沖縄県にはずっと非常事態宣言が出ていてツアーの開催が危ぶまれていましたが、9月末で解除になるというニュースが飛び込み、ほっと胸を撫で下ろしての実施となりました。
以前は春秋冬と幾度も探鳥に訪れていましたが、久方ぶりの与那国島です。聞くところによると道路事情にさほど変わりはありませんが、大きな自衛隊の駐屯地が出来上がり、鳥のポイントだったゴミ捨て場が無くなるなど様々と環境に変化があるようです。また、多くの水田は放棄されて草地に置き換わり、2期作もやらなくなったせいで湿地環境がほとんど無い様子で以前とは鳥を見るポイントも変わっているようでした。予報では10月1日からの5日間はほぼ晴天です。さあ、どういう探鳥になるのか期待半分、不安半分の始まりとなりました。
ツアー1日目
今回は現地集合、現地解散の探鳥です。台風の接近で参加が危ぶまれた方もいらっしゃいましたが、誰ひとり欠けること無く全員が集まれたのはツアーの成功を暗示しているようでした。皆さん思い思いに昼食を済ませてから宿で合流し出発です。集合前にサンコウチョウやアカチョウビンの鳴き声、中にはアサクラサンショウクイ!を観察された方もいらっしゃいました。これは否が応でも期待が膨らみます。
まずは比川へ向かいました。島には北東部に祖納、南部に比川、西部に久部良と3つの集落があり、比川は一番こじんまりしている集落です。テレビドラマのDr.コトーの撮影地で一躍有名になった地でもあります。
水田に水が無いせいで水路などに水辺の鳥たちの姿がありました。セイタカシギが出迎えてくれて、ゴイサギは隠れるようにそっといます。よく見るとオジロトウネンやヒバリシギ、アカアシシギの姿も。顔の黄色い今年生まれのホオジロハクセキレイなどを見ながら幼鳥と成鳥の違いなどを観察しました。
浜へ出てシギチ探しをしたあとはベニバトのポイントを経由して田原川へ。セイタカシギやインドハッカなどを観察していると目の前を色鮮やかな鳥が飛びました。キンバトの雄です。すぐ近くの林へ飛び込みましたが、その後姿を表すことはありませんでした。近くの農耕地ではツメナガセキレイがわらわらといます。キガシラセキレイの姿はないようです。お客さんの二人が電線に止まるクロヒヨドリを見つけたようですが、タッチアンドゴーですぐに飛去してしまったとのことで、残念。田原川では小鳥の塒入りを待ちましたが、結果はシロガシラばかりでめぼしい鳥は現れず、クイナ類の声も聞けませんでした。やはり環境が変わったせいでしょうか寂しい限りです。遠くの電線に止まる塒入り前のカラムクドリを見ていると「チュッ チュッ」と上空をセジロタヒバリが飛びます。その辺の畑に降りてくれないかなあと言いながら日の入りを迎え、初日の探鳥は終了しました。夕食後に鳥合わせを行い、本日54種の確認となりました。
ツアー2日目
今日は日の出の時間に合わせて弁当持参で東崎(あがりざき)へ出発です。着いた頃には丁度水平線から太陽が登ったところでした。遠く西表島を右手に見ながら登る朝陽の下で食べる朝食は格別です。放牧地ではオオチドリやマミジロタヒバリを期待しましたが、ムナグロとツメナガセキレイのみでした。
食事後は祖納(そない)へ向かいました。浦田墓地では草むらから飛び出すアカガシラサギを発見。磯に降りたのを観察していると上空をムネアカタヒバリが飛びます。岩礁にはメダイチドリとムナグロもいるようです。本来は祖納の集落の中も探鳥ポイントの一つなのですが、緊急事態宣言が開けたとはいえ、今回は各集落の中を探鳥することは見送りました。その後、比川へ。水路のシギが増えています。3羽になったヒバリシギが割と近く、トウネンも一緒にいたので2種の幼鳥の違いをじっくりと観察しました。
林道ではゆっくりと車で流しながら鳥を探します。この時期ならブッポウソウがいるはずと思っていると電線に止まるブッポウソウを発見。皆さん撮影タイムです。公園の広場でチゴハヤブサやコサメビタキを見ているともうお昼の時間です。昨日から島の飲食店はようやく再開した様子でした。テーブルを一人ずつのパーテションで仕切ったコロナ対策がしっかりしているお店を見つけ、皆で与那国そばをいただきました。
食後は再び山へ。狙いはハイイロオウチュウやキンバトです。広場で鳥を待っていると上空にはハリオアマツバメやチゴハヤブサが飛びます。林の中を探索していると「コウモリ!」の声。よく見ると大きなコウモリが梢にぶら下がっています。ヤエヤマオオコウモリです。鳥ではありませんが今回これも見ておきたかった動物です。「顔がタヌキみたい」などと言いながらじっくりと堪能した後はアヤミハビル館へ向かいました。
アヤミハビルとは与那国の言葉で世界最大級の蛾であるヨナグニサンのことです。「アヤミ」は「模様のある」、「ハビル」は「蝶」を意味します。同館はヨナグニサンの生態や亜熱帯の自然の素晴らしさを体感できる施設で、与那国島の動植物や人々とヨナグニサンの関わりなどを学ぶ貴重な機会となりました。鳥だけじゃなくこういったツアーも良いねと参加者の皆さんも喜んでおられました。
館を出たあとは耕作地のツメナガセキレイの大群などを見ながら、久部良ミトゥに到着。久部良ミトゥは久部良集落の東側にある大きな湿地(池)で、水路で久部良漁港とつながっています。
着くといきなりアカガシラサギが飛び出します。この時期は冬羽で地味ですが、飛ぶと翼の白と背面のあずき色とのコントラストが綺麗です。池の奥では70羽ほどのダイサギ、アマサギ、コサギの群れが休んでいました。飛来したクロハラアジサシの群れの中にハジロクロハラアジサシが1羽混ざっていました。ここではコホオアカ、ムジセッカ、コヨシキリなどの新顔も出てくれました。シロガシラが増えてきてどこかでねぐらを取っているようでした。
日がかなり傾いたので本日締めの西崎(いりざき)へと向かいます。夕方、西崎にいると上空を鳴きながら渡っていく小鳥たちを見られることも多いので、夕陽とセットで期待します。与那国島での夕陽は水平線に沈むのでなく、はるか台湾の山並みに沈んでいきます。素晴らしい景色とかすかに聞こえる小鳥の声を聞きながら2日目の探鳥が終了となりました。夕食後に鳥合わせを行い、本日は58種の確認となりました。
この記事を書いた人
大西 敏一 おおにし としかず
1961年生まれ。大阪府在住。野鳥歴45年。フリーランスとして鳥類調査をメインに執筆、講演、ツアーガイドなどに携わる。離島の渡りに関心があり、韓国の島嶼にも長年通い続けている。シギ・チドリ類やムシクイ・ヨシキリ類などが好み。主な著書に「日本の野鳥590/650」(平凡社)、「世界のカワセミハンドブック」(文一総合出版)などがあり、協力図書も多い。