067

コバイケイソウ(Veratrum stamineum)

京都市右京区の「蓮の寺」として有名な法金剛院で蓮の花をめでる観蓮会(かんれんえ)が始まったというニュースがありました。
暦の上、7月12日から七十二候(しちじゅうにこう:二十四節気(にじゅうしせっき)は半月毎の季節の変化を示していますが、これをさらに約5日おきに分けて気象の動きや動植物の変化を知らせるのが七十二候)では「蓮始開(はすはじめてひらく)」の期間となり、7月中旬から8月中旬に蓮の花は見頃を迎えます。
蓮の花の命は4~5日と短いですが、泥の中から美しく成長するその姿に、昔の人々は極楽浄土を見たとされ、仏教では慈悲の象徴とされています。
法金剛院の観蓮会は8月2日まで開かれてようなので、是非訪れてみたいものです。

 

蓮の花のニュースをご紹介しましたが・・・本日は蓮の花のご紹介ではなく、前回に引き続き、本日日本の花である「コバイケイソウ(Veratrum stamineum)」をご紹介します。本日の写真も弊社東京本社に在籍する島田が霧ヶ峰で撮影した写真を拝借させてもらいました。

 

コバイケイソウ(小梅蕙草:Veratrum stamineum)

 

被子植物 単子葉類
学名:Veratrum stamineum
和名:小梅蕙草
科名:シュロソウ科(Melanthiaceae)またはメランチウム科
属名:シュロソウ属(Veratrum)

 

コバイケイソウは、ユリ科(Liliaceae)と記載しているもの、シュロソウ科(Melanthiaceae)と記載されているものと様々です。
現在、コバイケイソウはユリ目シュロソウ科(またはメランチウム科)シュロソウ属に分類される多年草です。以前はユリ目ユリ科(Liliaceae)に含められていましたが、新しい植物分類体系でシュロソウ科と分類されるようになりました。

 

本州の中部地方以北から北海道に分布し、本州では山地から亜高山帯の草地や湿地に生えるが、北海道では低地でも観察することができる日本固有の多年草です。

 

草丈は直立で50㎝から100㎝に及びます。
葉は互生(茎の一つの節に1枚ずつ方向をたがえてつくこと)し、広楕円形で長さが10~20㎝ほどの大型の葉を付けます。大型の葉に直接触れると固さを感じ、葉脈は平行脈ではっきりとしているのが印象的です。基部は大型の葉が茎を包むように生えています。

 

花期は6~8月、茎の上部に白く可憐な花が密集して円錐花序をつくります。
花の直径は1㎝ほどと小さく、花弁や萼などの花被片は6枚あり、中央の花穂には両性花(一つの花に雄しべと雌しべの両方が備わっている花:サクラ・アサガオなど)がつき、脇に枝分かれした花穂には雄花(おしべのみをもつ花)がつくそうです。
コバイケイソウの群生を初めて観察した時は、毎年同じ株が花を咲かせるかと思っていましたが、同じ株が毎年花を咲かせるのではなく、多数の花が揃って咲くのは数年に一度しかないそうです。

 

コバイケイソウは有毒です。全草に毒性をもち、誤って食べてしまうと嘔吐やけいれんを引き起こし、重篤な場合は死に至ることもあります。若芽が山菜のオオバギボウシなどに似ていることから、誤食による食中毒が毎年発生しているそうです。

 

名前の由来は、花が梅に似ている点、さらに葉が蕙蘭(けいらん:ラン科の紫蘭の古名)に似ていることから「梅蕙草(バイケイソウ)」と呼ばれるようになり、バイケイソウより小型な種ということでコバイケイソウと呼ばれるようになりました。

 

コバイケイソウは、私にとっては非常に思い出深い花の1つです。
私がまだ20代の頃(国内添乗員だった頃)、中央アルプスの木曽駒ケ岳へ訪れ、ロープウェイに乗って標高2,612mの千畳敷駅に到着したら、花畑一面に高山植物が咲き揃い、その中でコバイケイソウが群生していました。
現地ガイドさんが「今年はコバイケイソウの当たり年」とおっしゃっており、お客様と共に夢中になって観察したのを今でもはっきりと覚えています。
あの時の千畳敷カールでのコバイケイソウの群生は、今思えば私が高山植物に興味を持つきっかけになった風景の1つかもしれません。
※唯一の後悔は、当時はカメラ撮影に興味がなかったことです。

 

コバイケイソウの群生
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レブンシオガマ(Pedicularis chamissonis var rebunensis)

先月、我が家の嫁さんが塊根植物の一種である「アデニウム・オベスム(Adenium obesum)」を購入し、その後も大事に育ててくれています。
少しずつですが成長しており、蕾も大きくなり、花が咲く日も近いようです。砂漠のバラと称される美しい花が咲くと聞いているので、非常に楽しみです。

 

本日は北海道・礼文島に咲く「レブンシオガマ(Pedicularis chamissonis var rebunensis)」をご紹介します。今回の写真は、弊社が知床半島・羅臼にて営業している「知床サライ」に在籍する森田が撮影したものを拝借させてもらいました。

 

レブンシオガマ(Pedicularis chamissonis var rebunensis)

 

被子植物 双子葉類
学名:Pedicularis chamissonis var rebunensis
和名:礼文塩竈
科名:ハマウツボ科(Orobanchaceae)
属名:シオガマギク属(Pedicularis)

 

レブンシオガマは北海道北部の礼文島に自生し、ハマウツボ科シオガマギク属の多年草、礼文島の固有種です。今回の写真も森田が6月末に礼文島で観察したもので、私も国内添乗員時代(まだ若かれし頃)に礼文島の桃岩展望台で群生を観察したことを覚えています。

 

資料によってはゴマノハグサ科(Scrophulariaceae)に分類されていますが、分類の体系によって異なるそうですが、現在ではハマウツボ科に属します(私もゴマノハグサ科という認識でした)。

 

シオガマギク属は北半球に広く分布し、約500種もあります。
有名なヨツバシオガマ(四葉塩竈:Pedicularis japonica)、キタヨツバシオガマ(北四葉塩竈:Pediculasis chamissonis var. hokkaidoensis)、レブンシオガマ(礼文塩竈)などがありますが、実際に分類、見分けが非常に難しく、現場でも「シオガマですよ」と案内してしまうことが大半です。
キタヨツバシオガマ(北四葉塩竈)、レブンシオガマ(礼文塩竈)はヨツバシオガマの変種とされており、資料によってはキタヨツバシオガマとヨツバシオガマは区別をしない、ヨツバシオガマの大型種をハッコウダシオガマ(またはキタヨツバシオガマ)と呼ぶこともあるが、厳密に区別することはできないという資料など様々あり驚きました。

 

レブンシオガマは、草丈が70~100㎝で直立し、ヨツバシオガマに比べると大きく成長します。
葉の形状は羽状全裂で、見た目には鋸のような形状はシオガマギク属の特徴と同じですが、ヨツバシオガマとの大きな違いは、葉の付き方と数です。
ヨツバシオガマはその名のとおり、葉が4枚ずつ輪生(茎の一節に3枚以上が車輪状になってつくつき方)するのに対し、レブンシオガマは葉が5~6枚輪生するのが特徴です。
先程、見分けが難しいと記載しましたが、今回の写真を見た際にヨツバシオガマかレブンシオガマか非常に迷いましたが、写真を大きくアップにしてみると、葉が5枚輪生していることがわかり、レブンシオガマと判別しました(森田にも確認をしてもらいました)。

 

1つ1つの花は小さく、淡紫~紅紫色の色合いで、2㎝ほどの長さで2唇形の花弁を持ちます。
上唇の部分が鋭く尖って下向きになっています。まるでハチドリの嘴のような形状がシオガマギクの特徴で、印象深い姿をしています。

 

花期は6~7月、花は直立した茎に対して20~30段ほど輪生してつけ、花は下から順に咲いていきます。他のシオガマギク属の花に比べると輪生して花をつける段数が多いのも特徴です(背丈が高いのが原因かと)。

 

シオガマギク属の花の見分け方、分類などはまだまだ勉強が必要ですが、レブンシオガマをはじめとするシオガマギク属の花の可憐さ・美しさは必ず足を止めてゆっくりと観察したくなる魅力ある花の1つです。勉強の成果は・・・また後日。

 

レブンシオガマ(Pedicularis chamissonis var rebunensis)

 

<レブンシオガマが観察できるツアー>
花の季節に訪れる北海道最北の旅~利尻島・礼文島から宗谷岬、知床半島へ~
上鶴篤史氏同行シリーズ
礼文島「愛とロマンの8時間コース」と利尻島、サロベツ、宗谷丘陵ネイチャーハイキング
北海道大自然をぐるっとめぐる旅

 

065

イワカガミ(Schizocodon soldanelloides)

7月に入り、いよいよ弊社でも国内ツアーが本格的にスタートしました。
特に7月は日本各地でも高山植物が花咲く季節のため、私自身も楽しみなシーズンでありますので、本日からしばらく「日本の花」をテーマにご紹介していきたいと思います。

 

以前、イワカガミダマシ(Soldanella alpina)という花を紹介しましたが、本日はダマシではなく「イワカガミ(Schizocodon soldanelloides)」をご紹介します。今回の写真は、弊社東京本社に在籍(3月まで大阪支社に在籍)の島田が撮影したものを拝借させてもらいました。

 

イワカガミ(Schizocodon soldanelloides)

 

被子植物 双子葉類
学名:Schizocodon soldanelloides
和名:岩鏡(イワカガミ)
科名:イワウメ科(Diapensiaceae)
属名:イワカガミ属(Schizocodon)

 

イワカガミ(Schizocodon soldanelloides)は、イワウメ科イワカガミ属の多年草であり、山地の岩場や草原に自生します。
山地といっても高地だけではなく、低山帯にも自生します。
分布としては北海道(一部資料には北海道では限定的とあります)、本州、四国、九州と日本全国に分布しますが、日本固有種です。
私も国内添乗員だった頃、上高地などで観察した記憶があります。

 

草丈は10~20㎝ほどで直立し、茎の色が濃紫色をしているのが特徴です。
根元には3~6㎝程度の大きさの丸のある葉をつけ、葉には光沢が確認できます。
和名の「岩鏡」という名の由来が、岩場に自生し、この艶のある光沢の葉が鏡のように見えることから、名付けられました。改めて、粋な名前をつけたものだと感じます。
光沢がある葉であることだけが注目されていますが、よく観察すると葉の縁には鋸場があるのも特徴です。

 

花期は4~7月、茎頂にピンク色で漏斗状の花を3つほど咲かせます。花は1.5~2㎝ほどの大きさで下向きに咲き、花冠は5裂し、裂片の先端~真ん中あたりまで細かく裂けています。
花の中央にはクリーム色(黄色)の雄しべが5つ環状に並んでおり、漏斗状の花から覗き見ることもでき、ピンク色の花弁と相まって印象的な色合いとなります。
※ここがイワカガミダマシとの違いです。
イワカガミダマシも1~1.5㎝程度の花を下向きに咲かせますが、花弁の部分が基部までしっかりと切れ込みが入っており、花弁の先端部分が若干反り返り、花弁の中央に長い雄しべが突き出しているのが特徴的です。

 

イワカガミの学名の種小名「soldanelloides」は「サクラソウ科の Soldanella属に似た」という意味で、Soldanella はイタリア語の「soldo(小さいコイン)」に葉が似ることに由来します。
また、イワカガミダマシの時も紹介しましたがイワカガミ(Schizocodon soldanelloides)の種小名の soldanelloides は「Soldanella(イワカガミダマシ属)+oides(のような)」で「イワカガミダマシ属に似た」という意味を持つそうです。

 

若干間隔が空いてしまっての紹介でしたが、日本固有種のイワカガミとヨーロッパ原産のイワカガミダマシ。同じポイントで見比べることはできないですが、これまでのブログをご覧いただき、また下記写真を見比べていただき、どちらの花がお好みか見比べてみてください。
個人的には「イワカガミダマシ」が好みかな。

 

イワカガミ(Schizocodon soldanelloides)
イワカガミダマシ(Soldanella alpina)

 

<イワカガミが観察できるツアー>
花の季節に訪れる北海道最北の旅~利尻島・礼文島から宗谷岬、知床半島へ~
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056

ゼラニウム・ピレナイクム(Geranium pyrenaicum)

今朝、朝のニュースでコロナウイルスの影響に伴う自粛規制のため休園している各地域のフラワーパークの映像が流れていました。各フラワーパークは休園期間中も解除後の来園客のため、来シーズンも同様に満開の花々を来園客に観てもらうため、現在も手入れを続けているそうです。
1日でも早く、安心してフラワーパークなどへ出掛けることができるよう、私たちも気を付けて生活しなければいけないと感じた朝でした。

 

前回に引き続きフウロソウ科フウロソウ属の一種である「ゼラニウム・ピレナイクム(Geranium pyrenaicum)」花の図鑑によっては「ピレネーフウロ」と紹介されてるフウロソウの花をご紹介します。

 

ゲラニウム・ピレナイクム(Geranium pyrenaicum)

 

被子植物 双子葉類
学名:Geranium pyrenaicum 和名:ピレネーフウロ
科名:フウロソウ科(Geraniaceae)
属名:フウロソウ属(Geranium)

 

学名のピレナイクム(pyrenaicum)と聞いてお気付きの方も多いかと思いますが、種小名は「ピレネー山脈の」という意味です。
先日、フウロソウ属の多くは、国内ではハクサンフウロやエゾフウロなど「地域の名前○○+フウロ」というふうに呼ばれているとご紹介しましたが、ゲラニウム・ピレナイクムはその名のとおり原産国はスペイン・ピレネー山脈ですが、固有種ではなく、ヨーロッパ・アルプスや北欧など広く分布します。上の写真は私がスイスに添乗した際に撮影したものです。

 

また、ブログ作成時に調べていると、日本では北海道でも帰化・定着し、北海道のブルーリスト(北海道に定着している外来種)に選定されているそうです。

 

地中海沿岸地方の山岳地帯で、牧草地や草原、乾燥した土壌に自生します。
草丈は30~60㎝、根元に根生葉を出し、ロゼット状に広がっています。
葉の形状はほぼ円形で5~7つの深い切れ込みがあり、対生(葉が茎の一つの節に2枚向かい合ってつくこと)します。

 

開花時期は5~9月、花は直径2㎝弱と小さく、紅紫色の5枚の花弁をたくさんつけます。
花弁の先端が少し深めに裂けているため、見た目には「紫色のミミナグサ(ナデシコ科)かな?」と思わせる形状です。ある資料には「先端が裂けているため、遠目には10枚の花弁があるように見える」とありました。フラワーハイキング中にゼラニウム・ピレナイクムを発見すると、確かにそのように見えます。

 

開花後は0.5㎝ほどの蒴果(さくか:果実のうち乾燥して裂けて種子を放出する裂開果のうちの一形式)をつけます。

 

前述したように「紫色のミミナグサ?」または日本の伊吹山や三重県の鈴鹿山脈(福寿草がきれいな場所です)などに分布する同じフウロソウ科フウロソウ属の「ヒメフウロ(姫風露:Geranium robertianum)かな?」と思わせるゼラニウム・ピレナイクム。
その色合い、小ぶりの形状、ハート型の花弁など、発見するとゆっくり観察したくなるフウロソウの花です。

055

チシマフウロ(Geranium erianthum)

昨日、日本では緊急事態宣言が39県で解除されました。また、世界の一部の国・地域でも6月や7月から国境をオープンするという緩和情報も入ってきておりますが、国境オープンという情報があっても、国際線の再開や空港オープンの明確な情報はありません。
日本全体で回復傾向であるというニュースも多いですが油断はせず、世界各国の渡航緩和がされた際、「日本からの渡航者なら問題なし」と思ってもらえるよう、今一度気を引き締めて頑張らなければいけないと、ニュースを観て感じました。

 

本日はフウロソウの一種である「チシマフウロ(Geranium erianthum)」をご紹介します。

 

サハリンで観察したチシマフウロ(Geranium erianthum)

 

被子植物 双子葉類
学名:Geranium erianthum  和名:千島風露
科名:フウロソウ科(Geraniaceae)
属名:フウロソウ属(Geranium)

 

フウロソウ科(Geraniaceae)は花は約420種ともいわれ、日本の低地から高山帯、世界各地にも分布します。
フウロソウ属の学名はGeraniumですが、日本国内で「ゼラニウム」と呼ばれる品種の多くがテンジクアオイ属です。フウロソウ属の多くは、国内ではハクサンフウロやエゾフウロなど「地域の名前○○+フウロ」というふうに呼ばれています。

 

チシマフウロ(Geranium erianthum)は、本州北部では亜高山帯や高山帯に分布し、北海道は海岸地帯にも分布・生育します。海外ではサハリン、千島列島、北太平洋沿岸域を回りこんでカナダ北西部まで分布します。

 

日当たりの良い草地や砂礫地に自生し、草丈は20~50㎝。
葉は掌状に5~7裂に裂け、切れ込みは浅く裂片の先はそれほど鋭く尖らない形状をしています。姿がそっくりのエゾフウロ(蝦夷風露:Geranium yezoense)の葉は切れ込みが深いため、見分けるポイントと言われています。

 

花は茎頂に直径3㎝ほど、5枚の花弁で左右対称で青紫色の花をいくつか咲かせます。花期は6~8月です。
北海道の中央高地では淡い色のチシマフウロが多いという資料もありました。

 

花弁に比べ、葯(やく:おしべの一部で花糸の先端に生じ花粉形成が行われる袋状の部分)の部分が若干濃い紫色であるため、この色合いの違いが花の美しさであると個人的に思っています。

 

花弁の基部や萼(がく:花全体を支える役割の花弁の付け根にある緑色の小さな葉のような部分)には産毛のような白毛が確認できます。学名の「erianthum」は「軟毛の生えた花の」という意味を持つそうです。

 

フウロソウ科は日本を含め、世界各地で観察ができます。そのため、それぞれを見分けることが非常に難しく、お客様へも「フウロソウですよ」と説明しがちになり、まだまだ勉強が必要です。
北海道の中央高地にはチシマフウロの花色の淡いものが「トカチフウロ(Geranium erianthum f. pallescens)」として区別され、完全な白花品をシロバナノチシマフウロ(Geranium erianthum DC. f. leucanthum)とされています。
色々と調べていると、この3種を「チシマフウロの三兄弟」と表現されているブログがあり、非常に印象的な面白い表現で、私もいつしかこの三兄弟の観察・撮影を楽しみたいものです。

 

チシマフウロ(Geranium erianthum)
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エゾクロユリ(蝦夷黒百合:Fritillaria camschatcensis)

非常事態宣言が続く中でのゴールデンウィークが終了しましたが、皆さんはどのようにゴールデンウィークを過ごされたのでしょうか。
私は数日に1回、自宅前のスーパーマーケットへの買い物以外は外出をせず、大半を自宅で過ごす中で「ぬか床づくり」をはじめました。また、ゴールデンウィーク最終日に買い物へ出かけた際、自宅マンションのつつじが満開となっており、非常事態宣言の中、心癒される風景でした。

 

本日は日本の大雪山系やロシアのサハリン(旧樺太)で観察した「エゾクロユリ(蝦夷黒百合)」をご紹介します。

 

エゾクロユリ(蝦夷黒百合:Fritillaria camschatcensis)

 

被子植物 単子葉類
学名:クロユリ(Fritillaria camschatcensis)
和名:エゾクロユリ(蝦夷黒百合)
英名:Kamchatka lily、Chocolate lily 他
科名:ユリ科(Liliaceae) 属名:バイモ属(Fritillaria)

 

クロユリ(Fritillaria camschatcensis)は、その姿と花の色からクロユリと名付けられていますが、ユリ科のユリ属ではなく、ユリ科のバイモ属の高山植物です。
日本の北海道、東北地方の月山、飯豊山、中部地方に分布し、西限は北陸地方の白山とされ、石川県では「郷土の花」に指定されています。
海外では、千島列島、ロシアのサハリン、カムチャッカ半島、北アメリカ北西部に分布し、学名の「camschatcensis」は生育地の「カムチャッカ」を意味します。

 

広義のクロユリはミヤマクロユリ(Fritillaria camtschatcensis var.alpina)とエゾクロユリ(Fritillaria camschatcensis)を含めたものとされ、ミヤマクロユリは亜高山帯~高山帯に自生し、エゾクロユリは低地、海岸近くの林の下でも生育、観察できることもあります。
※掲載した写真はサハリンの海岸線近くの藪の中で観察したエゾクロユリです

調べてみると、エゾクロユリとミヤマクロユリは草丈の違いもありますが、染色体数に違いがあるようです。ミヤマクロユリの染色体数は2 対24本(2倍体というそうです)、エゾクロユリは3 対36本(3 倍体)とのことです。

 

地下にある鱗茎(りんけい:球根の一種)は多数の鱗片からなり、茎は直立で10~50㎝の高さになります。葉は長さ3~10㎝の披針形をし、数段にわたり輪生(りんせい:茎の一節に葉が3枚以上つくこと)しています。

 

花期は6~8月で、花は鐘状で茎先にやや下向きに咲き、長さが約3㎝、6枚の黒褐色の花被片をつけ、表面には細かい斑点と筋模様が確認できる花を咲かせます。
クロユリの花は独特の臭いがあります。クロユリの花粉を運ぶのは大部分がハエと言われており、この臭いがハエを呼び寄せているとも言われています。
花が終わると徐々に上を向くように変化し、実が膨らみ羽をもった種子をたくさんつけますが、発芽率は良くなく、繁殖の大半は栄養繁殖と呼ばれる地下の鱗茎が分裂して数を増やしています。

 

私が初めてクロユリを観察したのが「北海道の大雪山縦走登山」をしているときでした。その後、日本では北陸地方の白山でも観察しました。
アイヌ語ではクロユリは「アンラコル」と呼ばれ、アンが「黒」、ラが「葉」、コルが「持つ」という意味で、アイヌ民族はクロユリの鱗茎を干したものを食用にしてきたそうです。

 

北海道の大雪山国立公園は高山植物の宝庫です。
緊急事態宣言の中、外出や旅行を自粛する中でゴールデンウィークは我慢して生活をしてきました。高山植物の開花が始まる頃には、安心して旅行を楽しめるようになることを願うばかりです。

その願いを込めて弊社でも「花の北海道フラワーハイキング」を発表しました。
大雪山国立公園へクロユリやチングルマ、高山植物の女王コマクサを求めて、北海道へ訪れてみませんか?

 

エゾクロユリ(蝦夷黒百合:Fritillaria camschatcensis)
026

コマクサ(Dicentra peregrina)~高山植物の女王

先日、兵庫県の六甲高山植物園に「青いケシ」の観察へ出掛けました。
残念ながら見頃を過ぎていましたが、数輪のケシを観察することができ、その他フウロソウやマツムシソウ、タカネナデシコなどがキレイに咲いており、シモツケソウが非常に印象深い色合いで咲いていました。また、リシリヒナゲシなど思いがけない花にも出会え、思わず興奮しました。
奥さんと、また現場で偶然一緒になった同僚の島田(山ツアー担当)と共に花の観察を楽しむ良い休暇となりました。

 

本日は、六甲高山植物園で観察した「コマクサ(Dicentra peregrina)」をご紹介します。

コマクサ(Dicentra peregrina)

被子植物 双子葉類
学名:Dicentra peregrina 和名:コマクサ/駒草
科名:ケシ科(Papaveraceae)  属名:コマクサ属(Dicentra)

 

高さは約5~10㎝、花の径は約2~3㎝、葉は根生葉(地面に広がって立ち上がっていない葉)で細かく裂けており、白く粉を帯びます。
花弁は4個で外側と内側に2個ずつついており、外側の花弁は下部が大きくふくらみ、先端が反り返り、内側の花弁はやや小さく、中央がくびれる独特な形状ですが「高山植物の女王」という通り、艶やかなピンク色の花を咲かせます。
花の形が馬(駒)の顔に似ていることから「コマクサ(駒草)」名付けられたと言われています。
驚く点は「コマクサの根」です。他の植物が生育できないような厳しい環境(砂礫地など)で育つため、可憐に咲く小さな花から想像できない50~100 cmの長い根を張るというから驚きです。

 

コマクサの花は、千島列島・樺太・カムチャッカ半島・シベリア東部の東北アジアと日本の北海道から中部地方の高山帯の風衝岩屑斜面などの砂礫帯に分布しています。日本各地でコマクサの咲くポイントはありますが、私は「コマクサといえば燕岳」が強くイメージとして残っていますが、皆さんはいかがでしょうか。

 

以前、日本国内の添乗員をしている頃、昔は御岳山の登山者に一株一銭でコマクサが売られていたことから「一銭草」と呼ばれていたという話をバスガイドさんから聞いたことを今でも覚えています(記憶違いでしたら、申し訳ありません)。

 

久々に観察したコマクサの花は、やはり心惹かれる可憐な花でした。たまには日本でも花の観察を楽しみたいと改めて感じた1日でした。
今後、日本で観察した花もこの「世界の花だより」で紹介させていただきます。

019

ホテイアツモリソウ(Cypripedium macranthum var. hotei-atsumorianum)

先日、大阪城公園にて花見へ行ってきました。見頃の時期、さらには週末だったこともあり、人の多さに圧倒されてしまいましたが、キレイな桜とともに桃園では数種類の桃の観察も楽しむことができました。

 

本日ご紹介するのは、花の姿、形状が非常に見栄えが良く、地域変異のバリエーションが多いアツモリソウの一種である「ホテイアツモリソウ(Cypripedium macranthum var. hotei-atsumorianum)」です。
日本では「レブンアツモリソウ(礼文敦盛草 C. marcanthos var. rebunense)」が圧倒的な知名度ですが、ホテイアツモリソウは、花全体の色合いがとても美しく、観察を続けて行く中で、どんどん心が奪われていくアツモリソウです。

ホテイアツモリソウ:布袋敦盛草

被子植物 単子葉類
学名:Cypripedium macranthos var. hotei-atsumorianum
和名:ホテイアツモリソウ(布袋敦盛草)
科名:ラン科(Orchidaceae) 属名:アツモリソウ属(Cypripedium)

 

アツモリソウは、漢字では「敦盛草」と書きます。この漢字名の由来は、袋状の唇弁(しんべん)の部分が、平敦盛が背負った母衣に見立てて名付けられました。

 

アツモリソウの中でも日本が世界に誇れるホテイアツモリソウは、本州中部(長野:釜無、大鹿、経ヶ岳、霧ヶ峰、戸隠、安房、山梨:櫛形、八ヶ岳、新潟、岩手)や北海道に分布しており、海外では中国やロシアに分布しています。
※上の写真は、ロシアのサハリン南部で観察したものです。
盗掘・乱獲のために、既に絶滅してしまっている地域も多く、日本では1997年にレブンアツモリソウに相次いで特定国内希少野生動植物指定を受けました。

 

草丈は20~50cm、花は袋状で、茎の頂上に通常1つ、まれに2つの花つけこともあるそうです。径は6~10cm、幅の広い楕円形(時に円形に近いものがある)の葉を4~5枚互生(1つの節には1枚の葉しかつかない)し、アツモリソウに比べて全体に大きい印象を受けます。
色合いも、アツモリソウより濃く、桃色から紅色、黒ずんだ暗濃紅色の花と非常に多くの地域・個体バリエーションがあります。

 

サハリン南部で見つけたホテイアツモリソウの群生地。お客様とともに夢中になって観察したことを今でも覚えています。
日本でも観察できるアツモリソウですが、サハリンの地で観察するホテイアツモリソウも、また格別の美しさでした。
是非、ホテイアツモリソウを求めてサハリンの地へ。

ホテイアツモリソウ:布袋敦盛草

<ホテイアツモリソウが観察できるツアー>
花のサハリン紀行