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コバイケイソウ(Veratrum stamineum)

京都市右京区の「蓮の寺」として有名な法金剛院で蓮の花をめでる観蓮会(かんれんえ)が始まったというニュースがありました。
暦の上、7月12日から七十二候(しちじゅうにこう:二十四節気(にじゅうしせっき)は半月毎の季節の変化を示していますが、これをさらに約5日おきに分けて気象の動きや動植物の変化を知らせるのが七十二候)では「蓮始開(はすはじめてひらく)」の期間となり、7月中旬から8月中旬に蓮の花は見頃を迎えます。
蓮の花の命は4~5日と短いですが、泥の中から美しく成長するその姿に、昔の人々は極楽浄土を見たとされ、仏教では慈悲の象徴とされています。
法金剛院の観蓮会は8月2日まで開かれてようなので、是非訪れてみたいものです。

 

蓮の花のニュースをご紹介しましたが・・・本日は蓮の花のご紹介ではなく、前回に引き続き、本日日本の花である「コバイケイソウ(Veratrum stamineum)」をご紹介します。本日の写真も弊社東京本社に在籍する島田が霧ヶ峰で撮影した写真を拝借させてもらいました。

 

コバイケイソウ(小梅蕙草:Veratrum stamineum)

 

被子植物 単子葉類
学名:Veratrum stamineum
和名:小梅蕙草
科名:シュロソウ科(Melanthiaceae)またはメランチウム科
属名:シュロソウ属(Veratrum)

 

コバイケイソウは、ユリ科(Liliaceae)と記載しているもの、シュロソウ科(Melanthiaceae)と記載されているものと様々です。
現在、コバイケイソウはユリ目シュロソウ科(またはメランチウム科)シュロソウ属に分類される多年草です。以前はユリ目ユリ科(Liliaceae)に含められていましたが、新しい植物分類体系でシュロソウ科と分類されるようになりました。

 

本州の中部地方以北から北海道に分布し、本州では山地から亜高山帯の草地や湿地に生えるが、北海道では低地でも観察することができる日本固有の多年草です。

 

草丈は直立で50㎝から100㎝に及びます。
葉は互生(茎の一つの節に1枚ずつ方向をたがえてつくこと)し、広楕円形で長さが10~20㎝ほどの大型の葉を付けます。大型の葉に直接触れると固さを感じ、葉脈は平行脈ではっきりとしているのが印象的です。基部は大型の葉が茎を包むように生えています。

 

花期は6~8月、茎の上部に白く可憐な花が密集して円錐花序をつくります。
花の直径は1㎝ほどと小さく、花弁や萼などの花被片は6枚あり、中央の花穂には両性花(一つの花に雄しべと雌しべの両方が備わっている花:サクラ・アサガオなど)がつき、脇に枝分かれした花穂には雄花(おしべのみをもつ花)がつくそうです。
コバイケイソウの群生を初めて観察した時は、毎年同じ株が花を咲かせるかと思っていましたが、同じ株が毎年花を咲かせるのではなく、多数の花が揃って咲くのは数年に一度しかないそうです。

 

コバイケイソウは有毒です。全草に毒性をもち、誤って食べてしまうと嘔吐やけいれんを引き起こし、重篤な場合は死に至ることもあります。若芽が山菜のオオバギボウシなどに似ていることから、誤食による食中毒が毎年発生しているそうです。

 

名前の由来は、花が梅に似ている点、さらに葉が蕙蘭(けいらん:ラン科の紫蘭の古名)に似ていることから「梅蕙草(バイケイソウ)」と呼ばれるようになり、バイケイソウより小型な種ということでコバイケイソウと呼ばれるようになりました。

 

コバイケイソウは、私にとっては非常に思い出深い花の1つです。
私がまだ20代の頃(国内添乗員だった頃)、中央アルプスの木曽駒ケ岳へ訪れ、ロープウェイに乗って標高2,612mの千畳敷駅に到着したら、花畑一面に高山植物が咲き揃い、その中でコバイケイソウが群生していました。
現地ガイドさんが「今年はコバイケイソウの当たり年」とおっしゃっており、お客様と共に夢中になって観察したのを今でもはっきりと覚えています。
あの時の千畳敷カールでのコバイケイソウの群生は、今思えば私が高山植物に興味を持つきっかけになった風景の1つかもしれません。
※唯一の後悔は、当時はカメラ撮影に興味がなかったことです。

 

コバイケイソウの群生
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レブンシオガマ(Pedicularis chamissonis var rebunensis)

先月、我が家の嫁さんが塊根植物の一種である「アデニウム・オベスム(Adenium obesum)」を購入し、その後も大事に育ててくれています。
少しずつですが成長しており、蕾も大きくなり、花が咲く日も近いようです。砂漠のバラと称される美しい花が咲くと聞いているので、非常に楽しみです。

 

本日は北海道・礼文島に咲く「レブンシオガマ(Pedicularis chamissonis var rebunensis)」をご紹介します。今回の写真は、弊社が知床半島・羅臼にて営業している「知床サライ」に在籍する森田が撮影したものを拝借させてもらいました。

 

レブンシオガマ(Pedicularis chamissonis var rebunensis)

 

被子植物 双子葉類
学名:Pedicularis chamissonis var rebunensis
和名:礼文塩竈
科名:ハマウツボ科(Orobanchaceae)
属名:シオガマギク属(Pedicularis)

 

レブンシオガマは北海道北部の礼文島に自生し、ハマウツボ科シオガマギク属の多年草、礼文島の固有種です。今回の写真も森田が6月末に礼文島で観察したもので、私も国内添乗員時代(まだ若かれし頃)に礼文島の桃岩展望台で群生を観察したことを覚えています。

 

資料によってはゴマノハグサ科(Scrophulariaceae)に分類されていますが、分類の体系によって異なるそうですが、現在ではハマウツボ科に属します(私もゴマノハグサ科という認識でした)。

 

シオガマギク属は北半球に広く分布し、約500種もあります。
有名なヨツバシオガマ(四葉塩竈:Pedicularis japonica)、キタヨツバシオガマ(北四葉塩竈:Pediculasis chamissonis var. hokkaidoensis)、レブンシオガマ(礼文塩竈)などがありますが、実際に分類、見分けが非常に難しく、現場でも「シオガマですよ」と案内してしまうことが大半です。
キタヨツバシオガマ(北四葉塩竈)、レブンシオガマ(礼文塩竈)はヨツバシオガマの変種とされており、資料によってはキタヨツバシオガマとヨツバシオガマは区別をしない、ヨツバシオガマの大型種をハッコウダシオガマ(またはキタヨツバシオガマ)と呼ぶこともあるが、厳密に区別することはできないという資料など様々あり驚きました。

 

レブンシオガマは、草丈が70~100㎝で直立し、ヨツバシオガマに比べると大きく成長します。
葉の形状は羽状全裂で、見た目には鋸のような形状はシオガマギク属の特徴と同じですが、ヨツバシオガマとの大きな違いは、葉の付き方と数です。
ヨツバシオガマはその名のとおり、葉が4枚ずつ輪生(茎の一節に3枚以上が車輪状になってつくつき方)するのに対し、レブンシオガマは葉が5~6枚輪生するのが特徴です。
先程、見分けが難しいと記載しましたが、今回の写真を見た際にヨツバシオガマかレブンシオガマか非常に迷いましたが、写真を大きくアップにしてみると、葉が5枚輪生していることがわかり、レブンシオガマと判別しました(森田にも確認をしてもらいました)。

 

1つ1つの花は小さく、淡紫~紅紫色の色合いで、2㎝ほどの長さで2唇形の花弁を持ちます。
上唇の部分が鋭く尖って下向きになっています。まるでハチドリの嘴のような形状がシオガマギクの特徴で、印象深い姿をしています。

 

花期は6~7月、花は直立した茎に対して20~30段ほど輪生してつけ、花は下から順に咲いていきます。他のシオガマギク属の花に比べると輪生して花をつける段数が多いのも特徴です(背丈が高いのが原因かと)。

 

シオガマギク属の花の見分け方、分類などはまだまだ勉強が必要ですが、レブンシオガマをはじめとするシオガマギク属の花の可憐さ・美しさは必ず足を止めてゆっくりと観察したくなる魅力ある花の1つです。勉強の成果は・・・また後日。

 

レブンシオガマ(Pedicularis chamissonis var rebunensis)

 

<レブンシオガマが観察できるツアー>
花の季節に訪れる北海道最北の旅~利尻島・礼文島から宗谷岬、知床半島へ~
上鶴篤史氏同行シリーズ
礼文島「愛とロマンの8時間コース」と利尻島、サロベツ、宗谷丘陵ネイチャーハイキング
北海道大自然をぐるっとめぐる旅

 

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イワカガミ(Schizocodon soldanelloides)

7月に入り、いよいよ弊社でも国内ツアーが本格的にスタートしました。
特に7月は日本各地でも高山植物が花咲く季節のため、私自身も楽しみなシーズンでありますので、本日からしばらく「日本の花」をテーマにご紹介していきたいと思います。

 

以前、イワカガミダマシ(Soldanella alpina)という花を紹介しましたが、本日はダマシではなく「イワカガミ(Schizocodon soldanelloides)」をご紹介します。今回の写真は、弊社東京本社に在籍(3月まで大阪支社に在籍)の島田が撮影したものを拝借させてもらいました。

 

イワカガミ(Schizocodon soldanelloides)

 

被子植物 双子葉類
学名:Schizocodon soldanelloides
和名:岩鏡(イワカガミ)
科名:イワウメ科(Diapensiaceae)
属名:イワカガミ属(Schizocodon)

 

イワカガミ(Schizocodon soldanelloides)は、イワウメ科イワカガミ属の多年草であり、山地の岩場や草原に自生します。
山地といっても高地だけではなく、低山帯にも自生します。
分布としては北海道(一部資料には北海道では限定的とあります)、本州、四国、九州と日本全国に分布しますが、日本固有種です。
私も国内添乗員だった頃、上高地などで観察した記憶があります。

 

草丈は10~20㎝ほどで直立し、茎の色が濃紫色をしているのが特徴です。
根元には3~6㎝程度の大きさの丸のある葉をつけ、葉には光沢が確認できます。
和名の「岩鏡」という名の由来が、岩場に自生し、この艶のある光沢の葉が鏡のように見えることから、名付けられました。改めて、粋な名前をつけたものだと感じます。
光沢がある葉であることだけが注目されていますが、よく観察すると葉の縁には鋸場があるのも特徴です。

 

花期は4~7月、茎頂にピンク色で漏斗状の花を3つほど咲かせます。花は1.5~2㎝ほどの大きさで下向きに咲き、花冠は5裂し、裂片の先端~真ん中あたりまで細かく裂けています。
花の中央にはクリーム色(黄色)の雄しべが5つ環状に並んでおり、漏斗状の花から覗き見ることもでき、ピンク色の花弁と相まって印象的な色合いとなります。
※ここがイワカガミダマシとの違いです。
イワカガミダマシも1~1.5㎝程度の花を下向きに咲かせますが、花弁の部分が基部までしっかりと切れ込みが入っており、花弁の先端部分が若干反り返り、花弁の中央に長い雄しべが突き出しているのが特徴的です。

 

イワカガミの学名の種小名「soldanelloides」は「サクラソウ科の Soldanella属に似た」という意味で、Soldanella はイタリア語の「soldo(小さいコイン)」に葉が似ることに由来します。
また、イワカガミダマシの時も紹介しましたがイワカガミ(Schizocodon soldanelloides)の種小名の soldanelloides は「Soldanella(イワカガミダマシ属)+oides(のような)」で「イワカガミダマシ属に似た」という意味を持つそうです。

 

若干間隔が空いてしまっての紹介でしたが、日本固有種のイワカガミとヨーロッパ原産のイワカガミダマシ。同じポイントで見比べることはできないですが、これまでのブログをご覧いただき、また下記写真を見比べていただき、どちらの花がお好みか見比べてみてください。
個人的には「イワカガミダマシ」が好みかな。

 

イワカガミ(Schizocodon soldanelloides)
イワカガミダマシ(Soldanella alpina)

 

<イワカガミが観察できるツアー>
花の季節に訪れる北海道最北の旅~利尻島・礼文島から宗谷岬、知床半島へ~
花の北海道フラワーハイキング~世界遺産・知床から神々の遊ぶ庭・大雪山の花園を求めて~
山と森の信仰の地 出羽三山・蔵王・山寺
道南と青森の大自然をめぐる旅
上鶴篤史氏同行シリーズ  東北のブナと巨樹の森と花の湿原歩き&酒田・村上まち歩き
上鶴篤史氏同行シリーズ  霧ヶ峰・美ヶ原 中央分水嶺トレイル完全踏破と王ヶ頭ホテル
信越トレイル 80km完全踏破
上鶴篤史氏同行シリーズ  北アルプス縦走トレッキング 裏銀座から雲ノ平へ 雲上の絶景を歩く

 

 

064

エキノプス・コルニゲルス(Echinops cornigerus)

6月も終わり、いよいよ明日から7月に入ります。梅雨時期に咲くアジサイなどの花に隠れて、大きくなってきたユリの蕾が花開くシーズンです。
先日ネットニュースで「ユリ王国は極東にあり!日本の山野は美しい自生ユリの宝庫だった」という興味深い話が掲載されており、私も7月22日出発「甑島列島探訪と噴煙たなびく桜島」に同行させてもらい、甑島のカノコユリを観察を楽しむため、思わず夢中になって見てしまいました。
興味深いユリの話、またカノコユリの紹介などは、追ってさせていただきます。

 

先日に引き続き、キク科ヒゴタイ属の一種である「エキノプス・コルニゲルス(Echinops cornigerus)」をご紹介します。

 

エキノプス・コルニゲルス(Echinops cornigerus)

 

被子植物 双子葉類
学名:エキノプス・コルニゲルス(Echinops cornigerus)
科名:キク科(Asteraceae)
属名:ヒゴタイ属(Echinops)

 

エキノプス・コルニゲルス(Echinops cornigerus)は、アフガニスタンから中央ネパールに分布し、極度に乾燥した谷の礫地などに自生します。標高2,500~3,500mの高地に自生するものもあります。私がエキノプス・コルニゲルスを観察したのは、北部パキスタンのインダス川に沿ってカラコルム・ハイウェイを走行している道中でした。

 

草丈は50㎝から、1m近いものもあり、直立した茎は少し太さを感じるほどです。
葉は長さが15~30㎝ほどで羽状中裂し、鋸のような形状をした葉からは長さ2㎝ほどの鋭い棘が突き出ています。この葉の様子から「アザミの一種かな?」と感じてしまいます。

 

太い茎頂には直径7~8㎝ほどの球状頭花をつけるのですが、茎頂に1つだけ付ける頭花は、開花状況によって印象が異なります。
つぼみの状態の時は刺状の総苞片(つぼみを包むように葉が変形した部分)が目立つため、イガグリのように見えます。
つぼみから花が開き始めると長さが2㎝弱の白から淡紫色の細い花弁が確認でき、花弁の5裂して先端が少し反り返るため、全体の形状がより丸くなり、まるでくす玉のような形状となります。
この特徴は、先日ご紹介したオクルリヒゴタイ(Echinops latifolius Tausch)と同じです。

 

色合いが異なりますが、皆さんはどちらの色合いがお好みでしょうか。
個人的には淡い色合いのエキノプス・コルニゲルス(Echinops cornigerus)の方が好みです。

 

北部パキスタンへ訪れ、カラコルム・ハイウェイを走行しているとバス車中からこのエキノプス・コルニゲルスが咲いていないか、気が付いたら夢中になってあたりを探していることがあります。
是非、皆さんもエキノプス・コルニゲルスを観察するため、パキスタンへ訪れてみてください。その先には雄大なヒマラヤ山脈やカラコルム山脈の景観が待っており、各所で高山植物が楽しめる場所でもあります。
※ちなみに上写真は7~8分咲き、下写真はほぼ満開の状況です。

 

エキノプス・コルニゲルス(Echinops cornigerus)
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オクルリヒゴタイ(Echinops latifolius Tausch)

先日ネットニュースで「北海道の牧場は大忙し」という記事を見つけました。
6月中旬になると晩秋から冬の間の牛の貴重な食糧となる牧草の収穫が始まり、天気予報を注視し、牧草の収穫の日取りを決めるそうです。
一年ではじめに収穫される牧草は一番草と言い、一番草のおよそ50日後の8月上旬に収穫する牧草を二番草と言うそうです。ビールでいう「一番搾り」と同じでしょうか?
まだ6月で、これから夏の到来と思っていましたが、北海道の牧場では冬のための作業が始まっているという驚きのニュースでした。

 

本日は手毬のような球体の花が印象的な「オクルリヒゴタイ(Echinops latifolius Tausch)」をご紹介します。

 

オクルリヒゴタイ(Echinops latifolius Tausch)

 

被子植物 双子葉類
学名:エキノプス・ラティフォリウス(Echinops latifolius Tausch)
漢字名:奥瑠璃平江帯
モンゴル名:ウルグン・ハフチット・タィジィーンズス
科名:キク科(Asteraceae)
属名:ヒゴタイ属(Echinops)

 

ヒゴタイ(平江帯、学名:Echinops setifer)は、日本・朝鮮半島・中国が原産と言われるキク科ヒゴタイ属の多年草、日本でも西日本から九州に自生します。
本日ご紹介するオクルリヒゴタイ(Echinops latifolius Tausch)はロシアやモンゴルが原産と言われており、私が観察したのはモンゴルでフラワーハイキングを楽しんでいた道中でした。

 

長く伸びた茎は直立し、草丈は比較的背が高く、70~100㎝ほどです。
花は細長い楕円形をしており、葉の縁が刺々しく、葉も硬さを感じるほどです。この辺りが、アザミに似た品種と言われる所以かもしれません。

 

花期は7~8月、砂地の多い草原などで自生します。
濃紫色で1㎝弱の筒状の花が密集し、直径3~5㎝ほどの球体の姿をした花を咲かせます。花の付き方、花の形状は「手毬のように咲く」「くす玉のように咲く」「ぼんぼりのように咲く」と表現は様々ですが、見事な球体がとても印象的です。
似た花としてヨーロッパ原産のルリタマアザミ(瑠璃玉薊)やカラコルム・ハイウェイ(北部パキスタン)をドライブしていると道路脇でよく観察できるエキノプス・コルニゲルス(Echinops cornigerus)があります。

 

属名の「エキノプス(ヒゴタイ属:Echinops)」は「ハリネズミのような」という意味のギリシャ語に由来すると言われていますが、花の大きさから「イガ栗のような」という表現の方が良いと感じるような姿をしています。
特に蕾の状態の時は特に感じます(花を咲かせる前は緑色の球体です)。

 

オクルリヒゴタイは草丈が高いこともあり、フラワーハイキングを楽しんでいるとすぐに目に飛び込んでくる花です。
花の咲く前から形状は球体ですが、花が開き始める緑色から、徐々に淡い紫色となり、満開になると濃紫色へ変化します。
ハイキングの道中で一度足を止め、花の形状だけではなく、筒状の小さな花の1つ1つ、さらには観察の際の開花具合による花の色合いなど、じっくりと観察を楽しんでほしい花の1つです。

 

オクルリヒゴタイ(Echinops latifolius Tausch)
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イワカガミダマシ(Soldanella alpina)

先日、日本政府より外出自粛や休業要請等の段階的緩和、ステップ2への移行が発表され、都道府県をまたぐ移動が解禁となりました。
さっそく新幹線や空の便でも徐々に人出が戻り始めたというニュースも流れており、弊社も宿泊業・運送業及び各地の自治体のガイドラインに基づき、現地事業者とコロナウイルス感染症対策の打ち合わせを行った上で実施させていただきます。
旅行会社としてはようやくここまで来たという喜びとともに、行く先々での感染症予防対策をしっかりし、各地の方々へご迷惑をかけないよう、一層気を引き締めてツアーの実施に当たらなければいけないと感じました。

 

本日は名前が少し変わった「イワカガミダマシ(Soldanella alpina)」をご紹介します。

 

イワカガミダマシ(Soldanella alpina)

 

被子植物 双子葉類
学名:ソルダネラ・アルピナ(Soldanella alpina)
和名:イワカガミダマシ(岩鏡騙し)
英名:Alpine Snowbell
科名:サクラソウ科(Primulaceae)
属名:イワカガミダマシ属またはソルダネラ属(Soldanella)

 

イワカガミダマシ(Soldanella alpina)は、その名のとおり日本にも自生するイワカガミ(Schizocodon soldanelloides:イワウメ科イワカガミ属)に似ていることから名付けられました。確かに姿・形状はそっくりですが、イワカガミダマシはサクラソウ科の一種で、イワカガミダマシ属(Soldanella)に属します(資料によって属名そのままソルダネラ属と記載もあります)。

 

ピレネー山脈やヨーロッパ・アルプス、アペニン山脈(イタリア半島を縦貫する山脈)にかけて自生し、標高1,200m~3,000m弱の牧草地や遅くまで残雪の残る岩礫地などに自生します。
私がイワカガミダマシの花を観察したのは、イタリアのモンテ・ビアンコ(モンブランのイタリア名)の麓でフラワーハイキングを楽しんでいる時でした。

 

草丈は5~15㎝と高くなく、茎の根元に1~3㎝の大きさの円形の葉をつけ、長い柄を持ち、若干の光沢が確認できます。
鮮やかな緑色の根生葉が印象的ですが、直立する茎は褐色であるのが印象的です。

 

花期は6~7月、茎頂には3~4つの淡紫色の花をつけ、少し下向きに花を咲かせます。
1~1.5㎝ほどの釣鐘型の小ぶりな花ですが、花弁の部分が基部までしっかりと切れ込みが入っており、花弁の先端部分が若干反り返り、花弁の中央に長い雄しべが突き出しているのが特徴的です。

 

日本でも自生するイワカガミ(Schizocodon soldanelloides)も釣鐘型、若干下向きに花を咲かせますが、花弁の切れ込みが浅く、イワカガミダマシに比べて花弁の先端があまり広がりません。

 

ヨーロッパ・アルプスの高山帯では6月頃、雪解けとともに開花を迎え、現地ではイワカガミダマシの吸気の際に周囲の雪を溶かすとも言われています。実際は雪の中に物体があると太陽の熱を吸収してその物体付近から溶けると考えられているそうです。英名のアルパイン・スノーベル(Alpine Snowbell)の名の由来はここから来ているのかもしれません。

 

今回、イワカガミダマシのことを色々調べていると、イワウメ科イワカガミ属のイワカガミ(Schizocodon soldanelloides)の種小名の soldanelloides は「Soldanella(イワカガミダマシ属)+oides(のような)」で「イワカガミダマシ属に似た」という意味を持つそうです。
イワカガミダマシに似た花の名前がイワカガミ・・・逆のような気もしますが。

 

少々ややこしい花の名前、由来ですが、草丈の短い牧草地などで可憐に咲くイワカガミダマシは非常に魅力的な花の1つで、モンテ・ビアンコの麓で見つけた際には膝をついて、時折腹ばいになって観察・撮影を楽しんだ思い出のある花です。

 

イワカガミダマシ(Soldanella alpina)
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エリンジウム・ブルガティ(Eryngium bourgatii)

我が家では嫁さんが多肉植物の栽培に凝っていることもあり、塊根植物の一種である「アデニウム・オベスム(Adenium obesum)」を購入しました。
色々と調べていると大きく肥大した塊根をもつキョウチクトウ科のコーデックスプランツで、アデニウム属の代表種で「砂漠のバラ」とも称されているようです。アフリカ大陸北部からサハラ砂漠以南や西アフリカ沿岸の国々が原産のようです。
主幹は太く丸みを帯び、頂部から細かく分枝したユニークな形をしており、ラッパ状の美しい花を咲かせるようで、「砂漠のバラ」と呼ばれる所以だそうです。
現在、光沢のある鮮やかな葉を沢山つけており、葉柄(葉身と茎を繋ぐ部分)から小さな蕾のようなものも確認ができ、「砂漠のバラ」と称される花が咲くことが楽しみの1つになりました。

 

では本題の「世界の花だより」です。
本日はセリ科の一種「エリンジウム・ブルガティ(Eryngium bourgatii)」をご紹介します。

 

エリンジウム・ブルガティ(Eryngium bourgatii)

 

被子植物 双子葉類
学名:エリンジウム・ブルガティ(Eryngium bourgatii)
別名:ピレネー青アザミ
科名:セリ科(Apiaceae)
属名:エリンジウム属またはヒゴタイサイコ属(Eryngiumm)

 

一見するとアザミの花を思わせる見た目、さらに「ピレネー青アザミ」という別名をご覧になり「青アザミなのにセリ科?」と気付かれた方も多いのではないでしょうか。
エリンジウム・ブルガティ(Eryngium bourgatii)はセリ科のエリンジウム属の一種であり、ピレネーの固有種の花の1つです。資料によって「スペイン~地中海沿地方原産」と記載しているものもありますが、私が観察したのもスペイン・ピレネー山脈でのフラワーハイキングで、現地ガイドさんも「ピレネーの固有の花」と紹介してくれていました。
エリンギウム属(Eryngium)はアザミに似た形状ですが、世界に230種ほど分布します。

 

草丈は15~45cmになるものもあり、茎の部分が花全体の色合いと同じ、淡紫色をしているのが特徴です(中には濃紫色のものもありました)。
葉は全体的に刺々しく3裂し、地表にロゼット状に広げ、若干の光沢と葉に白い斑点のようなものが確認できます。若い時期には葉の光沢はなく、生育過程の中で徐々に光沢が確認できる資料もありました。

 

細長い花弁が広がっている形状のように見えますが、実際には花弁ではなく、エリンギウム属の特徴である総苞(そうほう:花軸の一部で基部に生じる小形の葉のこと、花全体を保護する)です。
花期は初夏の5月~8月、実際の花は総苞の中心に直径15~20㎜の小さな球状の花を密集して咲かせます。

 

刺々しい葉、茎頂に密集して咲く花の形状をみて、初見ではアザミの花と勘違いしてしまう点が「ピレネー青アザミ」と言われる所以と、現地ガイドさんが説明していたのを覚えてきます。

 

非常に特徴的な形状のエリンジウム・ブルガティは、家庭園芸やガーデニングなどでも人気の花だそうですが、ピレネー山脈でフラワーハイキングを楽しんでいる際、自然に自生するエリンジウム・ブルガティを観察すると、その特徴的な形状に心を奪われ、気付いたら観察に夢中になってしまう花の1つです。

 

エリンジウム・ブルガティ(Eryngium bourgatii)
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リコクトヌム・トリカブト(Aconitum lycoctonum)

先日、南極半島ではじめて緑色の雪が発見された地域を地図化したという興味深いネットニュースを見つけました。研究を率いたケンブリッジ大学植物科学科のMatt Davey教授は「雪面で1,679個の緑藻類の花を見つけました」と語っています。
緑藻類の花は、南極大陸で最も温暖化が進んでいる南極半島の西海岸に沿った島々で発生し、暖かくなるにつれて南極の雪面で胞子が発芽し、雪解け水の流れに乗って成長していくそうです。
また、野生動物の糞によって藻類が繁殖し、雪が緑色になることも判り、研究チームが地図化した緑藻類の花の60%以上は、ペンギンのコロニーやアザラシの生息地域の海岸から3マイル(約4.8km)以内で発見されたそうです。
未だ緑の雪がどのような影響をもたらすか不明な部分も多いようですが、グリーンランドで行われた雪原藻類の研究では、雪が吸収する日光と熱の量を増加させ、氷を早く溶かしてしまうことがわかっています(南極では過去10年間で3倍の氷が失われています)。今後の研究結果にも注目していきたいと思います。

 

本日はドクウツギやドクゼリと並んで日本三大有毒植物の一つとされるトリカブトの一種、ヨーロッパなどに自生する珍しい色合いのトリカブトである「リコクトヌム・トリカブト(Aconitum lycoctonum)」をご紹介します。

 

リコクトヌム・トリカブト(Aconitum lycoctonum)

 

被子植物 双子葉類
学名:Aconitum lycoctonum(アコニツム・リコクトヌム)
別名:Aconitum vulparia(アコニツム・ブルパリア)
英名:Yellow Wolfsbane
科名:キンポウゲ科(Ranunculaceae)
属名:トリカブト属(Aconitum)

 

リコクトヌム・トリカブト(Aconitum lycoctonum)は、毒草で有名なトリカブトの一種です。トリカブトはキンポウゲ科と案内すると驚かれる方も多いです。

 

ピレネー山脈、ヨーロッパ・アルプス、アペニン山脈(イタリア半島を縦貫する山脈)にかけての山岳地帯、西アジアにも自生する多年草です。私が観察したのは、スイスやピレネー山脈でのフラワーハイキング時でした。

 

草丈は50~120㎝と高く、開けた林内や標高2,000m前後の草原・牧草地などに自生します。
葉は掌状に3~6中裂し、全草が有毒で、とくに根には強い毒性があります。

 

花期は6月~9月、無毛の茎先に穂状の総状花序(総 (ふさ) の形になっている花のつき方)、長い花柄(かへい:花軸から分かれ先端に花をつける小さな枝)の先にクリーム色の花を咲かせます。
世界に約300種、日本には約30種が自生するそうですが、トリカブトと言えば紫色というイメージが強いため、クリーム色の花を「トリカブトですよ」と説明しても驚かれたり、信じてもらえないことがあります。

 

トリカブトの名前の由来は、花の形状が鳥兜・烏帽子に似ていることから名付けられたと言われており、海外では「僧侶のフード(monkshood)」と呼ばれています。

 

花弁がめしべやおしべを包んでいるような形状をしているように見えますが、実はクリーム色の部分は花弁ではなく、全て萼片(がくへん:花の最も下(外)側に生ずる器官で,葉の変形したもの)です。
合計5枚の萼片をもち、一番上の1枚(上萼片)は兜状で蜜を貯め込んだ部分を守る形状であり、雨対策の意味合いを持ちます。
ある資料には2枚の側萼片は受粉活動を担うマルハナバチの姿勢を制御する役割をもち、下萼片2枚はマルハナバチが花にとまるときの足場の役割をもち、この4枚の萼片がないと、効率的に花粉をつけられないとありました。

 

トリカブトの花弁は一番上の1枚(上萼片)に隠れており、上部が山菜のゼンマイのように渦を巻いており、そこに蜜を貯め込みます。トリカブトの形状は盗蜜できない構造となっており、虫媒花として最も進化した花とも言われています。

 

ピレネー山脈で上萼片に隠れているリコクトヌム・トリカブトの花弁を観察しようと思い、手を伸ばした際に現地ガイドから止められたことを覚えています。花に手をかけることに対して注意されたのか、毒性で危険だから止められたのか・・・そこまで覚えていませんが、一度じっくりと観察してみたいです。

 

リコクトヌム・トリカブト(Aconitum lycoctonum)②
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グラキアリス・キンポウゲ(Ranunculus glacialis)

昨日ネットニュースにて、メキシコ南東部にあるマヤ文明の「アグアダ・フェニックス遺跡」で、紀元前1000年~同800年にかけて造られた巨大な土造りの祭祀施設が発見され、マヤ文明で最古、最大の公共建築物ということです。
コロナウイルスが終息し、1日でも早くマヤ文明の遺跡など見学するツアーが再開できることを願うばかりです。

 

本日はキンポウゲ科の一種である「グラキアリス・キンポウゲ(Ranunculus glacialis)」をご紹介します。

 

グラキアリス・キンポウゲ(Ranunculus glacialis)

 

被子植物 双子葉類
学名:Ranunculus glacialis(ラヌンクルス・グラキアリス)
英名:Glacier buttercup
科名:キンポウゲ科(Ranunculaceae)
属名:キンポウゲ属(Ranunculus)

 

グラキアリス・キンポウゲ(Ranunculus glacialis)は、ヨーロッパ・アルプスやピレネー山脈など標高2,000~4,000m地帯の岩場や岩礫地、アルプスでも最も高所に自生します。
また、スヴァールバル諸島(北極圏にあるノルウェー領の群島)やグリーンランドなど極地にも自生するキンポウゲの花です。
私がグラキアリス・キンポウゲを観察したのは、イタリアのモンテ・チェルビーノ(ヨーロッパの名峰マッターホルンのイタリア名)の麓でフラワーハイキングを楽しんでいた時でした。

 

種小名の「glacialis」は「氷河」という意味のため、直訳すると「氷河キンポウゲ」となりますが・・・「glacialisは氷河を意味する」という紹介はあっても「氷河キンポウゲ」と表記された資料はありませんでした。さすがに直訳すぎますね。

 

草丈は5~25㎝、写真では少し判りずらいですが茎の色は紫色なのが特徴的です。
根生葉は少し肉厚で掌状に3裂し、茎の上部に披針形(先が少し尖り細長い形)の葉をつけます。葉や茎は無毛と有毛の個体があるという資料もありました。

 

茎頂には直径2㎝ほどの白い花を1~2個咲かせ、丸みのある花弁が5枚あり、花弁が隙間なく重なり合っているのがキンポウゲの花らしい部分です。
葯(おしべ先端の,花粉を入れる袋状構造)の鮮やかな黄色。花弁の白色と葯の部分の黄色の色合いが何ともいえない可憐さを感じさせます。
萼片(花弁の付け根の最外側にある緑色の小さい葉のようなもの)も5つあり、茶色い毛が密集しています。
グラキアリス・キンポウゲの咲き始めは写真の様に白色の可憐な花を咲かせますが、時間の経過とともにピンク色から赤橙色に変化していきます。

 

厳しい環境の岩場や岩礫場に突如として鮮やかな白色のキンポウゲを見つけたのが、小休止をしている時でした。休憩そっちのけでグラキアリス・キンポウゲの観察を楽しんでいました。

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ロトゥンディフォリア・イチヤクソウ(Pyrola rotundifolia)

早いもので明日から6月です。
6月と言えば、梅雨の時期に見頃を迎えるアジサイが思い浮かびます。近所でも花が咲き始めているアジサイに目が留まるようになりました。アジサイが満開に花咲く頃、気兼ねなく外出・観察できることを願うばかりです。

 

本日はツツジ科・イチヤクソウ属の一種「ロトゥンディフォリア・イチヤクソウ(Pyrola rotundifolia)」をご紹介します。

 

ロトゥンディフォリア・イチヤクソウ(Pyrola rotundifolia)

 

被子植物 双子葉類
学名:Pyrola rotundifolia(ピロラ・ロトゥンディフォリア)
英名:Round-leaved Wintergreen
科名:ツツジ科(Ericaceae)
属名:イチヤクソウ属(Pyrola)

 

以前はイチヤクソウ科(Pyrolaceae)に分類されていましたが、現在はツツジ科(Ericaceae)に分類されています。そのため、資料によってツツジ科、イチヤクソウ科と様々のようです。

 

ロトゥンディフォリア・イチヤクソウはヨーロッパの大部分をはじめ、西アジア、北米大陸の北東部にかけて広く分布します。低山から亜高山帯の林内、湿地などに自生し、石灰岩地帯を好んで自生するという資料もありました。
私がロトゥンディフォリア・イチヤクソウを観察したのはヨーロッパ・アルプスのスイス、スペイン・ピレネー山脈でフラワーハイキングを楽しんでいる道中でした。

 

草丈は10~40㎝と背が高く、茎は直立で花茎(かけい:花のみをつける茎)の上部に8~30個近い数の花をつけ、若干下向きに花を咲かせます。
葉は5㎝ほどの円形に近い楕円形で根生し、若干の光沢があり、縁に鋸葉が確認でき、少し肉厚でもあります。

 

花期は6~8月、花は1㎝前後と小ぶりで半球形状で花弁は白色で5枚、めしべの部分は赤身を帯びており、花弁より突き出しており、先端部が反るように曲がっているのが特徴的です。
白い花びらと赤みを帯びためしべが魅力的な、心惹かれる色合いです。

 

資料によっては、日本にも自生すると記載がありましたが、そうではないようです。近縁種としてイチヤクソウ(一薬草、学名:Pyrola japonica)やジンヨウイチヤクソウ(腎葉一薬草、学名:Pyrola renifolia)が紹介されていました。

 

花の1つ1つは小ぶりで白い花のため、他の花より目立ちにくいですが、数多く花をつけ、何より背丈の高い花であるため、フラワーハイキングを楽しんでいると見つけやすい花です。ピレネー山脈のフラワーハイキングの時には、皆さんで観察を楽しみ、順番に撮影を楽しんだのを今でも覚えています。