027

ラモンダ・ミコニ(Ramonda myconi)

本日はスペインのピレネー山脈のフランス側・ガヴァルニー圏谷で観察した「ラモンダ・ミコニ(Ramonda myconi)」をご紹介します。

ラモンダ・ミコニ/オニイワタバコ
(Ramonda myconi)

被子植物 双子葉類
学名:ラモンダ・ミコニ(Ramonda myconi)
和名:オニイワタバコ  現地名:ピレネー・イワタバコ
科名:イワタバコ科(Geseneriaceae) 属名:ラモンダ属(Ramonda)

 

ラモンダ・ミコニ(Ramonda myconi)はイワタバコ科の可憐な花で、原産地はスペインとフランスの国境に聳えるピレネー山脈です。
石灰質の岩場、礫岩の割れ目など、若干湿気の多い場所に自生し、時折思いがけない岩場の斜面などにも咲いているのが観察できます。

 

花弁は紫色(青紫色)は5枚で深く避けており、中央部の黄色い雄しべの部分との色合いが何とも印象的な花です。

草丈は10~15㎝、葉は卵型でロゼット状(地表に葉を平らに並べたように広がる状態)に広がり、葉の縁がギザギザした鋸歯で、表面にうっすらと毛が生えているのが観察できます。

 

イワタバコという名は、葉の形がタバコの葉に似ていることから名付けられました。
イワタバコの葉は昔から胃腸薬などの薬に利用されていました。ピレネー山脈のスペイン側のガイドからは、呼吸器疾患の薬としても重宝されていたという話を聞いた記憶があります。
また、このブログのために調べものをしていると、春のイワタバコの若葉はお浸しや和え物、天ぷらなどの山菜として好まれているという情報もあり、個人的に興味の沸く情報でした。

 

イワタバコ科の花は日本の山やハイキングルートでも観察できますが、ピレネー山脈が原産のラモンダ・ミコニ(Ramonda myconi)も是非ピレネー山脈で観察していただきた花です。
清水が滴り落ちる岩場に咲くラモンダ・ミコニ(Ramonda myconi)の姿は、花好きの方々の心を奪う、思わず足を止めてゆっくりと観察したくなる可憐な花です。

ラモンダ・ミコニ/オニイワタバコ
(Ramonda myconi)
025

サキシフラガ・ロンギフォリア(Saxifraga longifolia)

夏も近づき、いよいよ高山植物のシーズンがやってきました。
北半球では、高山植物と言えば7月というイメージですが、ヨーロッパのピレネー山脈は、アルプス山脈より1ヶ月ほど早い6月に花の見頃を迎えます。

 

本日は、固有種の多いピレネー山脈で観察した花の中で最も衝撃を受けた花であるユキノシタ科の一種の「サキシフラガ・ロンギフォリア(Saxifraga longifolia)」をご紹介します。

サキシフラガ・ロンギフォリア(Saxifraga longifolia)

被子植物 双子葉類
学名:サキシフラガ・ロンギフォリア(Saxifraga longifolia)
英名:King’s crown(王冠)
科名:ユキノシタ科(Saxifragaceae)  属名:ユキノシタ属(Saxifraga)

 

ユキノシタ科の仲間は、非常に大きなグループで400種以上もあると言われています。その多くがアジア、ヨーロッパ、北アメリカ、南アメリカ、アフリカに分布し、とくに高山地帯の岩場に生育します。

 

今回ご紹介する「サキシフラガ・ロンギフォリア(Saxifraga longifolia)」は、スペインでは王冠を意味する「コロナ・デ・レイ(Corona de rey)」と呼ばれているそうです。

 

スペインとフランスの国境に跨るピレネー山脈やスペイン東部の山々に生育し、ピレネー山脈では標高700~2,400mあたりの石灰岩の渓谷や、険しい断崖で観察することができるピレネーの固有種です(資料によって北アフリカのアトラス山脈でも自生するというものもありますが・・・)。

 

葉の長さは3~8㎝、幅は3~8㎜でロゼット状(地表に葉を平らに並べたように広がる状態)に広がります。
花茎の長さは30~50㎝もあり、大きな円錐花序(花序の軸が数回分枝し、最終の枝が総状花序となり、全体が円錐形をしている状態)に直径1cmほどの小さな白色の花を多数つけます。大きいものでは何と500以上の花を付けるものもあります。

サキシフラガ・ロンギフォリアの花

 

ハイキングやドライブをしながら、岩場の斜面などでサキシフラガ・ロンギフォリアを見つけた時は「岩場にイソギンチャクが貼りついている」と思ってしまう形状です。

 

このサキシフラガ・ロンギフォリアの形状以外に驚くべき点がもう1つあります。
何と開花までに5~7年(稀に2~3年)を要し、一度花を咲かせ種子が形成されてしまうと枯死してしまうのです。開花後。枯死する前に匍匐枝(ほふくけい:地上近くを這って伸びる茎のこと)が伸びて新苗を生じるようです。

 

そのため、ピレネー山脈に訪れても、場合によってはこのサキシフラガ・ロンギフォリアを観察できないかもしれません。
私が訪れた時は、現地ガイドさん曰く「当たり年」だったようで、道中の岩場の斜面の至るところに咲いていたため、5~7年に一度しか咲かないという案内が信じられませんでした。

ピレネー山脈は、ヨーロッパアルプスにはない固有種の宝庫。フラワーハイキングをしているだけで楽しい場所で、興味の尽きることのない楽園です。ユキノシタ科の花も今回紹介したサキシフラガ・ロンギフォリアだけではなく、たくさんの種類を観察することができます。
ピレネーの固有種やユキノシタ科の花は・・・また後日紹介させていただきます。

サキシフラガ・ロンギフォリア(Saxifraga longifolia)②
023

テイデ・エニシダ(Cytisus supranubius)

先日「花のカナリア諸島自然紀行」のツアーへ同行させていただき、お客様と一緒にエキウムをはじめとするカナリア諸島の様々な花の観察を楽しませていただきました。今回は、先日カナリア諸島で観察した花を1つ紹介させていただきます。

 

皆様は「エニシダ」と言えば、何色を思い浮かべるでしょうか?
最初に思い描くエニシダの花と言えば「黄色」ではないでしょうか。

 

今回ご紹介する花はそのエニシダですが、色合いが白色の、カナリア諸島原産のエニシダである「テイデ・エニシダ(Cytisus supranubius)」です。

テイデ・エニシダ(Cytisus supranubius)

被子植物 双子葉類
学名:Cytisus supranubius
現地名:レタマ・デル・テイデ(Retama del Teide)
科名:マメ科(Fabaceae) 属名:エニシダ属(Cytisus)

 

マメ科の一種であるエニシダは、ヨーロッパでは昔からエニシダの枝から箒(ほうき)を作っており、絵本などで魔女がまたがる箒(ほうき)はエニシダの枝から作ったというお話もあります。

 

アジア西部からヨーロッパ、アフリカなどの温暖な地方に約30種ほどが分布していると言われています。落葉または常緑の低木で高さは2~4mほどになります。葉は非常に細いものが多く、単葉または3裂に分かれるものがあります。花は分枝した枝の葉腋(ようえき:葉と葉のついている茎とのまたになった部分)に多数の花が開花します。

 

私たちが思い描くエニシダと言えば黄色、それ以外にも今回ご紹介する「テイデ・エニシダ」のような白色、私はまだ観察したことはありませんが、交配種には赤やピンクの花もあるそうです。

 

エニシダの花は、春から秋まで日が良く当たり、排水のよいやや乾燥気味の、弱アルカリ性の土壌で自生すると言われています。
大陸から離れたカナリア諸島では、太古の時代から独自の生態系が育まれてきましたが、今回テイデ・エニシダを観察したのは、テネリフェ島の標高約2,000mの高地で、森林限界を通過したテイデ山の展望ポイントでした。
植物にとっては厳しい環境のように感じた場所でしたが、このテイデ・エニシダは現地のガイドブックによると、葉から蒸発をなるべく減らすために葉を退化させているそうです。

 

テイデ・エニシダはカナリア諸島のテネリフェ島やラ・パルマ島などで観察できます。2019年シーズンのカナリア諸島ツアーは終了してしまいましたが、エキウム・ウィルドプレッティ(Echium wildpretii)シネラリア(Cineraria)など印象深い花も多く、同じエニシダも黄色の花が群生している場所など、花の観察の見どころの多いツアーです。
来シーズン、是非「白いエニシダ(テイデ・エニシダ)」に出会うため、カナリア諸島へ訪れてみてください。

テイデ・エニシダとスペイン最高峰テイデ山

 

 

018

カナリナ・カナリエンシス(Canarina canariensis)

2019年もまもなく4月。ここ最近、桜の開花宣言のニュースを目にするようになりました。皆さんのご近所の桜はいかがでしょうか。
今年こそは、奥さんと一緒に花見に出かけたいと思っています。

 

本日はカナリア諸島の固有種「カナリナ・カナリエンシス(Canarina canariensis)」をご紹介させていただきます。

カナリナ・カナリエンシス(Canarina canariensis)

被子植物 双子葉類
学名:Canarina canariensis
英名:Canary Island Bellflower 現地名:ビカカロ(bicacaro)
科名:キキョウ科(Campanulaceae) 属名:カナリナ属(Canarina)

 

カナリナ・カナリエンシス(Canarina canariensis)は、現地名が「ビカカロ(bicacaro)」と呼ばれるキキョウ科カナリア属、釣鐘状で印象的なオレンジ色の花を咲かせるカナリア諸島原産の花です。

 

同じキキョウ科「ホタルブクロ」とは近縁のようですが、茎葉に違いがあります。
ホタルブクロは、1つの節に茎をはさむように2枚の葉がつく対生(たいせい)なのに対し、カナリア・カナリエンシスは、1つの節には1枚の葉しかつかない互生(ごせい)となります。
約3~5㎝の花を釣鐘状の花を咲かせ、果実はオレンジ色の大きな多肉質の実をつけ、食べられると聞いたことがありますが・・・実は観察したことがありません。

 

カナリア諸島の森林ハイキングなどを楽しんでいると、その色合いからすぐに観つけることができ、その可憐な花は印象深い思い出となります。

5月18日出発「花のカナリア諸島自然紀行」へ同行させていただくこととなりました。久しぶりのカナリア諸島での花の観察が非常に楽しみです。
このブログで紹介できるよう、たくさんの花の撮影に励みたいと思います。

 

<カナリナ・カナリエンシスが観察できるツアー>
花のカナリア諸島自然紀行
スペイン最高峰テイデ山登頂と花のカナリア諸島

017

シネラリア(Cineraria)

3月に入り、私も新居へ引っ越しをしました。
毎年楽しみにしていた近所のこぶしの花などの花々が見られなくなるのは寂しいのですが、新たな住まいの大阪市福島区は「のだふじ(野田藤)」の発祥の地と言われており、大阪市福島区の区の花にも指定されています。
4月中旬ごろに見頃を迎えるそうなので、新居でも新たな楽しみができました。

 

本日は、先日に引き続きカナリア諸島の花の1つ「シネラリア(Cineraria)」を紹介させていただきます。

シネラリア(Cineraria)

被子植物 双子葉類
学名:Cineraria 英名:Florist’s Cineraria
科名:キク科 (Asteraceae )属名:ペリカルリス属(Pericallis)

 

シネラリア(Cineraria)は、カナリア諸島が原産のキク科の花の1つです。
春から初夏にかけて、くす玉のように枝分かれし、多数の花を咲かせます。1つ1つの花の大きさは直径3~4㎝ほどです。
花の色は、紅,紫,濃紫,赤紫,白などがあり、葉は大きなハートの形をしており、縁が波状になっています。

 

原産地は北アフリカ、カナリア諸島、マデイラ諸島に14種が自生し、その中でも園芸で親しまれている品種は、18世紀にイギリスで作出された交雑種が元となっています。
日本では、古くはフウキギク(富貴菊)、フウキザクラ(富貴桜)などとも呼ばれた事もあるそうですが、今は使われていないそうです。

 

シネラリア(Cineraria)は花の色合いや、密集した花の咲き方などがとても印象的な、エキウムに負けない印象を与えてくれる可憐な花です。

 

<シネラリアが観察できるツアー>
花のカナリア諸島自然紀行
スペイン最高峰テイデ山登頂と花のカナリア諸島

 

016

エキウム・ウィルドプレッティ(Echium wildpretii)

早いもので2019年も3月を迎え、春の訪れを知らせてくれる花々もまもなく開花を迎える時季となってきました。皆さんのご近所に咲く「春の訪れを知らせる花」の開花状況はいかがでしょうか。

 

長らく「パタゴニアの花」の紹介を続けておりましたが、パタゴニアの観光シーズンもひと段落したので、まだまだご紹介したい花はたくさんありますが、続きは次の観光シーズンが始まる前にさせていただきます。
パタゴニアのパンフレット造成も少しずつ初めており、6月ごろに発表予定です。

 

本日は5月に花の季節が到来する、アフリカ大陸の北西沿岸に近い大西洋上にある7つの島からなるスペイン領の群島「カナリア諸島」の花をご紹介させていただきます。
カナリア諸島と言えば、やはりムラサキ科の「エキウム」です!!
この日紹介させていただくのは「エキウム・ウィルドプレッティ(Echium wildpretii)」です。

エキウム・ウィルドプレッティ(Echium wildpretii)

被子植物 双子葉類
学名:Echium wildpretii 英名:Tower of Jewels(宝石の塔)
現地名:タヒナステ・ロホ(Tajinaste rojo)
科名:ムラサキ科 (Boraginaceae) 属名:エキウム(シャゼンムラサキ)属(Echium)

 

大陸から離れたカナリア諸島では、太古の時代から独自の生態系が育まれて、カナリア諸島には700種以上もの固有植物が存在します。

 

カナリア諸島を代表する植物の1つである「エキウム(Echium)」は、ムラサキ科エキウム属の半耐寒性2~3年草です。
種類も多種多様で、赤、青、紫、白など様々な色のエキウムが生息します。
日本では京都府立植物園で初めて栽培開花させ、現在では東京ディズニーシーでも見られるという話を聞いたことがあります。

 

その中でも「エキウム・ウィルドプレッティ(Echium wildpretii)」はカナリア諸島固有植物として世界的にも知られています。
高さ3mを超えて育ち、淡紅色の花穂の長さも1m超すことがあります。
根元から15~20㎝の灰緑色をした細長い葉が下向きに生えています。よく観察してみると白い毛が生えているため、そのような色合いに見えるのです。
多くの日照時間を必要とし、乾燥条件でも育ち、霜に対しても耐性があり、摂氏-5度までは耐性があると言われています。
カナリア諸島の1つテネリフェ島のテイデ山(スペイン最高峰)の亜高山帯針葉樹林にも生育しています。

 

その姿から「宝石の塔(Tower of Jewels)」とも呼ばれ、5月中旬から6月上旬にかけて見頃を迎えます。

 

エキウムをゆっくりと観察していると、その草丈に驚かされますが、花の数にも驚かされます。
1mを超す花穂に、赤~薄紅色の小さな花がなんと10,000~15,000個(資料によっては20,000個というものもあります)の円錐状の花が、らせん状に花を付けています。
1つ1つの花を観察すると、ムラサキ科の花であることがすぐに判ります。
ミツバチも、このエキウム・ウィルドプレッティの蜜が好きなのでしょうか、観察していると、ミツバチがエキウムの小さな花に顔を突っ込んでいる姿も観察できます。

カナリア諸島へ訪れ、エキウムを観察する際には、周りの風景やエキウムの大きさだけではなく、小さな花の1つ1つもゆっくりと観察してみてください。

エキウム・ウィルドプレッティの花

<エキウム・ウィルドプレッティが観察できるツアー>
花のカナリア諸島自然紀行
スペイン最高峰テイデ山登頂と花のカナリア諸島

 

009

モンタヌム・バンダイソウ(Sempervivum montanum)

私の暮らすマンションの入口では管理人さんが様々な花を大切に育てており、季節ごとの花を楽しませてくれます。ここ1、2週間はあじさいの花が見事に咲きそろっており、出勤前の楽しみの1つでした。

本日は「モンタヌム・バンダイソウ(Sempervivum montanum)」をご紹介します。

モンタヌム・バンダイソウ(Sempervivum montanum)

被子植物 双子葉類   時期:6~8月
学名:Sempervivum montanum
英名:Mountain Housleek 和名:クモノスバンダイソウ
科名:ベンケイソウ科(Crassulaceae) 属名:クモノスバンダイソウ属(Sempervivum)

 

ヨーロッパ南部の山岳地帯に自生し、西はピレネー山脈から東はカルパチア山脈(中央ヨーロッパ・東ヨーロッパの山脈)に分布する多年草です。
標高1,500~3,000m前後の、岩場やガレ場(酸性岩地帯に多いと言われています)に生息し、草丈は5~20㎝ほどです。
根生葉(地上茎の基部についた葉のこと)は、1㎝前後の先の尖った形をし、先の尖った葉が集まり球形となり、次第に外に開きます。
全体的に緑色ですが、その先端部が若干赤みを帯びていることもあります。
これらの球形の根生葉が密集しマット状になり、そこからのびる茎は、先の尖った長さ2㎝ほどの葉が互生して茎全体を覆っています。

 

茎頂には、長さ1㎝ほどの赤紫色した先の尖った花びらを10~15枚付け、1つの茎に3~8個ほどの花を咲かせます。

 

属名にある「クモノス(蜘蛛の巣)」という名は、根生葉の表面に生える腺毛(せんもう:植物の表皮に生じる毛のような突起物で、特殊な液体を分泌する)があることから名付けられたそうですが、このモンタヌム・バンダイソウは腺毛はほとんど付きません。
また属名「Sempervivum(センペルビブム)」は「常に生きる」という意味から、不死のシンボルとされています。※実際は、開花後に身を付けてから枯れてしまいます。

 

このバンダイソウの仲間は、ヨーロッパ・アルプスでは昔から雷避けとして屋根や壁、バルコニーに植えられていたそうです。
※かの有名なカール大帝(西ローマ皇帝を号した、 後の神聖ローマ皇帝の祖)は、自分の所有する建物にこのバンダイソウを屋根に植えるように命令書を出していたとも言われています。

 

この「モンタヌム・バンダイソウ(Sempervivum montanum)」は、その葉なの大きさだけではく、その色合いや異形ぶりから非常に目立った花の1つです。ただ、その1つ1つをじっくり観察すると、非常に魅力ある姿をしています。

「モンタヌム・バンダイソウ(Sempervivum montanum)」
008

プルプレア・リンドウ(Gentiana Purrurea)

海外出張のため、しばらくお休みさせていただいておりました「世界の花だより」を本日より再開させていただきます。

皆様は「リンドウの花」と言えば、何色の花を想像されるでしょうか。

通常は、世界の花だよりのブログでもご紹介した「チャボリンドウ(Gentiana acaulis)」のような濃い青色~青紫の色合いをイメージされる方が大半かと思います。
日本では、北海道や尾瀬(以前、私がこの2ヶ所で観察した思い出があります)で見られるようなトウヤクリンドウは他のリンドウ科の花とは違った黄白色の色合いの花を楽しめるリンドウですが、その色合いに負けない驚きを見せてくれるのが、本日ご紹介する「プルプレア・リンドウ(Gentiana Purrurea)」です。

プルプレア・リンドウ(Gentiana Purrurea)

被子植物 双子葉類   時期:7~8月
学名:Gentiana Purrurea  英名:Purple Gentian
和名:英名からムラサキリンドウと紹介されていることも
科名:リンドウ科(Gentianaceae) 属名:リンドウ属(Gentiana)

 

プルプレア・リンドウ(Gentiana Purrurea)は、ヨーロッパ・アルプスの草原や牧草地に生息し、草丈は20~60cm、茎頂には2~5つほどの花をつけ、花の長さは3~4cmとなります。
このプルプレア・リンドウを現場で紹介すると、最初はリンドウと信じてもらえない時もあります。それは葉の形状が明らかに他のリンドウと異なるからかもしれません。5~6cmほどの長さの葉が四方に伸びる形状は、確かに他のリンドウとは大きく異なります。

 

この花は、マルハナバチ(丸花蜂)が好むバラのような香りを放ち、マルハナバチ(丸花蜂)は花から花へ飛び回り、受粉を引き受けてくれます。

 

ヨーロッパのレストランなどにあるお酒の1つに「シュナップス(蒸留酒)」というものがあります。本来は、アプリコットや洋ナシなどのフルーツで作られるのですが、リンドウの根を使用して作られるものもあり、最高級のリンドウ・シュナップスは、このプルプレア・リンドウの根を使用して作られています。
リンドウ・シュナップスはお酒として美味しいだけでなく、地方によっては病気(特に胃の病気)に効くと言われています。
虫もこの花を好み、雅の毛虫が堅い根を好んで食べると言われています。

 

「花はほとんど開かない」「雪解けの時期に咲くリンドウのため、自身の保護のため花は開かない」と紹介されることもありますが、もちろん花は開きます。
チャボリンドウや、日本のトウヤクリンドウのように黒い斑点が特徴的で、花の内部がほのかに黄色く、とても印象的な色合いです。
なかなか開花したプルプレア・リンドウに出会うのは難しいかもしれませんが、是非観察できたときには全体の姿と合わせて、ほのかに黄色い内部にも注目をしてみてください。

開花したプルプレア・リンドウ

 

<プルプレア・リンドウに出会えるツアー>
アルプス三大名峰展望 花のアオスタ山麓ハイキング(イタリア)
花のドロミテハイキング(イタリア)
ドロミテ周遊トレッキング(イタリア)
花のモンブラン山麓ハイキング(フランス、イタリア)
ツール・ド・モンブラン Tour du Mont Blanc(フランス、イタリア、スイス)

007

ニグラ・バニララン(Nigritella nigra)

本日は、ラン科の「ニグラ・バニララン(Nigritella nigra)」をご紹介します。

ニグラ・バニララン(Nigritella nigra)

被子植物 単子葉類   時期:7~8月
学名:Nigritella nigra ニグリテラ・ニグラ
和名:バニララン 英名:BLACK Vanilla Orchid
科名:ラン科(Orchidaceae) 属名:ニグテリア属(Nigritella)

 

一見すると地味ですが、ラン科の花の中では私がもっとも好きな花が今回の「ニグラ・バニララン(Nigritella nigra)」です。
初めてこのニグラ・バニラランに出会ったのは、イタリア・アオスタ山麓でした。その時のイタリアのガイドさんから「このランは香りが特徴的なんだ」と紹介され、ガイドさんの奥様もこのニグラ・バニラランが大好きだったそうです。
その時の出会い以来、私もヨーロッパ・アルプスにフラワーハイキングへ出かける際、お客様へ紹介したい花の1つとなりました。

 

ニグラ・バニララン(Nigritella nigra)は、ヨーロッパの中部から南部にかけて、ヨーロッパ・アルプスでは標高1,000~2,000mの草地に生息するラン科の花で、草丈は5~20cm程度で、葉は非常に細く茎頂に向けて垂直についています。
茎頂に花弁が深紅色の小さな花がたくさんつき、見た目にはたまご型に花が密集しております。

 

注目すべきは「花の向き」です。
普通のラン科は、花の唇弁が下向きであるのに対し、このニグラ・バニラランは唇弁が最上位にあり、上向きになっているのが特徴です。

 

もう1つの注目すべき点は、冒頭でもお伝えした「花の香り」です。
たまご型に密集している花からは、バニラの香りが漂っており、少し離れた位置からもその強い芳香を感じることができます。
ただ、誰もがこのバニラの香りを好むわけではありません。
ヨーロッパ・アルプスに放牧された牛は、このニグラ・バニラランを避けて食べません。間違って牛がこのニグラ・バニラランを食べてしまうと・・・何と、ミルクがブルー色に染まってしまい、この牛乳でつくるチーズやバターなどもバニラの匂いがしてしまうそうです。
また、スイスでは乾燥させたニグラ・バニラランを虫よけとしてタンスの中に置いていたそうで、「衣蛾草(Schabenkrant)」とも呼んでいる地方もあるそうです。

 

一見すると日本ではワレモコウ(バラ科:ワレモコウ属)にも似ていますが、日本にはニグラ・バニラランの近縁種はないそうです。

ニグラ・バニラランは草地一面に群生するといったことはないようですが、花の色合いからヨーロッパ・アルプスを歩いているとすぐに見つかります。
花の観察の際、花の前で腹ばいになり、是非花の香りを感じてみてください。
あまりの香りの良さから、間違えて食べないようにご注意ください。

雨露のついたニグラ・バニララン(Nigritella nigra)

 

<ニグラ・バニラランに出会えるツアー>
アルプス三大名峰展望 花のアオスタ山麓ハイキング(イタリア)
花のドロミテハイキング(イタリア)
ドロミテ周遊トレッキング(イタリア)
花のモンブラン山麓ハイキング(フランス、イタリア)
ツール・ド・モンブラン Tour du Mont Blanc(フランス、イタリア、スイス)
スペイン・フランス国境越え 花のピレネー山脈トレッキング

006

タマシャジン(Phyteuma orbiculare)

先日、キキョウ科の「バルバタ・ホタルブクロ(Campanula barbata)」をご紹介しましたが、本日は同じキキョウ科でも日本には自生していないタマシャジン属の「タマシャジン(Phyteuma orbiculare)」をご紹介します。

タマシャジン(Phyteuma orbiculare)

被子植物 双子葉類   時期:68
学名:Phyteuma orbiculare
和名:タマシャジン 英名:Round-Headed Rampion

科名:キキョウ科(Campanulacees) 属名:タマシャジン属(Phyteuma)

 

タマシャジンはヨーロッパ・アルプスでは名花として紹介されていることが多く、花の美しさ、花の形状のユニークさもあり、一度観察したら思わず夢中になってしまう花の1つです。私もこのタマシャジンを初めて観察したときは、驚きとともに撮影に夢中になってしまいました。

 

ヨーロッパ・アルプスをはじめ、ピレネー山脈、アペニン山脈(イタリア半島を縦貫する山脈)、バルカン半島など、広く分布する多年草で、標高2,0002,500mの主に石灰岩質の草地や岩場などに生息します。
草丈は2050㎝で、根元の葉も、茎から出る葉も幅広い剣状をしており、茎頂にいくつもの小花が集まり球状となって咲き、中には長く伸びるものもあります。

 

このタマシャジンと出会えた際、注目すべきはその小花の部分です。

小花は、暗紫色のカーブした管状花が1520個集まっており、開花しても完全に開くことはなく、管状花が先端で裂開し、そこから雄しべ、雌しべの順で飛び出しています。そして管の根元だけが開き、雌しべの基部だけが外から観察できるという、非常に変わった咲き方をしています。
日本では、近縁種のシデシャジン(キキョウ科シデシャジン属)がありますが(北アルプスで観察した記憶があります)、花びらの先端は合着しないそうです。

 

花全体が、細かい糸状の花びらが複雑なカーブを描き、繊細で美しい花のように見えるため、とても印象に残る花となります。ヨーロッパ・アルプスでタマシャジンに出会った際には、花の全体像だけでなく、その繊細な形状にも是非注目してみてください。

 

■オバトゥム・タマシャジン(Phyteuma ovatum)
同じタマシャジン属の花の中では、草丈40~100㎝と比較的大型の種です。
集まった小花が偏平に広がるタマシャジン(Phyteuma orbiculare)とは異なり、高く伸びた茎頂に咲く黒くて大きな花の形状は少し衝撃的な印象です。
掲載した写真は下から徐々に管状花が広がり始めている状態のものです。
オバトゥム・タマシャジンと似たような形状をしたもので、スピカトゥム・タマシャジン(Phyteuma spicatum)という種もあり、これはオバトゥム・タマシャジンと似たような形状ですが、黄白色~緑白色をしており、他のタマシャジン属とは違った魅力がある花です。
※写真がなく、また観察できたときに掲載します。

オバトゥム・タマシャジン(Phyteuma ovatum)

 

<タマシャジン属の花々に出会えるツアー>
※ヨーロッパ・アルプス

アルプス三大名峰展望 花のアオスタ山麓ハイキング(イタリア)
花のドロミテハイキング(イタリア)
ドロミテ周遊トレッキング(イタリア)
花のモンブラン山麓ハイキング(フランス、イタリア)
ツール・ド・モンブラン Tour du Mont Blanc(フランス、イタリア、スイス)

※ピレネー山脈
スペイン・フランス国境越え 花のピレネー山脈トレッキング