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北米と南米に咲く『レディース・スリッパー』の違い

8月も終わろうとしていますが、8月はブラジルのレンソイス、カナダのユーコンと2つの添乗業務が続いたため、嫁さんとは合間に買い物に出掛けたくらいで、特にどこにも出掛けられませんでした。のんびり温泉旅行でも計画したいと思います・・・もう少し涼しくなってから。

 

前々回は『イエロー・レディース・スリッパー』、前回は『マウンテン・レディース・スリッパー』という、北米大陸のカナディアンロッキーで観察した花を紹介しましたが、英名や現地名で『レディース・スリッパー』(Lady’s slipper)と呼ばれる花が南米大陸の最果ての地パタゴニアにも存在することはご存じでしょうか。

 

過去の『世界の花だより』の中でも紹介させていただきましたが、今回は北米大陸に咲く『レディース・スリッパー』と南米大陸に咲く『レディース・スリッパー』、それぞれの違いをご覧いただきたいと思います。

 

◆北米大陸・カナディアンロッキーに咲く『レディース・スリッパー』

イエロー・レディース・スリッパー(Cypripedium parviflorum)

①イエロー・レディース・スリッパー(Cypripedium parviflorum)
こちらはカナディアンロッキーに咲くラン科アツモリソウ属の黄色いアツモリソウです。現地では『婦人のスリッパ―』と呼ばれており、先住民族の酋長の娘がウサギを助けるために自身が履いていた履き物を与えたという言い伝えから、『モカシン』(バッファローの皮で作った靴)とも呼ばれています。

 

 

マウンテン・レディース・スリッパー(Cypripedium montanum)

②マウンテン・レディース・スリッパー(Cypripedium montanum)
こちらもカナディアンロッキーに咲くラン科アツモリソウ属の白い色のアツモリソウです。マウンテン・レディース・スリッパーも現地では『婦人のスリッパ―』と呼ばれており、その他『白い婦人のスリッパー』『女王のスリッパー』などと紹介する資料もありました。

 

◆南米大陸・パタゴニアに咲く『レディース・スリッパー』

ビフローラ・カルセオラリア(Calceolaria biflora)

①ビフローラ・カルセオラリア(Calceolaria biflora)
花名を『レディース・スリッパー』、女性の履き物に例えられた花を最初に観察したのが『ビフローラ・カルセオラリア』(Calceolaria biflora)で、現地では『トパトパ』と呼ばれ、こちらも『婦人のスリッパー』や『女王のスリッパー』と呼ばれています。こちらの花は南米大陸の最果ての地パタゴニアに咲くゴマノハグサ科キンチャクソウ属の花で、確かに花の容姿は『巾着袋』に似ています。

 

ユニフローラ・カルセオラリア(Calceolaria uniflora)

②ニフローラ・カルセオラリア(Calceolaria uniflora)
ビフローラ・カルセオラリア(現地名:トパトパ)と同じく南米大陸の最果ての地パタゴニアに咲くゴマノハグサ科キンチャクソウ属の花。こちらは『レディース・スリッパー』と呼ばれている訳ではありませんが、1831年から5年にわたりビーグル号の世界一周航海に加わったチャールズ・ダーウィンに因み『ダーウィンのスリッパ』(Calceolaria darwinii)と呼ばれています。この花は、ダーウィンが発見したと言われているそうです。

 

北米大陸・カナディアンロッキーで観察できる『レディース・スリッパー』は共にラン科アツモリソウ属ですが、一方で南米大陸のパタゴニアで観察できる『レディース・スリッパー』はゴマノハグサ科キンチャクソウ属。
科名や属名に違いはあれど、遠く離れた4つの花を女性の履き物(うち1つは男性のスリッパーですが、そのへんはご愛嬌)に例えるところはオシャレに感じるところです。因みに、南米大陸・パタゴニアで観察できる2つの花の学名『Calceolaria』(カルセオラリア)という名前は、ラテン語で小さな靴(スリッパ)を意味する「カルセオルス」という言葉に由来します。

 

いかがでしたか、スリッパーに例えられた4つの花。皆さんはどの花が好みだったでしょうか。
北米大陸・カナディアンロッキーに咲く2種の花が好みの方は、来シーズンの『花咲くカナディアンロッキー・ハイキング』の発表をお待ちください。
南米大陸・パタゴニアに咲く2種の花が好みの方は、すでに『パタゴニアの旅』は発表しておりますので、すぐに弊社大阪支社へご連絡を!

 

2つの『Calceolaria』(カルセオラリア)が観察できるパタゴニアの旅やパタゴニアの魅力を紹介した特集ページ『風と氷河の大地パタゴニア』を是非ご覧ください。

 

そういえば、カナディアンロッキーにもう一つ『スリッパーの花』が・・・そろそろお時間となりましたので、その話はまた次回ということで。

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マウンテン・レディース・スリッパー(Cypripedium montanum)

8月3日、大阪の『なにわ淀川花火大会』が行われました。
今シーズンも嫁さんと我が家のベランダから次々と上がる花火を鑑賞することができました。ベランダや廊下から同じマンションの住民の方々が鑑賞しており、最後の大花火が終わった時、マンション中に拍手喝采が広がったのが印象的で、1つの夏の風物詩が終わったと感じた瞬間でもありました。

 

本日は『マウンテン・レディース・スリッパー』(Cypripedium montanum)をご紹介します。6月に同行させていただいたカナディアンロッキー・ハイキングにおいて、黄色いアツモリソウ『イエロー・レディース・スリッパー』の観察を楽しんでいた際にその傍らに咲いていた、個人的に最も衝撃を受けた花の1つでした。

 

マウンテン・レディース・スリッパー(Cypripedium montanum)

 

被子植物 単子葉類
学名:Cypripedium montanum
英名:マウンテン・レディース・スリッパー(Mountain Lady’s Slipper)
科名:ラン科(Orchidaceae)
属名:アツモリソウ属(Cypripedium)

 

今回ご紹介する『マウンテン・レディース・スリッパー』(Cypripedium montanum)は、カナダでは、ブリティッシュコロンビア州、アルバータ州、サスカチュワン州、アメリカ合衆国ではアラスカ州やカリフォルニア州、オレゴン州、ワシントン州、アイダホ州、モンタナ州などに分布します。
ただ、先日ご紹介したイエロー・レディース・スリッパー(Cypripedium parviflorum)に比べて個体数は少ないそうです。私が6月に訪れたアルバータ州やブリティッシュ・コロンビア州でも絶滅を危惧されている花の1つで個体の保全活動に努めているという資料もありました。

 

マウンテン・レディース・スリッパーは、林床内の湿った場所に自生し、草丈は10~40cmほど。イエロー・レディース・スリッパーに比べて大きな大差はありませんが、ほんの少し草丈が高かった印象です(観察した個体に限ったことかな?)。

 

葉はイエロー・レディース・スリッパー同様、披針形の葉が4~5枚の互生して付けています。

 

花期はカナディアンロッキー周辺では標高によって差はありますが、7月頃。茎の頂部に1~3つほど花をつけるという資料が多かったですが、私たちが観察した個体は花を1つ付けたものだけでした。

 

袋状の唇弁は3cm弱、白く淡い色合いの唇弁と帽子のひさしのように垂れ下がる鮮やかな黄色の背萼片との色の組み合わせが何とも言えない魅力を感じさせるものでした。袋状の唇弁をよく見ると「赤い斑点」が・・・これも酋長の娘のやさしさの跡(血の跡)なのかな?

 

袋状の唇弁の両脇に垂れ下がるように伸びる部分は側花弁は、イエロー・レディース・スリッパーと同じくひねりが入る特徴的なものでした。

 

6月に実施した『花咲くカナディアンロッキー・ハイキング 黄色いグレーシャー・リリーをもとめて』のツアー造成をするにあたり、グレーシャー・リリーを観察したいという想いと同時に「白いアツモリソウ=マウンテン・レディース・スリッパー」を観察したいという想いもありました。ただ、どの資料をみても「個体数が少ない」という文言が多く、ツアーページ内で紹介することを断念・・・いつしかその想いを胸にしまい込んでいました。
それだけに今回のマウンテン・レディース・スリッパーを見つけた時の衝撃と感動・・・添乗員という立場を忘れ、夢中になって観察・撮影を楽しませていただきました。

 

そう言えば『レディース・スリッパー』って名のついた花・・・どこかで聞いたことがある方もいらっしゃるのでは??
私の大好きな『最果ての地』にも・・・。そろそろお時間が来たようなので、この続きは次回。

 

マウンテン・レディース・スリッパ―(ラン科アツモリソウ属)
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イエロー・レディース・スリッパー(Cypripedium parviflorum)

気付けばパリ・オリンピックが開幕しました。東京オリンピックか3年(延期になったため)が経過していたのかと思うと、時が過ぎるのが早い、早すぎる気もします。

 

本日は、カナディアンロッキーで観察した黄色いアツモリソウ『イエロー・レディース・スリッパー』(Cypripedium parviflorum)をご紹介します。

 

イエロー・レディース・スリッパー(Cypripedium parviflorum)

 

被子植物 単子葉類
学名:Cypripedium parviflorum
英名:イエロー・レディース・スリッパー(Yellow Lady’s Slipper)
現地名:婦人のスリッパ―、モカシン
科名:ラン科(Orchidaceae)
属名:アツモリソウ属(Cypripedium)

 

みなさん、「アツモリソウ」と言えば何色をイメージされるでしょうか。
ブログにてこれまで紹介したアツモリソウは白色の『レブンアツモリソウ(礼文敦盛草)』と紅色の『ホテイアツモリソウ(布袋敦盛草)』の2種、今回は3種目の黄色いアツモリソウをご紹介します。

 

今回ご紹介する『イエロー・レディース・スリッパー』(Cypripedium parviflorum)は、カナダのユーコン州~ブリティッシュコロンビアを経て東部海岸地帯~ニューファンドランドまで、アメリカはアラスカ南東部~ワシントン州、オレゴン州を経て東部海岸まで、南はルイジアナ州~テキサス州、ニューメキシコ州まで、アリゾナ州にも分布しているようで、かなり広範囲に分布します。また、分布が広いため個体差が幅広く、草丈や花色、形に様々な変化がでるようです。
今回はカナダ・アルバータ州のバンフ国立公園、ブリティッシュ・コロンビア州のヨーホー国立公園で観察することができました。

 

一般的に花期は5~7月。林床内の湿った場所などを好み自生し、草丈は10~30cmほど。ある資料には茎や葉に微毛が確認できるとありましたが、花の撮影に夢中になり過ぎて確認することができませんでした。来シーズンの宿題です。

 

その微毛が確認できるという葉の長さ5~10cmほどの披針形、4枚前後の葉を互生して付けていましたが、日本で観察したレブンアツモリソウ、サハリン南部で観察したホテイアツモリソウの若干丸みのある楕円形の葉に比べて、シュッとした印象を持ちました。また、花のすぐ後ろに苞葉が1枚付いています。

 

茎の頂部にアツモリソウの特徴である袋状(唇弁)の花を1つ付けます。
この種の資料にも「稀に2つ付ける」とありましたが、今回観察したバンフ国立公園やヨーホー国立公園では、2つ付けた個体は確認できませんでした。

 

アツモリソウ最大の特徴である花の袋状の部分(唇弁)は3cm弱とレブンアツモリソウに比べて一回りも二回りも小さい印象。ここまで「黄色いアツモリソウ」と紹介していましたが、色合いは先日紹介した『グレーシャー・リリー』と同様、レモンイエローという表現がぴったりの色合いです。

 

袋状の唇弁の両脇に垂れ下がるように伸びる部分は側花弁、2枚の側花弁の真ん中から帽子のひさしのように垂れ下がるのが背萼片。レブンアツモリソウやホテイアツモリソウの側花弁や背萼片は袋状の唇弁とほぼ同色ですが、このイエロー・レディース・スリッパーの側花弁は唇弁と全く色合いが異なり、薄黄緑色~赤茶~茶色の色合いとなり、色合い以上にユニークだったのが、側花弁がらせん状に捻りが入っていたことです。

 

もう一度イエロー・レディース・スリッパーの写真をご覧ください。
袋状の唇弁に『赤い斑点』があるのが確認できませんか?この赤い斑点、現地では面白い言い伝えが残っていましたので、最後にご紹介します。

 

昔、ある先住民の酋長の娘が森で遊んでいたら、1匹のウサギが足に怪我を負い、涙を流して泣いていたそうです。
可愛そうに思った娘は、ウサギがこれ以上足を痛めないように彼女の穿いていた『モカシン』(バッファローの皮で作った靴)をあげたそうです。
その後、ウサギと別れた娘は集落へ戻ったのですが、ウサギにモカシンをあげて裸足になった娘の足の裏には擦り傷ができ、それでも集落を目指して森を歩き続ける中、あまりの痛さと疲労で森の中で倒れ、そのまま気を失ってしまいました。
しばらくして、小鳥がこの娘を見つけ、この心優しい娘を助けてくれるよう、偉大な森の精霊にお願いしました。
娘が目を覚ますと、木の幹に美しい黄色いモカシンが吊るされており、娘は血が出ている足にこのモカシンを履き、無事に集落へ戻ることができたそうです。
もうお気づきかと思いますが、イエロー・レディース・スリッパーの赤い斑点は、森の精霊からプレゼントされたモカシンを履いた心優しい娘の血の跡と言われています。

 

今回、ツアー前半のバンフ国立公園で観察でき、後半のヨーホー国立公園でも観察できました。後半のヨーホー国立公園でイエロー・レディース・スリッパーの観察に夢中になっていると、その傍らに! 何と・・・!?
そろそろお時間のようなので、この続きはまた次回。

 

イエロー・レディース・スリッパー(ラン科アツモリソウ属)
イエロー・レディース・スリッパー(ラン科アツモリソウ属)
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グレーシャー・リリー(Erythonium grandiflorum)

先日『花咲くカナディアンロッキー・ハイキング 黄色いグレーシャー・リリーをもとめて』へ同行させていただき、残雪の影響で予定のハイキングトレイルを歩けない日もありましたが、私個人の念願だった黄色いカタクリ「グレーシャー・リリー」をはじめ、カナディアンロッキーに咲く花々を存分に楽しむことができました。

 

本日はツアータイトルにも謳い、私自身の念願だった『グレーシャー・リリー』(Erythonium grandiflorum)をご紹介します。

 

グレーシャー・リリー(Erythonium grandiflorum)

 

被子植物 単子葉類
学名:Erythonium grandiflorum
英名:グレーシャー・リリー(Yellow Glacier Lily)
科名:ユリ科(Liliaceae)
属名:カタクリ属(Erythronium)

 

カタクリと聞くと、日本に咲く淡い紫色の花をイメージされる方が多いと思います。観察されたことのない方は、同ブログ内の『カタクリ』をご覧ください。

 

日本で観察できる淡い紫色のカタクリ(Erythronium japonicum)は、日本(北海道~九州)、北東アジア(朝鮮半島、サハリン、千島列島)に自生する品種で、今回ご紹介する『グレーシャー・リリー』(学名:Erythonium grandiflorum)も同じユリ科カタクリ属の多年草です。

 

『グレーシャー・リリー』(学名:Erythonium grandiflorum)は、北米大陸のカナダ南西部(ブリティッシュ・コロンビア州、アルバータ州)、アメリカ合衆国西部(ニューメキシコ州、カリフォルニア州)に分布し、今回はカナダ・アルバータ州のカナディアンロッキーのバンフ国立公園にて観察することができました。

 

標高などによって異なりますが、一般的に花期は5~7月。日本のカタクリと同様に雪解けを迎えた林床で花が咲き始めます。

 

草丈は10~30cmで日本のカタクリよりは若干草丈は高い印象。長い茎の先端(頂部)に花をつけて前屈みのような姿は同じでした。
花弁は6枚でツアータイトルでは「黄色」と表記しましたが、実際は非常に鮮やかで「レモン色」(レモンイエロー)と表現する方がイメージに合う色合いで、6枚の花弁が外向きに大きく反り返る特徴は同じでした。

 

葉は2枚の根生葉を付け、長さは10~15cmの披針形。若干の光沢が確認できましたが、日本のカタクリのような斑模様(古い株につく模様)は確認できませんでした。実際、グレーシャー・リリー(Erythonium grandiflorum)の葉には斑模様は付かないそうです。
ただ、現場でハイキングを楽しんでいる際に『斑模様の付く黄色いカタクリ』を確認しました。
帰国後に調べてみると、同じ北米大陸に自生する黄色くカタクリには葉に斑模様をつける『アメリカ・カタクリ』(Erythronium americanum )という種類もあるそうです。

 

実際にカナディアンロッキーのバンフ国立公園で観察した斑模様を付けたものが『アメリカ・カタクリ』(Erythronium americanum)のものだったのか・・・来年以降の宿題とします。

 

その他、黄色いアツモリソウ『イエロー・レディース・スリッパー』や白いアツモリソウ『マウンテン・レディー―ス・スリッパ―』、黄色いチョウノスケソウ等々、様々な花を観察しましたが、それはまた次回のお話・・・。

 

葉に斑模様のないグレーシャー・リリー(Erythonium grandiflorum)
葉に斑模様のつくのは『アメリカ・カタクリ』(Erythronium americanum)??