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ヤクシマダイモンジソウ(屋久島大文字草:Saxifraga fortunei var. obtusocuneata f. minima)

前回に引き続き、本日も屋久島の花の1つ「ヤクシマダイモンジソウ(屋久島大文字草:Saxifraga fortunei var. obtusocuneata f. minima)」をご紹介します。

 

ヤクシマダイモンジソウ(屋久島大文字草:Saxifraga fortunei var. obtusocuneata f. minima)

 

被子植物 双子葉類
学名:Saxifraga fortunei var. obtusocuneata f. minima
科名:ユキノシタ科(Saxifragaceae)
属名:ユキノシタ属(Saxifraga)

 

ヤクシマダイモンジソウ(屋久島大文字草)は、ユキノシタ科の多年草で標高1,000m以上の標高帯で、湿った岩上に自生する屋久島の固有変種です。
同じユキノシタ科のダイモンジソウの仲間の1つであるウチワダイモンジソウ(団扇大文字草)が矮小化した品種とされています。

 

草丈は3~10cmで、ダイモンジソウに比べて草丈は低く、直立します。
葉は小さく0.5~1.5cmで縁が浅く4~5裂しており、葉全体に軟毛が確認でき、少し光沢も確認できます。

 

屋久島には「ヤクシマダイモンジソウ(屋久島大文字草)」ともう1種、屋久島の固有種「ヒメウチワダイモンジソウ(姫団扇大文字草)」があり、花の見た目はほとんど一緒で見分けが難しいようです。
私はヒメウチワダイモンジソウを観察したことがなく、見比べたことはありませんが、葉の違いが見分けるポイントとのことです。

 

※葉の軟毛の有無
→軟毛が確認できる種は「ヤクシマダイモンジソウ」
※葉の基部
→ハート型が「ヤクシマダイモンジソウ」、くさび型なら「ヒメウチワダイモンジソウ」

 

花期は8~10月。私は8月末に黒味岳山頂直下で観察することができました。
茎頂に細長く白い花弁(淡いピンク色にも感じる個体もありました)を5枚付けた花を1つ咲かせます。ユキノシタの仲間の特徴ですが、1つの花の中で花弁の長さに違いがあるのが面白いです。
上の2枚は短く2~3mmほど、横に広がる2枚の花弁は少し長く5mmほど、真下に伸びる1枚が最も長いですが、それでも1cm未満の短さです。
この5枚の長さの違いがまるで「大」の字ような広がりを見せることが「大文字草」の名の由来です。

 

花の中央からは、一番短い2枚の花弁とほぼ同じ長さの雄しべが数本伸び、中央に黄色い子房も確認できます。この黄色い子房と白色(または淡いピンク)の花弁との色合いのコントラストがヤクシマダイモンジソウをより印象深いものにすると感じます。

 

先日もお伝えしましたが、屋久島の花は矮小化したものが多いため、このヤクシマダイモンジソウも危うく見落としてしまいそうになります。
黒味岳など山頂を目指す中、いち早く山頂へ向かいたい気持ちも判りますが、逸る気持ちを抑えてヤクシマダイモンジソウをはじめとする高山植物をゆっくりと探してみてください。黒味岳には登頂と高山植物の観察という2つの楽しみがある点が魅力です。
※現在、春の屋久島で植生観察ツアーを造成中です。お楽しみに!!

 

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現在、屋久島で春の花の観察ツアーを含め、いくつか春の花ツアーを造成中です。発表次第、ホームページやこちらのブログでお知らせします。

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ユキノシタ(雪の下:Saxifraga stolonifera)

長らくブログの更新が途絶えてしまい、申し訳ありません。
久々のブログ更新となりましたが、本日は大分県の国東半島にある国の重要文化財である熊野摩崖仏の見学の際に観察したユキノシタ(雪の下:Saxifraga stolonifera)」をご紹介します。

 

ユキノシタ(雪の下:Saxifraga stolonifera)

 

被子植物 双子葉類
学名:Saxifraga stolonifera
英名:マザー・オブ・サウザンス(子宝草)
ドイツ名:ユーデンバールト(ユダヤ人のひげの意)
中国名:虎耳草(こじそう)
科名:ユキノシタ科(Saxifragaceae)
属名:ユキノシタ属(Saxifraga)

 

ユキノシタ(雪の下:Saxifraga stolonifera)は、ユキノシタ科ユキノシタ属に属し、日本の本州、四国、九州に分布し、海外では中国にも分布する多年草です。
陰湿な岩場や沢沿いの石垣などに自生し、鑑賞用の花として植えられることもあります。

 

草丈は20~50㎝で直立し、根元から5~10㎝弱の葉柄を持つ根出葉を出し、ロゼット状に密集します。少し丸みを帯びた団扇を広げたような形状をしており、暗緑色で白色の粗い斑が入り、葉柄と葉には毛が確認できます。

 

種子による繁殖だけでなく、親株から地上茎である赤紫色の匍匐枝(ほふくし:走出枝とも呼ぶ)を出し、先端に新しい苗が生えて栄養繁殖も行います。

 

花期は5~7月(今回は大分県で11月に観察しました)、草丈20~50㎝の花茎の上部に多数の花を咲かせます。

 

ユキノシタは小さな花ですが、形状が非常に印象的な花であります。
花弁は5枚ですが、上部3枚の花弁は心形で上向きの先端が少し尖っており、基部が丸みのある可愛らしい花弁です。心形の葉は白色から薄ピンク色をしており(基部だけが白いものも)、中央には濃紅色の斑が印象的な色合いをしています。
さらに印象的なのは、下部2枚の花弁です。上部3枚の花弁に比べて長く、長さが1㎝ほどあります。真っ白な披針形の花弁が下向きに真っすぐ伸びていることで、全体の印象が”ハサミを広げたような形状”に見えます。
掲載した写真は、下部2枚の花弁が重なっているため”ハサミが閉じたような形状”に見えます。

 

色合いの印象をより強くするのが、中央にある子房です。鮮やかな黄色が印象的ですが、この色合いがより真っ白な花弁を引き立てているように感じます。
5枚の花弁の合間から5㎜ほどの雄しべが伸び、放射状に広がっています。雌しべは中央に短く延びています。

 

ユキノシタの名の由来は、諸説様々です。
雪が積もっても、雪の下では枯れずに緑の葉が残ることに由来する説、白い花を雪(雪虫)に見立てて、その下に緑の葉があることに由来する説、葉の白い斑を雪に見立てた説などあります。以前、下部の真っ白な2枚の花弁が舌のように見えるから「雪の舌」という名になったと聞いたこともあります。

上記に外国名も記載させていただきました。
ドイツではユダヤ人の髭を意味する「ユーデンバールト」、英名ではマザー・オブ・サウザンス(子宝草)、中国名では葉がトラの耳のように見えることから「虎耳草(こじそう)」とも呼ばれているそうです。
花の形状から、ドイツ名が一番しっくりくるように思うのは、私だけでしょうか。

 

今回は季節外れのような時期に咲くユキノシタを大分県の国東半島で観察することができました。
出発間際に見つけたため、ゆっくりと撮影はできませんでしたが、見事な群生でした。根生葉の撮影を忘れたのが心残りです。
群生するユキノシタもキレイでしたが、この花は是非1つ1つをじっくりと観察し、形状も楽しんでいただきたい花の1つです。

 

上の写真を少しアップにしてみました
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サキシフラガ・ロンギフォリア(Saxifraga longifolia)

夏も近づき、いよいよ高山植物のシーズンがやってきました。
北半球では、高山植物と言えば7月というイメージですが、ヨーロッパのピレネー山脈は、アルプス山脈より1ヶ月ほど早い6月に花の見頃を迎えます。

 

本日は、固有種の多いピレネー山脈で観察した花の中で最も衝撃を受けた花であるユキノシタ科の一種の「サキシフラガ・ロンギフォリア(Saxifraga longifolia)」をご紹介します。

サキシフラガ・ロンギフォリア(Saxifraga longifolia)

被子植物 双子葉類
学名:サキシフラガ・ロンギフォリア(Saxifraga longifolia)
英名:King’s crown(王冠)
科名:ユキノシタ科(Saxifragaceae)  属名:ユキノシタ属(Saxifraga)

 

ユキノシタ科の仲間は、非常に大きなグループで400種以上もあると言われています。その多くがアジア、ヨーロッパ、北アメリカ、南アメリカ、アフリカに分布し、とくに高山地帯の岩場に生育します。

 

今回ご紹介する「サキシフラガ・ロンギフォリア(Saxifraga longifolia)」は、スペインでは王冠を意味する「コロナ・デ・レイ(Corona de rey)」と呼ばれているそうです。

 

スペインとフランスの国境に跨るピレネー山脈やスペイン東部の山々に生育し、ピレネー山脈では標高700~2,400mあたりの石灰岩の渓谷や、険しい断崖で観察することができるピレネーの固有種です(資料によって北アフリカのアトラス山脈でも自生するというものもありますが・・・)。

 

葉の長さは3~8㎝、幅は3~8㎜でロゼット状(地表に葉を平らに並べたように広がる状態)に広がります。
花茎の長さは30~50㎝もあり、大きな円錐花序(花序の軸が数回分枝し、最終の枝が総状花序となり、全体が円錐形をしている状態)に直径1cmほどの小さな白色の花を多数つけます。大きいものでは何と500以上の花を付けるものもあります。

サキシフラガ・ロンギフォリアの花

 

ハイキングやドライブをしながら、岩場の斜面などでサキシフラガ・ロンギフォリアを見つけた時は「岩場にイソギンチャクが貼りついている」と思ってしまう形状です。

 

このサキシフラガ・ロンギフォリアの形状以外に驚くべき点がもう1つあります。
何と開花までに5~7年(稀に2~3年)を要し、一度花を咲かせ種子が形成されてしまうと枯死してしまうのです。開花後。枯死する前に匍匐枝(ほふくけい:地上近くを這って伸びる茎のこと)が伸びて新苗を生じるようです。

 

そのため、ピレネー山脈に訪れても、場合によってはこのサキシフラガ・ロンギフォリアを観察できないかもしれません。
私が訪れた時は、現地ガイドさん曰く「当たり年」だったようで、道中の岩場の斜面の至るところに咲いていたため、5~7年に一度しか咲かないという案内が信じられませんでした。

ピレネー山脈は、ヨーロッパアルプスにはない固有種の宝庫。フラワーハイキングをしているだけで楽しい場所で、興味の尽きることのない楽園です。ユキノシタ科の花も今回紹介したサキシフラガ・ロンギフォリアだけではなく、たくさんの種類を観察することができます。
ピレネーの固有種やユキノシタ科の花は・・・また後日紹介させていただきます。

サキシフラガ・ロンギフォリア(Saxifraga longifolia)②