半球に広く分布し、約500種もあります。
有名なヨツバシオガマ(四葉塩竈:Pedicularis japonica)、キタヨツバシオガマ(北四葉塩竈:Pediculasis chamissonis var. hokkaidoensis)、レブンシオガマ(礼文塩竈)などがありますが、実際に分類、見分けが非常に難しく、現場でも「シオガマですよ」と案内してしまうことが大半です。
キタヨツバシオガマ(北四葉塩竈)、レブンシオガマ(礼文塩竈)はヨツバシオガマの変種とされており、資料によってはキタヨツバシオガマとヨツバシオガマは区別をしない、ヨツバシオガマの大型種をハッコウダシオガマ(またはキタヨツバシオガマ)と呼ぶこともあるが、厳密に区別することはできないという資料など様々あり驚きました。

 

レブンシオガマは、草丈が70~100㎝で直立し、ヨツバシオガマに比べると大きく成長します。
葉の形状は羽状全裂で、見た目には鋸のような形状はシオガマギク属の特徴と同じですが、ヨツバシオガマとの大きな違いは、葉の付き方と数です。
ヨツバシオガマはその名のとおり、葉が4枚ずつ輪生(茎の一節に3枚以上が車輪状になってつくつき方)するのに対し、レブンシオガマは葉が5~6枚輪生するのが特徴です。
先程、見分けが難しいと記載しましたが、今回の写真を見た際にヨツバシオガマかレブンシオガマか非常に迷いましたが、写真を大きくアップにしてみると、葉が5枚輪生していることがわかり、レブンシオガマと判別しました(森田にも確認をしてもらいました)。

 

1つ1つの花は小さく、淡紫~紅紫色の色合いで、2㎝ほどの長さで2唇形の花弁を持ちます。
上唇の部分が鋭く尖って下向きになっています。まるでハチドリの嘴のような形状がシオガマギクの特徴で、印象深い姿をしています。

 

花期は6~7月、花は直立した茎に対して20~30段ほど輪生してつけ、花は下から順に咲いていきます。他のシオガマギク属の花に比べると輪生して花をつける段数が多いのも特徴です(背丈が高いのが原因かと)。

 

シオガマギク属の花の見分け方、分類などはまだまだ勉強が必要ですが、レブンシオガマをはじめとするシオガマギク属の花の可憐さ・美しさは必ず足を止めてゆっくりと観察したくなる魅力ある花の1つです。勉強の成果は・・・また後日。

 

レブンシオガマ(Pedicularis chamissonis var rebunensis)

 

<レブンシオガマが観察できるツアー>
花の季節に訪れる北海道最北の旅~利尻島・礼文島から宗谷岬、知床半島へ~
上鶴篤史氏同行シリーズ
礼文島「愛とロマンの8時間コース」と利尻島、サロベツ、宗谷丘陵ネイチャーハイキング
北海道大自然をぐるっとめぐる旅

 

029

ペディクラリス・ロンギフロラ・トゥビフォルミス(Pedicularis longiflora tubiformis)

先日エクアドルへの海外添乗より帰国後、近所に淡い紫色のツユクサが咲いていました。
わずかな数でしたが、沿道に咲くツユクサの花を観て、仕事の疲れを癒してくれるくれる可憐な花でした。

 

本日はシオガマギク属の花を1つ紹介したいと思います。
「シオガマギク(塩竈菊)」と聞いて、皆様は何色の花を思い浮かべるでしょうか?
やはりピンク色のシオガマギクの花が一番イメージする色合いでしょうか。

 

今回ご紹介するシオガマギク属の一種「ペディクラリス・ロンギフロラ・トゥビフォルミス(Pedicularis longiflora tubiformis)」は、花弁が印象的な色合いのシオガマギク属の花です。

 

シオガマギクの一種 ペディクラリス・ロンギフロラ・トゥビフォルミス

被子植物 双子葉類
学名:ペディクラリス・ロンギフロラ・トゥビフォルミス(Pedicularis longiflora tubiformis)
科名:ハマウツボ科(Orobanchaceae) 属名:シオガマギク属(Pedicularis)

 

鮮やかな黄色の色合いがとても印象的な「ペディクラリス・ロンギフロラ・トゥビフォルミス(Pedicularis longiflora tubiformis)」は、インドのカシミールやザンスカール地方、ブータン、チベット、中国の雲南省や四川省に分布しています。私が初めてこの花を観察したのが、インドのザンスカール地方でした。

 

ヒマラヤなどの標高4,000m前後の高山地帯では、夏の時期になると高峰の氷河が解け始め、谷間に流れ込みます。高峰の氷河や雪などの解けた水が湿地帯を形成しますが、ペディクラリス・ロンギフロラ・トゥビフォルミスはそのような湿地帯や沼沢地に自生します。
花期は6~8月。背丈は10~30㎝、葉身は細長く2~4㎝ほどの長さ、鋸歯があるのが特徴です。

 

花冠は鮮やかな黄色(黄金色)で、下唇の基部にえんじ色の斑点があり、この斑点が鮮やかな黄色の色合いを、より印象深い色合いに演出しているように感じます。

シオガマギク属の特徴の1つである上唇のくちばしは螺旋状にねじれ、下唇は幅2㎝弱で3つに分かれており、ハート型をしています。

 

日本でも、黄色のシオガマギク属「キバナシオガマ(黄花塩竈)」がありますが、より鮮やかな黄色とえんじ色が印象的なペディクラリス・ロンギフロラ・トゥビフォルミスの花の時期は6~8月です。
ザンスカールの観光にベストなシーズンです。この時期のザンスカールでは、別の種類のシオガマギク属の花も観察することができます。
様々な色合いのシオガマギクの花を求めて、是非ザンスカール地方へ訪れてみてください。

黄金色とえんじ色の斑点が印象的なペディクラリス・ロンギフロラ・トゥビフォルミス