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ゼラニウム・ファエウム(Geranium phaeum)

先日23日、「尾瀬国立公園の山開き」というニュースを見ました。
新型コロナウイルスの感染拡大防止のため、尾瀬保護財団や環境省などは当面の入山自粛を求めている中、尾瀬ヶ原周辺では雪解けが進み、ミズバショウが見頃を迎えているそうです。
尾瀬は私が高山植物に興味を持ったきっかけとなった場所の1つ(北海道・大雪山、北海道・礼文島、尾瀬国立公園の3ヶ所への添乗がきっかけでした)ということもあり、1日でも早く気兼ねなく「遥かな尾瀬のフラワーハイキング」を楽しめることを願うばかりです。

 

前回に引き続きフウロソウ科フウロソウ属の一種、今回は珍しい色合いのフウロソウである「ゼラニウム・ファエウム(Geranium phaeum)」、日本の図鑑で「クロバナフウロソウ(黒花風露草)」と紹介されてる種を紹介します。

 

ゼラニウム・ファエウム(Geranium phaeum)

 

被子植物 双子葉類
学名:Geranium pyrenaicum 和名:クロバナフウロソウ(黒花風露草)
科名:フウロソウ科(Geraniaceae)
属名:フウロソウ属(Geranium)

 

世界各地に分布するフウロソウ科の花は淡い色合いのものが多いですが、今回ご紹介するゼラニウム・ファエウム(Geranium phaeum)は暗紫色が印象的なフウロソウです。
ヨーロッパ各地に分布し、平地の草原や山岳地帯などに自生します。私が観察したのはスペイン・ピレネー山脈でフラワーハイキングを楽しんでいる時でした。

 

草丈は50~80㎝で根茎をもち、茎は上部で枝分かれし、全体的に長めの白毛が確認できます。

 

根生葉はロゼット状につき、掌状に広がり15㎝ほどの大きさで5~7つに裂けています。
茎葉は互生(ごせい:茎の一つの節に1枚ずつ方向をたがえてつくこと)につき、葉に紫褐色の斑紋が広がっていることも確認できます。撮影をした際はあまりの花のキレイさに気を奪われすぎで、葉の撮影を忘れてしまったことが心残りです。

 

花期は5~8月、花は2~3㎝ほどの大きさで5枚の花弁をもち、若干後ろ向きに反り返っているのが特徴です。
暗紫色の花弁の色合いが特徴ですが、中央のおしべが突出し、おしべの周辺が白くなっており、そのことでゼラニウム・ファエウムの美しさを際立たせているように感じます。

 

開花後は他のフウロソウ科の花と同じく蒴果(さくか:果実のうち乾燥して裂けて種子を放出する裂開果のうちの一形式)をつけます。

 

日本を含む世界各地で様々なフウロソウ科の花が観察でき、各地で群生している風景は何とも言えない美しさです。
3回続けてフウロソウ科フウロソウ属の花を紹介させていただきましたが、群生するフウロソウを観察するだけではなく、一度1つのフウロソウをゆっくり、じっくりと観察してみてください。

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ゼラニウム・ピレナイクム(Geranium pyrenaicum)

今朝、朝のニュースでコロナウイルスの影響に伴う自粛規制のため休園している各地域のフラワーパークの映像が流れていました。各フラワーパークは休園期間中も解除後の来園客のため、来シーズンも同様に満開の花々を来園客に観てもらうため、現在も手入れを続けているそうです。
1日でも早く、安心してフラワーパークなどへ出掛けることができるよう、私たちも気を付けて生活しなければいけないと感じた朝でした。

 

前回に引き続きフウロソウ科フウロソウ属の一種である「ゼラニウム・ピレナイクム(Geranium pyrenaicum)」花の図鑑によっては「ピレネーフウロ」と紹介されてるフウロソウの花をご紹介します。

 

ゲラニウム・ピレナイクム(Geranium pyrenaicum)

 

被子植物 双子葉類
学名:Geranium pyrenaicum 和名:ピレネーフウロ
科名:フウロソウ科(Geraniaceae)
属名:フウロソウ属(Geranium)

 

学名のピレナイクム(pyrenaicum)と聞いてお気付きの方も多いかと思いますが、種小名は「ピレネー山脈の」という意味です。
先日、フウロソウ属の多くは、国内ではハクサンフウロやエゾフウロなど「地域の名前○○+フウロ」というふうに呼ばれているとご紹介しましたが、ゲラニウム・ピレナイクムはその名のとおり原産国はスペイン・ピレネー山脈ですが、固有種ではなく、ヨーロッパ・アルプスや北欧など広く分布します。上の写真は私がスイスに添乗した際に撮影したものです。

 

また、ブログ作成時に調べていると、日本では北海道でも帰化・定着し、北海道のブルーリスト(北海道に定着している外来種)に選定されているそうです。

 

地中海沿岸地方の山岳地帯で、牧草地や草原、乾燥した土壌に自生します。
草丈は30~60㎝、根元に根生葉を出し、ロゼット状に広がっています。
葉の形状はほぼ円形で5~7つの深い切れ込みがあり、対生(葉が茎の一つの節に2枚向かい合ってつくこと)します。

 

開花時期は5~9月、花は直径2㎝弱と小さく、紅紫色の5枚の花弁をたくさんつけます。
花弁の先端が少し深めに裂けているため、見た目には「紫色のミミナグサ(ナデシコ科)かな?」と思わせる形状です。ある資料には「先端が裂けているため、遠目には10枚の花弁があるように見える」とありました。フラワーハイキング中にゼラニウム・ピレナイクムを発見すると、確かにそのように見えます。

 

開花後は0.5㎝ほどの蒴果(さくか:果実のうち乾燥して裂けて種子を放出する裂開果のうちの一形式)をつけます。

 

前述したように「紫色のミミナグサ?」または日本の伊吹山や三重県の鈴鹿山脈(福寿草がきれいな場所です)などに分布する同じフウロソウ科フウロソウ属の「ヒメフウロ(姫風露:Geranium robertianum)かな?」と思わせるゼラニウム・ピレナイクム。
その色合い、小ぶりの形状、ハート型の花弁など、発見するとゆっくり観察したくなるフウロソウの花です。

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チシマフウロ(Geranium erianthum)

昨日、日本では緊急事態宣言が39県で解除されました。また、世界の一部の国・地域でも6月や7月から国境をオープンするという緩和情報も入ってきておりますが、国境オープンという情報があっても、国際線の再開や空港オープンの明確な情報はありません。
日本全体で回復傾向であるというニュースも多いですが油断はせず、世界各国の渡航緩和がされた際、「日本からの渡航者なら問題なし」と思ってもらえるよう、今一度気を引き締めて頑張らなければいけないと、ニュースを観て感じました。

 

本日はフウロソウの一種である「チシマフウロ(Geranium erianthum)」をご紹介します。

 

サハリンで観察したチシマフウロ(Geranium erianthum)

 

被子植物 双子葉類
学名:Geranium erianthum  和名:千島風露
科名:フウロソウ科(Geraniaceae)
属名:フウロソウ属(Geranium)

 

フウロソウ科(Geraniaceae)は花は約420種ともいわれ、日本の低地から高山帯、世界各地にも分布します。
フウロソウ属の学名はGeraniumですが、日本国内で「ゼラニウム」と呼ばれる品種の多くがテンジクアオイ属です。フウロソウ属の多くは、国内ではハクサンフウロやエゾフウロなど「地域の名前○○+フウロ」というふうに呼ばれています。

 

チシマフウロ(Geranium erianthum)は、本州北部では亜高山帯や高山帯に分布し、北海道は海岸地帯にも分布・生育します。海外ではサハリン、千島列島、北太平洋沿岸域を回りこんでカナダ北西部まで分布します。

 

日当たりの良い草地や砂礫地に自生し、草丈は20~50㎝。
葉は掌状に5~7裂に裂け、切れ込みは浅く裂片の先はそれほど鋭く尖らない形状をしています。姿がそっくりのエゾフウロ(蝦夷風露:Geranium yezoense)の葉は切れ込みが深いため、見分けるポイントと言われています。

 

花は茎頂に直径3㎝ほど、5枚の花弁で左右対称で青紫色の花をいくつか咲かせます。花期は6~8月です。
北海道の中央高地では淡い色のチシマフウロが多いという資料もありました。

 

花弁に比べ、葯(やく:おしべの一部で花糸の先端に生じ花粉形成が行われる袋状の部分)の部分が若干濃い紫色であるため、この色合いの違いが花の美しさであると個人的に思っています。

 

花弁の基部や萼(がく:花全体を支える役割の花弁の付け根にある緑色の小さな葉のような部分)には産毛のような白毛が確認できます。学名の「erianthum」は「軟毛の生えた花の」という意味を持つそうです。

 

フウロソウ科は日本を含め、世界各地で観察ができます。そのため、それぞれを見分けることが非常に難しく、お客様へも「フウロソウですよ」と説明しがちになり、まだまだ勉強が必要です。
北海道の中央高地にはチシマフウロの花色の淡いものが「トカチフウロ(Geranium erianthum f. pallescens)」として区別され、完全な白花品をシロバナノチシマフウロ(Geranium erianthum DC. f. leucanthum)とされています。
色々と調べていると、この3種を「チシマフウロの三兄弟」と表現されているブログがあり、非常に印象的な面白い表現で、私もいつしかこの三兄弟の観察・撮影を楽しみたいものです。

 

チシマフウロ(Geranium erianthum)
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エゾクロユリ(蝦夷黒百合:Fritillaria camschatcensis)

非常事態宣言が続く中でのゴールデンウィークが終了しましたが、皆さんはどのようにゴールデンウィークを過ごされたのでしょうか。
私は数日に1回、自宅前のスーパーマーケットへの買い物以外は外出をせず、大半を自宅で過ごす中で「ぬか床づくり」をはじめました。また、ゴールデンウィーク最終日に買い物へ出かけた際、自宅マンションのつつじが満開となっており、非常事態宣言の中、心癒される風景でした。

 

本日は日本の大雪山系やロシアのサハリン(旧樺太)で観察した「エゾクロユリ(蝦夷黒百合)」をご紹介します。

 

エゾクロユリ(蝦夷黒百合:Fritillaria camschatcensis)

 

被子植物 単子葉類
学名:クロユリ(Fritillaria camschatcensis)
和名:エゾクロユリ(蝦夷黒百合)
英名:Kamchatka lily、Chocolate lily 他
科名:ユリ科(Liliaceae) 属名:バイモ属(Fritillaria)

 

クロユリ(Fritillaria camschatcensis)は、その姿と花の色からクロユリと名付けられていますが、ユリ科のユリ属ではなく、ユリ科のバイモ属の高山植物です。
日本の北海道、東北地方の月山、飯豊山、中部地方に分布し、西限は北陸地方の白山とされ、石川県では「郷土の花」に指定されています。
海外では、千島列島、ロシアのサハリン、カムチャッカ半島、北アメリカ北西部に分布し、学名の「camschatcensis」は生育地の「カムチャッカ」を意味します。

 

広義のクロユリはミヤマクロユリ(Fritillaria camtschatcensis var.alpina)とエゾクロユリ(Fritillaria camschatcensis)を含めたものとされ、ミヤマクロユリは亜高山帯~高山帯に自生し、エゾクロユリは低地、海岸近くの林の下でも生育、観察できることもあります。
※掲載した写真はサハリンの海岸線近くの藪の中で観察したエゾクロユリです

調べてみると、エゾクロユリとミヤマクロユリは草丈の違いもありますが、染色体数に違いがあるようです。ミヤマクロユリの染色体数は2 対24本(2倍体というそうです)、エゾクロユリは3 対36本(3 倍体)とのことです。

 

地下にある鱗茎(りんけい:球根の一種)は多数の鱗片からなり、茎は直立で10~50㎝の高さになります。葉は長さ3~10㎝の披針形をし、数段にわたり輪生(りんせい:茎の一節に葉が3枚以上つくこと)しています。

 

花期は6~8月で、花は鐘状で茎先にやや下向きに咲き、長さが約3㎝、6枚の黒褐色の花被片をつけ、表面には細かい斑点と筋模様が確認できる花を咲かせます。
クロユリの花は独特の臭いがあります。クロユリの花粉を運ぶのは大部分がハエと言われており、この臭いがハエを呼び寄せているとも言われています。
花が終わると徐々に上を向くように変化し、実が膨らみ羽をもった種子をたくさんつけますが、発芽率は良くなく、繁殖の大半は栄養繁殖と呼ばれる地下の鱗茎が分裂して数を増やしています。

 

私が初めてクロユリを観察したのが「北海道の大雪山縦走登山」をしているときでした。その後、日本では北陸地方の白山でも観察しました。
アイヌ語ではクロユリは「アンラコル」と呼ばれ、アンが「黒」、ラが「葉」、コルが「持つ」という意味で、アイヌ民族はクロユリの鱗茎を干したものを食用にしてきたそうです。

 

北海道の大雪山国立公園は高山植物の宝庫です。
緊急事態宣言の中、外出や旅行を自粛する中でゴールデンウィークは我慢して生活をしてきました。高山植物の開花が始まる頃には、安心して旅行を楽しめるようになることを願うばかりです。

その願いを込めて弊社でも「花の北海道フラワーハイキング」を発表しました。
大雪山国立公園へクロユリやチングルマ、高山植物の女王コマクサを求めて、北海道へ訪れてみませんか?

 

エゾクロユリ(蝦夷黒百合:Fritillaria camschatcensis)
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ドロセラ・ロライマエ(Dorosera roraimae)

先日ネットニュースで福岡県八女市にある樹齢600年を超えた国の天然記念物「黒木の大藤」を観賞する『八女黒木大藤まつり』がコロナウィルスの影響で中止、悲しいことに藤の花が刈り取られてしまったということでした。
外出自粛のゴールデンウィークも終盤となりました。そんな中、非常事態宣言が5月末まで延長されました。近所の花や、世界各地での高山植物の鑑賞などを楽しむことのできる日が1日でも早く訪れることを願いながら、頑張って乗り越えましょう。

 

本日も前回に引き続き、ギアナ高地の食虫植物の1つ「ドロセラ・ロライマエ(Dorosera roraimae)」をご紹介します。

 

ドロセラ・ロライマエ(Dorosera roraimae)

 

被子植物 双子葉類
学名:ドロセラ・ロライマエ(Dorosera roraimae)
和名:モウセンゴケ(毛氈苔)
科名:モウセンゴケ科(Droseraceae) 属名:モウセンゴケ属(Drosera)

 

ドロセラ・ロライマエ(Dorosera roraimae)は、ブラジル、ガイアナ、ベネズエラ原産、ロライマエという学名でお気づきの方も多いかと思いますが、ギアナ高地固有のモウセンゴケです。
今回掲載させていただく写真は、2018年11月にギアナ高地のチマンタ山塊(ベネスエラ)で観察・撮影をしたものです。

 

1~2㎝ほどの葉柄(ようへい:葉身と茎を接続している小さな柄状の部分)がロゼット状に伸び、先端に腺毛(せんもう:先が球状になった毛のこと)のある丸い捕獲葉をつけています。腺毛からはネバネバとした酸性の粘液を分泌し、小昆虫を捕まえ消化吸収し、栄養源として育ちます。

 

ドロセラ・ロライマエの茎の高さは5~10㎝弱と短く、他の地域の種と大きな差はありません。
ただ、他の地域の種と違い、古くなった(枯れた)捕獲葉が下向きに垂れた後に株立ちした状態になり、その株立ちとなった部分から新たなドロセラ・ロライマエが自生し始めるのが特徴です。

 

株立ちのドロセラ・ロライマエを「高床式モウセンゴケ」と現地で呼んでいました。

 

古い株立ちの上に自生するドロセラ・ロライマエを観察すると、茎丈が非常に高い種であると勘違いしてしまいそうになります。現地で、株立ちの状態のドロセラ・ロライマエを観察した際、お客様と「高床式モウセンゴケ」と名付けたのを覚えています。

 

モウセンゴケの花といってもあまりイメージできない方も多いと思います。私もモウセンゴケというものを初めて観察した(立山・弥陀ヶ原でした)際には、捕獲葉自体が花と思っていました。

 

小さな蕾をつけたドロセラ・ロライマエ(Dorosera roraimae)

 

ドロセラ・ロライマエは、茎の根元近くで直立または湾曲した長さが8〜20cmの軸の先に白またはピンク色の小さな花を咲かせます。
私は蕾の状態までしか観察したことがなく、小さな花の開いたドロセラ・ロライマをいつの日か観察したいものです。

 

茎の根元から湾曲した軸を伸ばすドロセラ・ロライマエ

 

 

 

 

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ブロッキニア(Brocchinia)

先日、嫁さんと買い物へ行った際、近所の公園で花咲く「のだふじ」を観賞しました。
外出自粛と言われている時期でしたが、淡い藤色や鮮やかな白色ののだふじの花を観て、少し心が癒された瞬間でした。1日でも早く、気兼ねなく散歩を楽しめる日に戻ることを願うばかりです。

 

前回に引き続き、ギアナ高地の植生の1つ「ブロッキニア(Brocchinia)」をご紹介します。

 

ブロッキニア(Brocchinia)

 

被子植物 単子葉類
学名:
・ブロッキニア・レズクタ (Brocchinia reducta)
・ブロッキニア・ヘクチオイデス(Brocchinia hectioides)
科名:パイナップル科(Bromeliaceae) 属名:ブロッキニア属(Brocchinia)

 

ブロッキニア(Brocchinia)は、ギアナ高地に自生する食虫植物の1つです。
あまり聞き慣れない「パイナップル科(Bromeliaceae)」の植物で、葉腋に水を溜める特徴を持ち、その中でも上記で記載したブロッキニア・レズクタ(Brocchinia reducta)とブロッキニア・ヘクチオイデス(Brocchinia hectioides)の2 種のみが、食虫習慣があるとして、1984 年に食虫植物の仲間入りをしたそうです。

 

葉は上に向かって真っすぐに伸び、形状は長い剣状、断面はU字型にカーブしているため、葉が重なり合って筒状になっています。高さは50㎝から1mにも及ぶものもあります。

 

筒状のブロッキニアを真上から撮影

 

数枚の葉が重なり合い、その中心に水を溜め、その水は甘い香りを放ち虫を誘引するようです。葉の内側はクチクラ質(植物においては表皮の外側を覆う透明な膜で蝋を主成分とするもの)のため、中に入りこんだ虫が逃げられないような構造になっています。
黄緑色の葉の色合いが、広いグラン・サバンナでは非常に目立ち、虫をたくさん捕らえられているとも言われています。

 

溜まった水は強い酸性であり、その水で昆虫を殺し、液中に共生しているバクテリクテリアが捕まった昆虫を分解し、それを栄養源にしているようです。ギアナ高地では、ブロッキニアを分解して中に溜った昆虫(大半が蟻でした)も観察し、その量に驚かされました。

 

ブロッキニアを分解すると、中には蟻など昆虫の死骸がたくさん確認できました

 

筒の内側には、消化液を分泌する腺毛(無柄腺)があり、消化液は分泌せず、消化酵素の分泌も確認されていないと認識していたのですが、このブログを作成している中で色々と調べていると、ブロッキニア・レズクタ(Br.reducta)には「ホスファターゼ」という消化酵素を分泌していることが最近の研究で報告されているそうです。まだまだ勉強の余地があるようです。

 

私はこれまで幾度となくギアナ高地へ添乗させていただきましたが、2018年11月以来訪れていません。ベネズエラの情勢が安定し、1日でも早くギアナ高地の絶景と植生を楽しめるようになってほしいものです。

 

ブロッキニアの群生の向こうにはロライマ山
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ステゴレピス・ガイアネンシス(Stegolepis guianensis)

先日、天気予報サイトにて「のだふじ前線」のニュースが掲載されていました。
私の近所ののだふじも開花が始まり、淡い紫の藤の花が何とも言えない美しさです。今年の花見は諦めないといけない状況なのが残念です。
藤の花は春の終わりから夏の初めにかけて咲きます。新緑のシーズンを迎えるころ、気兼ねなく外出を、散歩を楽しめるよう、1日でも早い終息を願うばかりです。
※天気サイト「tenki.jp」は日本各地の花の開花ニュースや興味深い花の話なども掲載されており、オススメです。

 

本日は南米の中でも「秘境の代名詞」ともいえる場所であり、独特の植生が観察できるギアナ高地の花の1つ「ステゴレピス・ガイアネンシス(Stegolepis guianensis)」をご紹介します。

 

ステゴレピス・ガイアネンシス(Stegolepis guianensis)

被子植物 単子葉類
学名:ステゴレピス・ガイアネンシス(Stegolepis guianensis)
科名:ラパテア科(Rapateaceae) 属名:ステゴレピス属(Stegolepis )

 

ギアナ高地には約4,000種の植物が分布し、うち75%が固有種とも言われています。
有名なガラパゴス諸島の固有種が53%とも言われ、いかにギアナ高地が独自の進化を遂げてきたのかが解ります。

 

ステゴレピス・ガイアネンシス(Stegolepis guianensis)は、ラパテア科の一種。
ラパテア科(Rapateaceae)は、単子葉類の1つであるイネ目(Poales)に属します。南米と西アフリカの熱帯地帯に約100種が分布し、西アフリカの一種を除き、南米に自生し、多くの属はギアナ高地の固有属です。
ステゴレピス・ガイアネンシスも「ガイアネンシス(guianensis)」の名前からも解るとおり、ギアナ高地の固有種です。

 

ステゴレピス・ガイアネンシスの多くは湿地帯や岩場の隙間などに生息し、高さは60㎝~1mほどで、大きいものになると2m近くまで成長するものもあるそうです。

葉は長楕円形で少し肉厚、葉は根元で重なり合い、茎を包む葉鞘(ようしょう:葉の基部が鞘状になり茎を包む部分)になる葉が多数あり、長いもので1m以上のものもあります。

花茎の頂部に頭状に集まった花序をつけ,花序は2枚の発達した苞葉(ほうよう:蕾を包むように葉が変形した部分)に包まれています。

花は1~2㎝と小型で,3枚の萼と3枚の花弁を有しています。

 

2018年11月、ブラジルとの国境に位置するサンタ・クルスとエンジェル・フォールとの間に位置するチマンタ山塊の山上で植生の観察を楽しむツアーに同行させていただいた際、今回掲載した写真を撮影しました。
手元には苞葉に包まれた状態の写真しかなく、当日には開花したものも観察したのですが・・・撮影できる状況ではなかったので、開花したステゴレピス・ガイアネンシスの写真を掲載できないのが残念です。
現在、ベネズエラの情勢悪化の影響でツアー実施ができない状況ですが、ツアーが再開され、ステゴレピス・ガイアネンシスの花の撮影ができた際、改めてご紹介したいと思います。

 

ステゴレピス・ガイアネンシス(Stegolepis guianensis)②
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リクニス・アルピナ(Lychnis alpina / Silene suecica)

先日、大阪の「大阪まいしまシーサイドパーク」で行われる予定だった「100万株の青い花 ネモフィラ祭り2020」がコロナウィルスの影響に伴って中止になったと情報番組で伝えていました。
1年かけて栽培・準備を進め、満開に咲くネモフィラが観てもらえないという寂しいニュースでしたが、番組内で流れたネモフィラの花園の映像は、来年は是非行ってみようと思える映像でした。

 

先日に引き続き、グリーンランドで観察した花の1つである「リクニス・アルピナ(Lychnis alpina)」をご紹介します。

 

リクニス・アルピナ(Lychnis alpina Silene suecica)

被子植物・双子葉類
学名:リクニス・アルピナ(Lychnis alpina または Silene suecica)
英名:アルパイン・キャッチフライ(Alpine Catchfly)
科名:ナデシコ科(Caryophyllaceae) 属名:マンテマ属(Silene)

 

リクニス・アルピナ(Lychnis alpina)は2000種、88属にも達するナデシコ科に属する花です。
属名はマンテマ属(Silene)で学名も「Silene suecica」と表記されることもあります。
資料の中にはセンノウ属(Lychnis)と表記されていることもあり、マンテマ属(Silene)とセンノウ属(Lychnis)に関しては、以前は別属として扱われていたようですが、1984年に発表された文献でマンテマ属にまとめられたという資料を見つけました。

 

ノルウェーやスウェーデンなどに生息し、ヨーロッパ・アルプスやピレネー山脈、北米にも生息します。今回掲載した写真はグリーンランドで観察したものです。

リクニス・アルピナ(Lychnis alpina Silene suecica)

 

標高2,000~3,000mの岩礫地や放牧地などに生え、粘り気を少し感じる茎の高さは5~10㎝。
根生葉は披針形でロゼット状に広がり、茎葉は無毛で細長い線形で長さは1-5㎝。
茎頂には頭状花序にピンク色(稀に白色もあるようです)の花を咲かせ、花弁は5枚。花弁1枚1枚に深い切れ込みが入っており、ナデシコ科の特徴が花弁からも確認できます。

 

英名で「アルパイン・キャッチフライ(Alpine Catchfly)」と呼ばれ、粘り気を少し感じる茎に由来するようです。色々調べてみると、茎上部の葉の下に粘液を分泌する部分が帯状にあり、その粘着部で小昆虫を捕らえるとのことですが、捕獲された昆虫を消化吸収することはなく食虫植物ではようです。花の蜜だけを吸収し、虫(特にアリ)が茎を登って花に達するのを妨げていると考えられているそうです。

 

グリーンランドでは、岩礫場の岩陰にひっそりと咲いており、前回のヒメヤナギランのように氷河とともに撮影という訳にはいきませんでしたが、その可憐さだけで満足、何よりもグリーンランドという地で可憐な花を観察できたことの喜びが大きかったのを覚えています。

リクニス・アルピナ(Lychnis alpina Silene suecica)
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ヒメヤナギラン(Chamaenerion latifolium)

先日までつぼみだったツツジの花も徐々に開花が始まり、近所ののだふじ(大阪市福島区の花)のつぼみの先からもふじの花の色合いが見え始めました。

我が家の近所の彩り豊かになり、のんびり散歩でも楽しみたいと感じる毎日です。

 

本日は「ヒメヤナギラン(Chamaenerion latifolium)」をご紹介します。

 

ヒメヤナギラン(Chamaenerion latifolium)

学名:Chamaenerion latifoliumまたはEpilobium latifolium
科名:アカバナ科(Onagraceae)
属名:ヤナギラン属(Chamaenerion)
和名:ヒメヤナギラン 英名:Dwarf Fireweed(アラスカ)

 

ヒメヤナギラン(Chamaenerion latifolium)は、アカバナ科のアカバナ属(Epilobium)に分類されることもありますが、近縁種ヤナギラン(Chamaenerion angustifolium)を含むヤナギランの仲間は、葉が互生(茎の一つの節に1枚ずつ方向をたがえてつくこと)し、花が総状につき、はじめは花柱が下向きに曲がるなどの点で他とは異なることから、ヤナギラン属(Chamaenerion)として分けられています。

 

ヒメヤナギランはヨーロッパ、アジア、北アメリカ、北極圏、亜極圏など、北半球の温帯地域から寒帯地域に広く分布するアカバナ科(Onagraceae)に属する多年草です。私も過去にパキスタンのバルトロ氷河のモレーン帯や、アラスカのデナリ国立公園などで観察しましたが、今回掲載させていただいたヒメヤナギランの写真は「グリーンランド」で観察したものです。

 

葉は無柄で長さが3~5cmほど、細長く先のとがった披針形をしており、生息地によって異なるようですが毛が生えているものや蝋質で無毛のものもあるそうです。グリーランドで観察したものは、僅かながら産毛のようなものが生えているのが確認できました。
花茎は近縁種ヤナギラン(Chamaenerion angustifolium)に比べて小型で、高さは20~50cmほど。全体に微細な毛が密集し、花茎がほんの少し粉白色を帯びているように感じるくらいです。
花柄は1~2cmと短く、鮮やかなピンク色の花弁が4枚つき、直径が3~6cmとヤナギランに比べて大きな花を咲かせます。また、4枚の花弁の裏側には先のとがった濃い紫色の萼片(がくへん)があり、正面から見ると4枚のピンク色の花弁の間から濃い紫色の萼片が見え、より印象的な色合いの花となります。

 

ヒメヤナギランは学名、和名以外にも各地で様々な名称、呼ばれ方があります。

 

北米のアラスカでは、伐採地や針葉樹林帯の山火事跡などでいち早く花を咲かせ、群生地を作り出すことから「Dwarf Fireweed」と呼ばれています。
今回掲載させていただいたヒメヤナギランの写真は「グリーンランド」で観察したものですが、グリーンランドではヒメヤナギランは象徴的な花とされ「niviarsiaq(少女)」と呼ばれています。

 

ヒメヤナギランは全ての部分が食用であり、ほうれん草の様な味がするそうです。
イヌイットの人々は生葉をサラダとしてアザラシとセイウチの脂身を食べたり、水に浸したお茶を飲んだりするそうで、イヌイットの人々にとって貴重な栄養を提供する植物であると、グリーンランドのガイドさんが説明されていました。

 

世界各地で観察したヒメヤナギランですが、観察する場所、場面で印象も変わってきます。私の大好きな氷河の風景とヒメヤナギランの群生する風景は忘れることのできない思い出の1つです。

グリーンランドの氷河とヒメヤナギラン
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デルフィニウム・カシメリアヌム(Delphinium cashmerianum)

ここ数日温かく天気の良い日が続いており、近所のあちらこちらでツツジが咲き始めています。私の自宅近くの蕾も大きくなり、開花も間もなくという状況です。
また、兵庫県丹波篠山市では大輪のシャクナゲ(ツツジ科)が咲き始めているというネットニュースを観ました。例年「にしきシャクナゲまつり」が行われているそうですが、今年はコロナウイルス騒動のため中止になってしまったそうです。残念なニュースですが、例年通りキレイなシャクナゲが咲いているというニュースは外出自粛が続く中、ほっこりとするニュースでした。

 

本日も前回に引き続き、インド・ザンスカール地方で観察した花の1つ「デルフィニウム・カシメリアヌム(Delphinium cashmerianum)」をご紹介します。

 

デルフィニウム・カシメリアヌム(Delphinium cashmerianum)

被子植物 双子葉類
学名:デルフィニウム・カシメリアヌム(Delphinium cashmerianum)
科名:キンポウゲ科(Ranunculaceae)
属名:デルフィニウム属またはオオヒエンソウ属(Delphinium)

 

属名の「デルフィニウム(Delphinium)」は、ギリシャ語でイルカを意味する「delphis」を語源とし、花の蕾の形がイルカに似ていることに由来するとされています。また、同じ属名で「オオヒエンソウ属」と紹介される図鑑などもありますが、これは和名の「大飛燕草(オオヒエンソウ)」からきており、花の形状が燕の飛来する形に似ていることが由来するとされています。

 

デルフィニウム属は、世界に約350種があり、北半球の温帯~寒帯に広く分布し、少数がアフリカの高地に分布します。英名ではbee larkspur 、larkspurと呼ばれています。

 

デルフィニウム・カシメリアヌムは、パキスタンからヒマラヤ西部、インド・ガルワール地方に分布し、乾燥した高山帯の岩礫地や斜面の草地に生え、花期は7~9月です。

花茎の高さは10~50cm、上部に軟毛が生え、葉の幅は3~8cm、葉の表裏にも太い毛がまばらに生えているのが確認できます。

花は散房状(下の方の花柄は長く、上の方は短い花がほぼ一面に並んで咲く状態)につき、花柄(先端に花を付ける柄の部分)は長さ4~7cm、花弁は暗紫色で、まばらに軟毛が生える淡い紫色の萼片(がくへん)で覆われています。

 

私がデルフィニウム・カシメリアヌム (Delphinium cashmerianum) を観察したのがインドのザンスカール地方で、標高5,000mのシンギ・ラ峠、さらには標高4,430mのキュパ・ラ峠の2つを1日で越えるトレッキングの道中でした。
最初の峠であるシンギ・ラ峠を目指す中、斜面に咲くデルフィニウム・カシメリアヌムやトラノオの一種の花が一面に咲き誇り、周囲の岩山、青空の色合いと相まって一服の清涼剤、活力になったのを覚えています。
岩山とデルフィニウム・カシメリアヌムの花を入れる構図の撮影は、標高4,000mを越える礫地で腹這い状態での撮影、まさに命がけの撮影でした。ただ、命懸けでも撮影したいと思えるほど可憐な花でした。

命懸けで撮影した「デルフィニュウム・カシメリアヌム」