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エゾカワラナデシコ(蝦夷河原撫子:Dianthus superbus var. superbus)

弊社でも春~夏へ向けての国内ツアー造成に励んでおり、私自身も高山植物観察ツアーに励む中、同時に花のブログ更新も進めていると、日に日に高山植物の観察、撮影したいという想いが日に日に強くなってきます。

 

本日は「エゾカワラナデシコ(蝦夷河原撫子:Dianthus superbus var. superbus)」をご紹介します。

 

エゾカワラナデシコ(蝦夷河原撫子:Dianthus superbus var. superbus)

 

被子植物 双子葉類
学名:Dianthus superbus var. superbus
科名:ナデシコ科(Caryophyllaceae)
属名:ナデシコ属(Dianthus)

 

エゾカワラナデシコ(蝦夷河原撫子)は、中部以北から北海道にかけて、海外でもユーラシア大陸の北部~中部にかけて分布し、高山帯から海岸線まで幅広いエリアで自生します。

 

草丈は30~50㎝ほどで直立し、叢生(そうせい:草木などが群がって生えること)します。茎は上部で枝分かれし、葉は長さ5㎝ほどで少し白みを帯びており、細長い広線形をしています。ある資料に「葉の基部は茎を抱く」とあり、次回観察の際には注目してみたいと思います。

 

花期は6~9月。茎の上部で枝分かれした茎頂にそれぞれ1つずつ上向きに花を咲かせます。淡いピンク色が印象的な花は直径5㎝ほどで花弁は5枚。
花弁は扇のような形状をしており、先端部が細裂しており、風でなびくエゾカワラナデシコを観察していると、イソギンチャクが浮遊しているように見えることもあります。花弁の先端が細裂している点がエゾカワラナデシコの花を最も印象的なものにしている部分です。
花の付け根の萼筒は長さ2㎝ほど、苞は2対で十字に対生し、細長く先端が尖っている印象です。

 

エゾカワラナデシコ(蝦夷河原撫子)とカワラナデシコ(河原撫子)は非常に似ており、カワラナデシコはエゾカワラナデシコの変種の1つです。見分けることが難しく、私自身も「カワラナデシコ(の仲間)ですよ」と案内してしまうことが多いのも事実です。見分け方を色々と調べていると、本当に大差はないようで、大半の資料でも見分けが難しいと記載されています。

 

エゾカワラナデシコとカワラナデシコの違いは以下の部分になります。

①分布
・エゾカワラナデシコは中部地方以北に分布
・カワラナデシコは本州、四国、九州に分布
②草丈
・エゾカワラナデシコは30~50㎝ほどで直立
・カワラナデシコは30~80㎝ほどで直立
③花の大きさ
・エゾカワラナデシコは直径5㎝ほど
・カワラナデシコは3㎝ほど
④花弁の先端部の幅の広さ
・エゾカワラナデシコは扇状で先端(爪部)が細裂
・カワラナデシコはエゾカワラナデシコより先端(爪部)が細い
⑤花弁の隙間
・エゾカワラナデシコに比べると、カワラナデシコは花弁の間に隙間がある。
⑥苞の違い
・エゾカワラナデシコは苞が2対で十字に対生し、細長く先端が尖っているのに
・カワラナデシコは苞が3~4対で丸みを帯びて先端が尖る(栗みたい)形状。
※上記④⑤(花弁)と⑥(苞)が見分けるポイントとして重要のようです。

 

次回、エゾカワラナデシコやカワラナデシコを観察する際に上記6点を確認し、見比べてみてください。

 

エゾカワラナデシコ(蝦夷河原撫子:Dianthus superbus var. superbus)②

 

<おすすめ!! 花の観察を楽しむツアー>
花咲く信州 水芭蕉やカタクリの群生地を巡る
※春の花の代表格ともいえる水芭蕉やカタクリの花の観察を楽しむため、厳選した花の名所を訪れ、春の花を心ゆくまでご堪能いただける4日間です。

 

春をつげる雪割草を求めて 早春の佐渡島
※南北に大佐渡、小佐渡の山地が連なり、中央には国中平野が広がる佐渡島。大佐渡山麓と世阿弥の道にてゆっくりとフラワーハイキングをお楽しみいただきます。

 

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※春の花咲くシーズンの佐渡の山旅。絶景ロッジ・ドンデン山荘に宿泊し、佐渡の最高峰金北山を目指し、花咲く楽園・アオネバ渓谷のハイキングも楽しみます。

 

花の利尻・礼文島とサロベツ原生花園
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花の利尻・礼文島から世界遺産・知床半島へ
※5月下旬から高山植物の季節が始まる利尻・礼文島から、オホーツク海沿岸を走り世界遺産・知床へ。利尻島・礼文島、知床半島を一度に楽しむ旅。

 

花の尾瀬フラワートレッキングとチャツボミゴケの群生地を歩く
※専門ガイドとのんびりと花の観察を楽しみながら、尾瀬ヶ原から尾瀬沼へのフラワートレッキング。花咲く尾瀬を訪れる季節、8名様限定のツアーです。

 

花咲く千畳敷カール・乗鞍・上高地を歩く
※高山植物の宝庫として知られる千畳敷カールや乗鞍・畳平でフラワーハイキング。旅の後半は、専門ガイドと共に静寂に包まれた奥上高地の徳沢を目指す。高山植物の観察と合わせて絶景も楽しむ5日間。

 

日本各地で高山植物などの花々を楽しむツアーも続々と発表しております。ご興味のあるコースがありましたら、是非お問い合わせください。
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ハマナス(浜茄子:Rosa rugosa)

先日、大分県日田市立博物館で「ウシ柄のウナギ」が話題を呼んでいるというニュースを見ました。昨年10月に市内の養殖所で見つかったそうですが、白黒のまだら模様のニホンウナギで、数万匹に一匹の突然変異の個体のようです。

 

本日は「ハマナス(浜茄子:Rosa rugosa)」の花をご紹介します。

 

ハマナス(浜茄子:Rosa rugosa)

 

被子植物 双子葉類
学名:Rosa rugosa
英名:Ramanas rose、Rugosa rose、Japanese rose
科名:バラ科(Rosaceae)
属名:バラ属(Rosa )

 

『知床の岬に はまなすの咲くころ 思い出しておくれ 俺たちのことを』

 

個人的にはハマナスの花を見るたびに、加藤登紀子さんの「知床旅情」の歌を思い出します。私は44歳のため、この曲がリリースされたときは生まれていませんが、国内添乗員だった頃に北海道ツアーへ行くとバス車中でバスガイドさんがよく歌ってくれたのを覚えています。

 

ハマナス(浜茄子)と言えば、北海道の花という印象で、北海道の花にも指定されています。
日本国内では、北海道以外にも本州にも分布し、太平洋側では茨城県が、日本海側では島根県(確か大山だったような記憶も)が南限とされています。太平洋側と日本海側で大きな距離があるので調べてみると、ハマナスが砂浜・砂丘植物であることが太平洋側に自生する場所が少ない原因のようです。海外でもサハリン、千島列島に分布し、主に海岸線や砂地に自生します。

 

地下茎を延ばして群生し、草丈1~1.5mに成長する落葉低木。海岸線と内陸で草丈に差が出るようです。幹は叢生(そうせい:草木などが群がって生えること)し、茎は多方面に枝分かれして立ち上がります。
私もここまでは認識していたのですが、ある資料によると「樹皮が灰黒色から徐々に灰色となり、短い軟毛がある」とあり、驚きました。これまでハマナスを観察する際に注目していなかった部分だったので、次回は樹皮も注目してみたいと思います。枝には大小の棘があるので、観察時には十分気を付けて観察しなければいけません。

 

葉は、奇数羽状複葉で互生(ごせい:茎の周りに葉が螺旋状につくこと)します。
奇数羽状複葉とは、前回(103.エゾニュウ)にご紹介しましたが、中央の1本の軸の左右に小葉が並んでいるものを「羽状複葉」といい、奇数なのでてっぺんに一枚の小葉、2列目以降は左右に並んで小葉がつくものを言います。
小葉は長さ3cmほどの長楕円形、葉脈がハッキリとしており、葉縁には若干の鋸歯が確認できます。葉はほんの少し厚みがあり、表面は光沢が確認でき、裏面には少し細かい毛も確認できます。
全体に棘や細かい毛が多いのは、潮風による塩分付着を防止するためという解説を聞いたことがあります。

 

花期は6~8月。鮮やかなピンク色が印象的な花で、直径が10㎝ほど、花弁は5枚。
花の中央には多数の雄しべをつけ、淡い黄色色の雄しべが花弁のピンク色をより鮮やかなものにしています。群生して咲いていることが多いので、長らく咲いている印象の方も多いようですが、実は色鮮やかなハマナスの花は開花後5日前後で枯れてしまいます。

 

花後にできる真っ赤な実は、偽果(ぎか:子房ではなく、子房以外の部分に由来する果実)で、熟すと甘酸っぱい味がし、以前はバスガイドさんが「ハマナスのジャム」をよく紹介していました。ただ、昨年9月に久々に北海道へ訪れた際に「1つの実から採れる果肉が少ないため、最近ではあまり土産店で売っていない」と聞きました。また、最近では、薬用植物としての研究も進んでいるそうです。

 

ハマナスは根が染料となり、花はお茶になり、果実はローズヒップやジャムとして使われます。
ハマナスの名の由来は諸説ありますが、前述した甘酸っぱい果実が「梨」に例えられたことが由来とされています。
では、なぜ和名で「茄子」と付くのか・・・調べてみると、江戸時代の書籍に「茄子の如し、食に耐えたり、故にハマナスと呼ぶ」とあったことが由来するそうですが、茄子とは似てないという指摘(ツッコミ)もあるようです。

 

今回ハナマスのことを色々と調べていて一番驚いたのが、ハマナスは「皇后・雅子様のお印」となっていることでした。ちなみに天皇徳仁様のお印は「梓」とのことでした。
ハマナスは何度も観察した花ですが、改めて色々と調べてみると非常に興味深い花でした。

 

ハマナス(浜茄子)の実

 

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エゾニュウ(蝦夷ニュウ:Angelica ursina)

先週完成した「西遊通信」がそろそろ皆様のお手元に届いている頃かと思います。春から夏にかけて様々なツアーを発表しております。春の花、夏の花、高山植物を観察するツアーも充実しておりますので、ご興味あるコースがありましたら、お気軽にお問い合わせください。

 

本日は大型のセリ科植物の「エゾニュウ(蝦夷ニュウ:Angelica ursina)」をご紹介します。

 

エゾニュウ(蝦夷ニュウ:Angelica ursina)※ベニア原生花園にて

 

被子植物 双子葉類
学名:Papaver fauriei
科名:セリ科(Apiaceae)
属名:シシウド属(Angelica)

 

高山植物を観察していると一際大きな存在感を放つのがセリ科の植物です。
セリ科の植物を見つけた際に「あれはセリ科の花」「ウドの仲間」と認識されている方も多いのではないでしょうか。それだけ見分けが難しい植物でもあり、私も自身がなく前述のように説明してしまうことが多い植物です。
「エゾニュウ(蝦夷ニュウ)」はセリ科シシウド属で、北海道の沿岸部の原生花園などで観察する機会が多いですが、国内では北海道以外にも本州の中部地方以北に、海外では千島列島、サハリン、カムチャッカ半島に分布し、沿岸部の草地から山地と幅広く自生します。

 

草丈は1.5m~2m、大きいので3mにも達するものもあり、太い赤みを帯びた茎が直立します。この赤みを帯びた太い茎は中空で直径10㎝にも及ぶものもあるそうです。

 

葉は比較的大型、二回三出複葉で小葉は長楕円形です。

  • 複葉とは、葉身(葉の平たい部分)が小葉と呼ばれる小さな部分に分かれている葉のことで、別々の小さな葉の集まりのように見えるものも、実は全てを合わせて1枚の葉と考えます。
  • 複葉の中にもいくつか種類があり、中央の1本の軸の左右に小葉が並んでいるものを「羽状複葉」、羽状複葉が集まって全体としてさらに大きな羽状複葉を構成している場合、複葉の回数に合わせて「ニ回羽状複葉」、 「三回羽状複葉」と言います。

 

茎頂に大きな蕾をつけ、蕾を覆う苞は深い皺がはいり、少々薄気味悪い印象を与えます。この苞の部分は開花直後に剝がれ落ちてしまいます。
※エゾニュウの蕾の状態の写真はありませんでしたが、同じセリ科の植物の蕾の写真を見つけました(サハリンで撮影)ので、イメージとして掲載しておきます。

 

セリ科の植物の蕾

 

花期は7~8月。複散形花序(花軸から放射状に柄を伸ばし、その先に散形花序をつける)で、白色(クリーム色)の小さな花を多数つけます。
エゾニュウの大花序は50個近く柄を伸ばし、その先につく小花序は30~40個ほどの柄を放射状に出し球形となります。その姿は、まるで打ち上げ花火が大きく広がったようにも見えます。
それぞれの花はルーペがないと見えないくらいの大きさですが、花弁が4~5枚、その中央に長い雄しべが伸びます。ある資料に「雄しべがにゅーっと伸びる」とあり、可愛らしい表現で、エゾニュウの説明にピッタリな表現でした。

 

エゾニュウは、秋田県では「ニョウサク」「サク」「ニオ」などと呼ばれ、塩蔵して冬に食べる越冬山菜の代表として紹介されています。
また、アイヌ語では「シウキナ(若い草)」と呼ばれ、ある資料にアクが強くアイヌでは若い茎の皮を剥いて生のまま『エゾニュウ甘くなれ』とおまじないをかけながら食べていた地域もあったと紹介されていました。

 

見分けが非常に難しいセリ科の植物ですが、また別の機会にセリ科の植物をご紹介したいと思います。まずは見分け方から勉強しないといけませんが・・・。

 

エゾニュウ(蝦夷ニュウ:Angelica ursina)②※ベニア原生花園にて

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花咲く千畳敷カール・乗鞍・上高地を歩く
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リシリヒナゲシ(利尻雛罌粟:Papaver fauriei)

先日、国内ツアーをご紹介する「西遊通信」が完成し、間もなく皆さんのもとへ届く予定です。
春の花の観察を楽しむツアー、さらに夏の高山植物を観察を楽しむツアーも掲載しており、私も「花咲く千畳敷カール・駒ケ岳・上高地を歩く」と「花の尾瀬フラワートレッキングとチャツボミゴケの群生地を歩く」を新たに造成させていただきました。ホームページでも随時更新していきますので、お楽しみに。

 

本日は久々に北海道の花、「リシリヒナゲシ(利尻雛罌粟:Papaver fauriei)」をご紹介します。

 

六甲高山植物園で観察したリシリヒナゲシ(利尻雛罌粟)

 

被子植物 双子葉類
学名:Papaver fauriei
科名:ケシ科(Papaveraceae)
属名:ケシ属(Papaver)

 

リシリヒナゲシ(利尻雛罌粟)は、日本固有種で、日本で唯一自生するケシの種類です。北海道・利尻島に聳える利尻山(利尻富士)の中腹から山頂部にかけての火山崩壊礫の斜面に自生します。

 

私も十数年前、国内添乗員だった頃に利尻山の登山ツアーに同行した際に観察しました。初めて観察したのは、登山開始直後から暴風雨に見舞われ、登山半ばで下山することを決定した直後でした。花の観察どころではないくらいの暴風雨の中、下山前に”キジ撃ち”をしようと男性数人で木陰に向かった際に斜面に咲く一輪のリシリヒナゲシを見つけました。暴風に煽られていたため、撮影どころではありませんでしたが、”キジ撃ち”を中断して皆さんと風にも負けず観察を楽しみました。登頂は断念して気落ちしていたところに、一輪の癒しを観察できたことが救いだったと今でもハッキリと覚えています。
今回掲載した上写真は、2019年に嫁さんと一緒に神戸・六甲高山植物園にて観察したものです。

 

草丈は20~30㎝ほどで直立し、茎全体に荒い毛(剛毛と表記する資料も)が密集しています。
葉は茎の根元に根生葉を付け、少し白みを帯びた緑色の葉の縁は細かく切れ込み(細裂)が確認できます。葉全体にも荒い毛(剛毛)が密集しているのが確認できます。

 

花期は7~8月。茎頂に直径5㎝ほどの花を上向きに咲かせます。
他のケシ科の花にも見られることですが、蕾の状態の時には茎頂の先端が垂れ下がり、蕾は下向きですが、開花すると茎頂も直立して上向きに花を咲かせます。ケシ科の花を観察する際、周囲に蕾の状態のものを探して開花時との茎頂の違いを観察してみるのも面白いかもしれません。

 

花弁を4枚つけ、透けて向こう側が見えるくらいの淡黄色の色合いがリシリヒナゲシが可憐に見える所以だと、個人的には感じています。

 

上の写真を一度確認してみてください。
淡い色合いが印象的なリシリヒナゲシですが、花の中央の部分も非常に印象的な形状をしています。
花の中央に緑色の団子のように見えるのは、雌しべの子房(種になる部分)です。雌しべの先に6~8本の柱頭(花粉を受け取る部分)が放射線状に伸びて柱頭盤をつくります。
雄しべは、緑色の子房部分の周辺に多数付けているのも確認ができます。

 

リシリシナゲシは、環境省のレッドリストでは、近い将来における絶滅の危険性が高いとされる絶滅危惧IB類(EN)に登録されています。

 

今回のブログ作成のために調べていると、「リシリヒナゲシの遺伝的解析」についての資料を見つけました。
自生地のリシリヒナゲシと利尻島の市街地(ホテルの庭などにも栽培されています)に咲くリシリヒナゲシが遺伝的に同一のものか定かでないこと、近縁の移入種との種間雑種ではないかという点が懸念されているという資料がありました。
また、別の資料では、遺伝子検査で外見が似ている外来種か栽培種が利尻山上部の自生地で本種と混じって生えていることが判明したというものもありました。
中には「モドキ」という表記を使っているものもありましたが、地元では遺伝子を確認しながら自生地に自生株を増やそうする努力は行われているようです。
下の写真は、利尻島のホテルで栽培されていたリシリヒナゲシの写真です。

 

火山崩壊礫の斜面、利尻山の中腹から山頂部という厳しい状況の中で可憐に咲くリシリヒナゲシ。自生株が無くならないことを願い、私たちも十分に気を付けながら観察する必要を、ブログを作成しながら感じました。

 

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花の利尻・礼文島とサロベツ原生花園
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利尻島のホテルで観察したリシリヒナゲシ

 

 

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ヤチトリカブト(谷地鳥兜:Aconitum senanense ssp. paludicola)

2020年最後の投稿となります。
今年はコロナウイルスの影響に伴い、とんでもない一年になってしまいました。
4月に緊急事態宣言が出され、弊社でもテレワークの日々が続いたこともありました。その頃から日本国内の花の紹介を続けてきましたが、2020年最後は「ヤチトリカブト(谷地鳥兜:Aconitum senanense ssp. paludicola)」をご紹介します。

 

ヤチトリカブト(谷地鳥兜:Aconitum senanense ssp. paludicola)

 

被子植物 双子葉類
学名:Aconitum senanense ssp. paludicola
科名:キンポウゲ科(Ranunculaceae)
属名:トリカブト属(Aconitum)

 

トリカブト属は、ドクウツギやドクゼリと並んで日本三大有毒植物の一つとされており、日本国内には約20種が自生しています。
本州の北アルプスに分布し、亜高山帯~高山帯の湿った草地などに自生する日本固有の花です。
「ヤチ」とは湿地を意味することから、和名に用いられています。
私も上高地で観察したことがありますが、その際に「上高地で最初に発見された種類」とガイドさんより伺ったことを覚えています。
※今回掲載の写真は、弊社大阪支社・楠と東京本社・島田が「北アルプス 槍ヶ岳銀座ルート登山」のツアーに同行させていただいた際、上高地をスタートした直後に観察・撮影した写真です。

 

草丈は70~150㎝で直立し、葉は3~5裂、中裂~深裂しています。
花期は8~9月。茎頂は分枝し、葉の付け根部分から花柄を伸ばし、先端に5~10個の青紫の色鮮やかな花を咲かせます。
花の付き方も、標高の高低によって異なり、高山帯では散房花序(さんぼうかじょ:主軸が短く、長い柄をもった花が間を詰めて花がつく)、標高が比較的低い場所では円錐状花序(複総状花序とも言い、主軸が長く伸び、柄のついた間隔を開けて伸び、その先端にさらに同様に総状花序がつくもの)となります。
雄しべは無毛で、萼と花柄には開出した単純毛と腺毛が多く確認できます。

 

ある資料にトリカブトの見分け方が紹介されており、トリカブトで見られる花柄の毛は3種類あるそうです。
ヤチトリカブトは花柄の毛が開出毛(茎に対して直角に生える毛)であるのが特徴と記されていました。
その他、ガッサントリカブトやミヤマトリカブト、キタダケトリカブトなどは花柄全体が屈毛(先が曲がった毛)、タカネトリカブトは無毛とのことでした。
この点を観察の際に見分けるには虫メガネがルーペが必要かもしれませんが、非常に興味深い見分け方の紹介でした。来夏、上高地へ自然観察を楽しむツアーの造成を予定しておりますが、その際にはトリカブトの観察のため、ルーペを持って出掛けたいと思います。

 

トリカブトの名前の由来は、古来の衣装である鳥兜・烏帽子に似ているからとも、鶏の鶏冠(とさか)に似ているからとも言われ、海外では「僧侶のフード(monkshood)」と呼ばれています。
以前、ピレネー山脈で観察した「060.リコクトヌム・トリカブト(Aconitum lycoctonum)」も是非ご覧ください。

 

2021年もしばらくの間は感染症対策に気を付けながらの生活が続くと思います。
この「世界の花だより」のブログが少しでも皆様の気晴らしページとなるよう、2021年も頑張って更新していきたいと思います。
また、2021年07月に乗鞍や上高地でフラワーハイキングを、さらには尾瀬でのフラワートレッキングのツアー造成を進める予定です。
興味がある方は、是非大阪支社へご連絡ください。

 

<おすすめ!! 春の花の観察ツアー>
花咲く信州 水芭蕉やカタクリの群生地を巡る
※春の花の代表格ともいえる水芭蕉やカタクリの花の観察を楽しむため、厳選した花の名所を訪れ、春の花を心ゆくまでご堪能いただける4日間です。

 

春をつげる雪割草を求めて 早春の佐渡島
※南北に大佐渡、小佐渡の山地が連なり、中央には国中平野が広がる佐渡島。大佐渡山麓と世阿弥の道にてゆっくりとフラワーハイキングをお楽しみいただきます。

 

ヤチトリカブト

 

 

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サラシナショウマ(晒菜升麻、更科升麻:Cimicifuga simplex)

2020年も早いもので残すところあと一週間です。
例年だと、ウユニ塩湖やパタゴニア方面の年末ならびに年明けツアーの最終確認などで忙しくしていた時期ですが、今年は2020年1月に現地で購入したパタゴニアのカレンダーを寂しく眺めているだけとなってしまいました。
早く、パタゴニアへ再訪したいものです。

 

前回に引き続き、弊社大阪支社・楠と東京本社・島田が「北アルプス 槍ヶ岳銀座ルート登山」のツアーに同行させていただいた際に観察・撮影した「サラシナショウマ(晒菜升麻、更科升麻:Cimicifuga simplex)」をご紹介します。

 

サラシナショウマの花

 

被子植物 双子葉類
学名:Cimicifuga simplex
科名:キンポウゲ科(Ranunculaceae)
属名:サラシナショウマ属(Cimicifuga)

 

サラシナショウマ(晒菜升麻、更科升麻)は、キンポウゲ科サラシナショウマ属の多年草。日本では、北海道から九州、低山帯~亜高山帯と広い範囲で分布し、落葉樹林の林や草地に自生します。排水の良い肥沃な土地を好むという資料もあります。

 

草丈は50~120㎝で直立し、葉は左右に小葉がいくつか並ぶ「羽状複葉(うじょうふくよう)」で、小葉は長さ3~8㎝の卵型や楕円形で2~3裂し、先端が尖っており、葉の縁には不揃いの鋸歯が確認できます。また、両面にほんの少し短毛が確認できます。

 

花期は8~10月、夏から秋にかけて花を咲かせます。
茎頂に長さ5~10㎝ほどの花柄を出し、穂状に真っ白な花を多数つけます。花穂(かすい:穂のような形で咲く花)の長さは30㎝近くあり、一つ一つの花は非常に密集して花を付けるため、遠目からはブラシの花や、キツネの尻尾かと思ってしまう形状です。
上写真は、真っ白で小さな花が満開の状態ですが、色合いが非常に印象的で思わず目を奪われてしまう姿をしています。
下写真は、蕾が開き始めた状態のものですが、1つ1つの蕾がまるでツガザクラやスズランを思わせる花の形状の様に見え、この状態でも印象的な姿をしています。
蕾が開く前と、花が満開となった時、これほどまでに姿に変化が出るものかと、2枚の写真を比べていただくと、その驚きが判っていただけるかと思います。

 

サラシナショウマの蕾が開き始めた状態

 

花は独特の香りがあり、雄花と両性花があります。
花弁が3枚で、長さ7mmほどの雄しべを多数つけます。長さ5㎜ほどの花柄には細毛が確認できるそうです。
サラシナショウマのことを調べていると、「花弁と萼片は早く落ちてしまい、長い雄しべだけが残って目立つ花」とありましたが、確かにその通りの印象です。短い花柄の細毛と合わせ、3枚の花弁や萼片、花柄の細毛など、1つ1つの花にも注目して観察したいと思います。

 

和名のサラシナショウマは、若芽を茹で、水にさらして山菜として食べていたことに由来し、別名でヤマショウマ、ヤサイショウマとも呼ばれているそうです。
また、サラシナショウマ属の根茎は「ショウマ(升麻)」という生薬で、発汗や解熱、解毒、消化不良などに効果があるそうです。
ある資料には、2gほどの升麻を煎じたものをうがい薬として用いるというものもありました。

 

個人的には、上高地が日本の名勝の中でも大好きな場所の1つです。
国内添乗員の頃には「目を閉じたまま、歩いても河童橋まで歩ける」というくらい訪れ、個人的にも若かれし頃に北アルプスの縦走登山の際に何度も訪れ、嫁さんとの旅行でも訪れました。
実は、2021年07月に上高地で自然観察をするツアーの造成を検討しているところです。是非、上高地での植生にご興味がある方は、大阪支社へご連絡ください。

 

<おすすめ!! 春の花の観察ツアー>
花咲く信州 水芭蕉やカタクリの群生地を巡る
※春の花の代表格ともいえる水芭蕉やカタクリの花の観察を楽しむため、厳選した花の名所を訪れ、春の花を心ゆくまでご堪能いただける4日間です。

 

春をつげる雪割草を求めて 早春の佐渡島
※南北に大佐渡、小佐渡の山地が連なり、中央には国中平野が広がる佐渡島。大佐渡山麓と世阿弥の道にてゆっくりとフラワーハイキングをお楽しみいただきます

 

 

096

ツマトリソウ(褄取草:Trientalis europaea)

先日、ザゼンソウやミズバショウの花の事を調べていると「尾瀬の花々」のことを思い出したので、本日は十数年前に尾瀬ハイキングでお客様と大いに盛り上がった花の一つだった「ツマトリソウ(褄取草:Trientalis europaea)」をご紹介します。

 

ツマトリソウ(褄取草:Trientalis europaea)

 

被子植物 双子葉類
学名:Trientalis europaea
科名:サクラソウ科(Primulaceae)またはヤブコウジ科(Myrsinaceae)
属名:ツマトリソウ属(Trientalis)

 

ツマトリソウ(褄取草:Trientalis europaea)は、ツマトリソウ属の多年草の一種です。
サクラソウ科またはヤブコウジ科と記載させていただきましたが、APG植物分類体系(第2版)では、従来サクラソウ科とされていたツマトリソウ属を含む、いくつかの属(草本)がヤブコウジ科に移しているためですが、 APG植物分類体系(第3版)ではヤブコウジ科、イズセンリョウ科を独立させず、すべての種をサクラソウ科としてまとめているとのことでした。

 

ツマトリソウは、主に北海道、本州の中部地方以北に分布し、海外では北半球北部(北アメリカの中・東部を除く)に分布します。
私も前述したとおり、6月の尾瀬で観察したことを覚えています。

 

草丈は10~15㎝で直立し、葉は茎に互生、上部になると輪生状に葉をつけます。
長さ5㎝ほどの葉は、少し幅広の披針形をしており、茎頂に5~10枚の葉をつけ、先端が少し尖っているのが確認できます。

 

花期は6~7月。花弁はまるで風車のようにキレイに7枚並んでおり、直径2㎝ほどの大きさで真っ白な花を上向きに咲かせます。
雄しべが花弁と同じく7個あり、おしべの先端には山吹色が印象的な葯(花粉を入れる袋)が色合いをより一層印象深いものとしています。
めしべは中央に1つ、非常に短いですが、黄緑色の柱頭もしっかりと確認することができます。

 

掲載した写真の花弁は真っ白ですが、花弁の先端が淡紅色に染まり、その色合いが鎧の威色目(おどしいろめ)の1つである褄取りに似ていることが「ツマトリソウ」の名の由来とのことです。
今回、ミズバショウやザゼンソウの事を調べている際、尾瀬の花を紹介しているホームページに、面白い紹介がされていました。
ツマトリソウは漢字で書くと「褄取草」です。大半の方が「妻」の字を書くと思っている方が多いそうで、そうすると「妻取草」になり、最近ニュースで頻繁に叩かれている不倫の花、略奪愛の花となってしまうと紹介がありました。
思わずその紹介ホームページを見ながら「座布団1枚」と、心の中で言ってしまうほどでしたが、これで漢字名は間違わず覚えられそうなトンチの効いた説明でした。

 

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095

イワブクロ(岩袋:Pennellianthus frutescens)

ここ数日、急に肌寒くなってきたため、我が家では電気毛布を購入するかどうか検討中です。
週末、植物の越冬について調べていると、面白い情報を知ることができました。
春先に花を咲かせる「ザゼンソウ(座禅草)」は、氷点下になる外気温でも自ら発熱して約20℃に保つことができるそうです。発熱する部分がどこか気になり、調べていると赤紫の苞葉部分ではなく、苞葉の中心部の肉穂花序の部分だそうです。さらに驚いたことに、温度が下がると、それに合わせて0.03℃の精度で制御しているとのことでした。確かに、残雪の残る時期にザゼンソウを観察していたら、ザゼンソウの周りだけ、円形に雪が解けていたような気もします。
電気毛布に頼る人間より、ザゼンソウの方が優れた生態なのかと感じた週末でした。

 

本日はザゼンソウの紹介ではなく、北海道で観察した「イワブクロ(岩袋:Pennellianthus frutescens)」をご紹介します。

 

イワブクロ(岩袋:Pennellianthus frutescens)

 

被子植物 双子葉類
学名:Pennellianthus frutescens
和名:イワブクロ(岩袋)/別名:タルマイソウ(樽前草)
科名:オオバコ科(Plantaginaceae)
属名:イワブクロ属(Pennellianthus)

 

イワブクロ(岩袋)は、北海道と東北地方に分布し、火山性の山の高山帯の砂礫などに自生します。海外では、シベリアやカムチャッカにも分布します。
イワブクロは、別名を「タルマイソウ(樽前草)」と言います。北海道の樽前山(たるまえざん)の7合目以上で群生する斜面が多いことが別名の由来だそうです。
私も樽前山には登ったのですが、時期が異なっていたため、観察はできませんでした。
掲載した写真は、北海道の大雪山・旭岳の麓で観察したものです。

 

オオバコ科イワブクロ属に属する多年草で、ある資料には「パイオニアプラントの1つ」と紹介されていました。あまり聞き慣れないパイオニアプラントという言葉でしたが、伐採地や崩壊地などの裸地に真っ先に生える植物の総称、 先駆植物とも言われるそうです。
イワブクロは岩場や火山砂礫にいち早く侵入、群生するパイオニアプラント(先駆植物)で、根茎が長く地中で広がるそうです。

 

草丈は10~20㎝で直立し、長さ5cm強、幅が1㎝強で長楕円形の葉が対生します。葉は少し厚みがあり、縁が浅めの鋸歯となっています。葉の表裏には毛は確認できませんが、浅い鋸歯の先端は刺々しくなっているのが確認できます。
葉の基部は茎を包むように丸まっており、葉の先端へ向かうにつれて外側に反り返るように生えています。
茎は赤褐色で、短い毛が生えていることが確認できます。
ある資料で「茎の断面は4稜形(4角柱)」と紹介されていました。
日頃、茎の形状は注目したことがなく、花図鑑などでも記載しているものは見たことがありませんでした。私が見落としているだけかもしれませんが、茎の形(断面)は円形が数多く、その他に2稜形、3稜形(3角柱)、4稜形(4角柱)、6稜形などがあるそうです。

 

桐の花に似ているイワブクロの花期は6~8月。茎頂に長さ3cm前後で筒形の唇形花を横向きに密集して咲かせます。
花の色は淡紫色で、上唇の部分が2裂、下唇の部分が3裂しています。
長さ1㎝弱の太くて短い花柄や長さ1㎝ほどの萼には、それぞれ腺毛が確認でき、花弁の外側にも同様に軟毛が確認できます。
雄しべは筒状の内部に4つあり、昆虫が花に潜り込む際に邪魔をして、昆虫の背が葯や柱頭に振れやすくする構造と考えられています。

 

花後は、花が抜け落ち、長さ1㎝ほどの蒴果が萼に包まれて残ります。

 

イワブクロ属(Pennellianthus)は、ゴマノハグサ科(Scrophulariaceae)に分類されていましたが、APG分類体系ではオオバコ科に分類されることとなりました。

 

今回のブログ作成では、ザゼンソウの越冬の不思議や、茎の断面の形状など、イワブクロの事以外でも様々な点を知ることができました。今後も勉強が必要なようです。

 

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イワブクロ(岩袋:Pennellianthus frutescens)②
094

ウコンウツギ(鬱金空木:Weigela middendorffiana)

現在、弊社では春に向けての日本国内ツアーの造成に励んでいます。
私も信州へ訪れ、カタクリや水芭蕉の群生地を巡るツアーを造成し、HPでも発表させていただきました。まだまだ寒い日が続いていますが、一足早い春の訪れを感じていただくため、是非HPを覗いてみてください。

 

本日は、北海道・大雪山国立公園で観察した「ウコンウツギ(鬱金空木:Weigela middendorffiana)」をご紹介します。

 

ウコンウツギ(鬱金空木:Weigela middendorffiana)

 

被子植物 双子葉類
学名:Weigela middendorffiana
和名:鬱金空木
科名:スイカズラ科(Caprifoliaceae)
属名:タニウツギ属(Weigela)

 

ウコンウツギ(鬱金空木、学名:Weigela middendorffiana)はスイカズラ科タニウツギ属の落葉低木の1つです。北海道から東北北部にかけて分布する高山植物で、非常に耐寒性のある植物です。

 

樹高は1~2mで、長さ5~10㎝ほどの葉先の尖った卵型の葉を3~4対つけます。鮮やかな緑色の葉には葉柄がほとんどなく、葉脈も明瞭でほんの少し光沢を感じることができます。縁には少し鋸歯が確認できます。
樹皮は灰褐色で縦に裂け、古枝になると樹皮が徐々に剥離して落ちるのが特徴です。

 

春に芽吹き始め、花期は6~7月。枝先などから長さ2~3㎝ほどの花柄を出し、3~4㎝弱の漏斗型(細長いラッパ型)で鮮やかなクリーム色の花を2~4個ずつ咲かせます。
漏斗型の花は下部は1㎝弱と細く、中央部分から先端部分にかけて膨れ、花弁の先端は浅く5裂しています。雄しべは5個、花後にも残る萼は2裂し、子房の下には小さな苞が2個付きます。
果実は2cmほどの長楕円形で、種子は5㎜前後で両端に長い翼のようなものが付いています。

 

ウコンウツギの花の色合いを印象的にするのが、花の内部にある斑紋で、花の咲き始めは黄色い斑紋ですが、古くなると徐々に赤く変わります。
この点は私も知っていたのですが、今回のブログを作成時に色々と調べていると、斑紋の色の変化は「ミツバチへの合図」ということでした。

斑紋が黄色いものは「蜜があるサイン」、赤いものは「受粉を終えて蜜も花粉もないサイン」とのことでした。
受粉を終えた後も落ちずに花を残しているのは受粉の手助けをするマルハナバチをおびき寄せるためで、花に寄ってきたマルハナバチは蜜のサインを見つけて黄色い方へ向かっていくそうです。
蜜や花粉の有無を花の内部の斑紋で知らせるウコンウツギの仕組みは、非常に興味深いものです。ウコンウツギのように色を変化させていく花はこの他にもいくつもあるようです。今後、調べてみたいと思います。よい情報があれば、ご連絡ください。

 

コロナウイルス感染拡大が心配な中、弊社でも十分に感染症対策を行い、ツアーを実施させていただきます。皆さんも体調管理に十分お気を付けください。

 

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ウコンウツギ(鬱金空木:Weigela middendorffiana)

 

093

ユキノシタ(雪の下:Saxifraga stolonifera)

長らくブログの更新が途絶えてしまい、申し訳ありません。
久々のブログ更新となりましたが、本日は大分県の国東半島にある国の重要文化財である熊野摩崖仏の見学の際に観察したユキノシタ(雪の下:Saxifraga stolonifera)」をご紹介します。

 

ユキノシタ(雪の下:Saxifraga stolonifera)

 

被子植物 双子葉類
学名:Saxifraga stolonifera
英名:マザー・オブ・サウザンス(子宝草)
ドイツ名:ユーデンバールト(ユダヤ人のひげの意)
中国名:虎耳草(こじそう)
科名:ユキノシタ科(Saxifragaceae)
属名:ユキノシタ属(Saxifraga)

 

ユキノシタ(雪の下:Saxifraga stolonifera)は、ユキノシタ科ユキノシタ属に属し、日本の本州、四国、九州に分布し、海外では中国にも分布する多年草です。
陰湿な岩場や沢沿いの石垣などに自生し、鑑賞用の花として植えられることもあります。

 

草丈は20~50㎝で直立し、根元から5~10㎝弱の葉柄を持つ根出葉を出し、ロゼット状に密集します。少し丸みを帯びた団扇を広げたような形状をしており、暗緑色で白色の粗い斑が入り、葉柄と葉には毛が確認できます。

 

種子による繁殖だけでなく、親株から地上茎である赤紫色の匍匐枝(ほふくし:走出枝とも呼ぶ)を出し、先端に新しい苗が生えて栄養繁殖も行います。

 

花期は5~7月(今回は大分県で11月に観察しました)、草丈20~50㎝の花茎の上部に多数の花を咲かせます。

 

ユキノシタは小さな花ですが、形状が非常に印象的な花であります。
花弁は5枚ですが、上部3枚の花弁は心形で上向きの先端が少し尖っており、基部が丸みのある可愛らしい花弁です。心形の葉は白色から薄ピンク色をしており(基部だけが白いものも)、中央には濃紅色の斑が印象的な色合いをしています。
さらに印象的なのは、下部2枚の花弁です。上部3枚の花弁に比べて長く、長さが1㎝ほどあります。真っ白な披針形の花弁が下向きに真っすぐ伸びていることで、全体の印象が”ハサミを広げたような形状”に見えます。
掲載した写真は、下部2枚の花弁が重なっているため”ハサミが閉じたような形状”に見えます。

 

色合いの印象をより強くするのが、中央にある子房です。鮮やかな黄色が印象的ですが、この色合いがより真っ白な花弁を引き立てているように感じます。
5枚の花弁の合間から5㎜ほどの雄しべが伸び、放射状に広がっています。雌しべは中央に短く延びています。

 

ユキノシタの名の由来は、諸説様々です。
雪が積もっても、雪の下では枯れずに緑の葉が残ることに由来する説、白い花を雪(雪虫)に見立てて、その下に緑の葉があることに由来する説、葉の白い斑を雪に見立てた説などあります。以前、下部の真っ白な2枚の花弁が舌のように見えるから「雪の舌」という名になったと聞いたこともあります。

上記に外国名も記載させていただきました。
ドイツではユダヤ人の髭を意味する「ユーデンバールト」、英名ではマザー・オブ・サウザンス(子宝草)、中国名では葉がトラの耳のように見えることから「虎耳草(こじそう)」とも呼ばれているそうです。
花の形状から、ドイツ名が一番しっくりくるように思うのは、私だけでしょうか。

 

今回は季節外れのような時期に咲くユキノシタを大分県の国東半島で観察することができました。
出発間際に見つけたため、ゆっくりと撮影はできませんでしたが、見事な群生でした。根生葉の撮影を忘れたのが心残りです。
群生するユキノシタもキレイでしたが、この花は是非1つ1つをじっくりと観察し、形状も楽しんでいただきたい花の1つです。

 

上の写真を少しアップにしてみました