花様年華
監督:ウォン・カーウァイ
出演:トニー・レオン、マギー・チャンほか
日本公開:2001年
香港、シンガポール、カンボジアへ・・・移ろいゆく花のような時間
1962年、香港。新聞記者のミスター・チャウと商社で秘書として働くミセス・チャンは、同じ日に同じアパートに引越してきます。2人は互いの伴侶が不倫関係にあることに気づき、次第に時間を共有するようになっていく・・・
物語の舞台は1962年の香港から始まり、1963年にチャウが赴任したシンガポール、1966年の香港、そして同年のカンボジアと移っていきます。なぜ舞台が移るのか、その説明よりも展開のほうが先行する演出が観客の想像力をかきたててくれます。
旅先の国で、入国書類に”Purpose of Visit”(滞在目的)という項目があることは多いですが、「なんとなく / in the mood」と書くことは入国審査にとってはあまり良い回答とは言えないでしょう(ちなみに、この映画の英題は”In the Mood for Love”です)。こうしたこともあってか、私たちが旅の行き先を決める時、そこには何か理由が必要なようにも思えてしまいます。しかし、目的のない、何にも誰にも縛られることがない旅に憧れる方は少なくないはずです。もしサイコロを振るように行き先を決めて旅することができたら、思わぬ国に行くことになり大変なことも多そうですが、私の場合そうした不安よりもワクワクする気持ちのほうが勝ります。
本作の見所のひとつは、トニー・レオン演じるチャウが唐突にカンボジアのアンコールワットを訪れる場面です。1966年にフランスのド・ゴール大統領がプノンペンに訪問した記録映像などで時代背景は描かれますが、チャウが何を思ってアンコールワットに来るに至ったかの心情描写は排除されています。その描写の不在は、空白の時間に起きた出来事や気持ちを想像させてくれて、突然壮大なアンコールワットの世界にワープしたかのような幻想的なひと時を観客に与えてくれます。
約30着使用されたというチャイナドレス(1966年から中国本土で10年間続いた文化大革命の影響下では、チャイナドレスは外国に媚びているとして批判の対象になった)も見どころの一つで、”なんとなく”エキゾチックな世界観に浸りたい方にオススメの一作です。
アンコールワット
1431年にタイのアユタヤ朝によって王都・アンコールが陥落しクメール王朝は滅亡し、600年以上に亘り繁栄を極めた壮麗な建築群は、密林に埋もれて行きました。アンコール遺跡群が、フランス人博物学者のアンリ・ムオによって広く世界に知られるようになったのはわずか150年前のことです。一旦は歴史の流れに埋没しながらも、再び光を取り戻した遺跡群。長い時を経て、遺跡は私達に往時の栄華を語りかけます。